2017年は任天堂の年だと頻繁に耳するようになった。Nintendo Switchという新しいゲーム機を出すだけでなく、同じ年に「ゼルダの伝説」、「スプラトゥーン」、「メトロイド」、「マリオ」といった人気シリーズの新作を出し、さらに「ARMS」や「いっしょにチョキッと スニッパーズ」といった新規IPも好評だ。Wii Uで危機に晒された同社だが、2017年に入ってから一気に盛り返しているのは紛れもない事実と言えるだろう。Nintendo Switchが3月に発売してから在庫切れが続く中でも、世界での販売台数が7月26日時点ですでに500万台に近い台数に達していたことがわかっている。目玉タイトルの「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は海外のレビュー集積サイトmetacriticでは歴代最も高評価のゲームのひとつとなっている。

任天堂だけでなく、日本のゲーム業界全体が盛り返している動きが確実にある。2016年9月に「ペルソナ5」が国内で発売を迎えたあたりから、一昔前まではコンシューマー市場のリーダー的存在であった日本から高品質のタイトルが再び続出している。そして、任天堂の他に輝いている会社があるとすればスクウェア・エニックスなのではないかと僕は思っている。

任天堂の他に輝いている会社があるとすればスクウェア・エニックスなのではないかと僕は思っている。

80年代や90年代、まだ別々の会社であったスクウェアとエニックスはいずれもファミコンやスーパーファミコンを代表するRPG作品を展開していた。「ファイナルファンタジー」(以下、FF)や「ドラゴンクエスト」(以下、DQ)はもちろん、「ロマンシング・サガ」や「アクトレイザー」といったよりニッチなタイトルも輝いていた。コンシューマー市場が3Dゲーミングの時代に入ると両社はCD-ROMに対応した初PSを中心にゲームを開発するようになり、任天堂との縁はしばらく切れた。スクウェアが世界から注目されるRPG工房に成長したのもこの時期で、1997年に発売を迎えた「ファイナルファンタジーVII」は900万本を超える販売数を記録し、今でも世界中のRPGファンの心に残る一作だ。エニックスは積極的に海外進出はしなかったが、DQシリーズは国内でFFに筆頭する人気を獲得し続けていた。

PS2が率いるゲーム機第6世代に入ってもこの流れは変わらず、「ファイナルファンタジーX」は800万本のビッグセラーとなり、ディズニーとコラボを果たした新規IP「キングダムハーツ」も生まれた。だが、振り返るとこのときに暗黒時代の前兆がすでに現れていた。ゲームの開発費が徐々に上がった結果として、スクウェアは以前にもましてFFシリーズに注力するようになり、「なんだこれは!?」と刺激される独創的なタイトルを目にする機会が減った。さらにいえば、2001年には「グランド・セフト・オートIII」が発売して圧倒的な人気を獲得し、これを機に欧米市場の傾向が激変した。まだメディアに高く評価されても、日本に拠点をおくデベロッパーとしてスクウェアは欧米ゲーマーの好みの変化に適応しきれなかった。

将来を見越しての勝ち残りのための攻めの合併。

2003年4月、スクウェアとエニックスは「将来を見越しての勝ち残りのための攻めの合併」を発表した。この「将来を見越して勝ち残るため」の言葉がまさに、当時の市場の急速な変化を表しているように思う。

合併の効果はすぐに出た。国内で2004年に発売した「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」は丁寧にローカライズされ、欧米ゲーマーの趣向に合わせるためにボイス付き台詞に対応し、ゲームソフト売上集積サイトVGChartzによると本作は海外のみで150万本を超える販売数をマークした。これを機に「DQ」シリーズは海外で確固たる知名度を得た。これからは「FF」と「DQ」の二本柱を中心に構え、さらに「キングダムハーツ」という新たな人気IPも活用して勝ち残っていかなければならなかった。

ゲーム機の第7世代(PS3、Xbox 360、Wiiなど)は日本のゲーム企業にとって極めて難しい時期だった。WiiやDSで大成功を収めていた任天堂だが、スクウェア・エニックスの大半のIPは任天堂のカジュアルなアプローチとの相性がよくなかった。「ドラゴンクエスト」は例外であり、スクウェア・エニックスは初めて本シリーズのナンバリングタイトルを携帯ゲーム機向けに展開した。「DQ」の主要な市場である日本の「据え置き機離れ」に適応し、海外でも洋ゲーの最新AAAタイトルと比較されずに済んだので欧米市場でもミリオンセラーとなった。Wiiでモーションコントロールに対応したスピンオフを出したり、DS向けに過去作のフルリメイクを開発したりと、「DQ」シリーズの展開は見事に時代に適応していたと言える。

日本のエースであるスクウェア・エニックスは沈黙を守り続けた。

だが、PS3やXbox 360が主戦場となる「FF」を始めとした「スクウェア側」のIPは苦戦した。2006年に発売したPS3だが、スクウェア・エニックスがデベロッパーとして最初に出したゲームは2009年12月の「ファイナルファンタジーXIII」だった。海外から「The Elder Scrolls IV: Oblivion」、「Fallout 3」、「Mass Effect」、「Dragon Age: Origins」といった新時代を切り開いたRPGが続出した時代に、日本のエースであるスクウェア・エニックスは沈黙を守り続けた。そのような状況下、「ファイナルファンタジーXIII」に対してはかなりの期待が込められていたが、メディアによる評価はその期待を下回った。販売数はPS3版500万本以上、Xbox 360版200万本超えと芳しくないわけではないが、その後に続いた「ファイナルファンタジーXIII-2」、「ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII」の作品群がFFのブランドバリューを維持できなかったことは事実だろう。「キングダムハーツ」シリーズもスピンオフやリマスターが出ても肝心の続編が出ないままひとつの世代が過ぎ去り、新規IPは「ニーア」しか記憶になく、コンセプトが興味深くても様々な面で時代のスタンダードから遅れをとっていた。

スクウェア・エニックスは2009年にイギリスのゲーム企業であったアイドスを買収した。「トゥームレイダー」、「ヒットマン」、「Deus Ex」といった伝説的なタイトルを自社の傘下におくことで、暗黒の時代を辛うじて乗り切ったといえるだろう。VGChartzによるとPS3向けに発売したゲームの販売数のTOP 100にはスクウェア・エニックスのタイトルが4本しかなく、そのうちの2本は旧アイドス部門が開発したタイトルだ。比較するとPS2世代は5タイトル、初代PSの時代は7タイトル(スクウェアとエニックスによるタイトルを合算)あった。旧アイドスを抜けば2タイトルしかないPS3世代はまさに危機といえた。

「FFXI」は利益という面でも歴代の「FF」でトップ

本稿でこれまでに触れてこなかったMMORPGについても言及しよう。スクウェア・エニックス初のMMORPG「ファイナルファンタジーXI」は2002年に発売し、大成功した。2012年に当時の代表取締役社長であった和田洋一は「FFXI」について「利益という面でも歴代の『FF』でトップ」と発言した。これは月額課金型のビジネスモデルによる快挙だろう。

「ファイナルファンタジーXI」の後継者となった「ファイナルファンタジーXIV」はかなり困難なスタートを切った。2010年に発売した本作はあまりに不評だったため、スクウェア・エニックスはMMORPG部門でも危機を迎えた。だがしかし、開発スタッフは必死に踏ん張り、新生「FFXIV」を2013年に送り出した。これは圧倒的な好評価となり、本作は大逆転勝ちをしたタイトルとしてその名をゲームの歴史に刻んだ。松田洋祐がスクウェア・エニックスの代表取締役社長に就任したこともこの頃であったことを思えば、この時期から本格的な社内改革が行われていたのだろうと想像できる。

2012年には10年は遊び続けられるタイトルと謳われた「ドラゴンクエストX」がWii向けに発売し、「DQ」シリーズもMMORPGになった。当時、DQファンの多くはシリーズのオンライン化を悲観していたし、今でも「オンラインだからやらない」ユーザーは少なからずいるだろう。だが、発売から5年が経過した今、「ドラゴンクエストX」はたくさんのプラットフォームに展開され、好調が続いている。

「DQX」は多くの日本人にオンラインゲームの魅力を紹介したタイトルであり、日本を代表するMMORPGとして本当に10年は遊ばれ続けるのではないだろうか。つい先日、松田社長はこの考えを裏付ける姿勢を明らかにした。今後のスクウェア・エニックスは「Game as a service」というコンセプトを強調し、長く遊び続けられるタイトルに注力していくと話した。「FFXIV」や「DQX」といったオンラインゲームは同社にとって以前にもまして重要になっていることがわかる。

2012年の年末に3DSに登場した「ブレイブリーデフォルト」は久しぶりとなる"スクウェアらしいRPG"として歓迎された。ニッチな新規IPであるのにも関わらず、100万本の販売数を突破したことでスクウェア・エニックスは古き良きJRPGに対する需要を再確認したという。だが、2012年時点でこれは昔のスクウェアファンにとってあくまで「復興の兆し」に過ぎなかったはずだ。

久しぶりとなる"スクウェアらしいRPG"

今から一年くらい前に、僕に「昨今のスクウェア・エニックスのイメージは?」と聞けば、僕は以下の3点を挙げたと思う。

1.「FF」と「DQ」のMMORPGに力を入れている。

2.人気IPのスピンオフや過去作の移植のスマホゲーム・携帯ゲームで儲かっている。

3.旧アイドスやDONTNODなど、海外デベロッパーのタイトルが印象的だ。

3つの柱を中心に生き残るスクウェア・エニックスは何も「失敗」などしていなかった。だが、独創性あふれるオフラインRPGで全世界を魅了していた黄金期を知るものとしてはやはり寂しい何かがあった。MMORPGもスマホゲームもまったく否定するつもりはないし、旧アイドスやDONTNODをはじめとした海外デベロッパーのゲームをパブリッシュするのも素晴らしいことだ。だが、本来魅力があったオフラインRPG作品は数も少なければあまり革新性も感じられず、はっきり言って欧米のRPGにかなわなくなっていた。「RPGといえばスクウェア・エニックスの時代は終わった」、一年前の僕ならそう言ったと思う。

だが、スクウェア・エニックスは昔の自分を確実に取り戻しつつある。約10年の開発期間を経てついに発売を迎えた「ファイナルファンタジーXV」は概ねに好評価であり、650万本以上の販売数をマークするビッグセラーとなった。同じ2016年は「ドラゴンクエスト ビルダーズ」や「ワールド オブ ファイナルファンタジー 」といったスピンオフタイトルを据え置きゲーム機向けにも展開し、「いけにえと雪のセツナ」という新設スタジオTokyo RPG Factoryによる古き良きRPGも発売した。年末には「サガ スカーレットグレイス」という久々となる「サガ」シリーズの新作(ブラウザーゲームは除く)も登場した。ビッグタイトルは「ファイナルファンタジーXV」だけだったが、RPG工房としてのイメージを再獲得しようとしているのは明らかだった。

そして、2017年に入ってからそのイメージはさらに強調されることとなった。3月に発売した「NieR:Automata」はすべての期待を上回り、メディアやゲーマーに広く評価されただけでなく、売上面でも200万本を突破した。新規IPではないとはいえ、スクウェア・エニックスにとっては久しぶりの自社IPの開拓といえるだろうし、同社はすでに「NieR」関連製品のシナリオ制作、およびプランニング作業のスタッフ募集を行っている。この展開や「FFXV」のDLC展開も松田社長の言う「Game as a service」というコンセプトの一環と捉えるべきかもしれない。

「DQXI」は日本で最も売れたPS4タイトルになり、2位も同じくスクウェア・エニックスの「FFXV」がランクインしている。

7月は同じ月に「FFXII」のリメイク、それからDQシリーズの最新作「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」が国内で発売した。後者は3DSとPS4のマルチプラットフォーム展開をしており、パッケージ版は最初の2日で200万本を突破した。「DQXI」は日本で最も売れたPS4タイトルになり、2位もスクウェア・エニックスの「FFXV」がランクインしている。「DQXI」は2018年に海外でも発売され、シリーズの欧米での人気上昇を鑑みると海外で最も売れる「DQ」になる可能性が高いだろう。

スクウェア・エニックスは「ブレイブリーデフォルト」の成功から学び、古き良きRPGの展開も積極的に行うようになっている。ドット絵とポリゴンの融合による独特な映像美と大人向けのストーリーが魅力の「project OCTOPATH TRAVELER」文字を「記憶化」するシステムが興味深い「LOST SPHEAR」はクラシックゲーマーを喜ばせるに違いない。

2018年はやっと「キングダムハーツIII」も発売される(はず)で、先日のTGS2017のPlayStationプレスカンファレンスでは「フロントミッション」の流れを組む新作「LEFT ALIVE」も発表されている。

「ドラゴンクエスト」、「ファイナルファンタジー」、「ニーア」、そして懐かしいテイストのRPG作品群。うん、ここ最近のスクウェア・エニックスはまさに「RPG工房」らしい動きをしている。