【月間総括】東京ゲームショウ前後で窺う2大陣営の明暗

 9月21日から東京ゲームショウが開催された。その直前に任天堂が「Nintendo Direct」,SIEが「2017 PlayStation Press Conference in Japan」を実施するなど,ゲーム関連が大いに注目を集めた9月であった。今回は,これらについて話したい。

 まずは,Nintendo Directから始めよう。サプライズは中国のTencentがMOBAの「Arena of Valor」を「Nintendo Switch:以下Switch」に投入すると発表したことである。
 日本では馴染みが薄いTencentだが,スマートフォンやPC用オンラインゲームでは非常に大きな存在感を持っている。今回の決定は,コンシューマゲーム機市場への本格参入を図りたい意向を持つテンセントと,市場は巨大ながら人民政府の規制が厳しい中国への参入可能性を探っている任天堂の思惑が一致したためであろう。
 このタイトル自体は,中国では大ヒットしたが,日本で受けるかどうかは未知数だ。株式市場で任天堂の株価が急伸したのは,タイトルよりもTencentの参入による副次的な効果および期待を織り込んだためと考えている。

※「Arena of Valor」は以前紹介したこともある「王者栄耀」のことである

 Switchは発表以来,サードパーティタイトルの少なさが指摘されていたが,今回のNintendo DirectではBethesdaの「DOOM」や「スカイリム」,スクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストビルダーズ1および2」,セガの「ファンタシースターオンライン」など徐々に増え始めていることが確認された。
 エース経済研究所では,サードパーティのAAAタイトルがハードの成否を決めないと主張している。実際,WiiやDS,PS2はサードパーティのAAAタイトルが成否を決していない。だからといって,プラットフォームにサードパーティが不要とも指摘していない。
 サードパーティタイトルは,成功をさらに加速できるか,失敗を小さくできるかには影響すると考えている。この点はSwitchプラットフォームが最終的にどうなるかが見えないと,データとしては不十分と捉えているため,現時点では詳細には言及しない。いずれ,機会を捉えて説明しよう。
 言えることは,Switch向けのタイトルが増え始めたことは,今後のSwitchの成功をより大きなものにするであろうということである。大きな成功は,任天堂の業績に直結し,株価の上昇要因になる。評価するのは当然であろう。
 「東京ゲームショウ」においても,任天堂自体が出展していないにもかかわらず,多数のSwitchタイトルが出展されたほか,DMMゲームズなど新規参入企業が多く見られたことが特徴的であった。これは,企業の目にもSwitchプラットフォームが魅力的に映っているということであろう。
 また,Nintendo Directでは,同社タイトルが一定間隔で供給されることが明らかになった。これにより,本体が品薄で入手困難であっても興味を維持できると,任天堂は考えているのであろう。

 次は「2017 PS Press Conference」である。こちらは大きなサプライズはなかったと考えているが,気になる点がいくつかあった。一つはPlayStation VR(以下PSVR)に投資を継続するということである。カメラ同梱版の値下げも発表され,積極的に推し進める意思があることを示した。しかし,すでにサードパーティの多くは消極的である。ゲームショウでもデベロッパの経営者に話を聞いてみたが,アミューズメント施設向けは良好ながら,コンシューマでは回収が難しいということであった。ゲーム機ハードは周辺機器を含めても,初動で悪いと挽回できた事例がない。
 PSVRの挽回は最早,困難であると考えるのが妥当だが,ソニーの平井CEOは,ソニーグループ全体の利益になるため,投資を推し進めたいという意向を持っている。これが,適切な判断を阻害している。将来性に乏しいビジネスに投資を続けることはコンコルド錯誤につながる。早急な対策が必要だろう。

 二つめは,Vitaについての言及が大幅に減少し,PSVR,PlayStation 4といったカテゴリーとしても発表されなかったことである。日本において携帯ゲーム機は大きな市場である。しかし,開発費用(人的資源)の増大で,日本だけでは採算を取るのが難しい状況にある。これに対応すべく,任天堂は据え置き機と携帯ゲーム機の開発部隊の統合,そしてSwitchという統合機を投入する戦略を採用した。
 一方,SIEは携帯ゲーム機ビジネスを縮小する方針に見える。電子部品・半導体メーカーやサードパーティにヒアリングしても,SIEが携帯ゲーム機の後継機の開発を進めている感触がまったく得られない。先行きに不安を感じずにはいられない状況にある。
 SIEは本社を米国に移して以降,日本軽視が目立つ。米国の巨大市場から見れば,日本ローカルの小さい携帯ゲーム機は魅力的でないのだろうが,ゲーム市場がファミコン誕生以来,一貫して日本が先行してきた歴史を考えると,エース経済研究所では妥当な戦略とは思えない。
 さらに,SIEJAの盛田社長はPS4の一家に一台を目指したいとしているが,そのためのビジョンが提示されていない点を指摘したい。「キッズの星」もキャラクターは発表されたが,具体的な内容がないうえに,PlayStationをゲームマニアに売りたいのか,子供に売りたいのか,よく分からない。すべてをターゲットにするには,デザインやプレイスタイルがマニアに向けになりすぎている。
 エース経済研究所では今後,国内ではPlayStationフォーマットは顕著に衰退する可能性が高いと見ている。おそらく,このような予測を行っているところはないと思うが,プレイヤーのPlayStationに対する関心が低下していることを根拠としている。
 確かに,ソニーのマーケティングは優れており,ロイヤリティの高いハードマニアには高く評価されているが,一般人はPSに関心があるように感じない。
 2017 PS Press Conferenceにしても,一般紙で大きく取り上げられていないことでも関心の薄さは明らかである。現在のPlayStationは熱心なハードのファンは関心はあっても,一般には魅力を提示しきれていないように感じる。
 人間は一般的に,悪いニュースに関心を持つ傾向がある。悪いニュースで関心を持ち,実体験で良化することは現実によくある。SIEに必要なのは一般の無関心からの脱却であろうが,おそらく広報は悪評に耐えられないだろう。よって状況の悪化を見守るしかないと予想している。
 なお,2017 PS Press Conferenceで最も期待されるタイトルは「モンスターハンターワールド」であった。このタイトルについては次回詳しく触れたい。

 最後に,9月21日から開催された東京ゲームショウについて触れる。会場での印象は,Switchの比率が高く,とくにインディーゲームコーナーではSwitchで開発・配信中であることを示すディスプレイが多数展示されるなど,タイトル数では優るPSより多いと感じるほどであった。
 一般日には「進撃の巨人2」のSwitch対応が発表されるなど,大型タイトルも徐々にではあるが,Switchとのマルチが見られるようになっている。エース経済研究所では,Switchは演算能力では劣るもものの,「Wii」「Wii U」に比べて他社ゲーム機とのアーキテクチャの差異が極めて小さく,対応しやすいと主張していた通りだったと考えている。
 エース経済研究所では,5月のレポートで今後,PS4とSwitchは競合が強まると指摘した。すでにタイトルのマルチ化は始まっており,来年には目に見える形で競合が激化し,サードパーティタイトルでも,Switchがリードする展開が出現するだろう。