何気に台湾の情報を探していると、こんなニュースが目に飛び込んできました。
私はこの記事で非常に腹が立ちました。すごく怒りを覚えました。非常に不愉快です。
頼行政院長に?
いえいえ、レベルの低いコメントを偉そうに書いているYahoo!掲示板の連中の無知とバカさにです。
ヤフーニュースのソース元を見ろ!
このヤフーの記事のニュース元を見てみましょう。
「Yahoo!ニュース(中央社フォーカス台湾)」と書いてますね。
この「中央社」は台湾の国営通信社のことなのですが、台湾情勢がわからない連中は、ある早合点をします。
現在、「中華民国」の総統は民進党の蔡英文総統。立法院という国会も、民進党が多数派を占めています。だから「国営」だったら民進党の肩を持っているだろうと。
いえいえ、それが浅はかなのです。
台湾の「国営」は、言い換えれば「国民党営」です。
台湾人も直近は独自のアイデンティティを持ち始め、彼らの声をバックアップに民進党が政権を握っています。しかし、国民党が40年間独裁政権を敷いた毒は、現在でも台湾社会を蝕んでいます。特に司法と情報は今も主要な部分を国民党が握っており、台湾の重大な社会問題となっています。現在の蔡英文総統の就任演説でも、真っ先に手をつけるべき点として強調し、聴取が大拍手でした。それだけ台湾社会を蝕んでいるのでしょう。
「看板に偽りあり」という意味の四字熟語に、「羊頭狗肉」という言葉があります。「羊頭狗肉」の言葉の由来は中国、中国人≒国民党は「羊頭狗肉」なんて朝飯前ですから。「羊頭狗肉」は日本的には明らかに嘘です。しかし、中国社会では自分(と家族が)生きる為の手段であり、そのための知恵なのです。つまり嘘は正義であり、自己防衛。そこが日本人、申し訳ないが儒教がどうだ同じアジア人だという幻想に囚われてしまい、全くわかっていない。
換言すれば中央社は「台湾の時事通信か朝日新聞」ですが、日本の朝日新聞の記事はフェイクだなんだと言うクセに、「台湾の朝日新聞」の記事は100%無条件で鵜呑みにするYahoo!掲示板の書き込みのオツムのレベルの低さに、声も出ません。こういう連中は「洗脳する」立場から見ると、非常に扱いやすいんですよね。洗脳がどうだのマスゴミがどうだの吠えてる連中が、ある意味いちばん洗脳されやすい。
台湾の新聞を見比べてみろ!
この記事、台湾の行政院長(首相)が慰安婦について言及した。さぞかし大々的に取り上げられてることでしょう。どこかの国ならお祭りでしょう。
台湾の新聞を含めてメディアは、日本の偏向報道なんてかわいいほどの偏りっぷりです。しかし日本よりはるかに健全です。なぜかというと、各メディアが、
「うちの新聞は国民党を応援しています!」
「我が社は台湾独立を全力で支持します!」
という旗色を明確にしているから。読者は各メディアの旗色を選んで購読すればいい。至って単純です。
日本のメディアが何故ネットで叩かれているほど不健全かというと、
「うちはめちゃ公正無私、完全なる中立のもとに記事を書いています!」
という看板を掲げながら、記事がハンパなく偏っているから。パン屋の看板を掲げながら野菜を売り、
「これ、パンじゃなくて野菜じゃないか!」
とクレームを出しても、
「いやいや、お客様が野菜と思うから野菜に見えるだけなんですww私にはパンにしか見えないですがww」
と詭弁を弄しているようなものです。
半分タネ明かしですが、私が台湾情勢、特に政治情勢を調べる時は、現地の新聞記事を見比べることにしています。
対象は、上に挙げた中央社以外にも、
聯合報(ガチガチ国民党寄り。産経以外の日本の新聞の台湾記事の出所は、たいていここ)
中国時報(中国資本に買収され、今は台湾人みんな知ってる中国共産党の台湾出張所。芸能ニュースも中国人関連多し)
自由時報(民進党全力支持。発行部数は台湾トップ。日本にシンパシーを持つ台湾人が読者層なので、日本ネタも多い)
蘋果日報(香港最大の新聞の台湾版。「香港のアップルデイリー」と言えば聞いたことがある人がいるかも。居候のためか政治的には中立)
最低でもこれだけ目を通します。逆に言うと、最低限これくらい目を通さないと台湾の政治を語ってはいけません。1~2つの新聞を見ただけでは、必ず見方が偏ってしまいます。時間がないというのなら、主張が真逆の聯合報と自由時報の二択。それくらい、台湾の新聞って偏りがハンパないのです。
あとは、補足程度に日本の産経新聞。産経新聞は長年台湾に足を置いた日本の新聞社で、それだけに台湾情報は現地マスコミに頼らない独自のソースを持っています。インターネットが普及する前、私はこれだけの理由でずっと産経でした。それくらいの価値があったのです。
で、今回のニュースネタを各新聞で比較してみ・・・あれ?ほとんどのニュースサイトは、産経も含めてスルーです(30日早朝時点)。
民進党系の自由時報だけが採り上げていましたが、事実を淡々と書いているだけで、中央社の日本語の記事とは明らかに温度差があります。
それ以上に驚きなのが、こんなニュースに銅鑼を鳴らしながら食いつきそうな聯合報や中国時報すらスルー。それほど「ネタにもならないニュース」なのでしょう。それをわざわざ日本語に翻訳してまでニュースにするのは何故?そこを考えてみるのもニュースです。
動画で記事のやり取りを見ろ!
お次は動画です。
たまたまこのやり取りの一部始終の動画が台湾のサイト内に転がっていたので、ちょいと覗いてみました。こういう時に中国語が役に立つ。
そのやり取り、特に頼院長の表情を含めて見てみたのですが、国民党議員がわーわーうるさいので、
「はいはい、謝罪要求しときますよ・・・(うるせーな…)」
と棒読み。俗に言う空返事です。頼院長の答弁は元々抑揚が激しくなく、感情を殺したような言い方なのですが、今回のは完全に棒読み。
彼もちょっと古傷を突かれたところはありますが、空返事に鬼の首を取ったかのように、
「慰安婦問題で行政院長が謝罪を求めることを言ったぞ!」
と騒ぎ立て、現地メディアすらほとんど記事にしていないことを、ご丁寧に日本語にして日本向けに流す。何らかの意図がないわけがありません。さてそれは何か。ニュースはそこまで深く読んでこそ血となり肉となります。
あとこの記事に関して重要なのは、国民党議員は頼院長個人に対して質問しており、政府としての見解ではないこと。それをまるで、政府が認めた日本ザマーミロとわざわざ日本語で発信をするメディアの悪意を感じなければなりません。
頼行政院長とは何者か知ってから書き込め!
台湾情勢に興味があるのであれば、頼行政院長こと頼清徳氏のことを知っておく必要があります。
頼清徳氏は民進党の政治家で、行政院長になったのはつい最近(9月5日)のこと。それまでは台湾南部の都市、台南の市長を務めていて、台南の名市長として人気のある人でした。俳優の大沢たかおに似てると台湾では評判で、大沢たかおが「仁 JIN」に出演したのと、頼氏が医師出身なのを掛けて「頼仁」というあだ名で呼ばれています。
ちなみに、映画【KANO】の縁で二人が八田與一像の前で対面したのですが、普段から似てると言われてるけど、現物を見るとやはり大沢の方が全然イケメンだったと、頼氏自身がため息をついてコメントしてました。
また、民進党の次期総統候補の最有力者でもあります。今の人気なら次の総統は間違いないでしょう。
Yahoo!掲示板では、
「こいつは共産党の手先」
「こいつは反日中国人」
とか、調べもしないで偉そうなコメントをしていますが、ホントバカの極みですな。ガチガチのガチ台湾人だし、民進党の中でもガチガチのガチの台湾独立論者ですって。
そして、日本人が大好きな「親日」「反日」の色分けなら、この人、「ウルトラ親日」です。それもウルトラの前にスーパーがつく。
「親日メーター」なるものがあり数値で親日度を測ることができれば、個人的に日本とさほど縁がない蔡英文総統より上。台南市長の時も、あまりに日本に行きすぎて
「お前は日本の手先か!」
と国民党から叩かれていたほどでした。
おそらく、政府要人が大っぴらに日本に行けないので、日本の要人とのパイプ作りでしょうね。台南市長の肩書きならほぼノーマークなので。実は行政院長になる2週間前、私が台湾に行っていたちょうどすれ違いで大阪に来ていて、日本のみなさん台南に遊びに来てね~アピールしていました。
ちなみに大阪とくれば、現在関空から台南まで直行便が飛んでいますが、これも頼市長の「外交」の功績。
本人は台北の生まれですが、親日の台湾の中でも輪をかけた親日と言われる台南の行政の長をしていた関係で、日本と台湾の深いつながりを知ったのかもしれません。実際、彼が台南市長になってから日本統治時代の建築物がどんどん文化財指定され復活しています。そういう関係で「スーパー」がつく親日になったのだと推定しています。
以前、台湾人にとって最高の人の一人、日本人技師八田與一の銅像が「中国に注射された連中」によって首を破壊された事件がありました。
この事件に対し、けしからんと真っ先に非難声明を出し、像の復元を指示した台南市長が頼清徳氏です(八田與一の銅像がある場所は台南市)。また、八田與一ゆかりの烏山頭ダムを整理し、ダムへ続く道を日本と台湾の永遠の友好のためにと「八田路(Hatta Rd.)」に改名したのも彼です。現在、八田路は台湾にある唯一の日本人由来の名前となっています。
この事件に対しては、日本に対してもすぐにFacebookでメッセージを出しています。メッセージ全文は上の記事のラストを見て下さい。
それ以前に、2011年の東日本大震災で、放射能デマが世界中に広まり外国人観光客が日本に近寄らなくなった時、3ヶ月後に日本を「観光旅行」し、日本は安全だというアピールを台湾に対して発信したのも、この人です。
それも、
「行こう、日光へ!」
というトレーナーを作って。
頼清徳氏は台湾でも2番目に人気がある政治家です(FacebookとLINEグループ登録者数は政治家中1位)。その彼が日本は大丈夫ですよとアピールしたことは、台湾人にとってかなり大きなメッセージとなりました。
東日本大震災の時、台湾は天文学的数字の支援をしてくれましたが、頼氏はお金ではなく行動で支援してくれた一人なのです。
そして2016年の熊本地震のこと。すぐさま自身の給料一ヶ月分を寄付した上で、台湾からの義援金2億円(台南+高雄市)を、熊本県のみなさんに直接お渡ししたいと自ら持参しに来たニュース、日本のマスコミは総じてスルーだったので全国では知られていないですが、熊本県民はまさか忘れたわけではあるまい?
そんな事情も知らず、いや調べようともせず、
「こいつは共産党の手先」
とか、
「バカ頼」
とか、
「台湾への旅行を禁止すべき」
とか、よくぞ言える。おまけに赤ポチ(同意のアイコン)もたくさんついている。それに一人でも東北の人や熊本県民がいたら、はっきり言いましょう、恥を知れ。はっきり言って、そういう連中のオツムは反日だとわめいている韓国人と何ら変わらん。どっちもどっちや。
さらに、この人はヘタなアイドル以上の人気がある政治家なので、無責任な書き込みや発言が台湾人の感情を逆撫でする可能性すらある。今の親日的な空気を支えている若者の政治意識は、2014年の「ひまわり運動」でもわかるように非常に高い。年寄り向けの政策しかないからと拗ねるだけで何もせず、ネットで不満だけをタラタラ抜かす日本の若者とは、冗談抜きで意識のレベルが違います。台湾の若者も同じ不満を抱えていたけれど、それならと「若者の意見を反映する、若者による、若者のための政党」を作っちゃったからね。
しかし、それが「奴ら」の狙いなだろうと、今回は踏んでいます。その「奴ら」にまんまと操られている意識もなく、偉そうに低レベルの感情論を吐く一部日本人の大馬鹿野郎ぶりに、私は心底呆れているのです。
このニュース、何か必ず裏があります。ウルトラ親日の頼院長がこういう発言をしないといけないところに、歴史を含めた台湾国内政治のカオスが垣間見えるのです。彼も首相という立場上苦しいところがあると思うけれど、我々も発言一つに一喜一憂してはいけません。
それ以前に、親日なのと政治的なものは別物。親日だから日本の言うことを何でも聞くと思ったら大間違いだし、都合のいいときだけ日台友好、台湾大好きと両手を挙げておいて、政治的にギクシャクすると手のひらを返す。それを定見なしの根無し草と言うのです。
国際情勢は白黒、0 or 100で割り切れるものではありません。だから政治って難しいのです。