STEAM17000本の頂点に立った『PUBG』
『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』、略称『PUBG』。広大なマップで100人が武器を現地調達しつつバトルロワイヤルするオンラインゲームだ。
このゲームが本格的にゲームデベロッパーにとって「脅威」と映ったのは、このポッと出のタイトルが、『Steam』という戦場の頂点に立った瞬間からだった。
『Steam』とは、1日に全世界から1400万アカウント接続する、ゲーム市場における最大規模のプラットフォームである。
そしてこの「戦場」に、同地接続プレイヤー数No.1の王者として、長く君臨し続けたタイトルが『Dota 2』である。
『Dota 2』は、e-Sports界隈の盛り上がりを支えたMOBAジャンルながら、Steamを開発し運営する「Valve」自ら開発した虎の子のタイトルだった。そして次席には、同じValve開発の『CS:GO』が収まり続けていた。
だが、『PUBG』は発表当時はほぼ無名だったにも関わらず、発売と同時に口コミも併せ爆発的にヒット。
発売4ヶ月でホームグラウンドである『CS:GO』の同接数を追い抜き、8月27日には『Dota 2』に87万人という同接数を叩きつけ王者となった。そして9月30日現在も150万人もの同接数と共にこの順位を維持し続けている。
e-Sportsのタイトルとしても確固たる地位を築き上げた『Dota 2』。開発はあのValveだ。
では『PUBG』は『Steam』という世界最大規模の戦場で、いかに人気No.1タイトルへと昇り詰めたのだろうか。
数多くゲームを批評してきた立場で、『DayZ』『H1Z1』等の既存の類似タイトルとの比較も交えつつ、ゲームデザインを中心に検証していきたい。
①:5年以上積み重なったノウハウの研究
『PUBG』は街や山が点在する広大なマップで、銃器や乗り物を現地調達しながらバトルロワイヤルする、斬新ながらギャンブル性もあるルールが魅力だ。
しかし、こうしたルールを遥か以前から築いた作品が存在する。『DayZ』だ。
2012年に軍事シミュレーター『ARMA 2』のMODとして開発された『DayZ』は、シミュレーターとして作られた広大にしてリアルな世界を舞台に、無数のプレイヤーが生き残りをかけて戦うゲーム。
敵味方の区別がなく、MMOのような人間同士の駆け引きが出来たことで、このゲームは爆発的に人気となった。このMODを遊ぶため、元作品となった『ARMA 2』が連日Steamの売上トップに名を連ねた程である。
だが『DayZ』には大きな欠点があった。それは、装備が十分にない序盤はスリルあるサバイバルが出来るが、やがて上級者が装備を集めると、実力も装備もない初心者が、理不尽に虐殺されてしまう点だ。
『DayZ』はサバイバル体験を重視した作品だ。(画像はスタンドアロン版)
そんな状態でヒットした類似作品が『H1Z1』である。『H1Z1』は大胆なことに『DayZ』の装備を死なない限り維持できる「MMOルール」から、1ゲーム毎にリセットする「BRルール」へと変更した。
更にこのルールではゾンビが出現しにくくなり、装備や乗り物も簡単に手に入るようになった。MMOのような「ロールプレイ」から、普通のFPSのような「対戦ツール」として楽しめるようになり、カジュアル層を大きく引きつけたのだ。
バトルロワイヤル形式を始めて導入した『H1Z1』は、一気にカジュアル層へ普及した
そこで、『PUBG』はこうした伝統を躊躇うことなくパクった。まず『DayZ』で基礎を作り、『H1Z1』で対戦ツールとして覚醒した。このノウハウを損なうことなく忠実に吸収しつつ、「良いとこ取り」をしたのが『PUBG』なのだ。
しかも、ただパクったわけでなく、何故成功したか研究した上でパクったからこそ、他の競合先を出し抜けた。
『DayZ』における本当にサバイバルしているようなロールプレイを再現するため、食料や炭酸飲料をゲーム内アイテムとして用意したり、『PUBG』のお祭り感を再現するために、試し打ちの出来るロビーを用意した。
結局、『PUBG』は一朝一夕で成功したわけでなく、積み重なったノウハウに基づいて成功したのだ。
②:数多くのプロゲーマーが夢中になる「競技性」
筆者は『PUBG』以外にも、こうしたバトルロワイヤル系タイトル、先述した『DayZ』や『H1Z1』に加え、よりMMO色の強い『Rust』や変わり種の『7DTD』まで遊んだことがある。その上で、改めて『PUBG』が優れていると感じる点が、全く飽きないところだ。
『PUBG』は徹底して「競技志向」なのである。リソースを積み重ねて他者を圧倒するMMOでもなく、銃や乗り物でドンパチするだけのお祭りゲーでもなく、シビアな世界でロールプレイするTRPGでもない。あくまで「競技」として洗練されているのだ。
まずバランスが素晴らしい。この手のゲームは、強力な武器を拾えるかどうかギャンブル性の高いゲームと思われがちだが、誰でも時間とリスクを掛ければ相応の武器が手に入り、逆に手に入れば勝利が確実という武器もないので、常に緊張感がある。
そして、対人FPSのバランス調整のネックとなるビークルに関しても、必要性とリスクがしっかり釣り合っていて、スポーン感覚も絶妙だ。また、同じビークルでも、座席が剥き出しのバイクはリスキーだが、安全なダチアは速度が出ないと、差別化されている。
加えて、アタッチメントやアーマーなどの準必須装備の存在が、駆け引きと運要素を一層引き立てている。本当は茂みでコソコソしていれば勝てる時も、「あいつを狩れば装備がより盤石に!」と常に誘惑してくれる。
そして極めて秀逸なのがマップ。広大なマップは、アイテムが大量に湧く街や軍事基地と、湧きの少ない郊外に分かれるが、この区画が巧妙だ。激戦区に飛び込んで装備を奪うか、郊外で安全に過ごすかの判断を、刻一刻と狭まるフィールドから判断する「読み合い」は、地政学的な戦略性もさながら、ポーカーのような心理戦を楽しめる。
プレイヤーに大人気の「ポチンキ」のように、特定のマップにハマる人も
数々のプロゲーマーが夢中になるのも納得のクオリティだ。遊べば遊ぶほど、プレイヤーに様々な技術が問われていることがわかる。射撃の正確さも当然だが、RTSのような正確なリソース管理、リスクを前提とした立ち回り、そして100人の規模で行う、ポーカーのような高度の心理戦。
『PUBG』は類似作品の中で唯一e-Sportsとしての可能性を感じた作品だ。本来、「所詮はお祭りゲーだから」として放置されてきたバランスを徹底的に洗い出し、このジャンルに眠っていた競技としての可能性を磨き上げた、Blueholeの先見性は極めて大きい。
③:プレイヤーファーストのサービス体制
いかに『PUBG』が対戦ツールとして優れていても、それだけでプレイヤーが直接増えるわけではない。こうした誤解は、先人の『DayZ』や『H1Z1』が最も犯した過ちだった。
確かに、『DayZ』は優れていた。たくさんのファンが集まり、Youtubeには日夜プレイ動画がアップされた。そこで開発元は、MODだった『DayZ』を完全に一本の作品として販売した。
しかし、その結果は悲惨なものだった。初期状態の『DayZ』は、無料で配られたMOD版より明らかにボリュームが少なく、遅々としてアップデートも進まなかった。いつまでも「アーリーアクセス」を言い訳に、バグやパフォーマンスの改善すら進まなかった。
一方、『H1Z1』も同じく甘えた運営を続けていた。最初はヒットしたものの、内容を改善する代わりに、タイトルを分割したり、マイクロトランザクションに力を入れる等の目先の利益に囚われ、果てはチーターが蔓延する不毛の地となったのだ。
一方、『PUBG』は、あくまでオンラインゲームとして、プレイヤーの意見を拾い、徹底したプレイヤーファーストの姿勢を貫くことで、一度確保したプレイヤーをガッチリ掴んでいるのだ。
アップデートの頻度、不具合やバグの改善、パフォーマンスの向上、そしてチート対策として15万人BANするなど、発売した後も徹底したアフターケアを行い、ゲームプレイの健全化に努めている。
オンラインゲームにとってプレイヤー人口は命だ。プレイヤーがいなければ、どんな良作も埋没する。だからこそ、『PUBG』のBlueholeは、一度売れてからも改善を続け、プレイヤーに長期間遊んでもらい、その「大規模な人口」という最大の武器によって爆発的にヒットさせた。
「たまたまゲームが売れた、今のうちに稼ごう」という発想では絶対にプレイヤーは獲得できない。こうした精神が、『PUBG』と他の類似作品の最も大きな分岐点だったのではないかと、私は考えている。
FPSに限らず、MOBAや格闘ゲームのプロゲーマーから愛されてるだけでも、競技性の高さが伺える。
結論:PUBGは競技ツールとして優れているため人気を博した
ここまで読んで頂ければ分かる通り、『PUBG』は何ら画期的なアイディアや、最新の技術によって人気を博した作品でない。
しかし、『PUBG』はしっかりと一つの競技ツールとして、プレイヤーに長期的に遊ばれるビジョンを以て開発された。既存タイトルを徹底して研究し、プレイヤー同士の駆け引きが楽しめるよう調整され、チーター対策等の環境づくりも行った。
その結果、ただの「イロモノ」で終わることなく、プロゲーマーまでもが『PUBG』で勝つための戦略を模索し、多くのプレイヤーが飽きることなく遊び続けた。その巨大な規模が、直接ゲームの価値と結びつき、加速度的に『PUBG』のセールスを伸ばしていった。
『PUBG』は『DayZ』から連なる系譜から明確に競技ツールとしてのエッセンスを抽出した名作だ。新たなe-Sportsとしての可能性も鑑みることが出来、今後一層その在り方を広めることが出来るだろう。
参考サイト