hatena0011

親が認知症になる前に決めておくべき財産・相続のこと

最近実家に帰ったら、ご両親の様子が少し気になった…。そんなご経験はないでしょうか。

例えば、弟から電話があってこんな話をしてきた。
「この前実家に戻ったらお母さんが同じことを何度も聞いてきたり、最近、物忘れも多くなったような気がするんだけど。。。気のせいならいいけど、本格的に認知症になったら介護とかどうしようか」

ご両親が認知症になられたご家族の大半は認知症になってから情報収集をすることから
「実は認知症になる前に対策が必要なことが多い」
ことを知らず後悔するケースが増えています。

たとえば、次のような情報収集をしておくと良いでしょう。
・認知症になった人は、どんな行動をしてしまうので困るのか
・認知症になった人の介護費用はどのくらい準備が必要なのか
・認知症になったらどんなリスクがあるのか

では、その中でも具体的にはどのような認知症のリスクがあるのか確認しましょう。これらの対策は、まさに「まだ認知症になっていないからこそできる」ものになります。

図1:認知症が発生した場合の5つのリスク
hatena0011_1
hatena0011_2

2012年における65歳以上の認知症患者数は7人に1人の462万人、2025年にその数は700万人となり65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されています(「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(2014年厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学院 二宮教授)。
さらに時代とともに増加することが推測され、認知症は日本において深刻な社会問題となっています。

本記事では、ご両親のどちらかがお亡くなりになり残された親が認知症になってしまった場合の5つリスクと、ご両親が認知症になる前に必ずご家族で相談して決めておくべきことを、財産と相続に係る部分に焦点をあてながらご説明していきます。

「まだ認知症になっていないからこそできる対策」になりますので、ぜひ参考にしてご家族で備えていただきたいと思います。 

Contents [hide]

1.親が認知症になったら自分たちでは回避できない5つのリスク

お父さまがお亡くなりになり、田舎で一人暮らしをしているお母さまを考えてみると、このように残されたお母さまがもし認知症になってしまったら…。

認知症になったら、このような症状がはじまり家族はなかなか安心した生活が送れません。
 ・記憶障害で物忘れや、置き忘れなどから物を取られた妄想
 ・徘徊して帰宅できなくなる
 ・理性がおさえられず暴力や暴言、介護拒否

加えて、認知症になったお母さまが遠方で暮らしている場合、介護やお金など急に心配になります。
認知症になると、介護はもちろんのこと、財産の管理などご家族で相談をしなければならいないことが山積みです。

「まさか自分の親が認知症になるなんて思っていなかった…。」「認知症になっても家族みんなで介護をすればきっと大丈夫!」などと、安易に考えているととても苦労することになります。
認知症にはさまざまなリスクが潜んでおり、事前の対策なしではご家族で大きな問題を抱えることになります。特に財産管理や相続にかかわる部分では大きく5つのリスクが考えられます。

図2:親が認知症になったら自分たちでは回避できない5つのリスク
hatena0011_3

1-1.リスク①:生活費や介護費用など預金が下ろせない

3生活費や介護費用など預金が下ろせないイメージ
hatena0011_4

認知症になると判断能力が低下していることから、財産を保護する必要があったり、金融機関はトラブルを防ぐために認知症であることを知ると口座を凍結するためお金が下ろせなくなります。実際には、認知症になっても認知症の診断を受けていなかったり、キャッシュカードで下ろしたりすることもあると思いますが本来はやってはいけない行為となります。

また、介護費用などまとまったお金を下ろしたいときにはATMの1日の引き出し限度額があるため、家族が委任状を準備せず窓口へ代理で下ろしに行く場合があります。その時に状況を説明してしまうことで、金融機関は認知症であることを知り、口座を凍結します。

口座が凍結されたあとは3章でご説明する「成年後見人」を活用することでご本人に代わって財産の管理や契約をおこなうことができますが、それには多くの手間や費用がかかってしまいます。お金が下ろせなくなると、具体的に次のような問題が起こり、困ってしまいます。

・日々のご両親の生活費が準備できない
・介護サービス等の支払いができない
・介護施設・老人ホーム等への入居費要が準備できない
・入院費が払えない
・孫(自分の子)が援助してもらう予定だった学費等がもらえない

1-2.リスク②:介護施設の入居費等のまとまったお金の準備に実家が売却できない

図4:介護施設の入居費等のまとまったお金の準備に実家が売却できないイメージ
hatena0011_5

一人暮らしのお母さまが認知症になってしまい、ご実家での介護が難しい場合などは老人ホームや介護施設などに入居することになります。この場合、老人ホームや介護施設への高額な頭金や入居費用が必要となりますが、ご両親の貯蓄やお子さんたちの貯蓄から支払えない場合には、それまでご両親が暮らしていた実家を売却して費用をねん出する必要があります。

そんなとき「親が認知症になってしまったから介護施設に入れるためにまとまったお金が必要だ。思い入れのある実家だから手放したくないけど、売却して現金を準備しないといけな。。。」とお考えになるかもしれません。しかし、その実家の所有者(名義人)が認知症となったお母さまである場合、不動産の売却はできなくなります。不動産の売買は、売る人の「売ります」という意思と、買う人の「買います」の意思があることで契約が成り立ちます。そのため、「売ります」という意思が示せない認知症の方は、売買契約が法的にできなくなるのです。

不動産の売買ができなくなると、お母さまの介護・入院費などまとまったお金が必要な際に準備ができなくなり、困ってしまいます。

1-3.リスク③:「介護をすると相続財産を多くなる」と勘違いして家族間でもめる

図5:「介護をすると相続財産を多くなる」と勘違いして家族間でもめるイメージ
hatena0011_6

一人暮らしのお母さまが認知症になり一人暮らしが続けられない場合、費用等を考えて介護施設等に預けず長男であるご自身の家族が同居して介護をするケースや、すでに同居しているケースも珍しくありません。例えば、お母さまのためと思って、ご自身の家族が引っ越したり、奥さまが仕事を辞めて介護に専念するなど献身的にお世話をしていたとします。そのような状況のとき、「ウチは奥さんが仕事も辞めて献身的にお母さんの介護をしているのだから、相続の際には、他の兄弟よりも財産を多くもらえるはず…」このように考えがちです。

しかし、お母さまが亡くなられた際に財産をご兄弟で分割するときには、ご自身が多くもらえる根拠や制度がありません。よく勘違いされるのは「寄与分」という制度ですが、亡くなられた方の財産の形成に寄与した(増加に貢献した)場合のみ、他の相続人よりも優遇して財産を受け取れる制度です。実際に「寄与分」が認められるケースは少ないため、介護をする方や同居をする方が勘違いし、後々の相続の際に家族内で大きなトラブルへと発展することがあります。

1-4.リスク④:財産の全容が把握できず相続手続きがすすまない

図6:財産の全容が把握できず相続手続きがすすまないイメージ
hatena0011_7

一人暮らしのお母さまが認知症になると、判断能力・記憶力の低下からもご自分の財産管理が難しい状態になります。また被害妄想も強くなり、銀行口座がどこにいくつあるのか、通帳や印鑑をどこにしまったのか、どんな保険に加入しているのか、など財産を取られたくない気持ちから、教えてくれないことに加えてどこに隠しているかも忘れてしまうことがあります。そうなると、生前にも亡くなられたあとにも、財産の全容を把握することが困難となります。また、すべての財産が分からないことから、相続の際に財産の分割ができず困ってしまいます。

1-5.リスク⑤:ご両親と同居していた実家を売却しないと相続できない

図7:ご両親と同居していた実家を売却しないと相続できない
hatena0011_8

ご両親が子どもたちに遺してくれた相続財産が、土地(実家)と少しの現金のみというケースは一般的によくあります。この場合は遺された相続財産を平等に引き継ぐことが難しく、平等にするならば、実家を売却して全ての財産を現金にしたのちみんなで平等に分割することになります。
しかし、長男であるご自身がご両親と同居をしていた場合など、実家を売却して現金にしてしまうと住む家が無くなり生活に困るなど別の課題が生じてきます。このような要因からも、実家を誰が引き継ぎ、現金を誰が引き継ぐのかなど、相続の際にそれぞれの思いがぶつかり、もめごとに発展するケースもあります。

相続財産を平等に分けられない場合は、ご両親が生前に遺言を作成し「実家は同居をしてくれた長男に譲る」などご自分の意思を示すことが最善の解決策となります。土地と現金のみなど難しい財産の分割をスムーズにおこなうためには遺言が最適ではありますが、認知症になると遺言の作成自体が困難になります。ご両親が遺言を作成できない場合、亡くなられた後の生活に困ってしまうケースがあります。

2.親が認知症になる前に家族で決めておくべき財産・相続のこと

認知症になると判断能力が低下します。そして法律では、判断能力がない人の契約は無効、もしくは取り消せるものと定義しています。悪徳な契約をさせられてしまった場合には有効な考え方ですが、介護施設への入居手続きやまとまったお金を準備するための実家の売却、生前贈与などの相続対策の契約もできなくなるため困ってしまいます。
そのため今回の例のようにお母さまが認知症を患ってしまうと、「把握できない、自由にできない、対策もとれない」といったどうしようもない事態に陥り、さらに相続の話になると仲の良かった家族でも揉めてしまうことになりかねません。

お母さまが認知症になる前であれば、財産をどのように引き継ぐべきか、お母さまの意思を尊重しながらじっくり検討することができます。

表1:親が認知症になる前に家族で決めておくべき財産・相続のこと

項 目 決めておくべきこと
1 介護 認知症になったら誰かが同居するか、介護施設に入るか
2 日々の生活費 認知症になったあとの年金や貯蓄はどの程度生活費に充ててよいか
3 財産管理 任意後見人か家族信託かどの手法で管理するか
4 高額費用の支払い 介護施設等の高額な費用は準備があるのか、実家を売却して準備するか
5 贈与 孫の教育費用、住宅取得の補助などするかしないか
6 相続対策 相続税を節税する対策をするかどうか
7 相続 相続財産を誰にどれだけ遺すのか。遺言は作成するのか

本章では、ご両親が認知症になる前にご家族でぜひ考えていただきたいことを5つご紹介します。
制度の活用はまだまだ進まない点もありますが、計画的に活用することでとても良い効果を生みますので、上記を決定したら、どんな制度を活用するかについてもある程度決めておきましょう。

2-1.「任意後見人」を活用して支援者や財産管理の方法を決めておく

図8:「任意後見人」を活用して支援者や財産管理の方法を決めておくイメージ
hatena0011_9

認知症などに判断能力が低下して法的判断ができない方の財産を守るために「後見人制度」があります。
今は元気だから大丈夫!と思っていても、ご両親が認知症のような病にいつ侵されることになるかは誰にも予測はできません。予兆はあったとしてもすぐには決められませんので、万が一に備えてご両親の財産の管理をおこなう「任意後見人」を活用することも対策方法の大切な一つです。

しかし、誰もが必要に迫られないとなかなか必要なことであっても後回しにしてしまいます。特にこの制度は認知症になったあとには利用できないため、知らなくて後悔された方も多いのではないでしょうか。2015年12月末時点での任意後見人利用者数は2,245人となっており、4年前の2011年からおよそ1.3倍に増加しています。利用者数はまだ少ないですが年々増加傾向にあります。(「成年後見制度の現状」参考資料6 2016年内閣府 成年後見制度利用促進委員会事務局)

2-1-1.親が認知症になる前に「任意後見人」を選任するメリット・デメリット

親が認知症になる前だからこそとれる対策、「任意後見人」のメリットとデメリットを確認しましょう。

<メリット>
・ご両親の意思を尊重できるためご家族でもめることがない
・もし認知症になっても、介護費用や不動産の管理に困らない
・もし認知症になっても、財産の把握に困らない

<デメリット>
・利用している人がまだ少ないため、利用者側の立場の話を詳しく聞ける人が少ない
・選任された方(特定の家族)にだけ負担がかかる

2-1-2.「任意後見人」は支援者・支援内容を親自身が自由に決めることができる

任意後見人制度とは、支援を受ける方(お母さま)の判断能力が十分なうちにご自分の意思で、誰にどのようなことを支援してもらうのかを決めます。その内容をもって、任意後見人となる方と事前に任意後見人の契約を結び、認知症と診断された後はその契約内容に沿って支援をしてもらう制度です。お母さまが認知症になる前だからこそできる対策です。

<契約できる支援の範囲>

・財産の管理のサポート
 ⇒自宅などの不動産管理、預貯金の管理、社会保障関係の手続、年金の管理、税金や公共料金の支払、遺産に関わる手続き
・介護や生活に関するサポート
 ⇒要介護認定の申請などの手続、介護費の支払、医療契約の手続、入院手続・費用の支払、生活費の送金、老人ホームでの契約手続き

契約方法は、公証役場に行って任意後見の内容に関する公正証書を作成してもらい、登記しておきます。
そして、実際に認知症と診断された段階で、さらに任意後見監督人という任意後見人が勝手に財産を使い込んでしまうなどの不正をしないよう見守る立場の方を家庭裁判所に選任してもらいます。そして、やっと支援が開始されることになります。任意後見監督人の選任の申立は、認知症になったご本人、配偶者や4親等以内の親族で行うことができます。

2-1-3.「任意後見人」は家族や友人でもなれる

任意後見人は、司法書士や弁護士などの専門家に限らず、このケースではお母さまが信頼する家族や頼れる友人を指定することができます。また、任意後見監督人が支援内容に不備がないかについて、常にチェックをしてくれるので財産は守られて安心となります。

任意後見制度で大切なことは、契約に基づきできる限りお母さまの意思を尊重することであるため、もっとも信頼できるご家族を任意後見人とすることが将来的に大きな意味を持つことになります。その一つとして、任意後見人はお母さまの意思で選任して契約をするため、その支援内容に不適切な行為(例えばお母さまのお金を別の用途で使い込んでしまった)があったとしても、選任した方(お母さま)、もしくは親族、任意後見監督人がそのことに気づいて申し出ない限り解任することが難しく、大きな損害を被る可能性があるため、候補者は慎重かつ信頼できる方に決める必要があります。

2-1-4.「任意後見人」は財産管理・不動産売却もできる

本来ならば認知症になったお母さまが所有する預金を自由に引き出したり、実家の売却等はできませんが、任意後見人の契約の際に「口座から○○の用途でお金を引き出して良い」「実家は介護施設等への入居時に頭金を準備するため売却可能」という契約を取り交わしている場合には、任意後見人の判断のもと引き出したり、売却することができます。

2-1-5.「任意後見人」は不利な契約の取り消しは別の対策が必要

万が一、認知症になったお母さまが高額なものを購入したなど不利な契約を結んで被害に合った場合に、財産の管理をしている任意後見人であってもそれを取り消すことはできません。任意後見制度では、認知症など判断力が低下した方の意思を尊重してサポートする立場上、法的な権限が弱いという一面があります。

2-2.「家族信託」を活用して親の財産管理の方法を決めておく

家族信託は、この例の場合はお母さまの財産をご自身が預かって代わりに管理・運用をすることができるしくみです。そして、アパート経営など管理・運用をした結果として利益が生まれる場合には、その利益を誰に渡すかについてお母さまが指定することができ(ご自分を指定することも可)、その方に利益を渡します。

ニュース等で聞いたことがある程度という方が多く、まだあまり馴染みのない家族信託ですが、財産管理や財産承継における有効性から利用者も増えています。また信託銀行等ではご両親が生前は利益を自分でもらうが、亡くなったあとは配偶者やお子さんに利益を渡すといった「遺言代用信託」を取り扱っており、新規受託件数は、2009年から2015年までの累計で約13万件となり、近年その利用者数は急増しています。(「2016 日本の信託」2016年一般財団法人信託協会)。

2-2-1.親が認知症になる前に「家族信託」をおこなうメリット・デメリット

「家族信託」を活用するメリットとデメリットを確認しましょう。

<メリット>
・もし認知症になっても、親の介護費用や不動産の管理に困らない
・もし認知症になっても、財産の把握に困らない
・もし認知症になっても、財産の所有者を変更しているため不当な契約をすることが無い

<デメリット>
・財産を管理する人(受託者)に負担がかかる
・財産の承継が不平等になる可能性がある

2-2-2.「家族信託」は家族が財産を預かりルールどおり運用するしくみ

家族信託は、お母さま(=委託者)が、管理してほしい財産を信頼できる家族や親族(=受託者)に託して、その信頼できる家族がお母さまに代わって管理、運用する制度です。また、その管理・運用する財産の中でアパート経営など利益が得られる場合には、お母さまに代わって運用をしている方(=受託者)はお母さまから指定された方(=受益者)に利益を渡すことになります。認知症対策で家族信託を利用する場合には、委託者と受益者を「同じ」とすることが多く、このような信託を自益信託といいます。

図9:家族信託の仕組みのイメージ
hatena0011_10

家族信託を活用した財産管理の仕組みを具体的にご説明します。

お母さま(委託者)が元気なうちに長男であるご自身を受託者、お母さまご自分を受益者として信託契約を結んでおきます。万が一、お母さまの判断能力が低下した場合でも、信託の実行によってご自身がお母さまに代わって生活費を支出したり、お母さまの財産を処分し、介護・生活費用にあてることができます。

委託者:財産を預ける人
受託者:財産を預かる人
受益者:財産からの利益を得る人

また、不動産を信託する場合、お母さまが長男であるご自身に管理、運用を任せた時点で名義変更をおこないます。これにより判断力が低下しても不当な契約で売却させられたりするリスクが無くなります。また、利益の受け取りをお母さまにしておければ、実質的な利益を得るのはお母さまのままで変わりがないため、受託者に贈与税が課せられることはありません。※税金は利益を得た方に課税されるという考え方です。

よって、家族信託をすることで、成年後見制度と遺言に近い機能を満たすことができ、上手に活用することで今までより容易にお母さまの財産を管理できるようになります。

2-2-3.「家族信託」は親が認知症になっても資産管理ができる

家族信託は、お母さま(委託者)とご自身(受託者)の信託契約が基本となるので、お母さまの状況に応じた最適な内容の契約を実現しやすく、また、契約した時点から信託は開始することができるので、お母さまが元気なうちから財産の管理権限を移行(名義変更も可能ですが贈与とはならない仕組み)することができます。信託契約をした財産をお母さまのために使用するという内容にすれば、金融資産や不動産をご自身が運用し、お母さまの老後の資金とすることもできます。また、すべての財産を家族信託しておけば、相続の際に相続財産の把握が容易となります。

2-2-4.「家族信託」は財産の承継が不平等になる可能性がある

利用者数が伸びているものの、まだ利用総数が多くないことから、事例や判例が少ないのが現状です。家族信託では、お母さまの生前にも利益が出た分をご兄弟の誰か一人が受け取るような設定もできることから、お母さまからの生前贈与と同様の扱いとなり相続時に遺留分の問題が生じる可能性もあります。また家族信託で得た利益は、本来お母さまの財産であることから相続税や贈与税にも注意が必要です。※遺留分とは、法律で定められた最低限確保できる相続財産の割合を言います。

2-3.「公正証書遺言」で財産の分割方法を決めておいてもらう

図10:「公正証書遺言」で財産の分割方法を決めておいてもらうイメージ
hatena0011_11

例えば、お母さまの財産を法定相続分(法律で定められた分割の割合)以外の割合で引き継ぐ必要があるときには、遺言が有効的です。もし遺言がなければ相続人同士の話し合いで分割方法を決めることになり、相続人同士でトラブルが起こる可能性があり、将来の生活に影響を与えかねません。遺言は、お母さまが亡くなられた後にお子さんたちに財産をどう受け継ぐのか、意思を示すことができるとても大切なしくみです。

2-3-1. 親が認知症になる前に「公正証書遺言」を作成するメリット・デメリット

「公正証書遺言」のメリットとデメリットを確認しましょう。

<メリット>
・認知症になった親の財産が把握できるため、相続のときに困らない
・ご両親の意思が示されるため財産分割をめぐる家族のトラブルを回避できる

<デメリット>
・作成するのに手間と費用がかかる
  ・ご両親はそもそも自分が死ぬことに対して考えたがらない

2-3-2.「公正証書遺言」は財産を確実に引き継ぐことができる

遺言には大きく分けて「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類あり、確実に財産を受け継ぎたいのであれば「公正証書遺言」をおすすめします。公正証書遺言は、作成時に公証人等の専門家の確認が入りますので、後に信憑性を疑われることも少なく、確実な方法と言えます。

2-3-3.「公正証書遺言」はトラブルにならないよう「遺言能力」が完全な時に作成する

遺言で大切なことは、遺言の作成時にどれほど「遺言能力」があり、判断ができる状態だったかということです。裁判となった場合には、遺言の作成日と判断力が低下したときとどちらが先かという点が論点になるほどであり、しっかりお母さまがご自分の意思を反映していれば問題ありません。元気で判断力が十分なうちに(理解力、判断力があり、有効な意思表示ができる能力)、手間とお金はかかりますが確実に執行できる公正証書遺言を作成しておきましょう。

2-4.「エンディングノート」で遺言の代わりに財産を示しておいてもらう

図11:「エンディングノート」で遺言の代わりに財産を示しておいてもらうイメージ
hatena0011_13

遺言を作成してもらうことが家族の相続にとって一番良いのですが、亡くなられた後の財産の話をすることからなかなか手をつけられない方も多いのではないでしょうか。そんな方には、まずはエンディングノートの作成をオススメします。エンディングノートはお母さまの今までの人生を振り返って自分史の様なものを作るとともに、現在保有している財産の整理などをします。

2-4-1.「エンディングノート」に財産をまとめてもらうメリット・デメリット

「エンディングノート」のメリットとデメリットを確認しましょう。

<メリット>
・相続のとき、ご両親の財産が把握できてスムーズに相続が進められる

<デメリット>
・日本ではまだ浸透していないため書くことに抵抗がある可能性がある

2-4-2.「エンディングノート」で持っている財産を明確にしてもらう

エンディングノートとは、自身の死後に家族やご友人に伝えたいことをまとめておくノートです。書く内容に決まりはなく人それぞれですが、親しい人へのメッセージやご葬儀、相続について書くのが一般的です。ネットの検索でも簡単に書き方が分かり、書式も簡単に入手することができます。遺言を書いていない場合、残された家族が財産の把握をすることに一苦労しますが、エンディングノートにまとめられていることで、相続をスムーズに行うことができます。遺言に比べるとお母さまが作成することに抵抗が少ないものになります。

エンディングノートが残されているからといって、法的な効力がある訳ではありませんが、家族が知っておくべき「財産のこと、伝えておきたいこと」などを書き記しておけば、万が一の時にお母さまが遺した相続財産の把握だけでなく、相続に対する思いや意思を知ることができます。これにより家族で揉めることなく相続手続きを進めることができますので、とても役立つものになります。

エンディングノートの注意点としては、特に資産に関してあまりに細かいことを記したり、銀行の暗証番号まで書いてしまうと不正利用されてしまう恐れがありますので、あくまでも家族が困らない範囲の内容に留めておくことが大切です。

図12:エンディングノートの例
hatena0011_14

2-4-3.「エンディングノート」に抵抗があったら「終活セミナー」をすすめてみる

遺言も、エンディングノートもどちらも少し抵抗がある場合は、「終活セミナー」をすすめてみるのも一つの方法です。終活セミナーは全国各地で開催され、お葬式、遺品整理、相続など様々な内容を取り上げています。終活セミナーへの参加をきっかけに、遺言やエンディングノートへの関心が高まることもあるかもしれません。

昨今において終活という言葉が一般的となり、世代問わずに将来への不安を誰しもが感じていることと思います。お母さまもご自分が亡くなったあとに相続や遺品整理などで子どもたちに迷惑をかけたくないと思っていると思います。よって、終活セミナーへ足を運び、将来に対する事前の対策を考えようと声を掛けてみると意識は高まると思います。

2-5.「生前贈与」を活用して将来の贈与分を一括で譲り受けておく

図13:「生前贈与」を活用して将来の贈与分を譲り受けておくイメージ
hatena0011_12

 

「孫の養育費を援助してあげる」「同居して面倒を見てもらっているからこの家はあなたにあげる」などとお母さまから将来のお金の話をされていたとしても、もしお母さまが認知症になってしまった場合、任意後見人や家族信託を活用しなければそれは実現しません。しかし、認知症になる前に「生前贈与」を行うことで、将来の生活に備えることができます。お母さまが贈与を行うには、当然意思能力がなければなりませんので、生前贈与は認知症になる前に行う必要があります。

2-5-1.親が認知症になる前に「生前贈与」で財産を譲り受けるメリット・デメリット

「生前贈与」のメリットとデメリットを確認しましょう。

<メリット>
・認知症になる前に必要な資産(実家など)をご両親から引き継ぐことで、将来の生活に困らない
・認知症になる前にご両親の財産の贈与を受けることで、資金援助を効果的に受けられる

<デメリット>
・相続では無税で引き継げるものが、贈与により税金が発生する

2-5-2.「生前贈与」で実家を譲り受けて相続時のリスクを回避する

お母さまが亡くなられた後、同居をして面倒を見ていたご自身が当然にご実家の土地を相続できると思っていても、先に説明したように遺言がなく、ご兄弟で平等に財産を分け合うことになった場合、実家を売却して現金を分け合う必要さえもでてきます。しかし、生前にお母さまから贈与を受けていれば、安心して生活を続けることができます。贈与の契約はお母さまが認知症になってからではできないため、早めに相談対策をとることをおすすめします。

2-5-3.「生前贈与」を活用した子育て・教育・マイホーム購入等の資金援助を相談する

贈与には様々な種類があり、非課税で贈与を受けられるものも多くあります。ただ、認知症になってしまうと贈与ができなくなるため、ご家族で相談をして早めに行うことをおすすめします。

贈与については同サイト内 → 「早めが肝心!生前贈与を活用した相続税の6つの節税対策」

2-6.「親の介護」の話がでたら家族会議で財産の引き継ぎ方まで決めておく

図14:「親の介護」の話がでたら家族会議で財産の引き継ぎ方まで決めておくイメージ
hatena0011_15

「親の介護」の話が出たら、介護についてはもちろんのこと、その後のご家族の生活についても話し合いをしておくべきでしょう。事前にご家族間での意見や思いの相違を解消しておくことで、後のトラブルを回避することができます。一番避けたいことは、揉めそうなことを口にしないという問題の先送りです。

1-3でご説明したとおり、ご両親の認知症にともないご自身が同居したり、奥さまが仕事を辞めて献身的に介護をしたとしても、優遇されることはほとんどありません。しかし、ご兄弟にもそれぞれの生活があり、お母さまと同居したり介護をすることが可能ではないと思います。

大切なことは、ご両親がお元気なうちまたは、お父さまが亡くなられてお母さまがお一人で暮らしており介護の必要性がみえてきたときには、話しづらい内容であっても年末年始やお盆の時に介護のこと、お金のこと、相続のことなどを話し合い、お互いがお互いを尊重して結論を出しておくことです。ご両親の意思も尊重しながら、実際に介護する方の苦労も鑑みて話し合いをしましょう。

3.親が認知症になったら対応しておくべき財産・相続のこと

既にご両親のいずれかが認知症と診断されている場合、ご本人の意思確認ができない状態となりますので、法的に様々な制約が生じることになります。ご両親の認知症については、財産を所有しているお父さまが認知症になる場合、財産を受け継ぐお母さまが認知症の場合、いずれもリスクがありますので、この点について確認しましょう。
 
特に、財産を受け継ぐお母さまが認知症の場合には、早めの対策が不可欠です。

3-1.認知症の家族が相続人になる場合、今後を考えて遺言を作成してもらう

図16:認知症の家族が相続人になる場合のイメージ
hatena0011_16

認知症と診断された方が相続の際に法定相続人としての権利を持つ場合、その判断能力から遺産分割協議(財産を分けるための話し合い)で正しい判断ができる状況ではないとされます。そうすると遺産分割協議を終えたとしても「未分割」として扱われ、相続人全員の同意が得られなかったものとして、預金の解約や不動産の名義変更登記が進められない事態に陥ります。
 
認知症の方が相続人(財産を受け継ぐ人)となる場合には、裁判所に成年後見人の申し立ておこない選定することで分割協議を進めることができますが、課題となるのは不利な相続ができないため法定相続分(お母さまなら1/2)より小さい割合に調整することができないことです。
 
認知症のお母さまの介護等を考えると、同居する長男が多く相続した方がうまくいく、実家を買い替えて便利な場所に買い替えたいなど、今後の生活や相続の対策がとれないことが課題です。
このような心配がある場合は、お母さまが認知症の際には、お父さまがご健在なうちに予め遺言書を作成して回避できるように、ご家族で話し合いをしておくことをおすすめします。

3-2.認知症の家族の財産を使う場合は、制度を理解して「成年後見人」を活用する

お母さまが既に判断能力が低下しており認知症となっている場合、家庭裁判所に「成年後見人の選任」を申し立てることができます。お母さまの判断能力の度合いについて医師が鑑定をした結果を受けて、後見人、補佐人、補助人のいずれ候補者を選任します。成年後見人は弁護士・司法書士が選任されることが多く、第三者が成年後見人となる割合は70.1%(「成年後見関係事件の概況」2016年最高裁判所事務総局家庭局)となっています。

3-2-1.「成年後見人」は法的な権限力が強く財産を守ることに徹する

2-1でご紹介した任意後見人と比べ、成年後見人は法的に認められる権限が増えます。次のようなことができる権限を持ちます。
・病院、老人ホームなどの身元保証や契約・申請・支払い代行 (代理権)
・実家など不動産売買の手続き代行(代理権)
・相続時に法定相続分より取り分が小さい場合に無効にできる(代理権)
・不当な契約の解除ができる(取消権)

これらの権限があることで、財産が守られているようにも感じますが、裏を返せば、赤の他人が認知症の方にかかわる法的権限の多く持つことになります。不当な契約の解除などは嬉しいのですが、認知症の方方の為だと家族が判断して財産を動かそうとしても、財産が減るような行為や契約は一切許可されません。これが介護施設の入居などを妨げることになり、大きなトラブルを生むこともあります。

一方で、ほうてい成年後見人は、ご家族の同意を得ることなく実家の売却の契約さえ出来てしまいます。制度を活用する方が増えていく中で、メリットとデメリットが見え始めてきました。正しく利用している方には良い制度ではありますが、一部悪用されることもあり成年後見人のモラルが求められます。

3-2-2.「成年後見人」は毎月費用がかかることを認識する

成年後見人は認知症の方には必要な制度ではありますが、申し立て費用や成年後見人が選任されると月々の費用が発生しますので、費用面での注意が必要です。また、途中で成年後見人を取り下げたいと申し出てもやめることができない点にも注意しましょう。
 
主な費用は次のとおりです。
・家庭裁判所へ申し立て費用
(1)弁護士や司法書士に依頼する場合 ・・・ 10~60万円
(2)自分で手続きした場合 ・・・印紙代のみ
・認知症の症状の鑑定料 ・・・ 5~10万円
・成年後見人への報酬
(1)月額報酬 ・・・ 2~6万円(認知症の方の財産額による)
(2)不動産売却などの代行 ・・・ 財産の額に応じた手数料 

このように、ご家族の思い通りに財産が動かせなくなってしまうことや、制度の利用に費用がかかることを理解したうえで、成年後見人の利用を検討する必要があります。また、このようなお悩みを回避するためにも、ご両親が認知症になる前に「任意後見制度」を活用することをおすすめします。

4.さいごに

日々年を老いていくご両親の将来を考えると、生活支援、財産管理、税金対策、相続問題など様々な問題が思い浮かぶものです。しかし、まだ元気だから、まだ認知症にはならないだろうからと思っていると、突然思いもよらない現実が訪れるものです。

ご両親が元気なうちであれば、認知症であれ、相続であれいろいろな対策が講じられます。しかし、今回の内容のように認知症になってしまうと全く対策ができない状態になります。

ご両親が人生をかけて築き上げた大切な財産をきちんと引き継ぐことができるようするめたにも、ご両親と将来についての介護や相続についても話し合いをしっかりしておくことが大切です。

認知症になった方や、亡くなった方のご家族から「知らなかった」「もっと早く知っておけば・・・」という言葉をよく耳にします。
日本ではまだまだ対策をしておらず後悔する方の割合の方が多いため、身近には感じられないかもしれませんが、早め早めのご家族のサポートが明暗を分ける重要なポイントになりますので、「まだ大丈夫!」と思わず、本記事を参考にまず一度ご家族で話し合っていただければと思います。

相続対策・相続税申告で損をしたくない方へ

相続税の納税額は、その申告書を作成する税理士により、大きな差が生じます。
あなたが相続対策や相続税の申告をお考えであれば、ぜひ当税理士法人にご相談ください。
絶対に損をさせないことをお約束します。

OAG税理士法人が選ばれる4つのポイント
選ばれる4つのポイント
  • 相続税の申告件数 年間700件以上の実績
  • 創業30年の実力と安心感
  • 多くの専門書執筆が示す「ノウハウ」
  • 相続に関わる士業とのワンストップ連携
OAG税理士法人に依頼する3つのメリット
  • 考え方に幅のある「財産評価」を知識とノウハウで適切な評価をする
  • 遺産分割を次の相続(二次相続)も視野に入れ、税額軽減の創意工夫をする
  • 専門用語を使わないお客様目線の対応
【お電話でのお問い合わせ・ご相談はこちら】

初回のみ無料面談を実施していますので、まずお気軽にお問い合わせください。

お気軽にお問い合わせください
【スマートフォン、パソコンからのお問い合わせ・ご相談はこちら】

SNSで最新情報をチェック

コメントを残す