福島第一原発 1・2号機の核燃料取り出し 3年遅れに

福島第一原発 1・2号機の核燃料取り出し 3年遅れに
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福島第一原子力発電所の廃炉の工程表が2年ぶりに見直され、1号機と2号機の使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始める時期について、政府は、がれきの撤去や除染などを慎重に進めるとして、前回の工程表より3年遅らせ、2023年度をめどとすることを決めました。
福島第一原発の廃炉への道筋を示す工程表は、対策や調査の進展を踏まえ政府の会議で26日、2年ぶりに見直されました。この中で、議長を務める菅官房長官は「福島第一原発の安全で着実な廃炉は、福島の復興、再生の大前提だ。今後も困難な作業が発生することも想定されるが、しっかり進めていただきたい」と述べました。

新たな工程表では、1号機と2号機の使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始める時期について、がれきの撤去や除染などを慎重に進めるとして、前回の工程表より3年遅らせ、2023年度をめどとするとし、3号機については、これまでどおり来年度中頃から取り出しを始めるとしています。

一方、1号機から3号機の溶け落ちた核燃料が構造物と混じり合った「燃料デブリ」の取り出し方の方針については、格納容器を完全に水で満たさずに取り出す「気中工法」と呼ばれる方法を軸に進め、「燃料デブリ」を最初に取り出す号機や方法を確定する時期は、来年度上期から2019年度に遅らせますが、実際に始める時期は変えず、4年後の2021年としています。

気中工法は、放射性物質が飛散するおそれがあるため、安全対策の徹底を図ることが必要で、今後、追加の調査結果などを踏まえ、具体的な計画を立てられるかが課題になります。

一方、すべての廃炉作業を終える時期については、これまでと同じく廃炉作業を始めてから30年から40年後(2041~2051年)としています。
経済産業省は「廃炉作業を終える時期は燃料デブリの取り出しを4年後に始められる見通しがあることから、現時点では変更する必要はないと考えている」としています。

日本原子力学会の「廃炉検討委員会」の委員長で、法政大学の宮野廣客員教授は、「工程表では、これからの5年ほどは見えているが、そのあとがはっきりせずに30年から40年で終えるとなっている。せっかく見直すのなら、廃炉作業全体を通してもっとしっかり検討してほしかった」と話しています。

東電社長「責任持ち廃炉やり遂げる」

東京電力の小早川智明社長は、「地元の皆さまとの対話を重ね、地元の思いや安心、復興のステップに配慮しつつ、さまざまな課題を克服し、事故を起こした当事者として、責任をもって廃炉を安全にやり遂げてまいります」というコメントを出しました。

東京電力福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏代表が記者会見し、「この2年間の福島第一原発での作業の進捗(しんちょく)、現場の状況が反映された工程表になったのがいちばん大きく、作業をどこからやったらいいのか見えるようになってきた」と述べました。
また、使用済み燃料プールからの燃料取り出しを1号機と2号機で3年遅らせる一方、「燃料デブリ」の取り出しなど廃炉作業を終える時期はこれまでの目標を維持したことについて、「われわれとしては目標をしっかり定めて技術開発し、仕事をするのが大事だと思っている。工程表に従ってしっかりとやっていきたい」と述べました。

世耕経産相「安全確保を最優先 今後も長い道のり」

世耕経済産業大臣は閣議のあとの会見で、「安全確保を最優先に、リスク低減を重視する姿勢を堅持して、廃炉汚染水対策をしっかり進めていく。ここまで6年かかり今後も長い道のりがあると思うが、しっかり取り組んでいく」と述べました。

また、世耕大臣は1号機と2号機の使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始める時期を前回の工程表より3年遅らせたことについて、「1日も早い廃炉を期待している地元の皆さんにとっては決して喜ばしいことではないが、やはり安全を重視しながら着実に進めることが重要だ」と述べました。

専門家「自然災害リスクも考慮した具体的な設計を」

2年ぶりに見直された福島第一原子力発電所の廃炉の工程表について、日本原子力学会の「廃炉検討委員会」の委員長で、法政大学の宮野廣客員教授は「これまでの工程表もそうだが、今回の工程表でも直近の5年ほどは見えているがそのあとがはっきりせず、30年から40年で終えるとなっていて、全体の工程が見えない。廃炉を通じて必要な人材育成もしなければならず、せっかく見直すのであれば、廃炉作業全体を通してどの工程がどう続くのか、もっとしっかり検討して見通しを示してほしかった」と話していました。

また、燃料デブリの取り出しに向けて「気中工法」を軸に検討を進めるとしたことについて、「気中状態ということは、放射性物質が飛び出すおそれがあるということで、閉じ込めるための設備をどうするのかが非常に難しい問題になる」と指摘したうえで、実際にそうした設備を作るには、燃料デブリの取り出し中の事故を防ぐために、「台風や地震、津波のリスクをどう考えるかということまで評価し、具体的な設計を考えないといけない」と話し、気中工法を実現させるには検討すべき課題は多いと指摘しています。

廃炉への工程表 今は第2期

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉への道筋を示す工程表は、作業の期間を第1期から第3期までの3つに分けていて、現在は、燃料デブリの取り出しを始める前の第2期に当たります。

第1期は、福島第一原発1号機から4号機のいずれかの使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始めるまでとされていて、4号機で平成25年11月にその作業が始まったことをもって第1期は終了しています。

第2期は、第1期の終了から、溶け落ちた核燃料と構造物が混じった「燃料デブリ」の取り出しを1号機から3号機のいずれかで始めるまでとされ、4年後の2021年までに取り出しを始めるとしています。現在は、第2期に当たります。

第3期は、燃料デブリの取り出しや汚染した建屋の解体を終え、放射性廃棄物を敷地の外に運び出すなどすべての廃炉作業が終わるまでとなっていて、廃炉作業を始めてから30年から40年後までに終えるとしています。

課題は「凍土壁」などの対策

新たな工程表では、福島第一原子力発電所で課題となっている汚染水対策について、これまでと同様に2020年までに1号機から4号機などの建屋の中の汚染水の処理を終えるという計画を示していて、対策の柱とされる「凍土壁」を含めた複数の対策の効果を高められるかが課題になります。

福島第一原発の1号機から3号機では、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため、原子炉と原子炉を納めた格納容器に入れ続けている水が高濃度の汚染水となって建屋の地下などにたまっています。

さらに、建屋の山側からは大量の地下水が流れ込み、この汚染水と混じり合うため、その量は増え続けています。東京電力は流れ込む地下水の量を抑えるいくつかの対策を組み合わせて行っていて、このうち対策の柱とされる「凍土壁」は、建屋の周りの地盤を長さおよそ1.5キロに渡り、氷点下30度の液体を流してつくるもので、去年3月、建屋の下流側から順次、凍らせ始めました。

先月には、安全のため凍らせずに残していた最後の部分の凍結を始め、凍土壁はようやく完成のめどが立ち、東京電力によりますと、今のところ順調に凍結が進んでいるということです。

このほか、建屋の上流側で地下水をくみ上げて海に排水する「地下水バイパス」や建屋周辺の「サブドレン」と呼ばれる井戸で地下水をくみ上げ、建屋に流れ込む地下水の量を抑える対策も進めています。
こうした複数の対策により、建屋に流れ込む地下水の量は1日あたり400トンから100トン以下に減らせるとしています。

ただ、工程表で示している2020年に1号機から4号機などの建屋の中の汚染水の処理を終えるという計画の達成には、地下水の流入量をさらに減らすことが必要で、雨水がしみ込まないよう敷地を舗装する追加対策を行うとしていますが、こうした対策の効果を高められるかが課題になります。

保管の汚染水処分も課題

汚染水対策をめぐるもう1つの大きな課題が、敷地内のタンクで保管されている大量の汚染水の処分です。現在、汚染水100万トンがおよそ900基のタンクに保管されていますが、その量は増え続けていて、特に「トリチウム」と呼ばれる放射性物質は取り除くのが難しく、どのように処分するかが課題となっています。

新たな工程表では、国と東京電力はトリチウムを含む水について、「海への安易な放出は行わない」とこれまでと同じ方針を示しています。

一方、国の専門家チームは去年、こうしたトリチウムを含む水について、薄めて海に放出する方法が最もコストが安く、最短で処分できると評価し、別の専門家チームが風評被害などの観点を含めて処分方法を議論していますが、結論は出ていません。

使用済み燃料プールには

それぞれの原子炉建屋の最上階に設けられた使用済み燃料プールには、1号機に392体、2号機に615体、3号機に566体の核燃料があり、今も冷却が続けられ、プールの温度は20度から30度ほどで安定しています。

事故当時、定期検査中で運転を停止していた4号機の燃料プールには、1535体の核燃料があり、最もリスクが高かったため先行して取り出しが始められ、平成26年12月に取り出しを完了しています。

一方、1号機から3号機は原子炉の核燃料がメルトダウンした影響で建屋内の放射線量が高く、このうち1号機と3号機では水素爆発の影響でがれきが散乱し、撤去などが進められてきました。
しかし、作業や調査に時間がかかり、2年前に工程表を改訂した際も燃料プールから取り出しを始める時期が延期されるなどして、これまでの計画では1号機と2号機で2020年度から、3号機で来年度の中ごろからとされていました。

工程表では1号機は水素爆発で崩れ落ちた屋根の下敷きになっている燃料を取り出す設備ががれきを撤去する際、プールに落ちるおそれがあるうえ、格納容器の上ぶたがずれていて放射線量が高いとしています。

また、2号機は最上階を解体して燃料を取り出す装置を設置する計画ですが、建屋の中は極めて高い放射線量が測定されています。こうしたことから、1号機と2号機ではがれきの撤去や除染、それに放射線量の調査などを慎重に行う必要があり、作業に時間がかかるとしていて、今後は作業員の被ばくを抑える対策も必要になります。

一方、3号機の使用済み燃料プールの核燃料については、これまでどおり来年度中ごろから取り出しを始めるとしています。

3号機では使用済み燃料プールから核燃料を取り出すため、放射性物質の飛散や作業の妨げとなる風を防ぐドーム型の金属製のカバーの設置が進められています。ただ、通常の原発と異なり、多くの作業でカメラで状況を確認しながら遠隔操作で行う計画で、いかに安全に作業を進められるかが課題になります。

最大の難関は燃料デブリの取り出し

福島第一原子力発電所の廃炉に向けた最大の難関である「燃料デブリ」の取り出しは、格納容器の中を完全に水で満たさない方法を軸に進めるとしていますが、世界でも例がないだけに、安全でより具体的な計画を立てられるかが課題となります。

新たな工程表では1号機から3号機の燃料デブリの取り出し方の方針について、これまで検討されていた強い放射線を遮るために格納容器の中を完全に水で満たして取り出す「冠水工法」と呼ばれる方法は、事故で損傷した格納容器の修理が難しいことなどから、完全に水で満たさずに取り出す「気中工法」と呼ばれる方法を軸に進めるとしています。

そのうえで、格納容器の底にあるデブリの取り出しを優先したほうが作業がしやすく、早く取り出しを始められる可能性があるとして、格納容器の横からロボットを投入して取り出すことにしています。

また、将来的には原子炉に残っている燃料デブリを取り出すためには、原子炉の上から取り出すことが必要になるため、複数の方法を組み合わせることを前提にするとしています。

世界で唯一、燃料デブリを取り出したアメリカのスリーマイル島原発では、原子炉の中を水で満たす「冠水工法」が用いられていて、今回の「気中工法」は世界でも例のない取り組みとなります。「気中工法」は放射性物質が飛散するおそれがあるため、工程表では格納容器の中の圧力を下げる設備を開発し、飛散を防ぐ対策を行うとしていますが、放射線量が高い環境で安全対策の徹底を図ることも必要で、今後、追加の調査結果などを踏まえ、安全でより具体的な計画を立てられるかが課題になります。

福島第一原発 1・2号機の核燃料取り出し 3年遅れに

福島第一原子力発電所の廃炉の工程表が2年ぶりに見直され、1号機と2号機の使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始める時期について、政府は、がれきの撤去や除染などを慎重に進めるとして、前回の工程表より3年遅らせ、2023年度をめどとすることを決めました。

福島第一原発の廃炉への道筋を示す工程表は、対策や調査の進展を踏まえ政府の会議で26日、2年ぶりに見直されました。この中で、議長を務める菅官房長官は「福島第一原発の安全で着実な廃炉は、福島の復興、再生の大前提だ。今後も困難な作業が発生することも想定されるが、しっかり進めていただきたい」と述べました。

新たな工程表では、1号機と2号機の使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始める時期について、がれきの撤去や除染などを慎重に進めるとして、前回の工程表より3年遅らせ、2023年度をめどとするとし、3号機については、これまでどおり来年度中頃から取り出しを始めるとしています。

一方、1号機から3号機の溶け落ちた核燃料が構造物と混じり合った「燃料デブリ」の取り出し方の方針については、格納容器を完全に水で満たさずに取り出す「気中工法」と呼ばれる方法を軸に進め、「燃料デブリ」を最初に取り出す号機や方法を確定する時期は、来年度上期から2019年度に遅らせますが、実際に始める時期は変えず、4年後の2021年としています。

気中工法は、放射性物質が飛散するおそれがあるため、安全対策の徹底を図ることが必要で、今後、追加の調査結果などを踏まえ、具体的な計画を立てられるかが課題になります。

一方、すべての廃炉作業を終える時期については、これまでと同じく廃炉作業を始めてから30年から40年後(2041~2051年)としています。
経済産業省は「廃炉作業を終える時期は燃料デブリの取り出しを4年後に始められる見通しがあることから、現時点では変更する必要はないと考えている」としています。

日本原子力学会の「廃炉検討委員会」の委員長で、法政大学の宮野廣客員教授は、「工程表では、これからの5年ほどは見えているが、そのあとがはっきりせずに30年から40年で終えるとなっている。せっかく見直すのなら、廃炉作業全体を通してもっとしっかり検討してほしかった」と話しています。

東電社長「責任持ち廃炉やり遂げる」

東京電力の小早川智明社長は、「地元の皆さまとの対話を重ね、地元の思いや安心、復興のステップに配慮しつつ、さまざまな課題を克服し、事故を起こした当事者として、責任をもって廃炉を安全にやり遂げてまいります」というコメントを出しました。

東京電力福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏代表が記者会見し、「この2年間の福島第一原発での作業の進捗(しんちょく)、現場の状況が反映された工程表になったのがいちばん大きく、作業をどこからやったらいいのか見えるようになってきた」と述べました。
また、使用済み燃料プールからの燃料取り出しを1号機と2号機で3年遅らせる一方、「燃料デブリ」の取り出しなど廃炉作業を終える時期はこれまでの目標を維持したことについて、「われわれとしては目標をしっかり定めて技術開発し、仕事をするのが大事だと思っている。工程表に従ってしっかりとやっていきたい」と述べました。

世耕経産相「安全確保を最優先 今後も長い道のり」

世耕経済産業大臣は閣議のあとの会見で、「安全確保を最優先に、リスク低減を重視する姿勢を堅持して、廃炉汚染水対策をしっかり進めていく。ここまで6年かかり今後も長い道のりがあると思うが、しっかり取り組んでいく」と述べました。

また、世耕大臣は1号機と2号機の使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始める時期を前回の工程表より3年遅らせたことについて、「1日も早い廃炉を期待している地元の皆さんにとっては決して喜ばしいことではないが、やはり安全を重視しながら着実に進めることが重要だ」と述べました。

専門家「自然災害リスクも考慮した具体的な設計を」

2年ぶりに見直された福島第一原子力発電所の廃炉の工程表について、日本原子力学会の「廃炉検討委員会」の委員長で、法政大学の宮野廣客員教授は「これまでの工程表もそうだが、今回の工程表でも直近の5年ほどは見えているがそのあとがはっきりせず、30年から40年で終えるとなっていて、全体の工程が見えない。廃炉を通じて必要な人材育成もしなければならず、せっかく見直すのであれば、廃炉作業全体を通してどの工程がどう続くのか、もっとしっかり検討して見通しを示してほしかった」と話していました。

また、燃料デブリの取り出しに向けて「気中工法」を軸に検討を進めるとしたことについて、「気中状態ということは、放射性物質が飛び出すおそれがあるということで、閉じ込めるための設備をどうするのかが非常に難しい問題になる」と指摘したうえで、実際にそうした設備を作るには、燃料デブリの取り出し中の事故を防ぐために、「台風や地震、津波のリスクをどう考えるかということまで評価し、具体的な設計を考えないといけない」と話し、気中工法を実現させるには検討すべき課題は多いと指摘しています。

廃炉への工程表 今は第2期

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉への道筋を示す工程表は、作業の期間を第1期から第3期までの3つに分けていて、現在は、燃料デブリの取り出しを始める前の第2期に当たります。

第1期は、福島第一原発1号機から4号機のいずれかの使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始めるまでとされていて、4号機で平成25年11月にその作業が始まったことをもって第1期は終了しています。

第2期は、第1期の終了から、溶け落ちた核燃料と構造物が混じった「燃料デブリ」の取り出しを1号機から3号機のいずれかで始めるまでとされ、4年後の2021年までに取り出しを始めるとしています。現在は、第2期に当たります。

第3期は、燃料デブリの取り出しや汚染した建屋の解体を終え、放射性廃棄物を敷地の外に運び出すなどすべての廃炉作業が終わるまでとなっていて、廃炉作業を始めてから30年から40年後までに終えるとしています。

課題は「凍土壁」などの対策

新たな工程表では、福島第一原子力発電所で課題となっている汚染水対策について、これまでと同様に2020年までに1号機から4号機などの建屋の中の汚染水の処理を終えるという計画を示していて、対策の柱とされる「凍土壁」を含めた複数の対策の効果を高められるかが課題になります。

福島第一原発の1号機から3号機では、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため、原子炉と原子炉を納めた格納容器に入れ続けている水が高濃度の汚染水となって建屋の地下などにたまっています。

さらに、建屋の山側からは大量の地下水が流れ込み、この汚染水と混じり合うため、その量は増え続けています。東京電力は流れ込む地下水の量を抑えるいくつかの対策を組み合わせて行っていて、このうち対策の柱とされる「凍土壁」は、建屋の周りの地盤を長さおよそ1.5キロに渡り、氷点下30度の液体を流してつくるもので、去年3月、建屋の下流側から順次、凍らせ始めました。

先月には、安全のため凍らせずに残していた最後の部分の凍結を始め、凍土壁はようやく完成のめどが立ち、東京電力によりますと、今のところ順調に凍結が進んでいるということです。

このほか、建屋の上流側で地下水をくみ上げて海に排水する「地下水バイパス」や建屋周辺の「サブドレン」と呼ばれる井戸で地下水をくみ上げ、建屋に流れ込む地下水の量を抑える対策も進めています。
こうした複数の対策により、建屋に流れ込む地下水の量は1日あたり400トンから100トン以下に減らせるとしています。

ただ、工程表で示している2020年に1号機から4号機などの建屋の中の汚染水の処理を終えるという計画の達成には、地下水の流入量をさらに減らすことが必要で、雨水がしみ込まないよう敷地を舗装する追加対策を行うとしていますが、こうした対策の効果を高められるかが課題になります。

保管の汚染水処分も課題

汚染水対策をめぐるもう1つの大きな課題が、敷地内のタンクで保管されている大量の汚染水の処分です。現在、汚染水100万トンがおよそ900基のタンクに保管されていますが、その量は増え続けていて、特に「トリチウム」と呼ばれる放射性物質は取り除くのが難しく、どのように処分するかが課題となっています。

新たな工程表では、国と東京電力はトリチウムを含む水について、「海への安易な放出は行わない」とこれまでと同じ方針を示しています。

一方、国の専門家チームは去年、こうしたトリチウムを含む水について、薄めて海に放出する方法が最もコストが安く、最短で処分できると評価し、別の専門家チームが風評被害などの観点を含めて処分方法を議論していますが、結論は出ていません。

使用済み燃料プールには

それぞれの原子炉建屋の最上階に設けられた使用済み燃料プールには、1号機に392体、2号機に615体、3号機に566体の核燃料があり、今も冷却が続けられ、プールの温度は20度から30度ほどで安定しています。

事故当時、定期検査中で運転を停止していた4号機の燃料プールには、1535体の核燃料があり、最もリスクが高かったため先行して取り出しが始められ、平成26年12月に取り出しを完了しています。

一方、1号機から3号機は原子炉の核燃料がメルトダウンした影響で建屋内の放射線量が高く、このうち1号機と3号機では水素爆発の影響でがれきが散乱し、撤去などが進められてきました。
しかし、作業や調査に時間がかかり、2年前に工程表を改訂した際も燃料プールから取り出しを始める時期が延期されるなどして、これまでの計画では1号機と2号機で2020年度から、3号機で来年度の中ごろからとされていました。

工程表では1号機は水素爆発で崩れ落ちた屋根の下敷きになっている燃料を取り出す設備ががれきを撤去する際、プールに落ちるおそれがあるうえ、格納容器の上ぶたがずれていて放射線量が高いとしています。

また、2号機は最上階を解体して燃料を取り出す装置を設置する計画ですが、建屋の中は極めて高い放射線量が測定されています。こうしたことから、1号機と2号機ではがれきの撤去や除染、それに放射線量の調査などを慎重に行う必要があり、作業に時間がかかるとしていて、今後は作業員の被ばくを抑える対策も必要になります。

一方、3号機の使用済み燃料プールの核燃料については、これまでどおり来年度中ごろから取り出しを始めるとしています。

3号機では使用済み燃料プールから核燃料を取り出すため、放射性物質の飛散や作業の妨げとなる風を防ぐドーム型の金属製のカバーの設置が進められています。ただ、通常の原発と異なり、多くの作業でカメラで状況を確認しながら遠隔操作で行う計画で、いかに安全に作業を進められるかが課題になります。

最大の難関は燃料デブリの取り出し

福島第一原子力発電所の廃炉に向けた最大の難関である「燃料デブリ」の取り出しは、格納容器の中を完全に水で満たさない方法を軸に進めるとしていますが、世界でも例がないだけに、安全でより具体的な計画を立てられるかが課題となります。

新たな工程表では1号機から3号機の燃料デブリの取り出し方の方針について、これまで検討されていた強い放射線を遮るために格納容器の中を完全に水で満たして取り出す「冠水工法」と呼ばれる方法は、事故で損傷した格納容器の修理が難しいことなどから、完全に水で満たさずに取り出す「気中工法」と呼ばれる方法を軸に進めるとしています。

そのうえで、格納容器の底にあるデブリの取り出しを優先したほうが作業がしやすく、早く取り出しを始められる可能性があるとして、格納容器の横からロボットを投入して取り出すことにしています。

また、将来的には原子炉に残っている燃料デブリを取り出すためには、原子炉の上から取り出すことが必要になるため、複数の方法を組み合わせることを前提にするとしています。

世界で唯一、燃料デブリを取り出したアメリカのスリーマイル島原発では、原子炉の中を水で満たす「冠水工法」が用いられていて、今回の「気中工法」は世界でも例のない取り組みとなります。「気中工法」は放射性物質が飛散するおそれがあるため、工程表では格納容器の中の圧力を下げる設備を開発し、飛散を防ぐ対策を行うとしていますが、放射線量が高い環境で安全対策の徹底を図ることも必要で、今後、追加の調査結果などを踏まえ、安全でより具体的な計画を立てられるかが課題になります。