日本という国で、ど真ん中を生きていくとはどういうことなのでしょうか。
日本のど真ん中を生きるとは
当サイトでは、これまで「平均年収」という指標にスポットをあて、その暮らしぶりについて考えるエントリーを発信し続けてきました。
こちら両記事はどちらも、平均値にスポットを当てた暮らしについて言及しているものですが、多くの方々に読んで頂き、日本国民の平均年収に対する関心の高さをうかがい知ることができました。
また、タイトルに用いている「普通の人」というワードは
という記事が話題になり、同じワードを使わせていただきました。そして、このように「普通の人」というワードを使用することに対しては、
こちらの記事のように、モヤモヤを覚える方も多く、実際に私の書いた記事にも「平均値=普通ではない」というコメントを多数いただきました。
確かに、2017年現在の日本の世帯所得構造を見てみると、正規分布とは大きく異なる分布状況にあることが分かります。
現在の日本では、このように正規分布から大きく左側に偏る歪な年収分布構造となっているわけです。
所得の分布が歪な構造をしている原因は、一部の高額所得者がいることで右側の裾のは限りなく長く伸び続けているためです。そして、高額所得に引っ張られる形で平均値が押し上げられているわけです。
こうした年収の分布構造を見れば、「平均値=普通」と表現することに対し、違和感を覚える方が出てくるのは当然のことかもしれません。
一方で、当ブログの平均年収ネタエントリーには、毎回のように「中央値年収こそが、普通の人の実態だ」や「中央値で同じようなシミュレーションをして欲しい」というコメントが寄せられます。
そこで本日は、普通の人の稼ぎが平均値なのか中央値なのかは置いといて、平均年収の暮らしと中央値年収の暮らしではどれほど生活レベルに違いが出てくるのかという視点から、それぞれの暮らしについてシミュレーションしてみたいと思います。
平均的な世帯年収でできる暮らし
まず、世帯年収が『平均的』水準にある家庭では、どの程度の生活水準で暮らすことができるのか見ていきたいと思います。
平均年収の収入面
厚生労働省の発表している国民生活基礎調査の結果をもとにした、日本という国における平均的な年収と貯蓄をまとめると次のようになります。
平均年収で可能な生活レベル
上で示した平均的な年収と貯蓄を持つ家庭で、実現できる生活レベルをシミュレーションした結果をまとめると次のような生活レベルであれば実現可能であることが分かりました。
支出項目 | 平均的生活水準 | 可能な生活水準 |
---|---|---|
生活費 | 25万円 | 19万円 |
住居費 | 3960万円 | 2600万円 |
自動車 | 298万円/7年 | 150万円/7年 |
子供の進路 |
保育と大学は私 小・中・高は公 |
同左 |
この支出に対するシミュレーション結果が、次のグラフです。
貯蓄残高を見ると、子供が大学を卒業するまでは、もともと子供を産む前に貯めてあった貯金500万円が増えることはありません。
子供が大学を出て独立すると、貯蓄額がようやく伸び、退職金(ここでは1500万円と想定)で老後資金2000万円強の確保が可能になります。
つまり、30歳時点で500万円の貯蓄がないと、ここで紹介したような暮らしも難しくなってしまうわけです。
ここで紹介した平均年収の暮らしシミュレーションは普通の人は何をあきらめるべきなのか?から引用していますので、詳細を知りたい方はぜひ元ネタ記事も読んでみてください。
世帯年収が中央値でできる暮らし
次に、世帯年収が『中央値』水準にある家庭では、どの程度の生活水準で暮らすことができるのか見ていきたいと思います。
中央値年収の収入面
各年代別の中央値年収は、次のようになります。
このグラフにあるように中央値の年収上昇率は
- 1.15%(~40代)
- 1.07%(~50代)
と、平均値に比べて伸び方も鈍化していることが分かります。
この年収上昇率を考慮し、日本という国における平均的な年収と貯蓄をまとめると次のようになります。
中央値年収で可能な生活レベル
上で示した日本の真ん中にいる中央値世帯年収と貯蓄を持つ家庭で、実現できる生活レベルをシミュレーションした結果をまとめると次のような生活レベルであれば実現可能であることが分かりました。
支出項目 | 平均的生活水準 | 可能な生活水準 |
---|---|---|
生活費 | 25万円 | 17万円 |
住居費 | 3960万円 | 1500万円 |
自動車 | 298万円/7年 | 120万円/7年 |
子供の進路 |
保育と大学は私 小・中・高は公 |
大学へは奨学金を借り 自宅から通ってもらう |
この支出に対するシミュレーション結果が、次のグラフです。
生活費について
生活費が17万円ではどういった支出状況になるのでしょうか。
支出項目 | 平均水準 | 中央値水準 |
---|---|---|
食費 | 7.3万円 | 6.5万円 |
光熱・水道費 | 2.1万円 | 1.5万円 |
被服費 | 1.1万円 | 0.7万円 |
医療費 | 1.3万円 | 1.3万円 |
交通・通信費 | 3.9万円 | 2.5万円 |
娯楽費 | 2.8万円 | 1万円 |
家具・家電 | 1万円 | 0.5万円 |
交際費・小遣い | 5.9万円 | 3万円 |
合計 | 25.4万円 | 17万円 |
表の平均水準に記載した金額は平成28年家計調査(総務省統計局)における家計収支の概況に記されている平均的な水準です。
これを見ると、生活費は工夫次第で何とかなりそうな気がします。
教育費について
中央値年収の家族では、子供の進学先を大学や専門学校に設定すると赤字に転落してしまいます。
つまり、高校卒業後に進学する場合は、学費や生活費のほぼ全額を奨学金や子供のアルバイト代で補てんしないといけません。
仮に、私立大学(文系)に通うのであれば、4年間で総額500万円の奨学金を借り、子供にもアルバイトでかなり稼いでもらう必要があるわけです。
これでは子供に進学をあきらめてもらい、就職してもらうか、勉強を頑張ってもらい「給付型の奨学金」をゲットして通ってもらうのが現実的な選択かもしれません。
住居費について
さらに、住居費は1500万円の住宅ローンを組むことを想定しています。
土地付き中古物件を購入する場合、住んでいる地域にも寄りますが「1500万円」という金額で家族3人が住める物件を探すのは骨が折れそうです。
持ち家をあきらめた場合、家賃が月4万円のアパート等に住むことが同程度の住居費では考えられます。
平均値と中央値の暮らしを比較
支出項目 | 平均値 | 中央値 |
---|---|---|
生活費 | 19万円 | 17万円 |
住居費 | 2600万円 | 1500万円 |
自動車 | 150万円/7年 | 120万円/7年 |
子供の進路 |
保育と大学は私 小・中・高は公 |
高卒で働いて くれるのが理想 |
以上の結果から、平均年収ではできるけど中央値年収ではできないことを上げると
- 家を持つこと
- 子供を自力で進学させること
といった所はあきらめる必要がありそうです。さらに、
- 自動車もあきらめ、家賃や子供の学費に充てたい
というのが本音ですが、住んでいる地域によって自動車は生活していくうえで必須であり、自動車をあきらめるという選択肢が厳しい家庭もあるはずです。
日本の真ん中を生きるということ
本日は平均年収でできる暮らしと中央値年収でできる暮らしについて、比較してみました。
平均年収と中央値年収ではその差は年120万円ほどの開きがあります。
これは生涯賃金で捉えると、(退職金も含めると)4000万円以上の開きがあることになるわけです。
これほどの差が「平均値」と「中央値」にあることを考えれば、「普通の人=平均的な人」と捉えることに意義を唱えるひとが出ても当然といえます。
そして何より、日本という国で、そのど真ん中を生きていこうとするならば、子供を自力で大学や専門学校に進学させてあげることはあきらめなければいけないという現実が見えてきました。
「だったら奨学金を借りればいいだろ?」と思われるかもしれませんが、このシミュレーションに奨学金の返済を加えると、その家族は子供を持つことをあきらめなくてはいけなくなるかもしれません。
それが日本のスタンダードなの?