ここ20年の間、アメリカの親や教師たちは子供の病的なまでの集中力の欠如や衝動的な振る舞いについて報告してきた。関係者はこの症状に注意欠陥・多動性障害(ADHD)と名付け、国家の危機としてその対策に膨大な費用を投じている。
アメリカでの動きは日本にも広まりつつあり、今やADHDは一般的な言葉として認識されつつある。
その要因として、遺伝子、脳の発達、鉛への曝露、学業について幼少期から受けるプレッシャーなどが疑われてきたが、もしかしたら少なくとも一部の症例についてはもっとはっきりとした原因があるのかもしれない。
実は最近ではADHDと睡眠の長さ・タイミング・質との関係を指摘する研究がいくつか発表され、支持を集めつつある。
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情報化社会における子供たちの睡眠時間
幼い子供ですらスマホゲームやYOUTUBEに親しむご時世だ。そこに追い打ちをかけるように、早期教育と銘打った多種多様な情報が詰め込まれていく。
それほどまでに刺激やストレスにさらされる子供たちはきちんと十分な睡眠を取れているのだろうか?
増え続ける証拠が示唆しているのは、ADHDと診断された子供の一部は誤診であり、実際は睡眠不足や不眠症あるいは閉塞呼吸といった問題を抱えているということだ。
しかし、これまでの常識に最も強く挑みかかる学説は、ADHD自体が1種の睡眠障害であるというものであろう。仮にこの説が正しければ、ADHDに関する研究と治療は根底から覆ることだろう。
ADHD自体が1種の睡眠障害とする説
先月パリの学会で発表された最新の研究は、概日リズムを取り上げている。研究が示しているのは、ADHDの患者の夜間におけるメラトニンの上昇が通常の人よりも1.5時間遅れていることだ。この結果、就寝時間も遅くなり、睡眠時間全体も短くなってしまっていた。
昼と夜のリズムが乱れると、体温、活動、食事のタイミングも乱れてくる、と蘭アムステルダム自由大学のサンドラ・クーイ(Sandra Kooij)は説明する。どの変化も不注意や問題行動につながるという。
ADHDと睡眠不足は、体と心のコインの両側であるかのような印象をますます与えている(クーイ)
睡眠障害の子どもがADHDになる可能性は40~100パーセント
睡眠の問題は、睡眠不足、不眠、閉塞呼吸の3つに分類することができる。いずれも小さな子供に一般的で、ある研究によると幼児では20~40パーセントがこれに罹っているという。
米アルベルト・アインシュタイン医学校のカレン・ボナック(Karen Bonuck)による11,000人の子供を対象とした2012年の研究では、いびき、口呼吸、無呼吸のいずれかを持つ子が、7歳までにADHDに類似した振る舞いをするようになる可能性は、そうでない子より40~100パーセント高いことが判明している。
睡眠が子供の振る舞いにおける主要な要因であることを示す証拠はいくつもある(ボナック)
これまでの研究からは、ADHDの患者のおよそ75パーセントが睡眠の乱れを経験しており、睡眠が短くなるほどその症状が悪化することが分かっている。
またある論文では、ADHDと診断された夜間の呼吸問題を抱えていた子供が、睡眠問題の治療として扁桃腺の切除を受けたところ、もはやADHDの基準を満たしていなかったと論じている。
まずは睡眠を。子供たちにもっと睡眠をとるよう推奨
ボナックの最新の研究では、教師、両親、子供を対象とした啓蒙キャンペーンを行なっている。キャンペーンでは、クマのぬいぐるみと『おやすみなさいおつきさま』という絵本を用いて、もっと睡眠をとるよう推奨した。
この研究にあたって事前に子供たちの睡眠時間を調べたボナックは、ショックを受けたそうだ。アメリカの子供たちは、11時以降になってようやく就寝し、朝8時前には起きて通学しなければならなかった。
米小児学会は3~5歳の子供には10~13時間の睡眠を推奨しているが、現実にはそれよりずっと少ない9時間未満でしかなかったのである。
教室での問題行動は国家的な問題となっているが、睡眠不足による症状はADHDのそれに非常によく似ている(ボナック)
この説に反論する声も
こうした研究については、ごく一部の症例に過ぎないという反論もある。
米疾病予防管理センターによる最も最近の研究によると、米国内の4~17歳の子供の10人に1人にあたる640万人がADHDと診断されているが、ある専門家はその診断は概ね正しいようだと主張する。
米フロリダ国際大学のウィリアム・E・ペラム(William E. Pelham)は、「睡眠が注意すべき問題であることは間違いないが、ADHDの大部分を説明するとは思えない」と話す。しかし、そのペラムでさえ、近年ADHDと睡眠問題を抱える子供が増えていることは認めている。
彼によれば、それはADHDよりは、製薬会社がもたらした変化に関連するだろうという。1980年代から90年代におけるアメリカの最も一般的なADHDの治療薬はリタリンという興奮剤であった。この興奮剤はADHDの人には鎮静効果があるのだという。
当時のそれは4~6時間しか効果が持続しなかったが、現在のものは12時間は続く。そして現代っ子はそれを服用しているのだ。
「興奮剤が効く子供であれば、真夜中まで眠くならない。その結果、子供たちの就寝時間も遅くなる」(ペラム)
その対策として、今や夕方になると別の薬を服用する子が増えているという。抗うつ剤やメラトニンの類だ。
via:sleepreviewmag / independent / sciencealertなど/ translated by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
ADHDってのは症状であって、
発熱の原因には様々な事があるように
いろんなパターンや因果関係があるはずなのに、
「その原因はコレだ」っていう流れで、
特定のサプリとかが流通するのは怖い気がするな。
2.
3. 匿名処理班
鉛への暴露ってなに?
4. 匿名処理班
もはや世の中に情報が氾濫し過ぎて何が正しい結論なのかシロウトには判断しかねる
その道のプロである専門家や学者の間でもこうやって賛否両論な上に
更にこれに、企業や行政といった権力者による裏からの介入による印象操作も加わるとなると…
で、結局どれが正しいの?っていう
どーせ精神医療協会的な名前の組織が裏で製薬メーカーから袖の下もろてそういう論文書いてんちゃいますのん
的な発想しか出てこない
5. 匿名処理班
結局のところ『やっぱりよくわからない』って事なんだろうか…
つーか、俺(ADHD)が生まれたのなんてファミコンが登場する何年も前だぞ
6. 匿名処理班
実感としてはなんとなく分かる気はする
7. 匿名処理班
私は診断済のADHDですが、最近は朝5時30分起きで夜は10時くらいに寝てしまいます。
睡眠とADHDはあまり関係ないような気がします。
ただ、楽しみにしていたゲームや書籍などが発売されると
脳からドーパミンがでっぱなしで何時間でも起きていられます。
でもそれは、普通の人も同じなのではないでしょうか。
8. 匿名処理班
※3
原文がわかんないけど、多分「曝露」だと思う
9. 匿名処理班
「40%〜100%」と「40%〜100%高い」じゃとんでもない違いだからセクションの見出し直したらいいんじゃないかな?
前者であれば1000人中400人から1000人がそうなる、ということだけど、後者は、通常ならたとえば1000人中10人がなる症状に、この場合14人から100人がなるということだから。
10. 匿名処理班
あくまでも、ただの「説」の1つに過ぎないけど、
これが一人歩きしてADHDに無理解な人が増えそうで怖い。
11. 匿名処理班
>ADD自体が一種の睡眠障害
知ってた。
12. 匿名処理班
つーかね、ADDが一種の睡眠障害なのではなくて
根本の病(体質?)があって、その人はADDや睡眠障害、あるいはアスペ、免疫疾患が症状として出やすいんだ。
自分は全部持ってるので これらの関係には5年ぐらい前に気づいた。
体質そのものは直せないけど、それが強度に出るにいたった原因を取り除いたら
少なくとも睡眠障害は劇的に改善した、免疫疾患もかなりよくなった。 アスペとADDに関しては自分ではよくわからない。
13. 匿名処理班
ADHDと診断されたことはないが子供の頃は多動行動あったが睡眠障害なわけないわ
10時間ぐらいは寝てたもの
14. 匿名処理班
と、言うことは睡眠時間を多く取れば改善されると言う事か?そんな簡単な事ではないと思うけどね
15. 匿名処理班
睡眠不足だからADHDになるんじゃなくて、ADHDだから寝るのが下手で睡眠不足ってだけでは
16. 匿名処理班
子供が疲れきって熟睡するぐらい発散できるような場や環境が無くなってきたってことのような気がする。もしそうなら都市部と郊外、どれぐらいの頻度で外で遊ぶかで変わってきそう。
でもADHDって1つのことに集中するのは苦手でも、逆に言えば広く浅く多様なことに結び付く能力があるわけで、結局のところADHDってそこら中に情報が溢れる都市化・情報化社会に人類が適応した1つの形なんじゃないかな。何か必然性があるから増えているはずだよね。
17. 匿名処理班
いやいや、めっちゃ寝てた子供のときでも忘れ物はクラス1やったわw
18. 匿名処理班
子供の頃は親が厳しかったからいつもしっかり寝てたよ。
でもADHD だったわ
しっかり寝ててもおかしいもんはおかしい
19. 匿名処理班
よく食べて良く動いてよく学んでよく眠る。
大事なことです
20.
21.
22.
23.