予想よりも早くトランプ米大統領とバノン氏の対立の時がやってきた。それはアラバマ州の連邦議会上院議員の補欠選挙に先立つ共和党の予備選挙である。
同州から選出されていたジェフ・セッションズ上院議員が司法長官に就任したことに伴い、12月12日に行われる補欠選挙までの任期で、同州知事は元アラバマ州司法長官のルーサー・ストレンジ氏を上院議員に任命した。
ただ、8月15日に行われた共和党の予備選挙では、どの候補者も過半数の票を獲得できなかったので、上位2名による決選投票が9月26日に行われた。その2名とはストレンジ上院議員と、元州最高裁判所の首席判事のロイ・ムーア候補である。そして予備選挙で勝利したのはムーア候補であった。
予備選挙での支持は大きく割れていた。ストレンジ候補を支持したのはマコーネル共和党上院院内総務を中心とする共和党主流派である。さらにトランプ大統領とペンス副大統領もストレンジ支持を表明した。
これに対してムーア候補を支持したのはバノン氏を中心とする超保守派やオルトライト・グループである。バノン氏はムーア候補を勝利させることで、「ポピュリストの国粋的保守主義運動が上昇を続けている」ことを示すことができると支持の理由を語っている。
ムーア候補は超保守主義者であり、極右のキリスト教原理主義者でもある。その主張は極端で、アメリカはキリスト教国であり、神のルールはアメリカ憲法よりも優先すると主張する。憲法こそが国の基本であると主張する主流派保守主義者と真っ向から対立する。
さらに裁判所の前から「十戒」の石碑を撤去することに反対したことから、「十戒の判事」という異名を取っている。また、同性愛、同性婚に反対し、進化論を否定する人物としても知られている。
さらに共和党主流派に対して敵意をむき出しにする。それはバノン氏と共通する反エスタブリッシュメントの考え方である。ムーア候補の思想は、バノン氏の白人至上主義、排外主義といった思想にも共鳴している。