格安サーバーからクラウド、近年は IoT まで、20年以上にわたり幅広い分野の事業に取り組んでいる、レンタルサーバー業界のトップ企業の一つ、さくらインターネット。その共用サーバーも、非常に多くのユーザーに愛用されています。
現在、さくらのレンタルサーバの共用サーバーには、月額換算で129円から利用できる「ライト」プランから、法人向けの「ビジネスプロ」プランまで、全部で 5つのプランが用意されていますが、はたして 5つのプランにはどの程度の性能の違いがあるのでしょうか?
今回は、「さくらのレンタルサーバ」の共用サーバープランの性能の違いを、各種ベンチマークツールを利用して実測し、徹底的に比較してみたいと思います。
さくらのレンタルサーバの各プランの違いとは?
ベンチマークで比較する前に、まず 5つのプランのサービスやサーバーのスペックの違いについて、ざっと見てみましょう。
細かい仕様などの違いについては、さくらのレンタルサーバの公式サイトを見ていただくとして、ここでは各プランにおいて大きく違っているポイントに焦点を当てて見てみたいと思います。
プラン毎の大きな違い
さくらのレンタルサーバの場合、プラン毎にディスク容量が大きく異なっていたり、使用できるデータベース数が違うなどの差がありますが、そういった違いの中でも大きく違いが出ているポイントを表にしてみました。
月額料金 | 独自ドメイン | WordPress | 転送量目安 | PHPモジュールモード | WAF/さくらポケット | |
ライト | 129円(月額換算) | 20 | × | 40GB/日 | × | × |
スタンダード | 515円 | 20 | 20 | 80GB/日 | × | ○ |
プレミアム | 1,543円 | 30 | 50 | 120GB/日 | × | ○ |
ビジネス | 2,571円 | 40 | 100 | 160GB/日 | × | ○ |
ビジネスプロ | 4,628円 | 40 | 200 | 200GB/日 | ○ | ○ |
以上のように、独自ドメインの設定できる数(=サイトの作成可能数)や WordPress の設置可能数(データベース数)、転送量上限などに大きな違いがあります。(あえて挙げていませんが、ディスク容量も大きく異なります)
WAF(ウェブアプリケーションファイアウォール)やさくらポケット(スマホでサーバーにアクセスできるアプリケーション)など、ライトプランでは使えない機能がいくつかありますが、プランの数が多いのでバリエーションも豊富なのかと思ったら、それほど大きな差異があるサービスはありません。
また、サポート面でも電話サポートが使えないプランなどもありませんので、仕様だけからプランを選ぶとすれば、基本的に予算にあわせて選ぶ感で問題ないでしょう。
プラン毎のサーバーのスペックに違いはあるか?
一方、肝心のサーバー自体の仕様ですが、こちらもプランによってそれほど違いはありません。
さくらのレンタルサーバでは、コントロールパネルから以下のように、ユーザー自身が使用しているサーバーの具体的なスペック(使用している CPU やメモリの容量など)を確認できます。
さくらのレンタルサーバ「ライト」のスペック
さくらのレンタルサーバ「ビジネスプロ」のスペック
CPU | メモリ | |
ライト | Intel Xeon E312xx | 18GB |
スタンダード | Intel Xeon E312xx | 18GB |
プレミアム | Intel Xeon E312xx | 18GB |
ビジネス | Intel Xeon E312xx | 18GB |
ビジネスプロ | Intel Xeon E312xx | 22GB |
上記のように、いずれのプランも CPU はすべて同じスペックですが、メモリに関しては「ビジネスプロ」のみが少し大きいですね。あとは、プラン毎の収容人数によって、サーバー自体のパフォーマンスが左右されることになります。
さくらのレンタルサーバの場合、プラン変更を行えない仕様になっているため、プラン毎にあらかじめ決めた収容人数を、順次サーバー内に埋めていく感じでしょう。
料金が安いプランであれば収容人数が多いため、安いプランでは CPU や メモリなどのリソースを奪い合うことになり、他のユーザーの影響を受けやすいことになります。
逆に、料金が高いプランであれば、収容人数は少ないため、他のユーザーの影響は受けにくく、動作は安定しますし、処理速度も速くなります。(もちろん、あくまで共用サーバーなので、必ずしも想定通りに動作するとは限りません)
では、実際に上位プランに行くほど、安定性や処理速度が向上するのか、各種ツールで確認したデータを見ていきましょう。
さくらのレンタルサーバのパフォーマンスをベンチマークツールでチェック
では、早速さくらのレンタルサーバの各プランにおける、サーバーパフォーマンスがどのくらいになるのかを、各種のベンチマークツールでチェックし、比較してみましょう。
比較するデータは、当サイトのランキング評価のもとにもなっている、以下の内容です。(カッコ内は利用したツール)
- Webサーバーの安定性(Monitis)
- PHP のパフォーマンス(PHP Benchmark、PHPspeed)
- データベースのパフォーマンス(PHPspeed)
- Webサーバーのパフォーマンス(ApacheBench、PHPspeed)
- サイトの表示速度(GTmetrix)
また、ライトプランに関しては、データベースが利用できないため HTML サイトでの計測とし、他のプランは WordPress サイトで計測しています。(ライトでも SQLite は利用できるため、WordPress の設置は一応可能ですが、通常は使わないと思われるため)
まずは、Webサーバーの安定性(Monitis)のデータから見ていきましょう。
Webサーバーの安定性
Webサーバーが安定してサイトの表示をしてくれているか、という点をチェックするために、サーバーの死活監視を行える Montis というサービスで、HTTP リクエスト(Webサイトの表示をするためのやりとり)のモニタリングをしました。
モニタリングの結果はグラフになっていて、縦軸が応答時間(単位は ms(ミリ秒))、横軸が時系列(薄い縦棒が日の区切り)になっています。(グラフの画像をクリックすると拡大して見ることができます。また、拡大した画像は、ブラウザの戻るボタンで本文に戻れます)
また、線の色やポイントに関しては、以下のような意味です。
- 紫の線:日本のサーバーへの応答状況
- 赤い点:Webサーバーからの応答を受け取れなかったポイント
応答時間が速く、応答なし回数が少ないほうがより安定性が高いと言えるため、グラフの位置が下で、上下動が少なく、赤丸が少ないほうが安定しているということになります。
他社サーバーを含めた、検証の詳細記事はこちら(Webサーバーの安定性と応答速度をツールで比較(monitis)【2017年版】)
ライト
スタンダード
プレミアム
ビジネス
ビジネスプロ
応答なし回数 | 最速 | 平均応答速度 | |
ライト | 179 | 33 | 81 |
スタンダード | 9 | 605 | 1,106 |
プレミアム | 5 | 760 | 1,098 |
ビジネス | 0 | 536 | 1,008 |
ビジネスプロ | 0 | 701 | 1,040 |
他社平均 | 9 | 385 | 710 |
まず目に付くのが、「ライト」プランの「応答なし」回数の多さです。格安とはいえ、安定性はかなり低いと言わざるを得ません。また、ライトプランの応答速度は他のプランよりかなり速いですが、これは データベースが絡む WordPress サイトではなく、HTML のみの処理の軽いサイトを利用していることが大きな原因と考えられますので、他のプランと単純に比較はできません。
一方、スタンダード以上のプランでは、スタンダードで他社と同じレベル、それ以上になると安定性はより高くなり、ビジネス以上になるとすべてのリクエストに対して応答を返せているため、高い安定性が実現できていると言えます。
PHPのパフォーマンスチェック
PHP の処理のパフォーマンスを測定するスクリプト「PHP Benchmark」と、PHP 単独の処理だけではなく、MySQL を利用した場合のパフォーマンスをチェックしたり、データの読み書きテストなども含めた、全部で 6つのテストを実施できる、「PHPspeed」を使用したベンチマークテストの結果です。
測定は、他社のデータとも比較するため、同じ PHP5.6 にて行いました。数値とパフォーマンスの関係は、以下のように異なります。
- PHP Benchmark:値が小さいほうがパフォーマンスが高い
- PHPspeed(Synthetic PHP BenchMark と Real World PHP Test):値が大きいほうがパフォーマンスが高い
前回実施した測定の詳細記事はこちら(PHPのパフォーマンスをベンチマークテストで比較【2017年版】(PHP Benchmark/PHPspeed))
PHP benchmark | Synthetic PHP BenchMark | Real World PHP Test | |
ライト | 19 | – | – |
スタンダード | 19 | 10,268 | 6,870 |
プレミアム | 21 | 8,993 | 6,344 |
ビジネス | 16.4 | 11,857 | 7,821 |
ビジネスプロ | 19 | 10,326 | 6,886 |
他社平均 | 29 | 10,398 | 11,095 |
3つのテストすべてで、ビジネスプランがトップの結果が出ています。一方、逆にプレミアムプランは、いずれのテストでも、他より低い結果になっていますね。全体的にはプランによって大きな違いが出ているというレベルではなく、ほぼ均等と言っていいでしょう。
他社の平均値と比較すると、PHP 単独のパフォーマンスに関しては他社と同じか少し高いレベルですが、実環境でのパフォーマンス(Real World PHP Test)では、いずれのプランも他社より劣る感じです。
データベースのパフォーマンスチェック
上でも使用した、「PHPspeed」のデータベースに関する 2つのテスト(Synthetic MySQL Test と Real World PHP w/ MySQL Test)の結果です。
ここで、利用するデータベースは MySQL で、共用サーバーでは WordPress と組み合わせて使われているデータベースの中で、圧倒的にシェアが高いものです。どちらも、値が大きいほうがパフォーマンスが高いです。
前回実施した測定の詳細記事はこちら(データベースのパフォーマンスをベンチマークテストで比較【2017年版】(PHPspeed))
Synthetic MySQL Test | Real World PHP w/ MySQL Test | |
ライト | – | – |
スタンダード | 1,248 | 4,822 |
プレミアム | 1,218 | 4,717 |
ビジネス | 1,429 | 5,558 |
ビジネスプロ | 1,663 | 4,887 |
他社平均 | 4,277 | 6,263 |
MySQL のパフォーマンスは、ビジネス以上のプランが他のプランよりやや高い感じですが、こちらもおおむね平均的な結果と言えます。
他社の平均値と比較すると、ビジネス以上のプランでも、少し見劣りする感じになっていますね。
Webサーバーのパフォーマンスチェック
次は、Webサーバーのパフォーマンスを確認する ApacheBench と PHPspeed のテスト結果です。
ApacheBench はWebサーバーのソフトとして広く利用されている Apache に組み込まれている Webサーバーの性能を測定するための負荷テストツールです。一方、PHPspeed では、PHP や データベースを含むサーバーの処理速度を総合的に測定するテストである、「Server Benchmark」の結果を見ます。
いずれの結果も、値が大きいほうがパフォーマンスが高いです。
前回実施した測定の詳細記事はこちら(Webサーバーのパフォーマンスをベンチマークテストで比較【2017年版】(ApacheBench/PHPspeed))
HTTP Requests per second | PHP Requests per second | Server Benchmark | |
ライト | 1,066 | – | – |
スタンダード | 1,268 | 5.23 | 2,395 |
プレミアム | 1,191 | 4.46 | 2,352 |
ビジネス | 1,679 | 6.85 | 2,701 |
ビジネスプロ | 1,221 | 5.72 | 2,793 |
他社平均 | 370 | 58 | 4,037 |
さくらのレンタルサーバは、毎回 ApacheBench の HTTP の値がダントツでよい数字がでますが、今回もかなり良い結果がでました。
一方、ApacheBench の PHP と PHPspeed の Server Benchmark では、かなり見劣りする結果になってしまっています。データベースなど、他の要素が絡むと弱い感じです。
WordPressサイトの表示速度比較
最後は、サイトの速度に関するパフォーマンスを確認できる GTmetrix を使用した、WordPress サイトの表示速度の比較です。
この検証では、WordPress で作成したサイトのページの読み込み速度を比較します。読み込み時間が少ないほうが速いため、「Page Load Time」の値が小さいほうがパフォーマンスが高いと言えます。
前回実施した測定の詳細記事はこちら(WordPressサイトの表示速度をレンタルサーバー各社で比較【2017年版】(GTmetrix))
Page Load Time | |
ライト | 1.4 |
スタンダード | 2.0 |
プレミアム | 2.3 |
ビジネス | 1.9 |
ビジネスプロ | 1.9 |
他社平均 | 2.7 |
こちらは、ライトプランが HTML のみのサイト表示のため、やはり他より速い数字が出ていますが、これはまあ当然と言えば当然なので、あくまで参考として見てください。
一方、他のプランに関しても 1.9~2秒前半に収まっており、他社平均より速い結果が出ています。1.9秒で、他社を含めた総合順位の 3位くらいに入るので、結構良い結果が出たのではないかと思います。
さくらのレンタルサーバの全プランをベンチマークで徹底比較まとめ
以上、さくらのレンタルサーバの共用サーバー全 5プランをベンチマークテストなどのツールを使用し、その能力を検証し、比較してみました。
全プランでサーバーのスペック自体がほぼ同じということもあり、テスト項目によって結果に多少の違いはあっても、基本的にはどのプランでも大きな差は見られませんでした。
その中で、いくつかの項目で若干見劣りしたのは、当サイトでもレビューしている「プレミアム」プラン。その下のスタンダードと比較して、悪い結果が出ている項目がいくつか見られました。
これまでも、記事としてアップしているもの以外でも、何度も検証を行ってきていましたが、「プレミアム」プランはやはり値段とつりあった結果が出ないように思います。もし、プレミアムを選ぶのであれば、スタンダードを 2つ契約するほうがいいかもしれません。
一方、今回初めて「ビジネス」と「ビジネスプロ」についても検証してみましたが、やはり料金が高いだけあり、安定性も高く、パフォーマンスもそれなりに出るので、ビジネス用途としては「プレミアム」より、その名称通り「ビジネス」や「ビジネスプロ」が良いですね。
使用用途にもよりますが、価格と仕様のバランスから行くと、「ビジネス」プランで十分でしょう。