ノーベル賞の期待がかかるリチウムイオン電池

次世代革新電池を含めた産業競争力を支配する知財

2017年9月28日(木)

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 恒例のノーベル賞発表の時期になった。10月2日にはノーベル生理学・医学賞、3日は物理学賞、そして4日には化学賞が発表される。中でも筆者が注目するのは化学賞だ。今年の候補者のひとりとして、横浜桐蔭大学の宮坂力・特任教授の名前がメディアで採りあげられた。同教授のぺロブスカイト型太陽電池に関する論文は多くの論文に引用されており、それと共に多くの研究者が追随する形で研究を盛んに行っているとのことで、実用化が期待されている。

 化学賞で言えば、ほかには東京理科大学の藤嶋昭・学長が先導してきた光触媒も以前から有力視されてきた。光触媒は1967年の本多・藤嶋効果の発見に基づく原理応用技術である。自浄機構や抗菌効果を持つことから、既に高速道路のトンネル内やビル、家屋の壁へのコーティング、あるいはトイレにと、その実用は多岐に亘り社会に貢献している。

 アルフレッド・ベルンハルド・ノーベル(1833~1896年)の遺言によれば、物理学賞と異なって、化学賞は社会への貢献実績が重要視されている。その意味では、ぺロブスカイト型太陽電池は、現在実用されているシリコン系や化合物系のCIGS(銅-インジウム-ガリウム-セレン)系に対し、新たな価値をもたらすものとして期待されているものの、実用での社会的貢献という視点では、むしろこれからと言えよう。

 そしてもう1つ、実用という観点で社会を大きく変革してきた典型的なものとして、リチウムイオン電池(LIB)があげられる。社会を変革したという観点では、光触媒よりもインパクトが大きい。今現在、LIBがこの社会に現れていなかったらと想像してみよう。モバイル機器と電動車では以下のような状況であっただろう。

LIBがもたらした社会的インパクト

 スマホ、タブレット、デジカメ、ノートPC、そして電動工具といったモバイル製品では、今やLIBなしでは商品として成立しないものばかりである。LIBがなかったとしたら唯一、ニッケル水素電池がその代替品となる。1995年頃から広まり始めた携帯電話は当初、ニッケル水素電池が適用されていた。筆者も同年に購入したが、使用してみると、分厚く、ズシリと重く、使用時間も現在の半分程度であった。その延長で現在のような高機能なスマホやタブレットを考えると、消費電力の観点だけでも、ニッケル水素電池では製品としての成立性は乏しく、結果としてはスマホやタブレットは実用化されていなかったかもしれない。

 ノートPCにしても、LIBの作動電圧3.6Vの3分の1である1.2Vのニッケル水素電池では、体積と質量がとても大きくなり、ビジネスバッグの中に持ち歩くスタイルはなかったはずだ。

 同様に、電動工具もニッケル水素電池であれば設計は可能であるものの、大きく重くなり、そして使用可能時間の問題もあり、作業効率としては大きく見劣りする。現在、LIBを採用した充電式電動工具は、ニッケル水素電池やニッカド電池採用の電動工具に比べて、非常に軽量となり、コンパクト性、使用時間の拡大という付加価値が認められている。その結果、価格は高くても、LIB搭載の電動工具が選ばれており、コード式をも置き換えるまでに成長し続けて、市場が拡大している。これは取りも直さず、LIBでの高容量化技術と高出力化技術が具現化されてきた恩恵にほかならない。

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「ノーベル賞の期待がかかるリチウムイオン電池」の著者

佐藤 登

佐藤 登(さとう・のぼる)

名古屋大学客員教授

1978年、本田技研工業に入社、車体の腐食防食技術の開発に従事。90年に本田技術研究所の基礎研究部門へ異動、電気自動車用の電池開発部門を築く。2004年、サムスンSDI常務に就任。2013年から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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