2011-08-18
■[研究][本]民主党政権への伏流
政治家だけではなく,いわば「裏方」として初期の民主党に至る道筋をつけてきた人たちを追っているということで,読むまでに知らなかった人たちの話も多い.断片的に読んでいたので,読み終わるまでにえらく時間がかかってしまったが,これは非常に面白かった.民主党が作られるまでのいくつかの流れがよくわかるし,一時ちょっと揶揄されたように,現在の政権中枢が(自民党同様の)当選回数で決まっているとすれば,それはこの本で扱っている初期の民主党を作ろうと集まった人たちがメインになっているわけで,現政権を理解する上でも非常に重要な本だと思う.もちろんそれは現政権のひとつの面である,ということは忘れてはいけないのだろうが.
個人に焦点を追いながら民主党政権までの(というより初期民主党までの)道筋を追うわけだが,それは同時に様々な政治運動の道筋を追っていることにもなる.日本新党,新党さきがけ,平成維新の会,社会党内のニューウェーブの会,シリウス,そして山岸章と「殿様連合」,日本版オリーブの木,リベラル・フォーラム,東京市民21や神奈川ネットなど様々な地域政党を糾合した「ローカル・ネットワーク・オブ・ジャパン」(Jネット).このあたりについて,政治学の論文や政治家の回顧録などで個別に言及されることはあるが,本書のように一本の「流れ」に至る過程として取り扱っているものはないだろう.本書を読むと,これらの運動がそれなりに同質性を持った志向を背景としながら,逆にだからこそひっついたり離れたりしながら民主党へ至っていることがよくわかる.
新党さきがけについては,武村回顧録を読む限りやや微妙なところはあるが,他の多くの運動については,基本的に「リベラル」がキーワードになっている.特に1990年代の半ばころによく言及された「民主リベラル勢力」の結集ってやつです.言葉でいうと,リベラリズムというある種崇高な旗のもとに集まってるんだ,という感じで,それほど抵抗がないような感じもするが,そもそもリベラルっていう概念が人によって定義が異なることもあるからややこしい.従来の「革新」の中で社会党が左右両派で(自民党に対するよりも)激しく抗争していたように,当然に近いことからの近親憎悪もあるわけだし,一度作ってしまった組織にはそれなりの論理も発生するから,すぐに解散して集合っていうわけにもいかない.
リベラル・フォーラムとJネットという,最終的に民主党につながることになった流れについては,現在の政治状況を考える上でも面白い.国政レベルでは,鳩山・横路・海江田等を軸としながら,地方では「殿様」や「地域政党」といったものを糾合していこうとするのだが,これは現在の首長連合(当時もそう呼ばれていた)と地方政党とも近いところもある.大きな違いは,1990年代には「リベラル」ということで(その内実はよく分からんところも多いが),ざっくり言うとイデオロギーを軸として結集しようとしていたのに対して,最近のものについては(あくまでも僕の理解だが)中心-周縁という対立軸が重要になっているような感じがする.もちろん最近のものについても「新自由主義」ということを言う人はいるし,むしろそういう言い方する人が多数派だと思うが,そういう括りは「リベラル」以上にあいまいで,定義が融通無碍になっているような印象を持っている*1.
1990年代の動きについては,最終的にあまり国と地方が連動せずに終わってしまっている.本書の記述からは,そのひとつの原因として最も重要な首長の一人であった佐川一信元水戸市長が急逝したことが強調されている(258-261).おそらくそれは正しいところなのだろうが,もちろんそれだけではないだろう.ひとつには,国政で動く議員が,まったく地方から自律していたことがあると思われる.国会議員の方は,自分たちの後援会か何かわからないが,そういう独自の政治的資源をベースとして議員政党を作るつもりだった感じだし,地域政党との関係について何らかの戦略があったようには見えない.他方で地域政党の方は,地域で独自に何かするというのではなくて,「リベラル」というイデオロギーを強調して動いていたように見える.それはまあ「地域を超えた民主リベラル勢力の結集」ということなんだろうが,特に日本の地方議会の選挙制度では,そういう政党が数議席を超えて求心力のあるだけの議席を獲得するのは非常に難しい感じになっているから,なかなか長続きしない.現在だと,国会議員は相変わらず地域政党と距離を置いているが(まあラブコールは送るわけだが),地域政党の場合は,わりとダイレクトに首長(候補)という求心力を持っているから,この点は違うということなのではないだろうか.
と,最近の話とも絡めて読みどころは多いが,本書でなにより面白いのは人物の群像劇.本書で描き出される細川護煕元総理は,他の本とは若干違って,責任感と決断力を備えたリーダーだった(こともある)として評価が高い感じがする.他方で現在の菅総理は,しばしば第一次民主党以来のリーダーと目されているところだが,彼が合流するかどうかというのが非常に難しいポイントで*2,実際には仙谷副長官や海江田経産相の方が民主党が孵化する過程におけるリーダーだったということも,現在の状況と引き合わせてみるとなかなか興味深いところがある.
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