Hi-STANDARD(ハイ・スタンダード)がまたやってくれた。18年ぶりのアルバム「The Gift」の店着日となる10月3日、何の告知もなしに「AIR JAM 2000」のライブDVDを発売したのだ。
昨年10月、シングル「ANOTHER STARTING LINE」を出した際も、一切の事前情報なく店頭に新作を並べるゲリラ的な手法で話題をさらったハイスタ。 サプライズを連打する独自の販売戦略の背後にあるものを探った。

タワーレコード渋谷店に並んだハイスタのDVD
ハイスタは難波章浩(ボーカル/ベース)、横山健(ギター/コーラス)、恒岡章(ドラムス/コーラス)の3人組パンク・ロックバンド。
1991年に結成され、「メロコア」と呼ばれるメロディアスなハードコア・パンクの先駆けとして、後進に大きな影響を与えた。
アルバム「MAKING THE ROAD」(1999年)が100万枚以上を売り上げるなど人気の絶頂にありながら、2000年に活動を休止。
2011年、東日本大震災をきっかけに再始動を果たし、昨年には16年半ぶりのシングル「ANOTHER STARTING LINE」を発表した。

左から難波章浩、恒岡章、横山健
「またゲリラかよ! 」「興奮が止まらない」
今回、いきなり店頭に現れた「AIR JAM 2000」のDVDは、活動休止前最後に出演したフェスの映像を収めたもの。これまでVHSでしか発売されておらず、絶版になっていたファン垂涎のアイテムだ(※収録されているのはハイスタの映像のみ)。
「ハイスタまたゲリラかよ! 」「興奮が止まらない」――。アルバムを買おうとCDショップに足を運んだファンたちの間で驚きと喜びの声が飛び交い、SNS上は騒然となった。
ハイスタのアルバムをフラゲしに行ったらAIRJAM2000て書いてある、見たことのないジャケットのDVDが一緒に陳列されてたんだけど。 そして店頭で震えてるんだけど。
ハイスタまたゲリラかよ! DVD並んでるし\(^^)/
ゲリラ発売を成功させるには、レーベルやCDショップなど関係者間での徹底した秘密保持が求められる。
大手レコード会社の関係者は「大人数がかかわるメジャーではなかなか難しい。インディーズで活動するハイスタならではの作戦で、スタッフやCD店側のアーティストへの愛を感じる。最高にカッコイイ悪ふざけですね」と舌を巻く。
キーワードは「直・消費者」
マーケティング・コンサルティング企業「インテグレート」のCOOで、『スープを売りたければ、パンを売れ』の著書もある山田まさるさんは、ハイスタの戦略を「直・消費者」「直・ユーザー」というキーワードで読み解く。
かつてはマスメディアを使った大々的なプロモーションが常識だったが、2000年代以降、ネット上で影響力を持つインフルエンサーを起点としたマーケティングがもてはやされるようになった。しかし、ハイスタの手法はそのいずれにも属さないという。

ハイスタの新譜とDVDを大展開するタワーレコード渋谷店
山田さんはこう分析する。
「コアなファンと直接熱い関係を結び、情報を波及させる。メディアは盛り上がりを見て後から話題にするが、決して最初からそこを目指しているわけではありません」
「ファンが何を望んでいるかを考え抜き、それ以外の要素はできるだけやらない。シンプルで潔いやり方です」
アナログの逆襲
昨年のシングル発売以来、ハイスタ側は畳み掛けるようにサプライズの波状攻撃を仕掛けてきた。
7月、全国各地に設置した看板でアルバムの発売を告知。9月には、東京・渋谷駅と大阪・梅田駅に、アルバム収録曲「The Gift」の巨大な楽譜(バンドスコア)を掲出し、コンビニでネットプリントできるようにした。
渋谷駅来ました! ハイスタのバンドスコア、生で見られて幸せ(*´ω`*)
公式サイトに楽譜のPDFファイルをアップすれば済むものを、なぜコンビニプリントという面倒で迂遠な手法を採用したのか。
ネット時代を逆手にとったかのようなアナログな発想は、リアル店舗でのゲリラ発売にも通じるものがある。
山田さんは「楽してポチッとするだけでは得られない、『届ける』感覚を重視しているのでは。受け手の側も『ゲットした』というリアルな体験は人に伝えたくなる。そこからネットのバズも生まれます」と解説する。
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Hi-STANDARD -The Gift(OFFICIAL VIDEO)
今回のアルバム購入者には、表題曲「The Gift」を収録したサンプラーCDが先着で配布される。
目を引くのは、ジャケット裏側の「あなたの大切な人にこのCDを渡して下さい」という言葉。ソーシャルメディアでのシェアやリツイートを 、フィジカルのCDで再現した試みと言えるかもしれない。
手にした人が誰かにサンプル盤をプレゼントしたり、SNSに写真をアップしたりすることで、リアルとネットの双方でハイスタへの思いが拡散されていく仕掛けだ。

ハイスタの新作アルバム「The Gift」(左)と特典のサンプラーCD
「体験はコピーできない」
ハイスタの所属する「ピザ・オブ・デス・レコーズ」は、一連のサプライズについて「お答えを御遠慮させていただいております」と沈黙を守っている。
背景を考えるうえでヒントになりそうなのが、横山健の過去の発言だ。
「CDや書籍はコピーが利くけど、体験ってコピーできないから」
(2013年、RealSoundのインタビュー)
リスナーは単なる受け手ではなく、「体験」を通じてともに新作を盛り上げる仲間。そんなファンとの「共犯関係」が、独自のサプライズ戦略にも色濃く反映されているのではないだろうか。
Ryosuke Kambaに連絡する メールアドレス:ryosuke.kamba@buzzfeed.com.
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