フルグラは主食になれない

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長い間使った鞄に「ありがとう」と言ってみる

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皆さんは、鞄(かばん)に思い出はありますか?

  

自分で悩んで購入した鞄、恋人や友人にサプライズでプレゼントしてもらった鞄。それぞれの思い出が詰まった鞄がたくさんあると思います。

 

今回は、「鞄と僕」にまつわるちょっとした妄想話。

 

 

鞄と僕


「電車の時刻に間に合わない!急げ!」

 

小さな茶色いショルダーバッグを片手に、慌てて家を飛び出す。鞄を揺らしながら自転車を急いで漕ぎ、駅に着く頃には体温が少し上がる。

 

「ふうー間に合った」

 

安堵感から思わず小声が出てしまい、肩にかかっている鞄に

 

「今度はちゃんと間に合うようにね」

 

と言われたような気がした。車窓を眺めながら、一緒に急いでくれた鞄に「ごめんごめん」と心の中で会話してみる。

 

鞄を購入したばかりの頃は、部屋で鞄を眺めては肩にかけ、元に戻してはまた肩にかける。鞄を持つだけで心が踊るようなワクワク感があった。

 

使い続けて3年くらい経つと、鞄を眺める時間も、心の中の会話も無くなっていた。

 

「そろそろ新しい鞄が欲しいなあ」

 

そんなことさえ言うようになった。もし、この時鞄が僕に話しかけていたとしたら、こうだろう。

 

「もっと気にかけて欲しいな」

 

きっと寂しがり屋にちがいない。ペットが飼い主に似ると言われるように、鞄も寂しがり屋の僕に似てしまっただろう。

 

ありがとう、ごめんね


使い続けて4年が経った頃、鞄は傷んでしまい、表面は傷だらけになってしまった。本格的に新しい鞄を見つけなければと考えていた頃、彼女が新しい鞄を誕生日にプレゼントしてくれた。

 

「めっちゃ可愛い!大事にするね!」

 

心が踊るようなワクワク感があり、何度か経験したことのある高揚感だった。家に着いてからはカメラで鞄を撮影したり肩にかけたり、プチファッションショーが始まった。今まで使っていた茶色いショルダーバッグは部屋の片隅に置いてある。

 

もし、この時鞄が再び僕に話しかけていたとしたら、こうだろう。

 

「もう、お別れなんだね。今までありがとう」

 

新しい鞄に満足気な僕は、ショルダーバッグの存在を思い出す。まるで、誰かに呼びかけられたかのように。

 

「そういえば、この鞄はもう使わないし捨てないと」

 

そう思った瞬間、鞄と過ごした思い出が頭の中を巡り、心の奥底に眠っていた感情が一気に溢れ出た。

 

「今までありがとう、ごめんね」

 

誰もいない部屋で思わず鞄に話しかけた。今度は心の中ではなく、声に出して。

最後に僕は鞄には向かってこう言い放った。

 

「絶対忘れないよ」

 

それ以降、鞄から声が聞こえることは無かった。外の景色を眺めると、曇っているにも関わらずなんだか清々しい気分。

 

これからは新しい鞄といろんな場所に出かける予定だ。天気が良い日も、悪い日も、笑っている日も、泣いている日も。

 

さて、明日はどこに出かけようかな。

 

おわりに

少しの妄想と感じたことを自由に書いてみました。僕自身、書きながら涙ぐんでしまいました。年齢のせいなのか、感情移入しやすいのか、20代も後半になるとより涙腺が弱くなるものです。

 

鞄という何気ないアイテムにひとつのストーリを描いてみる。昔からモノには魂が宿ると言いますが、素晴らしい言い伝えです。

 

あなたの使っていた鞄に思い出はありますか?

 

自身を振り返る時、鞄と向き合ってみると思い出すこともあると思います。決して言葉は帰ってこないかもしれませんが、その時はそっとこう言ってあげてください。

 

「ありがとう」と。