9月25日の記者会見で、安倍首相は衆議院の解散総選挙を発表した。記者会見の場で、安倍首相は、今回の解散を「国難突破解散」を位置づけ、「国難突破」の重責を現政権が担うことについて、国民の信を問う姿勢を明らかにした。
この記者会見で安倍首相が言及した「国難」とは、北朝鮮の脅威と将来の日本経済の成長余力の低下であった。
今年1月に出演させていただいたNHKの「日曜討論」において、「トランプ政権誕生を機にアジア地域での有事に備えて防衛力の増強をはかるべき」と発言した筆者にとっては、「今そこにある危機」としての北朝鮮問題にリスクを負って真剣に立ち向かおうとする安倍首相の真摯な姿勢に賛同する。だが、問題は、後者の「経済」である。
安倍首相は、将来にわたる日本経済の成長のためには、人的資本の質の向上が重要だという位置づけから、2019年10月に予定通り、消費税率を10%に引き上げ、それによる増収分を子育てや教育に振り向ける考えを明らかにした。
筆者は、次の消費税率引き上げまで2年余りを残すこの時期に、消費税率引き上げを宣言する必要はないのではないかと考えているので、日本経済の先行きについてやや心配になったのだが、普段、親しくさせていただいている何人かの識者によれば、今回の消費税率引き上げにはそれほど重要な意味はないということらしい。
より身近な問題として北朝鮮有事が勃発すれば、それこそ、消費税率引き上げの是非などと悠長なことを言っている場合ではなく、消費増税の話はどこかに吹き飛ぶだろうし、そうでなくとも、ひょっとすると、実際に消費税率引き上げを正式に決定する時期が来た場合にはあらためて国民に信を問う可能性もあるという話も聞いた。
おりしも、9月26日の夜、安倍首相は、「あくまでもリーマンショック級の緊縮状況が起きなければ、予定通りに消費税率引き上げを実施する」と発言した。これは、前回の消費税率引き上げ見送り前の発言と同じである。
この安倍首相の発言によって、安倍首相の経済政策についてのスタンスが「まず消費増税ありき」ではないということが、インサイダー情報ではなく、公にされたと考える。これは、今後の安倍政権の経済政策運営に、ある程度の安心感を与えるものかもしれない。
ところで、2014年4月の消費税率引き上げの影響はどうだったか。
消費税率引き上げは、価格転嫁された分、物価水準を押し上げるため、実質可処分所得の減少を通じて、消費支出にマイナスの影響を与えるというのが一般的な認識であろう。すなわち、増税が事実上の可処分所得の減少を通じて消費を減らすというロジックである。
「先立つものがないと買えない」ということで、それゆえ、家計への財政的な手当て(特に低所得者や若年世帯向け)や消費税率の再引き下げが消費拡大のための政策として提案されることが多い。
だが、実質可処分所得と実質消費支出の関係をみると、必ずしもそのような関係ではないことがわかる。