母ちゃんが教える『何とかなるよ』 nantokanaruyo.com

幸せな生き方、教えたるよ。あなたが辛い時、寂しい時、迷った時、一人で乗り越えていけるように。頑張れるように。相手を思いやれる優しい人になってくれるように。間違わんと生きていってくれるように。あなたの心に、きっと届くように。

母ちゃんが教える83『恋をすること。』

 

 

 

 

母ちゃんです。

 

 

 

 

 

 

今日は、母ちゃんの昔話しようと思って。

 

 

 

 

 

 

 

母ちゃんにはいつも、女の子の友達だけでは

なく、男の子の友達もいた。

 

 

 

よく、男女の友情は成立しないというけど、

それはもしかしたらそうなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

ただ母ちゃんには、心から信頼していた、

男友達がいた。

 

 

通称、タカ。

 

 

 

 

人は弱い生き物で、弱れば人肌が恋しくなり

自分の存在価値を確認したり、誰かに愛され

たいと願う。

 

 

その時に男女の友情が壊れやすくなるのは、

よくある話かもな。

 

 

 

 

 

タカとは、学生の時に出会い、スポーツが好

きでお笑いが好きで、趣味も味の好みもバッ

チリ合った。

 

 

タカによく言われた母ちゃんのええとこは、

まっすぐで嘘がつけないというとこと、根性

があるとこ、人の痛みが分かるとこやと教え

てくれた。

 

少々勝ち気すぎるとこもまた好きやと、笑っ

て教えてくれた。

 

 

 

母ちゃんが思うタカのええとこは、決して自

分を押し付けへん、誰に対しても穏やかで優

しいとこやった。

 

 

タカが怒るところは、見たことがない。

 

 

 

 

 

女の子が読むような漫画は、女友達の家で読

み、男の子が読むような漫画は、タカの家で

読んだ。

 

 

 

タカには、母ちゃんの家族の事情を話してあ

ったけど、それについて何も話したがらん母

ちゃんに、タカもまた、決して聞いてくるこ

とはなかった。

 

 

 

 

タカは、居心地が良かった。

 

 

 

 

制服を着て夜ウロウロしていると、怖い思い

をすることが多く、友達とはしゃぎすぎて遅

くなったり、バイトが遅くなって帰りが怖い

時には、必ずタカを呼んだ。

 

 

彼氏には知られたくなかったのと、その頃は

彼氏も学生なので、夜中に親の目を盗んで家

を出ることなんてできない。

 

 

それに、もし来られたとしても、説明するの

が面倒なので、母ちゃんはいつもタカを呼ん

だ。

 

 

 

そして、「しょうがないな~。寝るとこやっ

たのに~。」と言いながら、それでもタカは

いつも、走って来てくれた。

 

 

タカはずっとスポーツをしていたので、ちょ

うどいいトレーニングになると、母ちゃんを

気遣う優しさも持ち合わせていた。

 

 

部活に打ち込みたいと、彼女は作らないと言

っていたので、タカの彼女の存在などに遠慮

することもなかったのは、ありがたかった。

 

 

 

どうでもいい会話や、母ちゃんが熱くなった

話を、いつも嬉しそうに聞いてくれた。

 

 

 

タカはお母さんと二人暮らしで、お母さんは

いつも仕事でおらず、たまに会うととても、

可愛がってくれた。

 

友達だよと言うと、心から残念がっていた。

 

 

タカには裏で、付き合えばええのに。と言っ

てくれていたらしい。

 

 

いつでも好きな時においでと、何時にいよう

が、学校をさぼっていようが、タカの母ちゃ

んもまた決して何も言わず、いつもニコニコ

してくれていた。

 

 

 

母ちゃんはタカに、彼氏の話や、男の人のあ

れこれなどを、臆することなく聞けるほどに

信頼していた。

 

 

女友達に言うと面倒になりそうだなというよ

うな愚痴は、いつもタカに話した。

 

 

 

 

 

ただ一つだけ、何もうるさく言わないタカか

ら、条件を出されていた。

 

 

 

 

それは、タカの前では、

 

決して女を出さないこと。

 

 

 

あまりに真剣に言うので、これは男友達でい

るための絶対条件なんだと理解し、母ちゃん

はその日から、話し方や仕草や服装や、あら

ゆることに気を配った。

 

 

 

タカという友達を、失いたくなかった。

 

 

 

絶対にそれを守った。

 

 

 

 

 

タカは時々、辛そうに何かを考え込む表情を

することがあった。

 

 

母ちゃんもあまり人に探られたくないタイプ

なので、そこは踏みいらんよう心がけた。

 

 

そして、タカがそのような表情をしたときは

アホなことを言って笑かしたり、楽しい遊び

に誘ったりした。

 

 

 

 

 

 

でもある日、このタカの辛そうに何かを考え

込む表情の本当の意味を、知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

今も忘れないあの日。

 

母ちゃんは、徹夜でバイトを掛け持ちしてい

たため疲れきっていて、いつもと同じように

夜遅くバイトが終わると、タカに迎えにきて

もらった。

 

 

タカは、母ちゃんがあまりしゃべらないこと

で、母ちゃんの疲れをすぐに察知し、いつも

よりゆっくり歩いてくれた。

 

母ちゃんの自転車は、いつもタカが押してく

れた。

 

 

その日はそのままタカの家に帰った。

 

それは特に珍しいことではなく、あまり家に

帰りたくなかった母ちゃんは、時々タカの家

に泊まった。

 

 

タカの家に着くと、勝手知ったように家に入

り、冷蔵庫のジュースを飲み、そのままタカ

の部屋へ行った。

 

 

 

そしてそのまま疲れ果て、タカとは全くしゃ

べることなく、そのままじゅうたんの上で寝

てしまった。

 

 

 

 

 

本当は、あかんかったんかもしれん。

 

 

 

 

 

目を覚ますと、なんだか暗い。

 

電気の下に、タカの顔があった。

 

 

仰向けに寝る母ちゃんに、覆い被さるように

してタカがいた。

 

 

ただ、母ちゃんを潰さんように、腕はまっす

ぐ伸びて腕立て伏せのようやったと思う。

 

 

足はこんなとき、男の人はどこに置いている

のか、それはまだ母ちゃんも知らない。

 

疲れないポイントがあるのかもしれやん。

 

 

 

 

 

 

母ちゃんは、違和感を感じた。

 

 

 

 

なぜなら、タカの表情は、辛そうに見えた。

 

 

 

 

そんなときの男の人の表情ではない。

 

 

それからタカは、そんな男じゃない。

 

 

 

 

 

 

母ちゃんは、そのまま動かず静かに聞いた。

 

 

 

「何でそんな辛そうな顔しとるの?」

 

 

 

 

どれくらいの時間が流れたのか分からんけど

その体勢のままタカは、ずっと母ちゃんの目

を見続け黙っていた。

 

 

そして、「ごめん。」と言い、座った。

 

 

 

 

それからタカは、いつものように穏やかな優

しい話し方ではなく、辛そうに話し出した。

 

 

心の中を見せてくれた。

 

 

 

それは、初めてみるタカの姿やった。

 

 

 

 

 

 

 

 

母ちゃんがずっと好きやったこと。

 

 

 

言ってしまうと、友達でいられなくなるのが

怖かったこと。

 

 

 

それまでの彼氏達に嫉妬し続けたこと。

 

 

 

母ちゃんに触れたかったこと。

 

 

 

触れようとしたんやけど、母ちゃんにバレた

ら友達でいられなくなると、それが怖くて、

我慢してくれていたこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

母ちゃんは、タカが時々見せていた表情の

意味を、知ることとなった。

 

 

 

 

 

どれほど辛い思いをさせてきてしまったんや

ろう。この大事な友達に。

 

 

 

 

 

 

 

「タカ、このまま、一時間待っとって!」

 

 

 

 

 

 

母ちゃんは、急いでタカの家を出て、自転車

でその時の彼氏の家まで行った。

 

 

運が良かったのは、その彼氏は一階に自分の

部屋があって、窓を叩けばすぐに気づいてく

たことやった。

 

 

 

そして母ちゃんは、彼氏に別れ話をした。

ごねる彼氏に、半ば強引に押しきった。

 

 

 

 

 

彼氏のことはもちろん好きやった。

 

 

でも、自転車で彼氏の家に向かう道中、母ち

ゃんの頭の中には、タカにもらったそれまで

の色んな優しさが巡っていた。

 

 

 

 

 

どれほど大切にしてもらっていたか。

 

 

 

 

どれほど傷つけてきてしまっていたか。

 

 

 

 

 

 

それが分かったらもう、タカのことしか考え

られやんかった。

 

 

 

 

 辛かった。

 

 

 

 

 

早く帰らなあかん。

 

 

 

 

 

母ちゃんは彼氏と別れ話をして、急いでタカ

の家に戻った。

 

 

 

そして息が上がったまま、すぐに言った。

 

 

 

 

 

 

 

タカ、彼氏と別れてきた。

 

今まで辛い思いをさせてしまって、ごめん。

 

気づかんくてごめん。

 

 

 

私と、付き合ってください。

 

 

 

 

 

 

タカは、ボロボロ泣いた。

 

嬉しそうにボロボロ泣いた。

 

 

 

 

 

 

母ちゃんはそれからは、タカの前で守り続け

た、女を出さないの条件を解除した。

 

 

制服以外で、タカの前で決して履かなかった

スカートも、やっと履けるようになったし、

その他にも色々、解除した。

 

 

 

タカとは、さらに居心地が良くなった。

 

 

 

 

 

本当の母ちゃんを知っているのは、後にも先

にもタカだけやと思う。

 

 

 

 

 

後に結婚する父ちゃんも、本当の母ちゃんは

ほとんど知らない。

 

 

母ちゃんは、秘密主義なんや。

 

 

 

 

 

 

タカと、そのままの自分でいられることが、

本当に居心地が良かった。

 

 

 

母ちゃんは、タカの初めての彼女になった。

 

 

 

 

 

タカは、それまでと変わらずというより、

もっともっと大切にしてくれた。

 

 

怖い?

 

嫌じゃない?

 

痛くない?

 

 

何をするときにおいても、タカは過保護かと

いうほどに、よくそれを聞いてきた。

 

ちょっとこけただけでも、家具に体を軽くぶ

つけただけでも、痛くない?と、幼稚園児じ

ゃあるまいしと思うほどに心配し、でも大切

にされているんやなと、すごく嬉しかった。

 

 

 

どんなお願いも、何でも聞いてくれた。

 

いつもいいよと、言ってくれた。

 

 

 

どんなに忙しくても、どんなに約束があろう

とも、どんなに眠くても、タカの優先順位は

いつも母ちゃんが一番やった。

 

 

 

 

 

タカのお母さんは、付き合うことになったこ

とを、これでもかと喜び、お赤飯を炊いた。

 

 

それって、女性になった記念とかでするもん

なんちゃうのかなとは思ったけど、そこは、

喜んでおかなあかんのかなと、一緒にお赤飯

を食べた。本当はそんなに好きじゃない。

 

 

 

 

 

 

タカの彼女になってからは、一つだけ居心地

が悪いこともあった。

 

 

 

 

顔を見るのが恥ずかしい。

 

 

 

 

まっすぐにこっちを見るタカの目は、以前と

は違い、何が違うのかと聞かれると上手に説

明することができやんけど、何かが違った。

 

 

 

 

その目に毎回あまりにもドキドキするので、

とても困ったことを覚えている。

 

 

 

いつまでも恥ずかしいのが続くので困り、

女友達に相談すると、みんなはすぐに慣れる

と言った。

 

 

 

 

でも母ちゃんは、いつまでもそれに慣れず、

恥じらい続けた。

 

 

 

 

 

 

 

いつしか月日は流れ、タカと母ちゃんは、

 

 

お互いにすごく好きなまま、別れた。

 

 

 

 

 

ある日、タカのことを好きな女の子がタカに

告白をし、好きな人がいるからと断るタカに

それでも泣きながら抱きついているのを見て

しまった。

 

 

 

 

タカの腕はそのまままっすぐに下におり、

その女の子の背中に回ることはなかった。

 

 

 

振りほどけなかったのは、タカの優しさであ

り、タカがそれができないということもまた

母ちゃんはよく知っていた。

 

 

 

 

 

 

それでも母ちゃんは許せなかった。

 

 

それほどタカが大好きやった。

 

 

 

 

タカの胸に他の女の子がほんの少しでもいた

ことが、どうしても嫌で許せなかった。

 

 

 

 悲しくて悲しくて涙が出続けた。

 

 

 

 

いつもは、人の大体のことは許せる母ちゃん

なのに、それだけはダメやった。

 

 

 

 

泣いて許してほしいというタカに、母ちゃん

はダメやと言い続けた。

 

 

 

毎日毎日誠実に一生懸命謝り続けるタカを、

それでも嫌だと言い続けた。

 

 

 

 

 

 

怒ってたんじゃない。

 

 

 

 

 

タカのことが、本当に本当に大好きやったか

ら、タカの胸は母ちゃんだけの胸なのに、そ

れが悲しくて悲しくて、どうしていいかわか

らんかった。

 

 

 

 

タカが、大好きやった。

 

 

 

 

 

その数ヵ月後、タカのお母さんの両親の体が

弱ってきたと、お母さんの実家のある遠い県

へと、タカは引っ越すこととなった。

 

 

タカは遠くに行ってしまうことになった。

 

 

 

 

タカが遠くに行ってしまうなら、もうこのま

ま別れたほうがいい。

 

 

 

 

 

 きっと、耐えられない。

 

 

 

 

最後の最後まで、母ちゃんを好きやと言い続

けたタカを傷つけたまま、母ちゃんの恋は終

わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして許せなかったんやろう。

 

 

 

若かったからやろか。

 

 

 

今ならきっと許せていたかもしれない。

 

 

 

 

違うな。

 

 

 

 

今もきっと許せなかったと思う。

 

 

 

 

 

なぜなら、大好きやったから。

 

 

 

 

 

 

 

母ちゃんは、人にそれほど執着しない。

 

自立もしている。

 

干渉するのもされるのも好きじゃない。

 

男の人で人生を狂わすことなどない。

 

自分の気持ちを分かってもらうことより、

相手の気持ちを分かりたいと願う。

 

大体の事は許してしまうし、忘れやすい。

 

ほとんどの事は一人で解決できる。

 

弱ったからといって、泣きついたりせん。

 

 

 

 

 

 

 

でも、心から好きな人はあかんみたいや。

 

 

なんにも分からんくなる。

 

 

下手くそになる。

 

 

その人の前では、すごく小さな人間になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番の青春時代の思い出はと聞かれたら、

きっと初めての彼氏や、初めての経験をした

人を思い浮かべるのかもしれない。

 

 

 

 

でも母ちゃんが思い浮かべるのはタカであ

り、タカは、今までの人生で一番好きな人

やった。

 

 

 

 

 

 

あれほど母ちゃんを大切にしてくれた人も

あれほど母ちゃんに優しく触れてくれた人も

後にも先にもタカだけやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

最近母ちゃんは、筋トレに励んでいて、

市が運営している安いジムに時々行く。

 

 

ジャージを着て、汗をいっぱいかいて、

鍛えあげている。

 

 

日毎にストイックさに磨きがかかり、もう誰

も止められないほどに、肉体改造に目覚めて

いる。

 

 

 

 

現役時代に戻す。

なるべく早く。

 

そう決めている。

 

 

 

 

 

 

真っ赤な顔に、汗で濡れた髪、ジャージ、

汗で濡れたタオル、運動靴、夕焼け。

 

 

 

 

部活を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

それから、母ちゃんの汗の匂いが好きだと

言っていたタカのことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋は苦しい。

 

 

 

 


苦しいけどそれは、涙が出そうなくらいに

甘酸っぱく、忘れられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

恋はしたほうがいい。

 

 

 

 

 

どうしていいか分からなくなるほど。

 

 

 

 

苦しくなるほど。

 

 

 

 

 

 

 

不器用な恋をしてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恥ずかしくて、顔を上げられなくなる恋を。

 

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