去年7月の参院選 1票の格差 最高裁“憲法に違反せず”

去年7月の参院選 1票の格差 最高裁“憲法に違反せず”
k10011158291_201709271937_201709271939.mp4
去年7月の参議院選挙でいわゆる1票の格差が最大で3.08倍だったことについて、最高裁判所大法廷は、「著しい不平等状態だったとはいえない」として、憲法に違反しないという判決を言い渡しました。隣り合う県を1つの選挙区とする「合区」の是非には触れず、定数是正で格差が縮小したことなどを評価しました。
去年7月の参議院選挙では、選挙区によって議員1人当たりの有権者の数に最大で3.08倍の格差があり、2つの弁護士グループが「投票価値の平等に反し、憲法に違反する」として、選挙の無効を求める訴えを全国で起こしました。

裁判では、「合区」を含む「10増10減」の定数是正で格差が縮小したことなどをどう評価するかが焦点となりました。

27日の判決で最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は「一部の選挙区を合区して数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた格差が縮小し、次回の選挙に向けて抜本的な見直しを検討して必ず結論を得るとされている」と指摘しました。

そのうえで、「投票価値の不均衡は憲法上の問題が生じるほど著しい不平等状態だったとはいえない」として、憲法に違反しないという判断を示しました。

最高裁は、過去の判決で、平成22年と25年の選挙については「違憲状態」と判断し、選挙制度そのものを見直すよう求めていました。

これについて27日の判決は、「区割りを決めるにあたって都道府県という単位を用いること自体を許さないものではない」という解釈を示しました。

そして「合区」という方法の是非には触れず、今回の定数是正で格差が縮小したことや、見直しの決意が示されたことを評価しました。

一方、15人の裁判官のうち1人が「憲法に違反し、選挙は無効だ」として国会に抜本的な見直しを求める意見を述べたほか、1人は「違憲」、2人は「違憲状態」という意見を述べました。

原告弁護士「事実を曲げた判決」

原告の弁護士グループの升永英俊弁護士は、判決のあと、最高裁判所の正門の前で、不条理な判決だという意味を込めた「ガリレオ判決」という紙を掲げました。

升永弁護士は、「憲法は1人1票を保障しているにもかかわらず、合憲と判断した点で、残念ながら、事実を曲げた判決であると言わざるをえない」と述べました。

「後退した判決」

原告の弁護士グループの山口邦明弁護士は、「過去の判断から後退した判決で、がっかりした。国会が将来に向けて必ず是正するという決意を高く評価し、立法府にげたを預けてしまった判決で、非常に残念だ。あとは、国会の努力に期待するしかない」と述べました。

一方、28日、解散される衆議院の選挙については、1票の格差の問題が抜本的に是正されるまで実施すべきではないとして、差し止めを求める訴えを起こす考えを示しました。

参院議長「判決を重く受け止め」

伊達参議院議長は「判決内容は、今後、詳細に検討するが、判決を重く受け止め、今後とも引き続き、各会派の協力のもとに、選挙制度の抜本的な見直しに向けた取り組みを、鋭意進めていきたい」などとするコメントを発表しました。

識者「トーンダウンした印象」

27日の判決について、一橋大学大学院の只野雅人教授は、「過去2回の判決は、かなり積極的に制度の見直しを促していたが、今回の判決は、トーンダウンした印象を受け、政治的な配慮を強く感じる」と話しています。

そして、今後の国会の動きについて、「短期的には抜本的な見直しを要求されていないと受け止め、『合区』など、最小限の定数是正でしのいでいくようになるのではないか」という見方を示しました。

只野教授は、「参議院は、『ねじれ国会』でも証明されたように強い権限をもっていて、1票の格差をそのままにすべきではない。『合区』の導入などを定めたおととしの改正公職選挙法の付則で約束したように、抜本的な見直しを早急に検討すべきだ」と指摘しています。

合区を含む定数是正

去年7月の参議院選挙では、「10増10減」の定数是正が行われました。宮城、新潟、長野の3つの選挙区で、改選議席が2から1に削減された一方、北海道、東京、愛知、兵庫、福岡の5つの選挙区では、それぞれ1ずつ増えました。
また、いわゆる「合区」が初めて導入され、鳥取県と島根県、徳島県と高知県がそれぞれ1つの選挙区となりました。
この結果、1票の格差は、最大で3.08倍となり、その前の参議院選挙の4.77倍から縮小しました。

一方で「合区」については、対象となった自治体や国会議員から、「地方の声が届きにくくなる」などとして、解消を求める声が上がっています。
中には憲法を改正して「合区」を解消すべきだという声もありますが、慎重な意見もあり、2年後の参議院選挙に向けた議論のテーマの1つとなっています。

過去の格差と最高裁の判断

参議院選挙の1票の格差は、昭和22年に参議院議員選挙法が制定された当時、最大で2.62倍でしたが、都市部への人口集中が進み、次第に拡大しました。

平成4年に行われた選挙では、最大で6.59倍の格差があり、最高裁判所は、参議院選挙で初めて憲法上の問題が生じるほど著しく不平等な「違憲状態」だと判断しました。

平成7年の選挙では定数の是正によって格差が最大で4.97倍に縮小し、その後は5倍前後で推移し、憲法に違反しないとする判断が続きました。

しかし、大幅な改善がないまま行われた平成22年の参議院選挙で5倍の格差があったことについて、最高裁は「違憲状態」だと判断しました。

判決では「都道府県を単位とした今の選挙制度を維持したまま格差をなくすことは著しく困難になっている」として制度そのものの速やかな見直しを求めました。

そして格差が4.77倍の状態で迎えた平成25年の選挙についても最高裁は「違憲状態」と判断し、改めて制度の見直しを求めていました。

1票の格差 「無効」や「違憲」の指摘も

27日の判決では、15人の裁判官のうち2人が、「憲法に違反する」という反対意見を述べました。

このうち元内閣法制局長官の山本庸幸裁判官は、前回・平成25年の選挙に続いて、「憲法に違反し、無効とすべきだ」という意見を述べました。山本裁判官は、「法の下の平等を貫くためには、どの選挙区でも格差が1倍となるのを原則とすべきで、1.2倍を超えるような格差は違法かつ無効だ」という考えを示しました。

そのうえで、「選挙区は、都道府県や市町村など行政区画ではなく、投票所単位に細分化して区割りをするか、全国を単一の選挙区にしたり、大まかなブロックに分けたりしなければ、1票の価値の平等を実現することはできない」として、国会に抜本的な見直しを求めました。

また弁護士出身の鬼丸かおる裁判官は、選挙の無効までは認めませんでしたが、同じく「憲法に違反する」という意見を述べました。鬼丸裁判官は、「3.08倍という数値からは、投票価値の平等を実現したとはいいがたい。『違憲状態』と判断した前々回の判決から選挙が行われるまでのおよそ3年9か月の間に是正されなかったことは、国会の裁量権の限界を超えている」と指摘しました。

このほか弁護士出身の木内道祥裁判官と外交官出身の林景一裁判官は、「違憲状態」だったという意見を述べました。

去年7月の参院選 1票の格差 最高裁“憲法に違反せず”

去年7月の参議院選挙でいわゆる1票の格差が最大で3.08倍だったことについて、最高裁判所大法廷は、「著しい不平等状態だったとはいえない」として、憲法に違反しないという判決を言い渡しました。隣り合う県を1つの選挙区とする「合区」の是非には触れず、定数是正で格差が縮小したことなどを評価しました。

去年7月の参議院選挙では、選挙区によって議員1人当たりの有権者の数に最大で3.08倍の格差があり、2つの弁護士グループが「投票価値の平等に反し、憲法に違反する」として、選挙の無効を求める訴えを全国で起こしました。

裁判では、「合区」を含む「10増10減」の定数是正で格差が縮小したことなどをどう評価するかが焦点となりました。

27日の判決で最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は「一部の選挙区を合区して数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた格差が縮小し、次回の選挙に向けて抜本的な見直しを検討して必ず結論を得るとされている」と指摘しました。

そのうえで、「投票価値の不均衡は憲法上の問題が生じるほど著しい不平等状態だったとはいえない」として、憲法に違反しないという判断を示しました。

最高裁は、過去の判決で、平成22年と25年の選挙については「違憲状態」と判断し、選挙制度そのものを見直すよう求めていました。

これについて27日の判決は、「区割りを決めるにあたって都道府県という単位を用いること自体を許さないものではない」という解釈を示しました。

そして「合区」という方法の是非には触れず、今回の定数是正で格差が縮小したことや、見直しの決意が示されたことを評価しました。

一方、15人の裁判官のうち1人が「憲法に違反し、選挙は無効だ」として国会に抜本的な見直しを求める意見を述べたほか、1人は「違憲」、2人は「違憲状態」という意見を述べました。

原告弁護士「事実を曲げた判決」

原告弁護士「事実を曲げた判決」
原告の弁護士グループの升永英俊弁護士は、判決のあと、最高裁判所の正門の前で、不条理な判決だという意味を込めた「ガリレオ判決」という紙を掲げました。

升永弁護士は、「憲法は1人1票を保障しているにもかかわらず、合憲と判断した点で、残念ながら、事実を曲げた判決であると言わざるをえない」と述べました。

「後退した判決」

「後退した判決」
原告の弁護士グループの山口邦明弁護士は、「過去の判断から後退した判決で、がっかりした。国会が将来に向けて必ず是正するという決意を高く評価し、立法府にげたを預けてしまった判決で、非常に残念だ。あとは、国会の努力に期待するしかない」と述べました。

一方、28日、解散される衆議院の選挙については、1票の格差の問題が抜本的に是正されるまで実施すべきではないとして、差し止めを求める訴えを起こす考えを示しました。

参院議長「判決を重く受け止め」

伊達参議院議長は「判決内容は、今後、詳細に検討するが、判決を重く受け止め、今後とも引き続き、各会派の協力のもとに、選挙制度の抜本的な見直しに向けた取り組みを、鋭意進めていきたい」などとするコメントを発表しました。

識者「トーンダウンした印象」

識者「トーンダウンした印象」
27日の判決について、一橋大学大学院の只野雅人教授は、「過去2回の判決は、かなり積極的に制度の見直しを促していたが、今回の判決は、トーンダウンした印象を受け、政治的な配慮を強く感じる」と話しています。

そして、今後の国会の動きについて、「短期的には抜本的な見直しを要求されていないと受け止め、『合区』など、最小限の定数是正でしのいでいくようになるのではないか」という見方を示しました。

只野教授は、「参議院は、『ねじれ国会』でも証明されたように強い権限をもっていて、1票の格差をそのままにすべきではない。『合区』の導入などを定めたおととしの改正公職選挙法の付則で約束したように、抜本的な見直しを早急に検討すべきだ」と指摘しています。

合区を含む定数是正

去年7月の参議院選挙では、「10増10減」の定数是正が行われました。宮城、新潟、長野の3つの選挙区で、改選議席が2から1に削減された一方、北海道、東京、愛知、兵庫、福岡の5つの選挙区では、それぞれ1ずつ増えました。
また、いわゆる「合区」が初めて導入され、鳥取県と島根県、徳島県と高知県がそれぞれ1つの選挙区となりました。
この結果、1票の格差は、最大で3.08倍となり、その前の参議院選挙の4.77倍から縮小しました。

一方で「合区」については、対象となった自治体や国会議員から、「地方の声が届きにくくなる」などとして、解消を求める声が上がっています。
中には憲法を改正して「合区」を解消すべきだという声もありますが、慎重な意見もあり、2年後の参議院選挙に向けた議論のテーマの1つとなっています。

過去の格差と最高裁の判断

過去の格差と最高裁の判断
参議院選挙の1票の格差は、昭和22年に参議院議員選挙法が制定された当時、最大で2.62倍でしたが、都市部への人口集中が進み、次第に拡大しました。

平成4年に行われた選挙では、最大で6.59倍の格差があり、最高裁判所は、参議院選挙で初めて憲法上の問題が生じるほど著しく不平等な「違憲状態」だと判断しました。

平成7年の選挙では定数の是正によって格差が最大で4.97倍に縮小し、その後は5倍前後で推移し、憲法に違反しないとする判断が続きました。

しかし、大幅な改善がないまま行われた平成22年の参議院選挙で5倍の格差があったことについて、最高裁は「違憲状態」だと判断しました。

判決では「都道府県を単位とした今の選挙制度を維持したまま格差をなくすことは著しく困難になっている」として制度そのものの速やかな見直しを求めました。

そして格差が4.77倍の状態で迎えた平成25年の選挙についても最高裁は「違憲状態」と判断し、改めて制度の見直しを求めていました。

1票の格差 「無効」や「違憲」の指摘も

27日の判決では、15人の裁判官のうち2人が、「憲法に違反する」という反対意見を述べました。

このうち元内閣法制局長官の山本庸幸裁判官は、前回・平成25年の選挙に続いて、「憲法に違反し、無効とすべきだ」という意見を述べました。山本裁判官は、「法の下の平等を貫くためには、どの選挙区でも格差が1倍となるのを原則とすべきで、1.2倍を超えるような格差は違法かつ無効だ」という考えを示しました。

そのうえで、「選挙区は、都道府県や市町村など行政区画ではなく、投票所単位に細分化して区割りをするか、全国を単一の選挙区にしたり、大まかなブロックに分けたりしなければ、1票の価値の平等を実現することはできない」として、国会に抜本的な見直しを求めました。

また弁護士出身の鬼丸かおる裁判官は、選挙の無効までは認めませんでしたが、同じく「憲法に違反する」という意見を述べました。鬼丸裁判官は、「3.08倍という数値からは、投票価値の平等を実現したとはいいがたい。『違憲状態』と判断した前々回の判決から選挙が行われるまでのおよそ3年9か月の間に是正されなかったことは、国会の裁量権の限界を超えている」と指摘しました。

このほか弁護士出身の木内道祥裁判官と外交官出身の林景一裁判官は、「違憲状態」だったという意見を述べました。