目次
- 金魚草というバンド
- 各方面から絶賛されたThe Shaggs
- King Uszniewicz And His Uszniewicztonesのフラフラな演奏
- 既存曲を破壊するThe Portsmouth Sinfonia
- 奇跡のヒットThe Flying Lizards
- 普通の「ヘタ」とは異質な金魚草
- 再現不可能な音楽
- ずっと上手くならない人もいる
- おわりに
金魚草というバンド
金魚草というバンドがある。2014年頃一躍話題になったので、ご存知の方も多いかも知れない。MONGOL800の「小さな恋の歌」をカバーする動画で人気者になった。聴いて欲しい。
決してチューニングを合わせないギター。本来ならベベベベベベベベと刻むところを、なぜか1拍目のスタッカートでベンッと鳴らすベースが、同じく1拍目に全力でシンバルを叩き続けるドラムと奇跡のマッチング。決して一言で終わらないMC。なんか野球部っぽいvocal。全てが伝説になっている。
なぜ、誰かに習わないのか。なぜ、教則本を読まないのか。左のギター、コードチェンジスムーズだし絶対わざとやってるよな、と思っていた。
あまりにもハートが強すぎるバンドとして話題になった彼ら。最近The Shaggs(ザ・シャッグス)というバンドの音源を聴いてふと思った。
これはアバンギャルド(前衛)芸術だ。
というわけで今回は、素人たちが演奏したことで有名な曲をいくつか聴き、最後に「金魚草」についてもう一度考えるという企画にしたい。
各方面から絶賛されたThe shaggs
アウトサイダー・アートの音楽(アウトサイダー・ミュージック)の最古の部類といわれる引用:wikipedia
素人が演奏する音楽は、用語としては「アウトサイダー・ミュージック」という。その最古の部類がThe Shaggsだ。
勢いだけのドラムソロから始まる。チューニングという概念は無く、やたら安っぽいギターの音。合わせるべき音がないために、やたら不安げな歌。全てが合わさって究極の不協和音を生み出している。1969年。
世はファミリーバンド全盛期。野望を抱いた父が、自分の3人の娘に楽器を買い与え、バンドをやらせた。教わる相手もおらず、才能にも恵まれなかった3人だが、明らかに練習不足の状態で、父は1st Albumを出したのである。この奇跡の連続よ。
音楽への知識の無さが名作を生んだのである。
アウトサイダー・ミュージックの素晴らしさ
今日言いたいのはこの一言。
ちゃんと音楽を学んでいたら、このリズムとコード感は生まれなかった。
この曲、なんかクセになる。すごい不協和音なのになぜか嫌じゃない。西洋的な拍の概念に囚われていないドラムが新鮮だ。それだけでもかなり音楽の可能性を広げたと言えるんじゃないだろうか。
どこに惹かれるんだろう。父に報いようとする彼女たちのひたむきな姿勢だろうか?それは音からも伝わってくる。それに1st Albumのタイトルは『Philosophy of the World(世界哲学)』、彼女たちの音楽への熱い思いを感じる。
でもそういうのは置いといて、やっぱり曲がいいんじゃないかと、思っています。
各所から絶賛
フランク・ザッパからは「ビートルズよりも重要なバンド」と絶賛され、 90年代ロックの象徴的存在とも言えるNIRVANAのカート・コバーンは フェイバリットアルバムの一枚に「Philosophy of the world」を選びました。 またメジャー誌から「最も影響を受けたオルタナレコード100選」やら「最も重要なインディーズレコード50選」などに選ばれてしまいます。引用:wikipedia
ちょっと焦るぐらい認められてる。カート・コバーンなんて5位に選んだからね、世の中にこんなにアルバムあるのに。これが69年に出されたという事実はやっぱりすごくて、歴史上類を見ないアルバムだったわけだ。
King Uszniewicz And His Uszniewicztonesのフラフラな演奏
ちなみにキング・ユースネヴィチ&ヒズ・ユーネスヴィチトーンズと読む。もうバンド名からしてやばそう。
全てが適当。管楽器の音がやばいし歌もおまけ程度。ジャケットすら遊んでるようにしか見えない。ドリフメンバーなら全員コケる感じの演奏だ。
なんか慌ててるOut Of This World(アウト・オブ・ディス・ワールド)
「Are you ready!?」「「「yeah~」」」「Alright, now!one, two, one, two threヴヴヴヴ」となぜか食い気味で始まってしまう音源。もうちょっと落ち着いて録音して欲しい。そしてコーラスがあまりにも不快なので何とかして。
The Shaggsとはまったく違う方向に素人なのが彼らの特徴。なぜかロックンロールの型にはまってしまっている。当然Shaggsほどのインパクトはないが、それでもかなり面白いしこれはこれであり。
既存曲を破壊するThe Portsmouth Sinfonia(ザ・ポーツマス・シンフォニア)
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」に何が起こった。
まず入団条件がやばい。
普通のオーケストラの場合とは異なり、音楽家ではない素人であるか、音楽家である場合にはそれまでまったく演奏したことがない楽器を演奏することが、シンフォニアの入団条件とされていた引用:wikipedia
ここまで紹介したバンドと違って、意図されたアウトサイダー・ミュージックだ。完全なるアヴァンギャルド。
バイオリンとかが難しくてこうなるのはわかるけど、打楽器パートの人リズム感どうなってるんだこれ。絶対に真似できない。
奇跡のヒットThe Flying Lizards(ザ・フライング・リザーズ)
バレット・ストロングの名曲をカバーした素人たちがいる。
これが原曲。知らない方は聴いていただいて。
それではどうぞ。
あれ…かっこいい。
これは美大生だったデヴィッド・カニンガム(楽器経験0)が身の回りのものを叩いてカバーしたプロジェクト。Flying Lizardsとは彼一人を指す名前だ。歌っている女の子もマジの素人。すごいアヴァンギャルド。
まさかのヒット
チープなのにどこかセンスのある音がウケたのか、1979年に全英チャート5位を獲得している。ビートルズやブルーノ・マーズもカバーする名曲だが、このヴァージョンが好きという人も多い。唯一売れたアウトサイダー・ミュージックかもしれない。
普通の「ヘタ」とは異質な金魚草
ちょっと失礼かもしれないが、ネット上でヘタとされている「めらんちょ」に力を借りて、金魚草について考えてみたい。
無理やり粗を探すなら、ドラムが早い。ヴォーカルは声量が無い。ギターはたまにミスるくらいで普通にうまい。ベースはドラムがうるさすぎて聞こえないけどうまい気がする。
そんなヘタか?この人たち。よくいる学生バンドという気がする。(話題になってた頃より、上手くなったあとみたいだけど…)
じゃあここで金魚草を聴いてみよう。
異常。違う生物だこれは。
既存のコードを破壊するような斬新なギター。1拍目に全てを賭ける独特のドラム・ベース。特にドラムは一周回ってかっこいい気がしてきた。インダストリアルだ。そして、ヴォーカルは全く迷子にならない。練習時間を感じる。
Cメロからサビに入るところなんて普通にカッコいい気がしてきた。俺このドラムパターン好きだ。気がついたら20回ぐらいリピートしてたし。
後半のオリジナルについて
イントロにスゲーワクワクする。このコードも好き。ベースが急にストレートエッジに目覚めて力強く弾くとことか最高。そして11:05~ここほんとにカッコいい気がする。俺が唐突な展開に弱いだけかもしれない。
アウトサイダー・ミュージックのひとつの形
これはアウトサイダー・ミュージックへの、日本からの回答だ。既存の音楽では起こらない現象が同時多発的に起こっている上、なぜか惹かれるものがある。正直めっちゃ聴いてる。
欠点といえば、
- The Shaggsより上手いこと
- 右のギターが中途半端にチューニングが合ってること
- MCを普通に日本語でしてしまったこと
ぐらいだろう。エスペラント語とかだったらマジのアヴァンギャルドだった。
再現不可能な音楽
素人の音楽の特徴は、再現不可能性である。演奏技術の進歩というのは不可逆だ。人は成長する。してしまう。2001年、特別に再結成したThe Shaggs。演奏が上手くなったために、ファンは悲しんだという。今年の6月にも、オリジナルメンバーを他のミュージシャンがサポートする形で、再結成ライブが行われた。
クオリティが高い。しかし、高すぎる。おそらくもう二度と、オリジナルの音源を超える"My Pal Foot Foot"(マイ・パル・フット・フット)に出会うことは出来ないだろう。新曲など望むべくもない。
大麻中毒になってしまったのに畑が爆撃されたとでも言うべきだろうか。もう二度と新鮮なガンジャは手に入らないのだ。
The Portsmouth Sinfoniaもメンバーが上手になり、存在意義が消滅して解散した。Flying Lizardsは自信最大のヒット曲が、初心者同然の時に出した曲だった。金魚草は知らないけど、メンバーの一人が大学の軽音サークルを完走したとかなんとか。
アウトサイダー・ミュージックとはなんと儚いのか。
あるいは刹那の楽しみだからこその魅力なのか。
ずっと上手くならない人もいる
このままでは後味が悪いので、ずっと上手くならなかった人も紹介したい。Florence Foster Jenkins(フローレンス・フォスター・ジェンキンス)だ。
世にも珍しいことに、wikipediaに酷評されている。
フローレンス・フォスター・ジェンキンス(Florence Foster Jenkins、1868年7月19日 - 1944年11月26日)は、米国のソプラノ歌手。歌唱能力が完全に欠落していたことで有名である。引用:wikipedia
言い過ぎ言い過ぎ。彼女のすごいところは幼少期から音楽教育を受けていたところ。アウトサイダーとは言い切れない。ほんとに下手の横好きってあるんだ。
彼女はその型破りな歌いぶりで大変な人気を博した。聴衆が愛したのは音楽的能力ではなく、彼女の提供した楽しみであった。音楽批評家たちは、しばしば彼女の歌唱を皮肉まじりに説明し、それがかえって大衆の好奇心を煽る結果となった。引用:wikipedia
とあるように、ある意味それが彼女の才能だったのかもしれない。しかも自分が偉大な音楽家だと信じて疑わなかったそうだ。そんな人気者の彼女。なんと去年映画化されている。
突然のメリル・ストリープ。そしてヒュー・グラント。何その豪華なセット。絶対これいい映画だろうな。
おわりに
あまり多くの人にわかってもらえるとは思っていないけど、アウトサイダー・ミュージックには単なるネタ以上のモノがあると思う。パンクはハードロックムズすぎやろとブチギレた初心者たちが作り上げた。音楽活動をしたことのない素人集団が行ったポエトリー・リーディングが、RAPの原型になった。
音楽の発展が行き詰まりつつある今、こういうところにこそ注目するべきなんじゃないか。初心者から新たなジャンルは生まれるんじゃないだろうか。
最後に俺のおすすめのアウトサイダー・ミュージックを掲載しておく。
絶対この子は良いエンターテイナーになるだろう。それでは。