アメリカでは毎年9月末の1週間、発禁本週間(Banned Books Week)がある。これは1982年に米国図書館協会によって制定されたもので、今年は9月24日から30日までだ。
発禁本について闊達に意見を交わしあうことを目的としており、発売禁止や焚書となった理由や歴史的背景を改めて認識することができる。
この世に不変なものはない。価値観や倫理観は書き換えられていくのだ。
ここでは名著でありながら当時発売禁止となった10冊の本とその理由を見ていくことにしよう。現在はそのすべてを読むことができる。読書の秋、改めてかつての禁書に触れる良い機会かもしれない。
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1. 野生の呼び声
ジャック・ロンドンが1903年に発表した、クロンダイク地方のゴールドラッシュを背景とする小説である。セントバーナードを父に、シェパードを母にもつ犬のバックは、カリフォルニアの屋敷で何不自由なく暮らしていたが、北の地で「金」が発見されたことから、運命は思いもかけない方向に動きはじめる。
過激であるとしてユーゴスラビアとイタリアで発禁処分となり、ナチスは作者が社会主義的思想の持ち主であるとして焚書までしている。
2. 怒りの葡萄
ジョン・スタインベックによる1939年初版の小説。経済難のためにオクラホマからカリフォルニアへ移り住まざるをえなくなった小作人の家族を描く。スタインベックはこの作品でピューリッツァー賞を受賞し、また後にノーベル文学賞も受賞している。
この本は共産主義を喧伝しているとして米国内で批判を浴びた。作品の主要な舞台であるカリフォルニア州カーン群では、労働条件などについて中傷的な描写をしていると、とりわけ不評だった。
3. The Lolax
1971年発表されたドクター・スースの児童書。2012年の3Dアニメーション映画ロラックスおじさんの秘密の種の原作でもある。
木の代弁をする小さなキャラクターを楽しんだ読者がいた一方、そこに危険な政治思想を見た読者もいた。噂によると著者自身も作品をプロパガンダであると話していたそうだ。
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HarperCollins(2004-01-05)4. ユリシーズ
1922年のジェイムズ・ジョイスの小説。20世紀初頭における最も重要かつ影響のあった作品の1つ。新しい文体を創始し、表現の可能性の極限に迫ったといわれる傑作だが、言葉遣いや性的な内容ゆえに猥褻とみなされもした。
1921年、ニューヨーク悪書追放協会の働きでアメリカにおける出版が禁止され、郵便局は定期的に焚書を行うことになった。1933年、作品の出版社であるランダムハウスが裁判を起こし、発禁処分は解除された。
5. 西部戦線異常なし
1929年のエーリヒ・マリア・レマルクによる小説。第一次世界大戦時、ドイツ軍志願兵が経験した過酷な精神的・肉体的ストレスを描写する。
意外なことでないが、おそらく作品のリアリズムがナチス上層部の不興を買ったのだろう。彼らは本書がナチスのプロパガンダ政策を阻害すると懸念した。
6. 動物農場
ジョージ・オーウェルの1945年作品。寓話的物語であるが、反スターリン主義的批判ゆえに当時ソ連の同盟国だったイギリスでは出版が遅れた。
ドイツでも押収の対象となり、またユーゴスラビア(1946年)、ケニヤ(1991年)、UAE(2002年)で発禁処分となった。
7. 死の床に横たわりて
ウィリアム・フォークナーの1930年作品。「生きてるのは、つまりは、長いあいだじっと死んでいれるようにと準備する為じゃ」という父親の言葉にとらわれた主人公は、自分の遺体を父の眠るジェファソンまで運んで埋めるように遺言を残して死んでいく。
アメリカ南部の貧農一家を鮮明に描いたこの作品は、アメリカ文学の名著とも言われているが、ケンタッキー州メイフィールド、グレイブス群学区では意見を異にする。
1986年、本書が神の存在に疑問を投げかけているとの理由で発禁処分にした。
8. ロリータ
ウラジーミル・ナボコフの小説。12歳の少女に懸想し、やがて継父にまでなった中年の文学教授を描く。今日でも物議を醸しそうなあらすじなのだから、1955年の発表当時の反応が想像できるだろう。
フランス、イングランド、アルゼンチン、ニュージーランド、南アフリカなど、各国で猥褻であるとして出版が禁じられた。1958年にはカナダも同様の措置をとっている(こちらは後に解除され、現在では古典文学として認知されている)。
9. ライ麦畑でつかまえて
J・D・サリンジャーを読むことは、最近のアメリカの10代の若者にとっては通過儀礼のようなものになっている。
だが1951年の発表当時、彼らが本書を手にすることは簡単ではなかった。タイム誌によると、「1951年の初版から2週間でニューヨークタイムズ紙のベストセラーリストの頂点に上り詰めた。それ以来、高校から放校された少年の3日間を描く本作品は、検閲官のお気に入りになった」という。
10. ザ・ギバー 記憶を伝える者
本リストで最も新しい作品。ロイス・ローリーによる1993年の児童文学。喜怒哀楽の感情が抑制され、職業が与えられ、長老会で管理されている規律正しい社会、「記憶を受けつぐ者」に選ばれた少年ジョーナスが暮らすコミュニティーはユートピアのはずだった...だがそれはユートピアを装ったディストピアにすぎなかった。
カリフォルニア州やケンタッキー州など、アメリカのいくつかの州で発禁となった。安楽死を扱っていることが理由だ。
edited by parumo / translated by hiroching
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コメント
1. 匿名処理班
日本の小説では江戸川乱歩の芋虫なんかも発禁だったのよね
2. 匿名処理班
発禁小説をハッキングで発見しました!
3. 匿名処理班
大手スーパーの闇を特集した雑誌を
大手スーパーの書籍売り場で独自に
発禁処分にしたことがあったワオン!
4. 匿名処理班
ザ・ギバーは15~20年くらい前 (当時私は20代前半) に書店で何気なく買って読んだんですが、後書き (だったかな?) に「児童書」と書かれているのが見えるまで、子供向けに書かれた本だとは気が付かなかったほどの、清潔ディストピア的世界観が強烈です。
確かに文体は平易というかやけに読みやすく、読み手の感情を揺さぶるような言葉遣いもないので、世界観との微妙な違和感をずっと伴ってはいたんですがね。
あの時は「海の向こうの国は子供にこんな凄い本を買い与えるのか」と本当に驚きました。
流石に発禁はやり過ぎと考えますが、その手の人はレーティングしろって騒ぎたくなるでしょうねw
サイバーパンク・スチームパンク・SF好きは勿論そうじゃない向きにも、専門用語が全く出てこないので割とお薦めできます (最後がちょっと不安になる終わり方してますが)。
5. 匿名処理班
凄くグッと来るリスト
一通り揃えて、秋の夜長の中、お酒と一緒に読み通したい。
6.
7.
8.
9.
10.