短距離100mとリハビリ、共通する「10秒の壁」

突破する日が来るとは想像すらできなかった

2017年10月2日(月)

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2013年4月29日、当時17歳の桐生祥秀選手は100メートル10秒01の記録を出すが足踏みを続け、10秒の壁を破るまでにそれから約4年4カ月を要した。(写真:アフロスポーツ)

一度「壁」が破られると、心理的限界は消える

 9月9日、福井市で行われた日本学生対校選手権の男子100メートル決勝で、桐生祥秀選手(21歳)が9秒98の日本新記録を樹立した。

 高校3年生で10秒01を叩き出し「10秒の壁を突破するのは時間の問題だ」と言われた18歳は、時に怪我に泣き、思うように記録を伸ばせずにいた。サニブラウン・ハキーム選手や多田修平選手など次々と10秒1を切る新しいライバル達の出現により、日本選手権の決勝では4位。7月に開かれた世界選手権、個人種目の代表メンバーから外されるという屈辱を味わった直後の快挙であった。

 従来の日本記録は1998年のアジア大会で伊東浩司がマークした10秒00だったから、それから日本人が「10秒の壁」を突破するまでに19年もの歳月を要したことになる。

 私も中学校時代は陸上の短距離をやっていた。中3の時には、東京都の代表で全国大会に出場したこともあり、100メートルには特別な思いを持って見てきた。正直なところを言えば、まさか日本人が100メートルを9秒台で走る日が来るとは、数年前までは思いもよらなかった。だが一度「10秒の壁」が破られてしまうと、長いこと日本人アスリートの前に立ちはだかってきた心理的な圧迫は消え、9秒台で走る選手が続々と現れてくるだろう。

 事実、桐生選手の9秒台突入直後、山縣亮太選手は追い風0.2メートルで10秒00をマーク。桐生選手と同じ追い風1.8メートルで試算すると9秒87が出ていたことになるという説もある。日本人アスリートの9秒台は「夢」から「日常」へと変わっていくに違いない。

リハビリの世界で10秒を切るということ

 じつはリハビリの世界にも「10秒の壁」がある。

 アスリートの世界と比べればとんでもなくスローモーな話で恐縮だが、10メートルの歩行速度が「10秒」を切ることが重大な意味を持っている。「10秒の壁」を突破できるようになれば、歩行中に転倒してしまうリスクはもうないと判断される。

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「短距離100mとリハビリ、共通する「10秒の壁」」の著者

財部 誠一

財部 誠一(たからべ・せいいち)

経済ジャーナリスト

1980年、慶應義塾大学を卒業し野村證券入社。出版社勤務を経て、1986年からフリーランスジャーナリスト。BSイレブンの「財部誠一の『異見拝察』」などTVやラジオで幅広く活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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