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静岡井川など「幻の工法」ダム 人気沸騰◆コンクリ節約「中空式」誕生60年
ダム本体の堤部分に空洞がある「中空重力式ダム」が日本に誕生して六十年になる。コンクリートの節約を狙った構造だが、工事に手間がかかるため建設した数は少なく、国内に約三千あるダムのうち中空式はわずか十三カ所。最近は珍しさからダムマニアの注目を集め、地域の観光資源としても活用されている。 大井川上流の中部電力井川ダム(静岡市葵区)は一九五七(昭和三十二)年九月に完成し、堤の高さは百メートル余り。日本の中空式の第一号だ。水力土木の経験が長い水野明久会長(64)は「私たちの先輩が歴史を開いた」と胸を張る。 戦後の電源開発で懸念されたのが膨大な建設費。中電建設部は中空式にすれば当時は貴重だったコンクリートの使用量を浮かし、費用を抑えられると考えた。中空式の先進国イタリアから技師を招いて研究し、社内の反対派を説得した。井川ダムに利用したコンクリート量は四十万七千六百立方メートルと、空洞のない重力式ダムと比べて20%もカット。建設費も16%減らした。 しかし、中空式ダムはコンクリート原料を大量に流し込めず、型枠を一段ずつこしらえるなど人手がいる。高度成長期、原料が値下がりする一方、建設作業員の人件費は上昇。コンクリートよりも人手を節約する必要が出て、七〇年代前半を最後に造られなくなった。強度にも優れているが日本では今後、新規案件が出ない「幻の工法」と呼ばれている。 中空式の特徴を肌で感じられるのが国土交通省管理の横山ダム(岐阜県揖斐川町、六四年完成)。前日までに予約すれば内部を見学できる。イベントホールに仕立てた高さ四十メートルもの空洞は音響効果に優れ、コンサートも開かれる。 観光客らに事務所が配るダムカードの数も昨年度は約五千五百枚と、配布開始の二〇〇七年度と比べて十七倍に増加した。中川喜久・横山ダム管理支所長は「中空式は珍しい、と喜ぶ人が多い。ダム開発のスケールの大きさと中空式の大胆さが再評価されている」と分析する。 (名古屋経済部・小柳悠志) |
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