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北朝鮮問題の現状打開にはこの「圧力」が最も必要だ

崩壊をちらつかせることができるか

2017年衆議院選挙は、自民党と希望の党の対立構図で展開していきそうである。希望の党の党首に就任した小池百合子東京都知事は、安全保障・憲法観を重視して公認候補を峻別することを明言した。

これによって与党と野党第一党が、右と左、改憲派と護憲派、親米派と反米派といった冷戦型の対立構造から離れて展開していく公算が強まった。これをチャンスにして、本格的な政策論議を進めてもらいたい。

硬直化したイデオロギー的な支持基盤を意識しすぎるために、政策論が低調になる。たとえば憲法問題では、護憲か改憲か、というスタイルの問題だけを問うならば、憲法の問題点を素直に洗い出す態度がとれなくなってしまう。

安全保障問題も同じである。「とにかく対話で平和を」と唱える人が相手であれば、そもそも安全保障政策を議論することができなくなってしまう。安全保障政策をとるかとらないか、という奇妙な選択が、選挙の争点になってしまう。

主要政党が、安全保障政策の妥当な枠組みを共有して初めて、なおより優れた政策論をめぐる議論を戦わせていくことができる。北朝鮮問題を話そうとして、冷戦型のイデオロギー闘争を繰り返してしまうのは、あまりに時代錯誤的だ。

外交、経済、軍事、あらゆる領域の政策手段を駆使して、安全保障上の課題に取り組むことは当然だ。そのうえで、どのような情勢分析を施し、どのような政策的方向性をとっていくかを、政治家の方々にも是非とも論じていただきたい。

 

北朝鮮問題をめぐる手詰まり感

先日、『現代ビジネス』で、北朝鮮に対しては確かに「異次元制裁」が必要だろう、という趣旨の文章を書いた(「『北朝鮮危機』日本が全外交力を投入して実現すべき一つのこと」)。

その後、国連安全保障理事会は、全会一致で、北朝鮮に対する新たな制裁を決議した。この制裁は、一つの大きな「圧力」ではあるだろう。

ただし、制裁の内容は、当初の案よりも穏健な内容となった、必ずしも「異次元」だったとまでは言えないものであった。

「異次元制裁」が実現していない以上、現在の状況は、まだ続いていくだろう。

こうした突破口のない状況への苛立ちからだろうか、アメリカのトランプ大統領は、「北朝鮮を完全に破壊する」と国連総会で演説し、「(北朝鮮は)長くはないだろう」と述べた。これに対して北朝鮮の李容浩外相が、「彼(トランプ氏)は宣戦布告をした」と主張した。

宣戦布告、というのは、現代国際法では意味をなさない概念である。国連憲章2条4項が武力行使を一般的に禁止しつつ、その例外として51条の自衛権と、39条以下の集団安全保障を定めているだけだからである。

宣戦布告の有無は儀式的な意味しか持たない。法的に重要なのは、武力行使がなされたかどうか、それが自衛権または集団安全保障に該当するかどうか、という点である。

しかしトランプ大統領の発言が、武力行使に関する法の観点から見て、全く度外視すべきものだったとは言えない。憲章2条4項は「武力による威嚇」を禁止しており、それに抵触する可能性がある行為は、少なくとも危うい発言である。

なんといっても、「自国に対して相手国が武力行使をする意図を表明した」という経緯があれば、それは「威嚇」であり、自国の自衛権を発動する大きな要素になりうる。

もっとも北朝鮮側も、過去に何度も2条4項の抵触が疑われる発言を繰り返してきていることにも注意が必要である。すでにブログで述べたことだが、アメリカと北朝鮮は、意図的に自衛権行使のハードルを下げあっている。

なぜか。相手をよりいっそうけん制するためである。

裏を返せば、単純な軍事力の誇示だけでは相手が威圧されないので、「俺は本気だぞ」という説明を付け加えなければならない状態に、双方が陥っているのである。