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どうもミステリ警察です。
ろくにミステリに対して愛も知識もないこんな輩に、何の解説を求めるのかって話ですが。
「最初から犯人がわかってるのがサスペンスなので古畑やコロンボはサスペンスだ!」って、いやいや……。
こうやって内容を読んだ上で、きちんと指摘しているコメントがついているのに管理人はスルーしてスターを付けないのってどういうことなんだろう?
最近は、互助会だとかマジでどーでもいいんですが、
「そうだったんですか!知りませんでした!!」みたいな社交辞令だけの「なんでも褒めてくれる」ひとしか読者にならないのは不幸だと思う。
ただ「倒叙ミステリも知らねーのか」なんてマウントを書いても仕方ないので、以下でサスペンスとミステリの差異について少し考えてみる。
なぜサスペンスではなくミステリなのか?
なぜミステリではなくサスペンスなのか?
少しはマシなものが書けるかと。
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古畑はサスペンスではない
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記事から根拠を引用すると、
サスペンスとは、物語の中で追いつめられる犯人への感情移入による緊張感や、その事件を追う過程で味わう不安感や緊張感を楽しむ作品です。
代表的で分かりやすい映画作品は「刑事コロンボシリーズ」や「古畑任三郎シリーズ」などの犯人が最初から明らかな作品があげられます。
ただ、犯人が最初から分かっている作品というのは少ない為、どちらかというと犯人を追い詰める過程や謎解きを行う時の不安や緊張感を味わう作品のことをサスペンスしているようです。
“サスペンスしているようです”……え?
「調べた」と書いている割にこのジャンル認識に関してのソースが無い。
調べたなら情報ソースを示してほしいものですが。
これは、以前から出ている誤情報(デマと呼ぶほどではないか?)でして。
一説には、水野晴郎氏がこういう極論を語ったという。
だが当時の記事を調べてみると面白いものが出てくる。
今田が司会の「知ったかぶりクイズ あなた説明できますか」という番組で以下のようなことがあったのだそうだ。
このとき「名探偵コナン」はミステリーで「古畑任三郎」はサスペンスであるというフリップが。これは用意された「解答」に従ったものだという。解答を聞く相手として登場したのは水野晴郎。おいおい。というセレクトの問題は一旦おいといて。質問を投げかけられて彼が違いを説明した後で番組的にまとめられた「解答」は、「ミステリーは最後に犯人が分かるもの。サスペンスは最初から犯人がわかっているもの」(具体的な文言は違ったかもしれませんがこういう趣旨の内容)だったのだ。
というところだけ取り出すと水野晴郎を非難したくなるのは当然である。が、彼の説明自体はここまで極端ではなかったのだ。「ミステリーは視聴者が一緒に謎について考え犯人を探し、サスペンスは最初から犯人がわかっていてハラハラドキドキする」というような言い回しで「違いは犯人がいつわかるかである」と言ったわけではないのだ。
知ったかぶりクイズ あなた説明できますか - Dailyscape Fragments
※太字部 管理人注
水野晴郎氏が、こんな極端なジャンル認識を語ったわけではなく、番組スタッフが曲解したものが解説として表示され、その歪んだ認識が現在もこうやって出回っている、というのが正しい。
そりゃあ水野氏は多くのサスペンス映画を観ているわけですからこんな認識をするのはおかしい。
出典の時点で歪んだ認識だったわけですね。
どこで読んだか知らないが(多分どっかのNAVERかなんかで)「サスペンスとは~ミステリとは~」なんてのを読んで記事を書いたんだろう。
実に魂が震える。
メタ
では、上記の分類のどこに誤謬があるか?
ここでサスペンスは、観客(読者)を「ハラハラさせる」ことを主眼とし、ミステリは「謎」に主眼があると仮定する。
あくまでも「主眼」であり「要素があるかないか」ではない。
例として挙げている「古畑任三郎」。
古畑役の田村正和が、スポットライトを浴び視聴者に向けて語りかける。
「え~、犯人はどうして犯行に及んだんでしょうハンマカンマ~」
古畑が作中と作外に存在するメタな場面。
あれはミステリ小説の「読者への挑戦状」と同じ。
あれにより物語の「謎」にスポットを当て、視聴者を誘導する。
ここからは微妙ですが、古畑の場合、犯人側視点のサスペンス的な「ハラハラ」演出より「古畑が犯人を言い当てたポイントは何だったか?」という謎にフューチャーしているからこそ倒叙ミステリと呼べる。
ヒッチコックがサスペンスの巨匠と呼ばれるのは、「ハラハラ」の緊張感を最後まで持続するからであり、謎解きによる減速がないからでもある。
「北北西に進路を取れ」しかり、「裏窓」しかり。
もし古畑をサスペンス作品にするのであれば、メタな挑戦状のシーンを挟まず、犯人の隠蔽工作が気づかれるか気づかれないかという犯人側視点だけで描き、ハラハラ演出だけに主眼を置けばいい。
だがあの「視聴者への挑戦と謎の提示」があることによって、古畑は倒叙ミステリになっているとも言える。
ちなみにですがコロンボの場合「さらば提督」や「騙されたコロンボ」などのように倒叙構造ではない回もある。
サスペンスの名作
典型的なサスペンスで思いつくのは、小説ならウィリアム・アイリッシュ「幻の女」とか。
映画ならルイ・マル「死刑台のエレベーター」なんてどうでしょう。
あれこそ実にサスペンスフル。
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犯人は自殺に見せかけて殺害するが、その隠蔽工作の途中でエレベーターが止まってしまう。
これは「ハラハラ」のサスペンスですし、犯行の「謎」に主眼はない。
マイルスがリアルタイムに録音したBGMもハラハラの演出に一役買ってる。
作中の「謎」の提示はミステリにおいてはフェアであり、視聴者、読者に対して手がかりが与えられる。
しかしサスペンスでは必ずしも謎に対しての手がかりは与えられるとは限らず、だからこそどんでん返しやハラハラ感などに主眼がある、という考え方もあるかもしれない。
ミステリとサスペンスの曖昧な境界
ただ「ユージュアル・サスペクツ」みたいにカイザーソゼは誰なのか?という部分に主眼を置きながら結局あーいうトリックを仕掛けられてしまうとなかなか難しい。
全編サスペンスフルなのにもかかわらず、*1作中「誰も素顔を知らない伝説の悪党カイザーソゼとは誰なのか?」という単純な謎を中心として、チャズ・パルミンテリ演じるクイヤン捜査官の頭の中だけに仕掛けられたトリックを観客は、映画を観ながら共有する構造になってる。
作中世界では何の謎でもないわけです。
なにせほとんどの関係者は死んでるが、知ってるやつが顔を見れば一発でソゼってわかる。
だからあの映画においてのトリックは映画「サスペリアパート2」などと同じく「作中人物が作中人物に対して仕掛ける」トリックではなく「作中人物や映画製作側が観客(作外)に対して仕掛けるトリック」だということでして。
だからあの作品はハラハラするのにもかかわらず、そのメタな謎のせいでミステリと呼びたくなってしまう。
サスペンス・ミステリでいいのかもしれない(逃
元も子もない言い方をすれば、サスペンスもミステリも
「編集者がそう思って売り出せばそれはサスペンスでありミステリでありサスペンスミステリだ」
というのが真理ですし、更にはサスペンス・スリラーなんてものまで出てくるもんですからもはやカオスなんですがね。
厳密なジャンル分けが難解だからこそ、こういう話が定期的に出ては結論が出ない。
ハラハラがサスペンスでドキドキがスリラー……うわぁ。
犯人不在
ちょっと整理します。
・サスペンスとミステリは重複しうる
・ミステリがなくてもサスペンスは成立するし、サスペンスがなくてもミステリは成立する
・犯人がいなくてもサスペンスもミステリも成立する(日常の謎系、パニック系、動物系サスペンス)
・最初から犯人がわかっていてもミステリは成立する(倒叙ミステリなど)
・途中で犯人がわかってもサスペンスは成立する
・船越英一郎が出てきてもミステリである可能性はあるが、崖に立って犯行の動機を語るときはサスペンスの可能性が高い
途中で真犯人がわかるサスペンスなんてなんぼでもある。
「火曜サスペンス劇場」みたいに雑なワードの消費によってジャンルの語義はすっかりブレている。
テレビや出版社が安易にサスペンスだのミステリだの呼称する事で千差万別なジャンル認識が生まれてしまった。
ちょっとハラハラする要素があればサスペンスと呼び、多少の謎があればミステリと呼びたがる。
要は、作品の中でハラハラと謎の「どちらに主眼があるか、比重があるか」の差でしかなく、だからこそ「ハラハラするし謎もある」作品はハンパなサスペンス・ミステリという雑な呼ばれ方をしてしまう。
ちょっと懐かしい「大統領の陰謀」は社会派サスペンス。
犯人が云々なんざ関係ございません。
さらにこれにスパイ要素が加わると今度はジャンルが変わって「エスピオナージ」と呼ばれるんですね……ジャンル沼。
最後に少し、具体例を幾つか挙げてみる。
犯人云々が必要ないのは日常系ミステリだけではなく、
井沢元彦「猿丸幻視行」、ジョセフィン・テイ「時の娘」や鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」みたいに「犯人」がいない歴史ミステリも多く存在する。
「探偵スルース」なんて、ジャンルはとても難しい。
「探偵」とタイトルに有るのでミステリかと思いきや、思わぬ展開で二転三転。
謎に主眼があるというよりハラハラの展開が面白いが、ただとあるトリックが実によくできてる。
観るのであればリメイクではなく、このローレンス・オリビエとマイケル・ケイン版*2をぜひどこかのレンタル屋で探して観ていただきたい。
本当に名作なので。
マイケル・ケイン最高っす(マンセー)。
まとまってないですが、今日は体調がイマイチなんでこんなもので。