効果未確認の免疫療法 12のがん拠点病院が実施

効果未確認の免疫療法 12のがん拠点病院が実施
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厚生労働省が地域のがん治療の中核に指定している拠点病院のうち全国の少なくとも12の病院が、がん治療の効果が国よって確認されておらず保険診療が適用されていない免疫療法をおととし実施していたことが、NHKの取材でわかりました。厚生労働省は「拠点病院の治療としてふさわしいかどうか議論を始めたい」としています。
免疫療法は、患者自身の体の免疫の働きを高めることでがん細胞を減らそうという治療です。
このうち、患者の血液の細胞から作ったワクチンをその患者に投与する治療法などは、国が医学的な効果や安全性を確認しておらず、保険診療が適用されないため、治療費は患者が全額自己負担となります。

この、効果が確認されていない免疫療法について、厚生労働省が地域のがん治療の中核に指定している拠点病院のうち、全国の少なくとも12の病院がおととし実施していたことが、NHKの取材でわかりました。

がん診療の拠点病院は、質の高い診断や治療を行う医療機関として厚生労働省が全国434の病院を指定し、治療の診療報酬が加算されたり国や都道府県から補助金を受けたりしています。

免疫療法を実施していた医療機関にNHKがアンケート調査をした結果、その理由について「患者が希望しているから」や「患者によっては効果があると考えられるため」などと回答しています。

一方、がん拠点病院の指定を議論する厚生労働省の検討会のメンバーで国立がん研究センターの若尾文彦医師は「拠点病院は有効性や安全性が確認された標準治療を提供するところで、科学的な根拠のない免疫療法は、臨床研究以外では実施すべきではない」と指摘しています。
厚生労働省はこうした実態を把握しているとし、「拠点病院の治療としてふさわしいかどうか議論を始めたい」としています。

拠点病院とは

がんの治療や診療の拠点病院は、全国どこでも質の高いがん治療が受けられるように厚生労働省が平成13年から整備を進め、ことし4月の時点で全国で434の医療機関が指定されています。
手術や抗がん剤治療、放射線治療では、いずれも専門医による学会が作ったガイドラインに基づいた標準的な治療などを行っています。
拠点病院の指定を受けると診療報酬が加算されるほか、国や都道府県から毎年、補助金を受けられます。
指定を受けるには、都道府県から推薦を得たうえで厚生労働省の指定検討会の審査を受け、要件を満たしていると判断される必要があります。

免疫療法行う拠点病院

鹿児島市にあるがん診療の拠点病院、国立病院機構鹿児島医療センターでは、平成21年からワクチンを使った免疫療法を100人余りの患者に実施してきました。
このワクチンは「樹状細胞ワクチン」と呼ばれるものです。
がん患者の血液から特定の細胞を取り出したあと薬剤を加えるなどして作った「樹状細胞」が成分で、同じ患者に投与します。
鹿児島医療センターの花田修一医師によりますと、樹状細胞に患者のがん細胞の特徴を覚えさせることで、体内でがん細胞を狙って攻撃する効果が期待されるということです。
しかし、樹状細胞ワクチンを使った治療法は、国が効果を確認していないため医療保険が適用されず、治療費は患者が全額自己負担することになります。
すい臓がんを患い、樹状細胞ワクチンの治療を受けてきた71歳の女性は、この6年間でおよそ400万円の治療費がかかりました。
女性は「母親も姉も同じすい臓がんで亡くなり、がんに負けたくなかった。やれることはなんでもやろうと思ったので、高額な治療費については考えなかった。樹状細胞ワクチンは効果があると信じていて、心の支えになっている」と話しています。

効果が確認されていない治療を行っていることについて、花田医師は「私自身は、患者によっては樹状細胞ワクチンは効果があると考えており、患者が希望した場合に限って治療を行っている。拠点病院で行ってはいけない治療だとは考えておらず、患者が希望する治療を行うのは医療者として重要なことだと思う」と話しています。

免疫療法とは

がんの治療は、主に、患部を手術で取り除く「外科療法」、抗がん剤を使った「化学療法」、放射線を照射する「放射線療法」の3つがあり、「免疫療法」はこれらに続く第4の治療法とも言われています。

「免疫療法」は、がん患者自身のからだの免疫の働きを高めることによってがん細胞を減らそうというものです。
3年前には免疫機能を活性化させてがん細胞を破壊する新しいタイプのがん治療薬「オプジーボ」が発売され、従来の抗がん剤では治療が難しい患者にも効果があるとして保険適用が認められ、悪性の皮膚がんや肺がん、腎臓がんなどの治療に使われています。

一方で、国が効果を確認しておらず、保険適用されていない免疫療法も多くあります。
がん患者の血液から特定の細胞を取り出して薬剤などを加えて培養し、再び患者の体に戻すなどの治療法は、効果や安全性が確認されていないため医療保険が適用されず、治療費は患者が全額自己負担となります。

日本臨床腫瘍学会は、去年12月、免疫療法のガイドラインを作成し、オプジーボなど医療保険が適用された一部の治療法以外で推奨できる免疫療法はないとしています。

「高額費用で家族に迷惑」

東北地方に住む52歳の女性は、6年前、乳がんを再発し、主治医から「治る見込みはない」と告げられました。
その後、知人から免疫療法を勧められ、インターネット上の情報などを見て東京都内にある民間のクリニックを受診したところ、医師から「免疫療法で治せる」と言われたといいます。

女性はクリニックで樹状細胞ワクチンという免疫療法を3年間受けましたが、がんの転移を止めることはできなかったということです。治療費は全額自己負担でおよそ1000万円に上り、これ以上、負担することができず、治療をやめました。

女性は「治るという医師の言葉にすがったが、結局、がんの進行を止められず残念だ。高額な費用だっただけに家族にも迷惑をかけてしまった」と話しています。

専門医「実施するべきではない」

一部のがんの拠点病院が国が効果を確認していない免疫療法を実施していることについて、拠点病院の指定を議論する厚生労働省の検討会のメンバーで国立がん研究センターの若尾文彦医師は「拠点病院は有効性や安全性が確認された標準治療を提供することになっていて、科学的な根拠が確認されていない免疫療法は、臨床研究として行う以外、実施するべきではない」と指摘しています。
また、こうした免疫療法を受けたいと考えている患者がいることについては「がんを治したいという強い気持ちはわかるが、効果が認められていないことを正しく理解し、治療を受けるかどうか冷静に判断してほしい」と話しています。

効果未確認の免疫療法 12のがん拠点病院が実施

厚生労働省が地域のがん治療の中核に指定している拠点病院のうち全国の少なくとも12の病院が、がん治療の効果が国よって確認されておらず保険診療が適用されていない免疫療法をおととし実施していたことが、NHKの取材でわかりました。厚生労働省は「拠点病院の治療としてふさわしいかどうか議論を始めたい」としています。

免疫療法は、患者自身の体の免疫の働きを高めることでがん細胞を減らそうという治療です。
このうち、患者の血液の細胞から作ったワクチンをその患者に投与する治療法などは、国が医学的な効果や安全性を確認しておらず、保険診療が適用されないため、治療費は患者が全額自己負担となります。

この、効果が確認されていない免疫療法について、厚生労働省が地域のがん治療の中核に指定している拠点病院のうち、全国の少なくとも12の病院がおととし実施していたことが、NHKの取材でわかりました。

がん診療の拠点病院は、質の高い診断や治療を行う医療機関として厚生労働省が全国434の病院を指定し、治療の診療報酬が加算されたり国や都道府県から補助金を受けたりしています。

免疫療法を実施していた医療機関にNHKがアンケート調査をした結果、その理由について「患者が希望しているから」や「患者によっては効果があると考えられるため」などと回答しています。

一方、がん拠点病院の指定を議論する厚生労働省の検討会のメンバーで国立がん研究センターの若尾文彦医師は「拠点病院は有効性や安全性が確認された標準治療を提供するところで、科学的な根拠のない免疫療法は、臨床研究以外では実施すべきではない」と指摘しています。
厚生労働省はこうした実態を把握しているとし、「拠点病院の治療としてふさわしいかどうか議論を始めたい」としています。

拠点病院とは

がんの治療や診療の拠点病院は、全国どこでも質の高いがん治療が受けられるように厚生労働省が平成13年から整備を進め、ことし4月の時点で全国で434の医療機関が指定されています。
手術や抗がん剤治療、放射線治療では、いずれも専門医による学会が作ったガイドラインに基づいた標準的な治療などを行っています。
拠点病院の指定を受けると診療報酬が加算されるほか、国や都道府県から毎年、補助金を受けられます。
指定を受けるには、都道府県から推薦を得たうえで厚生労働省の指定検討会の審査を受け、要件を満たしていると判断される必要があります。

免疫療法行う拠点病院

鹿児島市にあるがん診療の拠点病院、国立病院機構鹿児島医療センターでは、平成21年からワクチンを使った免疫療法を100人余りの患者に実施してきました。
このワクチンは「樹状細胞ワクチン」と呼ばれるものです。
がん患者の血液から特定の細胞を取り出したあと薬剤を加えるなどして作った「樹状細胞」が成分で、同じ患者に投与します。
鹿児島医療センターの花田修一医師によりますと、樹状細胞に患者のがん細胞の特徴を覚えさせることで、体内でがん細胞を狙って攻撃する効果が期待されるということです。
しかし、樹状細胞ワクチンを使った治療法は、国が効果を確認していないため医療保険が適用されず、治療費は患者が全額自己負担することになります。
すい臓がんを患い、樹状細胞ワクチンの治療を受けてきた71歳の女性は、この6年間でおよそ400万円の治療費がかかりました。
女性は「母親も姉も同じすい臓がんで亡くなり、がんに負けたくなかった。やれることはなんでもやろうと思ったので、高額な治療費については考えなかった。樹状細胞ワクチンは効果があると信じていて、心の支えになっている」と話しています。

効果が確認されていない治療を行っていることについて、花田医師は「私自身は、患者によっては樹状細胞ワクチンは効果があると考えており、患者が希望した場合に限って治療を行っている。拠点病院で行ってはいけない治療だとは考えておらず、患者が希望する治療を行うのは医療者として重要なことだと思う」と話しています。

免疫療法とは

がんの治療は、主に、患部を手術で取り除く「外科療法」、抗がん剤を使った「化学療法」、放射線を照射する「放射線療法」の3つがあり、「免疫療法」はこれらに続く第4の治療法とも言われています。

「免疫療法」は、がん患者自身のからだの免疫の働きを高めることによってがん細胞を減らそうというものです。
3年前には免疫機能を活性化させてがん細胞を破壊する新しいタイプのがん治療薬「オプジーボ」が発売され、従来の抗がん剤では治療が難しい患者にも効果があるとして保険適用が認められ、悪性の皮膚がんや肺がん、腎臓がんなどの治療に使われています。

一方で、国が効果を確認しておらず、保険適用されていない免疫療法も多くあります。
がん患者の血液から特定の細胞を取り出して薬剤などを加えて培養し、再び患者の体に戻すなどの治療法は、効果や安全性が確認されていないため医療保険が適用されず、治療費は患者が全額自己負担となります。

日本臨床腫瘍学会は、去年12月、免疫療法のガイドラインを作成し、オプジーボなど医療保険が適用された一部の治療法以外で推奨できる免疫療法はないとしています。

「高額費用で家族に迷惑」

東北地方に住む52歳の女性は、6年前、乳がんを再発し、主治医から「治る見込みはない」と告げられました。
その後、知人から免疫療法を勧められ、インターネット上の情報などを見て東京都内にある民間のクリニックを受診したところ、医師から「免疫療法で治せる」と言われたといいます。

女性はクリニックで樹状細胞ワクチンという免疫療法を3年間受けましたが、がんの転移を止めることはできなかったということです。治療費は全額自己負担でおよそ1000万円に上り、これ以上、負担することができず、治療をやめました。

女性は「治るという医師の言葉にすがったが、結局、がんの進行を止められず残念だ。高額な費用だっただけに家族にも迷惑をかけてしまった」と話しています。

専門医「実施するべきではない」

一部のがんの拠点病院が国が効果を確認していない免疫療法を実施していることについて、拠点病院の指定を議論する厚生労働省の検討会のメンバーで国立がん研究センターの若尾文彦医師は「拠点病院は有効性や安全性が確認された標準治療を提供することになっていて、科学的な根拠が確認されていない免疫療法は、臨床研究として行う以外、実施するべきではない」と指摘しています。
また、こうした免疫療法を受けたいと考えている患者がいることについては「がんを治したいという強い気持ちはわかるが、効果が認められていないことを正しく理解し、治療を受けるかどうか冷静に判断してほしい」と話しています。