原作志名坂高次、作画粂田晃宏の「モンキーピーク」を読んだ。現在、既刊は三巻までで連載中だ。
余りに面白くて、三巻いっき読みしてしまった。
続きが待ち遠しくて仕方がない。
「モンキーピーク」は、自分が大好きな要素だけを集めたような漫画で、ここまで自分の好みにぴったりな漫画があるのか、ということにまず驚いた。
正体不明の殺人鬼に追いかけられるサバイバルホラー。
閉鎖空間に閉じ込められることによりむき出しになる人間の心理。
内部の協力者は誰なのか、殺人鬼の真の狙いは何なのかというミステリー要素。
ようやく表れた救助者が、むしろ殺人鬼より怖そうという謎が謎を呼ぶ展開。
「山」という過酷な自然をどう乗り越えるのか。
絵は昔の青年漫画風味なので好みが分かれると思うけれど、「絵が好みではないから」という理由で読まないのはもったいないと思う。
上記に上げた要素でひとつでも心惹かれるものがあれば、ぜひ読んでみて欲しい。
「モンキーピーク」あらすじ
薬害疑惑を起こした藤ケ谷製薬は、経営陣を一新して一から出直すことになる。
結束を高めるためのレクリエーションとして、社員40名で登山を行う。
無事に頂上に辿りついたその日の夜、社員たちが泊まるテントに巨大な猿が表れ、社員四名を惨殺する。
恐怖に震えながら一夜を明かした社員たちは、夜が明けるとすぐに下山しようとする。
しかし罠にはまり、どんどん山奥に誘い込まれる。
水や食料が尽きるなか、内部の人間による殺人も起き、社員たちはお互いを疑心暗鬼の目で見るようになる。
正体不明の殺人鬼「猿」が怖い。
強烈な殺意を持ち、何のためらいもなく、社員たちを次々と殺していく「猿」。
(引用元:「モンキーピーク」1巻 志名坂高次/粂田晃宏 日本文芸社)
みんな「猿」「猿」と呼んでいるけれど、鉈をふるったり、弓を使ったり、水を捨てたりしているので中身は明らかに人間だ。
この「猿」が、殺戮以外の一切の意思表示をしないことが怖い。
一体、なぜ藤ケ谷製薬の社員を皆殺しにしようとしているのか、恐らく薬害疑惑にかかわる復讐か利害関係なのだろうけれど、それにしても恨み言のひとつも言わない。言わないどころか、「猿」のお面?をかぶっているため、表情すら分からない。
感情や表情など、自分の言い分を一切明かすことなく、淡々と殺戮を続ける非人間性が怖い。
「猿」の造形が上手くできているので、ミステリー部分もすごく面白いそうなのだけれど、犯人が人間ではない超常現象ホラーパターンも見てみたくなる。
極限状態の「人間」が怖い。
最初の晩に四人が殺害されて、それ以降、三十六人の社員たちが山の中で「猿」から逃げることになる。
この群像劇がすごく面白い。
自分の利益のために平気で他人を陥れる氷室や南、飯塚などの人間がいる一方で、瀕死の重傷を負っても社員のことを考える社長や、常に部下のことを第一に考える部長のような人間もいる。
また普段は沈着冷静なのに友達が殺された口惜しさから拷問を容認する遠野や、責任感があって公平な判断ができるけれど、正しさばかりでもない佐藤、気の弱さから卑怯な行いに加担してしまう藤柴など白黒はっきりしない人たちの描写もいい。
宮田のように、真っ当な正義感と感覚が山ではかえって仇となってしまう場合もある。
一番、度肝を抜かれたのは、「猿」にも対抗できるような強さと正しさを持った安斎の豹変ぶりだ。
「仲間の遺体を運ぶために、殺人鬼がいるかもしれない場所を四往復する」ような強さと正しさが、「猿の仲間の疑いがある氷室を、拷問してでも情報を得ようとする」行動の根底にあるものと同じだというのが怖い。
この世で「正しさ」を確信した人間ほど残酷で恐ろしいものはない、ということを骨の髄まで味合わせてくれる。
安斎に負けず劣らず怖いのが、八木兄妹だ。
「ようやく出てきた外部からの人間」「しかも山のスペシャリストで頼りがいがありそうな存在」なだけに、この二人の怪しさと怖さが分かったときの絶望感は半端ない。
こういうポジションの人間が殺されたり、実は敵だったりしたときは、出てきたときにホッとしたぶんだけ、さらに恐ろしさが増す。
(引用元:「モンキーピーク」3巻 志名坂高次/粂田晃宏 日本文芸社)
八木兄のこの表情は、「猿」や安斎よりも怖かった。不吉な予感しかしない。
この二人が何者なのか、真の目的は何なのか、という謎も明かされるのが楽しみだ。
過酷な状況下の「山」が怖い。
「モンキーピーク」は見どころが多すぎて、一番面白い要素は何かと言われると迷う。
自分が一番いいなと思ったのは、初心者が登山する気持ちが追体験できることだ。
山をテーマにした漫画というと、パッと思い浮かぶのが「岳」や「孤高の人」だ。
どちらも「登山のプロ」を描いた漫画で、「遭難した人を救助する」「K2を目指す」と言われると、ただひたすら「すごい」という言葉しか思い浮かばない。
「モンキーピーク」は登山を経験している人間も出てくるが、大半は登山素人だ。地図の読み方が分からなかったり、はしごの高さや鎖場に戸惑ったりする。
ルート確認をする様子なども、見ていて楽しい。
(引用元:「モンキーピーク」1巻 志名坂高次/粂田晃宏 日本文芸社)
上司に騙されてスーツに革靴で山に来てしまった宮田は、八木に遺体から登山靴やアウターを借りるようにすすめられて断る。しかしそれが後に大きな仇となる。
(引用元:「モンキーピーク」3巻 志名坂高次/粂田晃宏 日本文芸社)
山や自然は怖い。
そういった気持ちを登場人物たちと一緒に体験できる。
「モンキーピーク」の一番好きなところは、惨劇を描きながらも、根本にはその舞台となる山への愛情があることが伝わってくる点だ。
作者は本当に山が好きなんだろうな、と思う。
これだけ過酷なことばかりが描かれているのに、読んでいると何故かむしょうに登山がしたくなる。
4巻は2017年11月8日ごろ発売予定
3巻が非常にいいところで終わっているので、続きが読みたくて仕方がない。
4巻を待つあいだ、ネットでちょこちょこ見る「田中さん=猿説」を検証してみたい。
一人で「猿」をやるのは、無理じゃないかな~と思う。
内部犯だとしても何人かで交代でやっているのかな?
この辺りを、もう一度読んで考えてみたい。