なぜ、赤字でも操業を続ける企業があるのか

完全競争型企業とブランド型企業について考える

今回は、赤字でも操業を続ける企業がある理由について、久留米大学の塚崎教授が解説します。

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赤字なのに操業を続けている企業があります。「赤字ならば操業をやめれば良いのに」と思う読者もいるかも知れませんが、実は操業した方が得だから操業しているのです。今回は、赤字会社の操業について考えてみましょう。

作れるだけ作って売れる値段で売る企業と、売れただけ作る企業がある

少し強引ですが、企業を二つに分けて考えましょう。一つは経済学の教科書に出てくる「完全競争」の企業です。生産能力だけ目一杯生産し、「市場価格」で全量を販売します。製品は差別化されていないので、ライバルより1円でも安ければ全量売れますが、ライバルより1円でも高ければ1個も売れない、という企業です。

今一つは、ブランド品のメーカーで、値引きはせず、決められた値段で売れるだけ売る企業です。ブランド品メーカーに限った話ではなく、レストランも、「客が来たら料理を作る」ということなので、こちらに含まれます。

企業の費用は固定費と変動費に分けられる

企業の収入は売上ですが、一方の費用は変動費と固定費に分けられます。変動費は売上に応じて増減するもので、材料費が代表的なものです。固定費は、売上が増えても減っても一定のもので、変動費以外の費用(人件費、減価償却費、等々)は固定費です。企業は、操業を止めると、収入がゼロ、変動費がゼロですから、固定費分だけ赤字になります。

まずは完全競争型の企業について。

とにかく作れるだけ作って全部売るわけですが、売値が変動費と同じであれば、作っても作らなくても損益には影響がないので、固定費分だけ赤字になります。つまり、市場価格が材料費より1円でも高ければ、作れるだけ作って売った方が赤字が少なくて済む、ということになります。だから赤字でも操業しているので、合理的な判断なのです。

極端な場合には、売値が材料費を下回っても操業を続ける場合もあります。「短期的な不況で売値が下がっているが、近い将来に売値が回復する」と期待される場合には、操業を止めて機械が錆び付いたりする可能性を考えるからです。

次に、ブランド型企業について。

生産と売上がゼロだと、固定費分だけ赤字になります。最初の1個を作って売ると、売値マイナス材料費だけ赤字が減ります。売上が増えて行くと赤字が減っていき、ある時点で赤字が消えます。これを損益分岐点と呼びます。これを越えれば、あとは1個売るごとに利益が増えて行くわけですが、これを超えなくても、作って売るだけ赤字が減るのですから、操業を続けることは合理的なのです。

固定費が大きい業界は安売り競争が起きやすい

マッチ売りの少女の業界では、固定費がなく、変動費だけですから、ライバル同士が赤字になっても安売り競争を続けるようなことはありません。マッチの仕入れ値より安く売ることは考えられないからです。厳密には、マッチ売りの少女の機会費用を考えると固定費がないとも言い切れないのですが、気にする必要はなさそうです(機会費用については別の機会に)。

一方で、固定費が大きく変動費が小さい業界では、安売り競争が激化しやすいのです。変動費より1円でも高く売れるなら、操業を続けた方がマシなのですから、各社が生産能力いっぱい作り続けて、とにかく全量を販売しようとして値引きをするからです。

同業他社も同じことを考えますから、需要と供給の関係で価格が下がっても、操業を停止する企業は出てこず、業界全体で製品が生産され続けることになります。したがって、一度安売り競争が始まってしまうと、なかなか収束しない、ということになりかねないのです。

カルテル(生産者が相談して、一定以上の価格でしか製品を販売しないとお互いに約束すること)が結成できれば良いのですが、国内であれば、カルテルは禁止されていますし、国際的にも合意が守られる保証がないので、カルテルは容易ではありません。

悪くすると、各社とも赤字になり、「ライバルが倒産して生産を続けられなくなるのを待っている」状態が続くことにもなりかねません。冷酷なようですが「もっとも生産効率の悪い企業が最初に倒産し、他の企業が生き残る」という「適者生存」の世界となりかねないのです。

ブランド型の企業でも、本当のブランド品は別として、レストランは、値下げでライバルから客を奪うという選択肢があります。わずかの値下げで顧客数が増やせるなら、増えた客数だけ「売値マイナス材料費」が儲かるからです。

しかし、ライバルも同じことを考えて値引きをすることになると、「お互いに値引きをしたけれども客数は増えないので、さらに値引きをする」という繰り返しになる可能性もあるわけです。

別のビジネスに転用できるなら、値引き競争に限度あり

工場の設備が、他の用途には使いにくい場合は別ですが、「今の設備等を活用して別のものを作る」ことができれば、安売り競争には歯止めがかかるはずです。レストランでも、日本料理店が中華料理店に衣替えすることは、それほど難しくないでしょうし、牛丼店がラーメン店に衣替えすることはさらに容易でしょう。従業員も、接客要員等々は引き継げるでしょう。

そうであれば、値引き競争がある程度激化した段階で、他業界に転身する企業が出てくるので、競争には歯止めがかかるでしょう。「転身は面倒だから、ライバルが先に転身してほしい」とお互いが考えて、我慢比べをしない限りですが。

余談ですが、我慢比べが始まった場合、一つの知恵として、「当店は牛丼を愛していますので、絶対にラーメン店には改装しません」と張り紙を出すことが考えられます。

顧客に対して牛丼を愛しているというメッセージを送ることも重要ですが、ライバルに対して「当店は絶対牛丼をやめない。貴店の選択肢は、このまま安売り競争を続けるのか、ラーメン店に改装するのか、という二つしかない」というメッセージを送ることで、ライバル店の転身を促す効果が見込まれるわけです。

なお、本稿は、拙著『経済暴論』の内容の一部をご紹介したものです。厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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