早朝5時、出かける前にNetflixで『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』を観た。
マジでしんどい。怒涛も怒涛。なんで観たんだ俺。
乃木坂46というグループは例えるなら『吹奏楽部』なんだと思った。一見するとおとなしめの女の子達、自分を表に出すことがどちらかと言えば苦手。 でも心の中ではちゃんと目指している自分があって憧れを抱いている。そんな印象があった。
冒頭で、数多くのシングル曲のセンターを務めた生駒里奈が故郷に凱旋するというシーンがあって、中学生の生駒はまさに吹奏楽部に所属していたことが語られる。
生駒「底辺だったんで。スクールカーストの、はっきりと三角形のここ(一番下)って感じ。かわいくするのが嫌いだったので。かわいくすることイコール目立つこと。目立たなかったらいじめられることもなかったので」
中心メンバーの西野七瀬もそうだ。人見知りな性格の西野は小さい頃からパソコンで絵を描くのが好きなおとなしい女の子だった。西野の母親はそんな娘をなんとか変えたいと中学生の頃に女子バスケ部に所属させた。だが、反りが合わず「苦手な女の子の声がずっと頭に響いて眠れない」とすぐに辞めることになったという。
西野「パソコン上で友達はいましたよ。特定の一人の人とずっと友達だったりっていうこともあったし」
母「七瀬はおとなしい、自分の意見を言わない。人見知りな性格で集団行動がとにかく苦手だった」
生駒、西野だけじゃなく、乃木坂46というのはいかにも「アイドル!」というタイプのメンバーが少なく、学生時代から陽のあたる場所だけを歩き、当然のように「アイドル」という職業を選ぶ、というよりは、日陰にいる自分を変えたい変わりたいという理由からあえて「アイドル」を選んでいる娘が多い。あの白石麻衣ですら「中学で引きこもりになった」と語っていたくらいだ。これが、このオンナが。
乃木坂を吹奏楽部とするなら、ライバル的位置づけでもあるAKBをはじめとする48グループはいわば『女子バスケ部』、元メンバーの高橋みなみ、大島優子、篠田麻里子とかのゴリゴリ感からもそう感じる。1年早く生まれたくらいでお前は神なのかよ?みたいなアレ。Baby! Baby! Baby!好きですありがとうございます。
48グループが総選挙のステージではつらつとファンへの感謝や自分のこれからを語る結婚式ならば、乃木坂は葬式。冠番組の『乃木坂工事中』の選抜発表の回では全員親殺されんかお前みたいな顔をしながら、
「あのぉ…私はぁ…前回も選抜に選ばれなくてぇ…ウウ…ほ、他のメンバー達のぉ…がんばりを見ててぇ…す、すっ、すっごい…毎日不安でぇ…これからぁ…ヒッグ…アイドルとしてぇ…なっ、なにを目指していけばいいのか…わっ、わからなくてぇ…ヒッグ…」
と声をつまらせる。えっ?キミ、選ばれたんだよね…?
劇中でもそれは変わらず、2ndシングル選抜発表でも選ばれたメンバーも通夜、選ばれなかったメンバーも通夜。選抜発表だけじゃなく、デビュー直後の寮での生活、レッスン中のガチダメ出し、恋愛記事のスキャンダルを他のメンバーに打ち明ける、などなど。「光」ではなくあえて「闇」の部分を映したエピソードが魔王城みたいなBGMをバックに次々と流れる。
特に『16人のプリンシパル(暗黒武術会)』というミュージカルの選抜メンバーを決めるオーディションへのシーンが地獄。メンバー全員の中から自己PRを受けて観客が投票を行い舞台に立つ16人のメンバーを決めるというもの。そう、はっきりと「選ばれる者」と「選ばれない者」が明確になる場。そこで、選ばれなかった松村沙友理と選ばれた生駒里奈が言い合いをするシーンが映される。おい、おい、やめろ。
「ダイレクトにお前センターの癖に1位じゃねぇな、みたいな。それがイヤというか苦しくて。嫌なのにこう、ドンドンドンドン胸を殴られてる」シングルでは常にセンターに置かれるも高い順位になれない生駒。
「人間として選ばれるか選ばれないか、みたいな」シングルでは選抜の常連メンバーでも舞台では選ばれない松村。
「あたしと仕事をしたくない人がいっぱいいるんだよ、みんなあたしと仕事したくないんだよ。だからみんなあたしのこと選ばないの。だからもうあたしもう向いてない、辞めたほうがいい、あたしここにいないほうがいい」
「じゃあ、まっつんウチはどうなの」
「でも生駒選ばれてるじゃん」
「ウチだってそうだよ。これが実力なんだよ。選ばれたのが実力なの。それを受け入れて演じなきゃいけないの。そんなこと言ってらんないんだよ、ちゃんと自分のできることやってれば大丈夫なんだって」
「でもね、あたしはね、できることがなにもないの、ダンスもなにもできないの」
「できることなにもなかったらここにいないでしょ。ウチだってできることなにもないのにここにいるんだもん」
「生駒はダンス上手いじゃんか、夢おっかけてここにきたんでしょ。わたし今やりたいことがわかんないの。みんなの生活見ててね、わたしね大学行けたのホントは、大学受かってたし。あの学力だったら普通に合格できてたの。それを全部捨ててここに来たの」
「ウチだって友達とか捨てて来たさ」
「でもね、いまね何をやったらいいかわからないの」
「みんな一緒だよ」
「じゃあまっつん以外のみんなはなんなの」
「でも、みんなはね。他のみんなはね」
「他のみんなとかそんな悲しいこと言わないでよ」
「アンダーだったからさ、出る機会も少なかったじゃん。ウチはね、いっぱい出させてもらってたの色々。雑誌にも出させてもらったし、一緒にお仕事した人だっていっぱいいるのにね、誰にも選ばれなかったのよ」
「それって関係あるのかな。自分で頑張ったからそこにいるんだよ。今までやってきたこともそうかもしれないけどさ」
「でもね、生駒はねなにもできないって言ってもね、頑張ってきたからいま選ばれたんでしょ」
「じゃあまっつんは頑張ってこなかったの。なんでそうやって悲しいこと言うの。そんな悲しいこと言わないでよ」
あ、もうダメだ。ゲボ出る。比べるの申し訳ないんですけど、高校の文化祭で放課後残る残らないでモメてた女子同士のケンカ思い出した。自分でも何言ってるか、何が言いたいのか、わけわかんなくなってるとこなんてもうそっくりだよ。
生駒の選ばれてない松村に対しての「これが実力なんだよ。選ばれたのが実力なの」だとか、松村の「他のみんなはね、アンダーだったからさ、出る機会も少なかったじゃん。」
とか、サラッと奥底にある汚い本音が見え隠れしちゃうのが辛すぎてこんなん映すなお前、絶対映したら駄目だろ。こんなエゴ100%の、人間として1番見られたくない部分を容赦なく映す運営、シンプルに鬼。
その後も、4枚目のシングル『制服のマネキン』で復帰した秋元真夏と代わりに七福神(フロントの7人)から外された西野七瀬、二人の心境が語られる西野「(外されて始めて)自分が負けず嫌いだということに気づいた」、秋元「どこからの目も全部が怖かった。嬉しさはなかった」、6枚目シングル『ガールズルール』で初めてセンターから外れた生駒はメンバー発表会で白目を剥いて倒れ、白石はセンターに抜擢されるもプレッシャーからか過呼吸になって泣きじゃくる。
そこからの、
「(白石)いくよぉ〜〜〜〜〜!!ガールズルール!ハァーーーーイ!」
じゃねぇよ…直視できねぇこんなの…。どんな気持ちで見りゃあいいんだよ…。人の笑顔見て泣いたの初めてだわ。
8枚目シングル『気づいたら片想い』で始めてセンターに選ばれる西野七瀬。顔は案の定、通夜。AKB48との兼任を打診されて承諾した生駒。他メンバー、通夜。橋本奈々未の入院…生田絵梨花の活動休止……。それでそこから『君の名は希望』のライブ映像が流れる。「希望とは明日の空」…こんなもん泣くに決まってるだろうが。
それで、やっと一息つけるわ…と思ったらそこから間髪入れず「ハレンチ 不倫 路チュー」ォゲェェーーーーッ!!
当然のように映される他メンバーへの釈明。鬼かテメェら。メンバーに当時のことを振り返っても一人ひとり感じ方が違う。飾らない言葉が痛い。痛すぎる。
「メンバーの皆にも嫌われるなって、思いましたね」
「色で例えると白だったのが灰色になったわけじゃないですか」
「それに気づけなかった自分も松村もなんでそういう抱えてる事とか言ってくれなかったのかなって」
「一番何だコイツって思うのはお相手の男性です」
「こんなに乃木坂に影響を及ぼすとは思ってなかったです」」
「怒り?ああ、はい、いやみんな怒ってたと思いますよ、怒ってない娘いたのかな。そりゃ少しは怒りますよ」
…この事件が影響してかしてないのかはわからないが、この年乃木坂は紅白歌合戦の出場を逃した。それでもアイドルにしがみつく松村。観ながら思わず「助けてくれーーーーーーー!!」と叫んだ。
…ここからようやく「光」にスポットを当てた映像が続く。生田が出演したドラマ『残念な夫』、伊藤万理華や齋藤飛鳥の雑誌撮影、握手会、若月佑美の舞台、西野七瀬のラジオ、そしてデビュー3周年記念の西武ドームでのコンサートの様子が映し出される。ずっと水中で息止めてて死ぬギリギリで空気吸った、みたいな感覚。短っ…。
ラストシーンもかなり印象的だった。7枚目シングル『バレッタ』で研究生から突然センターに選ばれた堀未央奈。バレッタ以降、堀はセンターに再び選ばれることはなく位置も一列目から二列目、三列目と落ちてしまう。
「落ちていく自分、自分ではない自分、葛藤していた。乃木坂を辞めるか、髪を切るか。そして娘は髪を切った」
なんちゅう終わり方だよ…。希望とは明日の空…。
言ってしまえば、そう、毎日が葬式、毎日が通夜。こんだけやってやっと陽のあたる場所に立てても、歌番組に出れば「口パク」だの「ブス」だの「ヘタクソ」だのと叩かれる。ネットを開きゃ「整形」だの「枕営業」だのと有ること無いこと書かれる。いくらトップアイドルとは言っても、二十そこそこの女の子が背負うにはあまりにも重い荷物なんじゃないか。夢を追いかけるってのはこんなにも辛いものなのかと涙がボロッボロ出た。それでも、その中でも、必死に光を探し続ける彼女たちの姿に心を撃たれて、とりあえずスルーしてた新しいシングルをiTunesでポチった。 それくらいだ、俺が彼女らにしてやれることなんて。
ふぅ…と映画を観終わり、身支度を整えるために鏡を見るとそこに映っている二十代後半の小汚い男からガッツリ鼻毛が出てて、こんな顔で彼女らを見て、とうとうと偉そうなことを思っていたテメェに愕然とした。
「何にもわかっていないんだ自分のことなんて」
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