9月28日、衆議院が解散された。
安倍首相が「国難突破解散」と称したこの解散の目的は、支持率の回復や民進党の混乱など、チャンスを生かして政権維持をすることだったとみられるが、既に様々な報道で指摘されている通り、今回の解散総選挙に明確な「大義名分」や政策的な争点は見当たらない。
多くの有権者が、何に注目して投票すべきか、迷っているのではないだろうか。
おそらく、今回の総選挙を左右するのは政治家の「人気」だろう。野党再編の目玉といわれる「希望の党」の政策内容は、今のところ十分に固まっているとは言えない。
一方の自民党も、これまでの政策方針が大きく変わるわけではない。経済と社会の将来を見据えた政策議論が進まない中、何とか過半数の議席は確保できるという自民党の目論見が崩れはしないか、気がかりだ。
10月22日の総選挙に向けた野党の動きを見ていると、これまで以上に政治が「人気の獲得」を重視し始めたとの印象が残る。
ただ、まだ紆余曲折がありそうとはいえ、民進党から多くの議員が小池氏率いる「希望の党」への合流を試みていることは見逃せない。人気の高い小池氏が、「反安倍政治」の受け皿になることは十分に考えられる。
重要な問題の一つは、「まっとうな政策論争」が進んでいないことだ。
野党に共通するとみられる発想は、都議会選挙で地滑り的な勝利を収めた小池百合子都知事率いる政党の「勢い」に頼ることだろう。
「反安倍政治」を主張する以外、民進党をはじめとする野党には、「これまで以上の景気回復を実現し、将来の国民生活の安定を実現しよう」という情熱のこもった考えは見られない。
そうした動きは、わが国の政治が徐々に、大衆迎合的な「ポピュリズム政治」に向かっていることのあらわれともいえる。特に、具体的な政策を提示せずに、時の為政者を批判することに終始するあり方は、そうした懸念を強くさせる。
都知事の職務と国政を兼務できるかといった指摘もあるが、それ以上に具体的な政策案がないことが問題だ。
米国や英国の例を見ても、ひとたびポピュリズム的な発想が政治のイニシアティブを取り始めると、政治・経済の安定は失われる。
自民党が今後も政権を運営していくためには、少なくともこれまでに主張してきた政策を深掘りし、実質ベースでの所得が増えるなど、有権者がより良い社会をイメージできるだけの取り組み内容を提示しなければならない。