泊食分離のみの宿泊スタイルを打ち出す「匠晴の宿心庵」。こだわりの部屋とお風呂が武器=別府市弓ケ浜 旅館業界で宿泊料金と食事料金を別建てにする「泊食分離」が注目を集めている。コストを抑えたい旅行者のニーズに対応した動きで、大分県内でも導入する旅館が増加している。一方で、飲食店の少ない地域の旅館は伝統的な「1泊2食付き」を重視し、高級感を演出。各地の特性を見極めた柔軟な対応が成功の鍵となりそうだ。 日本の旅館は「1泊2食付き」の料金体系が主流。個人客や長期滞在の外国人が増加する中、割高感を理由に選ばれにくくなっており、稼働率低迷の一因ともいわれている。観光庁は8月、業界に泊食分離の導入を促す方針を明らかにした。 県旅館ホテル生活衛生同業組合によると、素泊まりや夕食抜きなどのプランを取り入れている県内の旅館はここ数年で増えており、特に別府市北浜での導入が多く見られる。「北浜の旅館は部屋数が多く、平日の稼働率が低い。食事提供に対応できる環境がエリア内に整っていることなども要因」と分析する。 別府市弓ケ浜町の「匠晴の宿心庵」は一切、食事を提供しない「泊食分離のみ」のスタイルを打ち出す。心庵を運営する星光グループの藤沢壮一係長は「地元の名店で旬の味を楽しんでもらうことが、地域の活性化にもつながる」と話す。独自のマップを作り、人気店やデリバリーサービスなども案内する。一方で、部屋と風呂にはこだわり抜き、「食事がなくても選ばれる空間づくり」を徹底している。 由布市湯布院町の旅館山城屋は、泊食分離とは一線を画す。自然の中に立地する湯平温泉は周りに飲食店がほとんどなく「田舎の旅館にはなじまない」と二宮謙児代表。同館は客室7部屋の小規模旅館。「1泊2食は売りの一つ。旅館ならではの食事を提供することで、ホテルとの差異化を図っている。良いものを適正な価格で提供し、人を呼び込みたい」 観光スタイルの変化により、宿泊施設の形態も多様化している。県観光・地域振興課の阿部万寿夫課長は「『旅館』とひとくくりにせず、規模や環境、特性に応じた営業の仕方を考えていくべきだろう。エリアの魅力をうまく表現することが大事だ」と話している。