カルチャー
発掘スクープ 中世に「貞操帯」を履かされた人妻の数、ゼロ!|虚構の鉄下着を歴史学者が真面目に剥ぐ!
From Atlas Obscura (USA) アトラス・オブスキュラ(米国)
Text by Sarah Laskow
貞操帯の無意味さを風刺した16世紀ドイツの木版画
PHOTO: WIKIMEDIA COMMONS
「貞操帯(チャスティティベルト)」という単語をご存知の読者諸氏は、あの特定のフォルムを思い浮かべることができるだろう。
だが、そんなものは歴史上存在しなかった!
なのになぜまことしやかに語り継がれているのか──と憤る歴史学者が、その「神話化」プロセスを真面目に解明する。日本の「江戸しぐさ」道徳問題にも光を当ててくれるかもしれない!?
膣と誘惑を隔てる鉄の下着
「貞操帯」は数多くの映画に登場する。その他さまざまなメディアでもひろく言及されている。「チャスティティベルト」という名前のバンドまである。それらのおかげで、「貞操帯」の具体的なイメージを思い浮かべることができるだろう。
デビット・リューベンは、その著作『愛の知恵330──ストレートでショッキングな本』(金子三郎 訳、池田書店、1971年)のなかで、貞操帯を「武装ビキニ」、より具体的に「膣と誘惑を隔てる1インチの鉄板パンツで、排尿できるよう前に網が張られている」と描写している。
さらに、「このブツには大きな南京錠がかけられていた」ともリューベンは書いている。この道具があれば、中世の男たちは中世の戦争に行っている間、中世の妻たちが他の誰かとセックスをしないだろうと安心し、遠い遠いところに、何年もの間、出征していった。
なんと馬鹿げた野蛮な話だ。第一、すさまじく不衛生ではないか。だけど、なんせ中世の話だからね、時代が違ったってことで──。
少なくともこれが何百年もの間、語り継がれてきた物語だった。シンプル、ショッキング、そしてある意味で楽しい筋書きだろう。おそろしく「遅れた」昔の人々と、啓蒙され、よりよくなった我々現代人という対比──だがそれはほぼ間違いなく、とても間違っている。
「中世研究者として、もうこれ以上耐えられない! ある日そう思ったんです」
アリゾナ大学ドイツ学科のアルブレヒト・クラッセンは言う。それで貞操帯にまつわる真の歴史を明らかにすることにしたのだ。クラッセンは言う。
「貞操帯は、関連全文献をあっさり網羅できるほどのこぢんまりした研究題材です。だからその『神話』も一蹴できるんです」
女性の貞節を守るために使われた金属製の貞操帯など、最初から存在しなかった。これが真実だ。
貞操帯「神話化」のプロセス
クラッセンがその著書『中世の貞操帯──神話化のプロセス』(未邦訳)で試みたように、中世の貞操帯の証拠を検討すると、「ほとんどない」ということがすぐあきらかになる。
そもそも貞操帯を用いている様子を描写した絵や記録はほとんどない。実物となれば、なお少ない。さらに、このテーマに関するいくつかの書物は互いに参照しあっており、どれもが少数の同じ例を引用している。クラッセンは言う。
「文学的表現ならたっぷりあるが、実際に妻に貞操帯を履かせる男に言及した歴史的描写はほとんどない」
その文学的表現も、寓話的、もしくは風刺的であることが多い。
貞操帯を取り上げた文献は、ヨーロッパでは少なくとも紀元1000年以前までさかのぼって散見される。だが、1100年代になるまで、これらの文献ではいずれも神学的に貞節と純潔の隠喩として表現されている。
たとえば、ラテン語のある文献は、「正直な処女」に対して、「救いの兜を正面にかぶり、真実の言葉を口に……神と隣人の真の愛を胸に、純潔の帯を体内に……保ちなさい」と説いている。この助言を素直に聞き入れた処女は、鉄の下着を身につけるだけでなく、鉄の兜をかぶり、「真実」という言葉を、噛みタバコの塊のようにほおばって過ごしていたのだろうか。
いや、これらをみな「文字通りに」解釈してはいけないのではないか。
現存する最古の貞操帯の画は、『ベリフォルティス』という軍事工学に関する書物に、弩、鎧、拷問器具などの戦争の道具と並んでされている。貞操帯の画は以下のとおりだ。
ベリフォルティス(1400年ごろ成立)に描かれる貞操帯
PHOTO: WIKIMEDIA COMMONS
だが、この本に登場するすべてが真面目なものだったわけではない。クラッセンが「高度に空想的」と呼ぶ、人を透明にするモノたちもその一例だ。著者のコンラート・キーザーは、オナラにまつわる冗談もいくつか書いている。貞操帯に関してはそれなりに詳しく描写されているものの、この時代にさかのぼっても実物が発見されたことはない。
16世紀あたりから、貞操帯は絵や彫刻、木版に頻繁に現れる。典型的な場面は次のようなものだ。
1590年頃の風刺画。画の上部はオランダ語、下部はドイツ語方言の文章が書かれている
PHOTO: WIKIMEDIA COMMONS
年上の夫が旅に出る。その妻はたいてい半裸に描かれており、金属の下着を身につけている。だがその絵のどこかには、夫が去るのをいまかいまかと待ち構えた妻の愛人がいて、貞操帯の合鍵を手にしている……。
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