こんにちは、たけのこです。
先日、新国立競技場の建設現場で23歳の現場監督が過労自殺を図るという事件がありました。
※事件を振り返る方はこちら。
そして、この事件に先日進展がありました。
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設にかかわる企業を対象に、東京労働局が現場で働く人の労働実態を調べた結果、違法残業などの法令違反が相次いで見つかり、81社に是正勧告を出していたことがわかった。東京労働局が29日、発表した。
朝日新聞デジタル
あなたはこのニュースをみて何を感じましたでしょうか。
もう記憶の片隅に消えてしまったでしょうか。
今回は引き続きこの事件について触れてみたいと思います。
新国立競技場81社違法残業などで是正勧告。これが建設業の実態
今回調査の結果わかったこと
今回の労働局の調査では次のことがわかっています。
同労働局は昨年12月から今年7月にかけて、新国立競技場の現場に出入りした全762社を対象に、従業員の労働時間などを尋ねるアンケートを実施。このうち、元請けの大成建設と全ての1次下請け企業、月80時間超の長時間労働をさせていると疑われる2次下請け以下の企業(計128社)を対象に詳しく調べた結果、約6割にあたる81社で違法な長時間労働や残業代未払いなどの法令違反が見つかった。
81社のうち、違法な長時間労働が見つかったのは、自殺した男性が勤めていた建設会社を含む37社。うち10社が月100時間超、3社が月150時間超の違法残業をさせていた。
朝日新聞デジタル
新国立に関わる企業の多くが法令違反をおかしているということです。
これに対して元請のゼネコンのコメントは以下の通りです。
「元請けとして法令順守の徹底について指導し、過重労働の発生の防止に努める」
これが事件が発生したときのコメントと全く変わらないのです。
当時も
「専門工事業者に対し、今後も法令順守の徹底を指導する」
と発言していました。
現場の作業員に長時間労働させてるのは元請であるのに、指導徹底とは何を具体的にするんですかね。
工事を指揮しているのは元請けであり、業者選定も元請が行っています。
法令順守する能力がない会社に無理を強いているのは元請けではないのでしょうか。
元請の残業も少なくないはず
下請けの会社の中に150時間超の残業をしている会社があるということは、元請も同じくらいか、それ以上に残業している可能性はあります。
元請の施工管理部隊がどれだけ充実しているかにも寄りますが、大抵は利益を上げるため最低限の人数で実行することが多いです。
というか、人が増えても現場の残業時間を減らすことが根本的に難しいところが現実としてあります。
特に建築工事は。
土木工事の24時間施工で行うトンネル工事などでは、段取りがある程度決まっているため極端な長時間労働になることは少ない場合もあります。
しかし、建築工事は引き継ぎが難しく、設計変更や管理項目が多いこともあり、元請の中でも作業の引継ぎが難しい面があるのです。そのためシフト制が取れないのが実態です。
元請の社員も相当な残業時間になっているはず。
こちらの社員も心配ですね。
残業を減らせば工事が成り立たない、人が育たない
実際に、そのような現場にヒアリングをしたことがありますが、現場監督からは次のような意見を受けました。
「品質、安全、工程を守るためには、残業は必要。」
「俺たちも昔から200時間くらい残業していた。」
「後継者でもある若手を育てるためでもある。」
「若手はやる気に満ちている。」
「労働時間が減ったら仕事にならない」
若手社員も次のように答えていました。
「自分たちは段取りが悪いから、仕事がわかるまで時間がかかってしまう。でもやりがいを感じており、残業の長さは気にならない」
「学ぶことが多く、それを整理しているとどうしても長時間労働になってしまう」
現場サイドの意見としては、やる気もあるし、発注者の期待に応えるために頑張っている。それは後継者育成のためでもあるんだ。
それが苦になるようでは現場が進まないという意見なのです。
しかし、そこの現場の問題は、従業員の労働時間の偽装。
誰に言われることもなく社員個人の意思で、実際に働いた時間よりも短く勤務カードをつけていたのです。
プライドがあってやっていることなら、堂々と労働時間をつけるべきですが、そうすると法違反になり会社からの指導が面倒となるという観点から、こういう事が起きてしまっています。
調査が入れば一瞬でわかる偽装なら、偽装する意味がまったくない。
ということで即刻是正を支持しました。
残業時間の試算
前回どうしたら建設業社員が長時間労働になるか試算してみました。
工事現場での作業は基本的には朝8時~夕方17時まで、お昼休憩を1時間入れた8時間作業です。
現場監督は朝8時の朝礼の準備があるため、たいてい7時くらいには出勤し、17時以降には今後の工事の段取りや、品質管理記録の作成、図面の修正、下請け業者への支払いのための書類作成など他にも様々な業務が待っています。
そのため、現場作業は17時で終わっても、現場監督は直ぐに家に帰れないのです。
繁忙現場では徹夜なんてこともしばしば。
そして、工事現場は基本的に週休1日です。
さて、そうすると現場監督の残業時間は1か月あたり何時間になるでしょうか。
条件を次のように仮定します。
労働時間 07:00~22:00 残業6時間
労働日数 22日(土曜除く)
法定外労働時間(土曜日分)14時間×4日
1か月あたり残業時間=6h×22+14h×4=188時間
一例ではありますが、このような現場は多いです。
現場監督の労働時間は現場の繁忙度に応じてこの数字が増減します。
こうした長時間労働の工事現場は本当に多いです。
むしろ少ないかもしれません。
200時間くらいざらにあるのです。
残業が200時間まで行くともうワークライフバランスなんて、あってないようなもんです。変わりの人がいないから、代休も取れず疲弊していく人が多くいます。
最近では日本建設業連合会が主導で、土日を休みにしようという試みがでていますが、そうすると工程も伸びるし、建設コストは上がる可能性がありますね。
発注者がそれを良しとするか。
そこが問題となってきます。
公共工事の金額が上がると、国民から文句が出るかもしれませんね。
36協定を変えてしまうこと
以前、恐ろしい話を聞いたことがあります。
建設業の残業時間は青天井であるため、36協定の時間外労働時間を200時間で申請しようというものです。
そうすれば200時間まで残業させても、法的には違反にならないですからね。
法違反にならなければいいのかって。
これでは本末転倒です。
でも、こんなことが平気で会話されているのです。
社員の健康よりも、法律を犯す方が優先順位が高い。
コンプライアンスとは何なのでしょうか。
また、元請から下請業者に対して、36協定の時間を延長するよう働きかけることもあるのです。
完全に優越的地位の乱用ですね。
設計変更による契約変更の遅延
今回の是正勧告の中には残業代の未払いが含まれていました。
原因の一つとして、元請と発注者、元請と下請の設計変更による契約変更の遅延があることが考えられます。
例えば建設工事で次のようなことが日常茶飯事であります。
発注者から元請がコンクリート構造物100㎥の発注をされましたとします。
そうすると元請は下請業者のコンクリート材料会社とコンクリート打設会社にコンクリート構造物100㎥の発注をします。
しかし、設計が変更となり構造物の大きさが急遽110㎥となりました。
そうすると現場は工程を間に合わせるために、契約変更は後にして110㎥の構造物をつくります。
この時点で、下請け会社は110㎥の原価が発生していることになります。
しかし、発注者と元請会社が増えた10㎥分の金額交渉がまとまってないと、元請は下請に対して10㎥分の支払いを保留することがあるのです。
もちろんこれは建設業法違反です。
しかし、元請としては10㎥分の費用を発注者から回収できないと赤字になるため、下請に先行して支払いをすることを躊躇うのです。
このような例の状態が大規模だと、数千万から数億円単位で変更が生じることがあり、発注者と元請けの話がまとまらなければ、ますます下請業者の支払いが遅延するのです。
そうすると中小零細企業である下請会社は残業代を従業員に払うことが出来ずに、今回の残業代未払いのような事態が発生するのです。
また、作業員の給料が日当払いであることも残業代未払いの原因となっている場合があります。
私も担当工事で数億の支払い遅延が生じているものに対処したことがありますが、工事金額を管理している担当者は、発注者の設計変更が認められなかったときに生ずる損失を気にしていました。
でも、それで仕事をしている下請け業者の資金繰りを悪化させることは元請としての責任を果たしていません。
この問題の処理は多大な労力を要しました。
社会保険の未加入問題
これは長年建設業が抱える問題のひとつでもあります。
元請は発注条件に社会保険料分の費用を上乗せして払う事を明示していますが、実態としては見積書書いてある社会保険料を値引きしている例が多発していました。
その結果、社会保険未加入の業者が多いのです。
また、建設業は仕事にムラがあります。
そのため会社は職人の直接雇用を拒みます。
それも社会保険加入の妨げになっていました。
現在は国土交通省をトップに社会保険未加入業者を建設現場から排除する動きがあります。
現在の建設労務単価の上昇傾向の中には、単純にアベノミクス、オリンピック需要による繁忙なことによる職人不足だけでなく、この社会保険分の賃金の上昇が含まれているのです。
これを説明しない建設業者は多いですね。
なかなか理解されない部分ですから。
「オリンピック需要で労務単価が上がっている」としか説明しない建設会社の営業には要注意です。
しかし、それも結局先述したように、見積書に書いてある社会保険料を値引きしている案件が多々あるのが実情ですね。
発注者、元請の責任に尽きるという事
建設業の長時間労働、残業代未払いなどは常態化しており、ここに始まった問題ではありません。
ただ、世間の知らない仮囲いの中で、隠され続けてきたものです。
現場本人たちは隠すつもりもなく、昔からやってきたことをそのままやっているんです。
労働法などは関係なくですね。
建設会社としては無理をしてでも、発注者の為にプロジェクトをなんとか間に合わせようとします。
それが仕事を受けたエンジニアの想いです。
しかし、それがどんどん裏目に出てきているのです。
適正な工期、適正な工事金額があれば、この問題は解決できる。
今回の新国立はオリンピック開催が決まってから3年以上経ってから着工しました。
それまでの時間は何だったのか。
ラグビーのW杯に間に合わせるスケジュールであれば、もし不具合があり工程が遅れても、オリンピックに影響はありませんでした。
それなのに、今はオリンピック開催に間に合うか間に合わないかと言うところで現場は仕事をしています。
彼らをここまで追い込んでいるのは、発注者であり、新国立建設計画に関わった全ての人なのです。
この仕事を請負った元請責任は大きいですが、決して建設会社ばかりが責められる問題ではありません。
ただそれにしても、元請けの
「元請けとして法令順守の徹底について指導し、過重労働の発生の防止に努める」
この発言にはとてもがっかりです。
国家の為に大プロジェクトを背負っているのは理解できますが、自分たちが下請業者を酷使していることに対し、配慮する発言があるべきです。
まず元請が見本として建設業法、労働基準法の遵守を徹底してほしい。
そして、発注者としてもプロジェクトの責任者として、建設会社に手を貸し、協力し合って新国立競技場を仕上げてほしいと願います。