栗村修の“輪”生相談<111>40代男性「ビンディングでもフラットペダルでもタイムに大きな差が出ないです」
栗村さん、こんにちは。今回お聞きしたいのは「ビンディングでもフラットペダルでもタイムに大きな差が出ないのはなぜか?」ということです。
私は自転車歴3年、45歳のホビーライダーです。健康目的で始めた自転車、気がつけば平日は1日30分の三本ローラー、休日は100kmくらいを走るような生活になっています。初めて買ったクロスバイクはフラットペダルでしたが、半年後にはロードを購入しビンディングペダルへ交換しました。
その後、何の疑問もなく2年近くビンディングペダルで走っておりましたが、先日、何気にフラットペダルに交換して乗ってみたところ、いつも走り込んでいる100kmのコースのタイムに差が無く驚きました。
「ビンディングでもフラットペダルでもタイムに大きな差が出ない」とはどういうことなのだろうと疑問に感じております。
(40代男性)
30年間自転車界で過ごしてきた僕にとって、衝撃のご質問です。ビンディングペダルの効果なんて、疑ったことがありませんから。
改めてビンディングペダルのメリットを確認してみましょうか。よく言われるのが、引き足が使えるということです。ただ、最近、ペダリングモニターなどの出現により、シッティング時の引き足が大してパワーを生んでいないことは分かってきました。せいぜい、反対側の脚の重さを引き上げるくらいです。
これだけならば、ビンディングは要らないじゃん、ということになりかねないのですが、他にもメリットはあります。まず、足の位置をペダルに対して固定できること。フラットペダルみたいにずれません。ケイデンスが上がるほど大事ですね。フラットペダルで全力のスプリントをするのは危ないでしょう。それから、上死点・下死点付近で、水平方向の動きができる点も結構大きい。円を描く様なスムースなペダリングをする場合は、これは重要です。
一番差が大きくなるのはダンシングのときですね。そもそも足が固定されていない状態でのダンシングは怖くてできないはずです。これは、一定以上のレベルの選手なら皆感じることだと思います。足が固定されていない状態で通常(ビンディングペダル使用時)のダンシングをしたら、上死点付近で足が浮き上がり、踏み込み時もつま先立ち方向に足がペダルからズレて落車するかもしれません。
つまり、質問者さんがビンディングなしでも走れてしまったということは、ビンディングのメリットを生かす走りができていない可能性があります。推測ですが、シッティングをベースとした一定リズムでのペダリングで100kmを走られたのではないでしょうか。ケイデンスも低めだと考えられます。
アタックの様な急加速や鋭いコーナーからの立ち上がり、ちょっとした丘を腰を上げて一気に駆け上がるよう際には「ダンシング+ビンディングペダル」は必須になります。
ただ、もう一歩考えを進めると、フラットペダルが持つ数少ないメリットを最大化した器用な走りかたをされている可能性もあります。
ビンディングペダルって、足の位置が固定されますから、ペダルに対する足の位置の深さを調整できませんよね。でも、思うに、上りでトルクをかけるときと、平地で高回転をくるくる回すときとでは、適切な足の前後位置は違うと思うんです。現に、高回転型の選手とトルク型の選手では、クリートの位置が全然違いますよね。トルクを掛けるときは深めがよくて、回すなら浅めがいいらしいんです。
もしかしたらですが、質問者さんはこの点を生かし、ペダリングによって足の前後位置を微妙にずらすことで、効率の良い走りを実現したのかもしれません。足の前後位置を変えられないことは、実はビンディングペダルのデメリットだと思うんです。
(編集 佐藤喬)
一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。
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