社会

愛知は「将棋王国」 指導員、全国最多

※日本将棋連盟調べ。写真は藤井聡太四段

 愛知県瀬戸市出身で名古屋大教育学部付属中3年のプロ棋士、藤井聡太四段(15)がプロ入りして1日で1年となった。新たなスターが愛知県から誕生したのは、偶然なのだろうか。日本将棋連盟(東京本部)によると、愛知県は連盟所属の将棋普及指導員数が全国で最多など、「将棋王国」といっても過言でないほどファン層の厚い土壌があった。【尾崎稔裕、吉富裕倫】

 将棋の普及の目安となる日本将棋連盟の支部数は、最多から順に、東京都51支部▽愛知県33支部▽埼玉県32支部、支部会員数でも、東京都1150人▽埼玉県875人▽愛知県800人(いずれも6月1日現在)と、愛知県はトップ3に顔を出す。都道府県別人口が、東京都(約1352万人)▽神奈川県(約913万人)▽大阪府(約884万人)▽愛知県(約748万人)▽埼玉県(約727万人)の順(2015年10月1日現在)であることを考えると、愛知、埼玉両県で将棋人気が高いことが分かる。

 特筆すべきは、三段以上(女性は二段以上)の免状取得者で後進の育成指導に取り組む将棋普及指導員の数で、愛知県149人▽東京都78人▽大阪府53人(4月1日現在)と愛知県が格段に多い。同連盟普及課は、埼玉県での支部や会員数の多さは企業の盛んなクラブ活動の反映だと説明。愛知県については「将棋に熱心な人が多いからだろう。将棋人口の増加にもつながるのでは」と話している。

 ◇「普及魂」脈々と 師匠・杉本七段、東京・大阪に負けぬ

 愛知県の将棋人気の高さについて、藤井聡太四段の師匠で名古屋市在住の杉本昌隆七段(48)に聞いた。

 −−愛知県は支部数や指導員数が多いですね。

 愛好家の多さでは、確かに愛知県は将棋王国といえますね。私の師匠で名古屋市在住だった板谷進九段(1940〜88年)が普及活動に熱心に取り組んだ功績が大きいのです。

 昭和40年代後半、多くのプロ棋士は自分の将棋に集中することを重視しており、普及活動に時間を割くことは極めて珍しかった。板谷さんは当時から愛好家の指導に飛び歩いており、死後も、多くの盟友たちが「普及魂」を受け継いで活動しています。師匠と盟友のまいた種が芽を出したと考えています。

 −−ただプロ棋士は必ずしも多くない。

 将棋ファンは多いけれど、愛知県在住のプロは、私と弟子の藤井四段の2人。三重県には沢田真吾六段がいますから、東海3県在住は3人だけです。東京や大阪では公式戦やタイトル戦を行う将棋会館があるけれど、この地域にはない。だから多くのプロ棋士は東京や大阪に拠点を移してしまうのでしょう。

 −−地元で活動しているのは、恩師の影響ですか。

 「どこで住もうが将棋はできる」と繰り返し師匠は言っていました。地域で子どもたちへの普及に取り組んでいるのは、もちろん師匠の影響も大きいけれど、生まれ育ったこの土地が好きなんですね。

 今にして思えば、東京と大阪にプロ棋士が集中してしまい、それ以外の地域に根を下ろす者が極めて少ない。そんな状況への反発心が、師匠にそう言わせたのかもしれません。地元のファンの方々は地元の棋士を応援したいと思ってくださるんです。【聞き手・尾崎稔裕】


(毎日新聞)