いつまでも君と……

愛犬のために わたしたちができること

遂に解散総選挙かあ ~政治にだって、主従関係が必要なんだよ。犬社会みたいにさ~

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私の名前は、夏目潤一郎。某私立大学の非常勤講師をしている。
今日は朝早くに、愛犬のミントに起こされてしまった。
顔の上に乗っかられて、息苦しくて目が覚めたのだ。

私が目を開けたとたんに、ミントはさっと飛びのいて、一声「ワン」と吠えた。
「そうかそうか、散歩に行きたいのか。ちょっと待てよ」

起き上がってTVを点けると、どのチャンネルも解散総選挙の話題で、同じ話ばかりを繰り返している。うんざりしながら、TVを消した。

顔を洗いに洗面所に行くと、ミントはピッタリと体を寄せて付いてきた。犬を飼ってみると分かるが、言葉の話せないはずの犬の気持ちが、何故だかとても良く分かる。ミントは『散歩に連れて行ってくれ』とせがんでいるのではない。『散歩に連れて行ってやるから、早く用意をしろ』と訴えているのだ。

 

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歯磨きも早々に済ませて、Gパンと長袖のTシャツで外に出た。
まだ寒くはないが、半袖だとちょっと肌寒い。特に早朝はそうだ。

ここまで読んだ皆さんは、うちは何から何まで、ミントの好きにさせていると思われるかもしれないが、それは違う。
飼い主と飼い犬の主従関係をきちんとつけてやるのは、犬にとっての幸せだから、私だって、譲れないところは絶対に譲らない。

例えば、ご飯の前には、うちでは必ずミントに、『座れ』と『伏せ』と『待て』のコマンドを3回ずつ、かなりの長時間掛けている。それに従うまでは、絶対にミントにご飯を、食べさせたことはない。

ご飯を目の前にして、ヨダレがたらたらと床に落ちる事もあるが、それでもそうさせている。

犬を飼っていない人のために説明すると、『座れ』はオスワリのこと。『伏せ』はスフィンクスのように、床に伏せた体勢になること。『待て』それぞれの体勢でじっとしていることを指す。

もちろん、イジワルでやっているのではない。主従関係に従うことが、犬にとっての幸せなんだと、思ったればこその行動だ。

 

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私とミントは、マンションを出ると、まずは日比谷公園に向かう。公園内を一回りするうちに、ミントはオシッコとウンチをする。それを片付けたら、あとは大体ミントが行きたいところに行くのが、いつもの散歩のスタイルだ。

内幸町の交差点で信号待ちをしているときだった。そこを渡ればすぐ目の前が日比谷公園だというのに、ミントは左手にグイグイと私を引っ張った。どうしてもそっちに行きたいようだ。

「どうしたんだ、ミント?」
そういう私の声なんか、全く聞こえていないかのように、ミントは体重をグイと掛けながら前に進んで行く。仕方なく私もそれに従う。

このまま直進すれば、官庁街を抜けて国会議事堂だ。
「お前、またあそこに行くのか?」

解散総選挙の気運になって以来、何故かミントは国会議事堂がお気に入りのようだ。
政治に関心のある犬っていう風情で、お前格好いいなあ、ミントよ。

 

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前方の建物越しには、国会議事堂の尖った屋根が見えている。
そこで何故だか不意に、TVで話題の「冒頭解散」という言葉が、頭をよぎった。
今回の解散騒動になるまで、そんな言葉は聞いたことが無かった。ニュースによると過去に3回しかないというから、知らなかったと言っても、そう恥ずかしいことではなさそうだ。

28日の臨時国会で、どういう事をやるのか知らないが、”冒頭”というからには、国会の開会宣言は行って、とにかく開会だけはやるのだろう。で、それから何の審議をする間もなく、誰かが「解散でーす」と宣言をするのだろう。きっと――

それから、解散の後でよく目にする、あの意味のなさそうな『バンザイ三唱』の流れになるに違いない。あのバンザイは、格好悪いよなあ。

しかしわざわざ国会を召集して、地方に帰っていた議員たちも皆呼び出して、やることが「解散でーす」と『バンザイ三唱』では芸がなさすぎないか? 
お金も時間も、無駄だし――

今時だから、スカイプとか、ニコニコ動画で十分な気もするが、どうなんだろうか? 政治家にとっては効率より、形の方が大事なのかなあ?

 

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もしも我が家でミントが、「解散をしたい」と言って来たらどうするだろうか?
何を解散するかは、取り敢えず何でもいい。飼い主と飼い犬の関係を解散されるのは断固反対なので、それ以外の何かだ。

まずは、『座れ』と『伏せ』と『待て』のコマンドは掛けるだろうなあ。
少なくとも、3回ずつ。
それから、「もうちょっと考えてみたら?」って言うんじゃないかなあ。

考えて見れば、政治家は国民が選んだもので、総理はその中から指名されるものだ。
飼い主と飼い犬の関係に例えるならば、飼い主の側にいるのは、国民のはずだよな?
違うのかな?

総理が解散をしたいと言って来たら、それはミントのごはんと一緒で権利だから、させてあげるんだろう。でも、とりあえずは『座れ』と『伏せ』と『待て』のコマンドくらいは、掛けた方が良いように思うなあ。誰も掛けないのかなあ?
そんなんじゃ、主従関係が崩れてしまうよ――

なんてことを思っていたら、ミントが急に霞が関の交差点でしゃがみ込んで、ウンチをし始めた。

「おいおい、こんなところでするなよ」

人目を気にしながら、それをコンビニ袋で拾い上げると、ミントは急にサッパリした顔になり、踵(きびす)を返して、日比谷公園側に戻り始めた。もう国会議事堂なんて、どうでも良いみたいだ。

「ミントお前、もしかして、国会議事堂にはウンチをしに行きたかっただけなの?」

 

文:夏目潤一郎

※このお話は、フィクションです。

 

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