最近、「節税しながら自分の年金が積み立てられる」という特徴が注目され、個人型確定拠出年金 iDeCo が話題になっています。
個人型確定拠出年金 iDeCo にはデメリットもあるがメリットのほうが断然注目すべきで、「入らないと損」とさえ言っている広告をたくさん見かけます。
しかし、デメリットをよく検証せずに加入するのは、非常に危険です。
デメリットを1つ1つ自分に当てはめてみて、自分にはどういうリスクがあるのかをよく考えたうえで、加入するかしないかを慎重に検討するべきです。
デメリットをよく理解せずに個人型確定拠出年金 iDeCo に加入してしまうと、せっかく積み立てた年金が元本割れして損をすることにもなりかねません。
そこで、加入することでメリットよりもリスクが大きいと思われる「個人型確定拠出年金 iDeCo に加入してはいけない人」を考えてみました。
もくじ [非表示]
個人型確定拠出年金 iDeCo に入らないほうがいい人
- 収入が低く所得税をあまり払っていない
- 控除されるものが多い人(扶養控除、住宅ローン控除など)
- 貯蓄があまりない人
- 数十年間、金融商品を管理する時間や自信がない人
- 年金や退職金が多い人
上の5つのタイプの人が、なぜ入らないほうがいいのかをこれからお話ししていきたいと思います。
1. 所得が低い人は節税効果が低い上に毎月の掛金が負担になる
個人型確定拠出年金 iDeCo の最大の特徴は、掛金分全額が所得控除の対象となり、節税できるという点です。
しかし、もともと所得税をあまり払っていない低所得の人が個人型確定拠出年金 iDeCo に加入しても、その節税効果は微々たるものです。
また、今現在は収入が高く節税効果が十分あるという人でも、この先、夫がリストラに遭う・失業する、妻のパートの収入が減るなどして、所得税が非課税になってしまうことだってあり得ます。
所得税が非課税になると、無理をして掛金を拠出し続けたとしても税金を払っていないため、個人型確定拠出年金iDeCoの節税という恩恵は受けられません。
何より、少ない収入の中から毎月の掛金を拠出するのは大きな負担となるでしょう。
2. 所得控除が多い人や住宅ローン控除がある人はメリットが十分生かされない
個人型確定拠出年金 iDeCo の掛金は、健康保険・雇用保険などの社会保険と一緒に、先に所得から差し引かれ(所得控除)、残った金額(課税所得)からその人の税金を計算する仕組みになっています。
そのため、扶養家族がたくさんいるなど所得控除されるものが多い人は、課税所得が少なくなるため、節税のメリットを生かせないことがあります。
また、所得控除されるものがたくさんあると、支払うべき税金が少なくなるため、住宅ローン控除のメリットが十分生かされない場合があります。
分かりにくいので、所得税を計算する際の所得控除と住宅ローン控除の関係を図で表してみました。
支払う所得税は、下の1~3の順番で計算されます。(1の所得とは、給与所得控除を引いた所得とします)
- (給与所得控除後を引いた)所得から基礎控除、扶養控除、年金や健康保険、雇用保険、個人型確定拠出年金 iDeCo の掛金などを引きます(所得控除)。
- 残った金額に税率を掛けてその人の所得税を計算します。
※参照)所得税の速算表 国税庁
- 2で算出された所得税から住宅ローン控除分を引くと、実際に払う所得税が出ます。
つまり、所得税額より住宅ローン控除額のほうが多いと、住宅ローン控除を生かすことができないので損になるのです。
住宅ローン控除を受けている人で個人型確定拠出年金 iDeCo への加入を検討している人は、あと何年どれくらいの住宅ローン控除が受けられるのかを必ず確認しましょう。
住宅ローン控除とは?
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用してマイホームを購入した場合、年末時点のローン残高もしくは取得対価のどちらか少ない方の金額の1%(年間最大40万円まで)が10年間にわたり所得税から控除される制度。
所得税から控除しきれない場合は住民税からも一部控除される(最大13万6500円)。
3. 途中解約できないので貯蓄があまりない人は突然の支出に対応できない
また、毎月貯蓄する余裕がない、貯蓄があまりないという人も、加入には慎重になるべきです。
将来、子どもの教育資金、あるいは病気になって治療費や入院費が急に必要になるなど、予期しない支出は必ずあるものです。
そんなとき、十分な貯蓄がなく、足りない分を個人型確定拠出年金 iDeCo に積み立てたお金で補填したいと思っても、個人型確定拠出年金 iDeCo は、60歳以降の受給可能な年齢になるまで解約して現金化することはできません。
今目の前で必要なお金が出せずに教育ローンを組み、一方で老後のために積み立てをするというのもおかしな話ですよね。
個人型確定拠出年金 iDeCoでいくら節税しても、教育ローンの利子を払うなら意味がありません。
また、収入が減って掛金の拠出が難しくなったから脱退したいと思っても、個人型確定拠出年金 iDeCo は一度加入してしまうと、途中でやめることはできません。
月々の掛金の拠出はやめることはできますが、その場合でも、口座の運用指図者※となって今までに拠出した掛金を運用していかなければならないのです。
当然、毎月かかる口座管理手数料は支払い続けなければなりません。
口座管理手数料の分を補うために、今まで拠出した掛金を運用して増やすという手もありますが、そこまで収入が下がっている中で、元本割れするかもしれない投資信託に投資するのは勇気が必要ですよね。
しかも、個人型確定拠出年金 iDeCo の投資信託は、運用時に出た利益は非課税ですが、運用するには信託報酬という手数料がかかります。
これらの手数料分をカバーできるだけの利益が得られる保証はどこにもありません。
それどころか、運用結果によっては元本割れする可能性もあります。
人生何が起こるかわからないのです。
突然の支出に対応できるだけの貯蓄がなかったり、将来のライフプランがきちんとできていない人が加入するのは、無謀とも言えるでしょう。
※運用指図者とは
新たに掛金を拠出せず、口座を通じて金融商品の運用だけを行う人
4. 数十年間、金融商品を管理する時間や自信がない人は危険
個人型確定拠出年金 iDeCo に加入すると、定期預金タイプか投資信託を選んで、自分で積み立てたお金の運用を行っていかなければなりません。
投資信託に関しては運用するにあたって、次の3つのリスクがあります。
- 投資信託は自分で管理しなければならない
個人型確定拠出年金 iDeCo への加入を期に投資信託を始めてみようと思っている人もたくさんいるかもしれません。
一般的に、投資信託はその運用はプロが行う仕組みになっているため、初心者でも始めやすいと言われています。しかし、プロに全て任せっぱなしでOKという意味ではなく、メンテナンスは常に自分で行っていかなければならないのです。
- 投資信託には信託報酬という手数料がかかる
投資信託では信託報酬という手数料が毎月かかってきます。
商品によってはそれ以外の手数料が必要になってくるものもあります。運用益が非課税であるという点だけが大きく取り上げられていますが、運用益のことを考える前に、まずこういった手数料が必要であるということを理解しておくほうが先でしょう。
- 投資する商品は購入も運用も慎重に行わなければならない
投資信託商品を選ぶ際には、目論見書(投資の目的やリスク、運用実績、信託報酬の金額、その他手数料が詳しく書かれたもの)をよく読んで、それぞれの商品の特徴をよく理解し、比較したうえで、どの商品にどれだけ投資するかなど、よく検討して購入しなければなりません。
また、購入後も、自分の購入した投資信託がどんな金融商品に投資したか、その運用結果などを、定期的に送られてくる運用報告書でチェックして、自分の資産をどのように運用していくか常に考えていかなければなりません。
投資信託はリスクがありそうだから、元本が保証されている定期預金や保険商品を選ぶという人もいるでしょう。
しかし、定期預金のほうは、現在の利率は高くても0.100%ほどであるにもかかわらず、毎月の手数料がかかっています。
また、保険商品の場合は、途中で解約すると元本割れする場合があります。
つまり、元本保証型の定期預金や保険商品を選んだからといってリスクがないというわけではないのです。
今までにも投資経験があり、経済の動きに敏感だという人には、こういった手間や必要な知識に問題はないかもしれません。
しかし、全くの投資初心者で、経済にそれほど関心もない、どちらかというと毎日の生活に追われているような人が、60歳以降年金がもらえるようになるまでずっと金融商品を管理し続けるとすると、それは負担が重すぎるのではないでしょうか。
5. 年金や退職金が多い人は、個人型確定拠出年金 iDeCo の受け取り方に注意
個人型確定拠出年金 iDeCo は、高所得で税金をたくさん払っている人ほど節税効果がありますし、デメリットも高所得の人にはあまり関係ないかもしれません。
しかし、高所得で年金額が多い人や退職金が多い人は、個人型確定拠出年金 iDeCo の給付金を受け取るときに課税される可能性があるという落とし穴があるのです。
公的年金は、受け取り時に65歳未満は70万円まで非課税、65歳以上は120万円まで非課税になる「公的年金等控除」が受けられます。
また、退職金は、「退職所得控除」により、税金の優遇が受けられます。(退職金の額などによって変わってくる)
個人型確定拠出年金 iDeCo も「公的年金控除」、「退職所得控除」の対象となるため、年金が少ない人や、退職金がないまたは少ない人は税優遇が受けられるのでメリットになるでしょう。
しかし、年金や退職金が多い人は、受け取り方を工夫しなければ受け取り時に課税されることになってしまいます。
個人型確定拠出年金 iDeCo の受け取り方には3種類あります。
- 一時金として一括で受け取る
- 年金として受け取る
(65歳未満は70万円まで非課税、65歳以上は120万円まで非課税) - 一時金と年金の併用
- 公的年金が多い人は
個人型確定拠出年金 iDeCo を一時金として受け取る - 退職金が多い人は
年金として受け取るか年金と一時金の併用にする
など、自分が年金や退職金をどれくらいもらえるのか調べて、税金がかからない受け取り方を考えなければなりません。
さらに、受け取り時に課される税金として、退職所得や年金の額に関係なく全ての人に課税される特別法人税というものがあります。
特別法人税とは
企業年金(厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金)の積立金(拠出金+運用益)に対して、年率1.173%(国税1%、地方税0.173%)を課税するもの。
しかし、景気の悪化に伴い1997年から課税凍結されている。
現在まで課税凍結が何度も延長されており、平成32年3月31日まで課税凍結されることが決まっている。
現在は凍結されているが、これが復活すれば、個人型確定拠出年金 iDeCo も課税されることになる。
特別法人税は、確定拠出年金制度が始まった2001年10月から一度も課税されたことはなく、完全廃止が国会でも議論されているが、完全廃止には至っていない。
将来特別法人税が復活した場合、個人型確定拠出年金 iDeCo は受取時にも非課税というメリットは失われることになります。
将来、私たちが年金を受け取る数十年先の税制がどうなっているかなんて、誰にも分からないのです。
老後のために資金を増やしたいならNISAがオススメ
老後のために少しでも資産を増やしたいが投資は初心者で不安だという人は、NISAから始めてみるのがオススメです。
NISAとは「少額投資非課税制度」のことで、下記のような特徴があります。
- 上場株式や投資信託などで得た利益が非課税(通常は20%ほどの税金がかかる)
- 年間120万円までが非課税
- 非課税期間は投資した日から5年間
- 手数料がかからない
- 非課税枠は1度しか利用できないので、何度も売却することはできないが、好きなときに売却し、現金化できる
- 商品の数が多い
個人型確定拠出年金 iDeCo と大きく違うNISAのメリットは、自分の好きなときにいつでも売却して現金化できるところです。
個人型確定拠出年金 iDeCo の加入を前向きに検討したい人
この記事では、個人型確定拠出年金 iDeCo に入らないほうがいい人とその理由をお伝えしました。
しかし、入らないほうがいい人に当てはまらない、下記のような人は加入を前向きに検討してもいいのかもしれません。
- 自営業者
- 国民年金だけでは十分ではない
- 退職金がないので、受け取り時に課税される可能性が低い
- 自己破産しても個人型確定拠出年金 iDeCo の積み立て分は確保される
- 貯蓄が十分ある人(個人型確定拠出年金 iDeCo を途中解約できなくても困らない)
最後に
個人型確定拠出年金 iDeCo に加入するかしないか決める際には、世の中の流れや情報、目先の利益に流されることなく、長い目で見た場合のメリットとデメリット、特徴を理解して、自分の家計や将来設計をよく考えて判断するべきだと言えるでしょう。