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第三話 新たな家族
火口から脱出した直後、黒々とした煙とともに、真っ赤に燃えるマグマが天に向かって噴出した。
――噴火である。
ドロドロに溶けたマグマが、山を伝って大地へと流れていき、空には火山灰が舞っており視界が悪い。
このままでは近くにいる調査チームにも被害が、と思って彼らを助けに向かうが、何故か待機場所にいたはずの者たちの姿が見当たらない。
(どういうことだ……?)
キョロキョロと周りを見渡していると、山から少し離れた小高い丘に集団を発見した。
そこには遠目にだがウィンカァらしき人物の姿も確認する。
(……やっぱりリリィンにバレたか)
多分『影分身』で作った分身体の違和感に気づかれたのだろう。そこで日色の身を案じて、ウィンカァの部隊を送ったに違いない。
(これは帰ったら説教だな)
やれやれと頭をかいていると、
「キュイキュイキュイ~!」
レッカの腕の中にいる鳥が鳴き始める。それに呼応するかのように、さらに火山の活動が活発化していた。
それは何故か火山自体が、鳥の誕生を祝福しているように思えてしまったのだ。
ただ噴火の規模自体はそれほど多大なものではない。周りも砂地が広がっており、集落もないので、流れ出した溶岩もそのうち大地に転化していくことだろう。
「おほー! ナイスな噴火ですぞい! まさか空から肉眼で見ることができるとは! これは生きていて良かったですぞい!」
ティッチが、何やら懐から出したノートに火山のデータを嬉しそうに書き記している。
しかしいつまでもここにいるわけにもいかないので、
「おい、そろそろ他の連中と合流するぞ。レッカも、いいな」
「オッス!」
「そんなぁ~! まだ調べたいことが山ほどですぞい!」
「また今度にしろ」
そう言うと、渋々ティッチは了承してくれた。
そしてウィンカァたちが待つ小高い丘へと向かう。
「…………ヒイロ」
「やはりウィンカァだったか。リリィンは怒ってたか?」
「ん……それにもう一人」
「は? ……ミュ、ミュア!?」
ウィンカァの背後からスッと出てきたのはミュアだった。ジッと咎めるような目つきで日色を射抜いてくる。
「ヒイロさん? 何でわたしが怒ってるか分かりますね?」
「…………まあな」
「もう、王なんですから、黙って出掛けたりしないでください!」
「悪かった。次からはそうする」
反論したところであっさり論破されるのは目に見えている。何故なら明らかに日色が悪いのだから。
ここは素直に過ちを認めて謝った方が賢い。
「ん? レッカ、何その鳥?」
ウィンカァの視界にレッカが映り、彼が持つ鳥へと彼女の言葉をきっかけに全員の視線が集う。
「火山の中に卵がありまして、そこから生まれたのです」
と、レッカが正直に言うと、火山研究のチームの面々が、物珍しそうに鳥に近づき始めた。しかしその行動に怯えてしまったのか、鳥が、
「キュイィィ~ッ!」
と口からは炎を吐き出したのだ。
調査チームの面々は、「熱ィッ!?」や「うわおっ!?」などと叫びながら、軽いやけどを負ってしまう。
「これこれ、まだ生まれたての赤ん坊なんだから、大勢で押し寄せたらそうなるのも仕方ないぞい」
ティッチの注意に、叱られた者たちは「すみません」と謝っていた。
ただ彼らの気持ちも分かる。彼らが研究する火山の中で生まれた未知の生物なのだから、興味が湧くのも当然だ。
「いやぁ、それにしてもさすがはヒイロ王の魔法! 万能でまさに神のごときお力ですぞい!」
神のごときというより、神の魔法なんだけどなと心の中で思う。
「それほどのお力、もし暴走でもすればそれこそ火山の噴火など足元にも及ばぬほどの力でしょうなぁ」
「安心しろ。暴走などはしない」
「いえいえ、心配などしてはおりませんぞい。ヒイロ王は世界を何度も救った英雄。末永く国を、世界をお守りくださいですぞい」
「末永くって……。永遠に働かせるつもりか?」
「ハッハッハ。言葉の綾ですぞい。しかしお気をつけください。そのお力の魅力に引き寄せられるのは、何も善意ある者たちだけじゃありませんぞい。ヒイロ王を籠絡して、利用しようとする輩も中にはいるはずですぞい。人はそこまでキレイではありませんからなぁ」
「…………そうだろうな」
感情を持つ人なのだから、善意もあれば悪意だって存在する。そんなことはこれまで生きてきて嫌というほど理解しているし大丈夫だ。
「老婆心ながら忠告をさせて頂きました。出過ぎた真似を申し訳ございませんですぞい」
「いや、民の声を聴くのが王だ。これからも遠慮なく気づいたことがあったら知らせてくれ。出来うる限り力を尽くすつもりだ」
「了解ですぞいヒイロ王。では我々はまだここで調査を致しますので。この度はお力添えをして頂き誠にありがとうございました」
ティッチ率いる調査チームたちが頭を下げる。
「ああ、また何か分かったら報告してくれ」
日色に再度頭を下げたティッチたちは、そのままその場を離れて行った。
残ったのは日色、レッカ、レッカの部隊、ミュア、ウィンカァ、ウィンカァの部隊である。
「ヒイロ、戻る?」
ウィンカァが聞いてくるが、
「いや、少し確認したいことがあるんだ。このまま【魔国・ハーオス】へ飛ぶ」
「え? ヒイロさん、何で【ハーオス】に?」
ミュアが不思議そうに小首を傾げている。
日色はいつの間にかレッカの腕の中で気持ち良さそうに眠ってしまった鳥を見つめながら、
「そいつに関して、ある奴に聞けば詳しいことが分かると思ってな」
そう言うが、日色以外の者たちは真意を掴みとれていないようでキョトンとしたままだった。
「――ほう、なるほど。それで俺のところへ来たというわけか」
納得気に頷きを見せつつ発言したのは、【魔国・ハーオス】における軍部の最高責任者であり《魔王直護衛隊》の《序列一位》――アクウィナス・リ・レイシス・フェニックスだ。
何故日色が彼に会いに来たのかというと、レッカの腕の中にいる鳥を見た時に、ある既視感を覚えたからである。
それは――一度全力と通じてアクウィナスと戦った時。その時に彼は自らの姿を不死身の化身であるフェニックスへと変貌した。
それを思い出した時、フェニックスの時の彼の姿と、レッカの腕の中にいる鳥の姿がオーバーラップしたのである。
だから彼に会えば何かしら詳しいことが分かるのでは、と思ったのだ。
アクウィナスはジッと、鳥を見つめる。そして鳥もまた、その視線に気づいてアクウィナスを見返している。互いに目を逸らさずに、まるで目だけで会話をしているかのよう。
不意にアクウィナスがフッと頬を緩める。
「何か分かったのか、アクウィナス?」
「ああ。ヒイロ、お前の見立て通りだ」
「なるほどな。やはりそうか」
「あ、あの父上、一体どういうことなのでしょうか?」
まだレッカは悟っていないのか、鳥の身体を優しく撫でながら尋ねてくる。
日色は鳥に視線を置きつつ言う。
「そいつはな――――フェニックスだ」
「フェニックス……?」
「ああ、ここにいるアクウィナスと同様の、古代の怪鳥――不死鳥フェニックス」
その場にいたウィンカァは小首を傾げているだけだが、ミュアは大きく目を見開き言葉を失っている。
「ヒイロの言う通り。しかもどうやらレッカを親のように感じているようだな」
「じ、自分を……ですか?」
レッカが信じられないという面持ちで子供のフェニックスに視線を落とすと、フェニックスも甘えるようにレッカの胸にスリスリと顔をつける。
そこへ――。
「――ヒイロ、聞いたわよ。来ていたなら……って、ミュアやウイまで……どうしたの?」
やって来たのはこの国を統括する魔王――イヴェアム・グラン・アーリー・イブニングだ。彼女はミュアの驚いたような顔を見て不思議そうに尋ねてきた。
「イヴェアムか、邪魔してるぞ」
「そんなこといいけど、いきなり訪問してきたって聞いたけど、ミュアが何か驚いてるし……何かあったの?」
「イ、イヴェアム! た、大変だよ!」
「ちょっ、分かったからミュア! 何があったのか教えて!」
「あ、あのね! フェニックスさんが生まれて、アクウィナスさんと一緒で、レッカくんが親なんだよ!」
「……? 何だかさっぱり分からないわ」
明らかにパニック状態のミュア。イヴェアムが説明を求めるように日色を見てくる。
「――コイツを見てみろ」
「へ……あら、可愛らしい鳥ね」
「そいつ、フェニックスだ」
「そう、あの伝説の……って、ええっ!?」
ミュアのように驚愕に目を丸くするイヴェアム。
「ちょっ、ど、ど、どういうことなの!?」
「落ち着け。今から説明してやるから」
日色は、火山の調査に向かい、その火山で卵を見つけ、その卵からフェニックスが生まれたことを教えた。
「――――そ、そうなんだ。フェニックスって卵から生まれるのね……」
「正しくは火山が作り出したエネルギーの塊が卵のような形をしているだけだがな」
イヴェアムの呟きにアクウィナスが補足した。
「恐らくその火山が活発化していたのは、近々コイツが生まれるからだったのだろう。言うなれば火山は母親そのもの。子供の誕生を祝福しない親などいないからな」
アクウィナスの言葉になるほどと日色は思う。
(最後の噴火は、コイツの誕生を喜ぶ親の声だったってわけか)
そう考えれば、人も自然もそう変わらないものなのだと思われた。
「それにしてもこの子、凄く可愛いわね」
「そうなんだよね~」
イヴェアムとミュアが、フェニックスの身体を撫でながら癒されているようだ。
「あ、そうだレッカくん、この子の名前は?」
「へ?」
ミュアの突然の質問にキョトンとなるレッカ。
「だってレッカくんが親なんでしょ? だったら名前をつけてあげないと」
「えっと……ですが……」
レッカが縋るような目で日色を見てくる。日色はアクウィナスに視線を移し、「いいのか?」と問う。
「いいと思うぞ。フェニックスというのは本来明確な親という存在は持たないがな。しかしコイツはレッカを慕っているようだ。恐らくマグマの中に落ちる際に、レッカに助けられ、その時に感じたレッカの優しさに触れ、親と認識してしまったのだろう」
「なるほどな。そういうことだ、レッカ。立派な名前をつけてやれ」
「父上…………ど、どんな名前がいいのでしょうか」
「思いつかないなら鳥だから鳥で」
「ダメですよ、ヒイロさん!」
「そうよ、ヒイロ! あなたはネームセンスがないんだから黙ってて!」
ミュアとイヴェアムが制止の声をかけてきた。
(失礼な奴らめ。分かり易いからいいじゃないか)
しかし確かに日色がこれまでつけてきたあだ名などを考慮すると、誰もが首を傾げてしまうのも無理はない。
「キュイキュイ~」
突如フェニックスが鳴いた。甘えるような声だ。レッカに何かを訴えているように思う。
「え、えと……ど、どうしたのですか?」
レッカが焦りながらフェニックスに問う――が、まだ意思疎通ができないので、何を言っているか分からないようだ。
そんな中、今まで沈黙していたウィンカァが口を開く。
「――ん……この子、お腹空いたって」
当然全員が彼女に視線を向けた。
「……! そうか、確かウィンカァはモンスターや動物と話ができたんだったな」
日色も忘れていた彼女の特異能力だ。
「あ、あのアクウィナス様、この子は何を食べるのでしょうか?」
「基本的には雑食だ。好みはそれぞれだが、魔力も食べるからやってみるといい」
アクウィナスの言う通りに、レッカが指先をフェニックスの嘴に持っていくと、まるでお乳を吸うように咥えた。そのままの状態で、レッカが魔力を指先へと流していくと、美味しそうにフェニックスは喉を鳴らし始める。
「わぁ、可愛い!」
「本当ね、私もあげてみたいわ!」
ミュアとイヴェアムがフェニックスの食事姿に心を打たれているようだ。
しかしイヴェアムが人差し指を近づけてみるが見向きもせずに、レッカの指だけを咥えている。
「陛下、フェニックスというのは心を許した相手からしか魔力を貰わない」
「そ、そうなんだぁ……」
アクウィナスの説明にガックリと肩を落とすイヴェアム。
「す、すみません!」
「ううん、レッカのせいじゃないわよ。この子はまだ生まれたての赤ん坊なんだから、親だけを慕うのは当然よ」
「そう言って頂けるの嬉しいんですが……自分が親ですか」
何だか恥ずかしそうに顔を俯かせているレッカに対し、
「ほらほらレッカくん、早く名前を考えてあげないと」
と、ミュアが彼を促す。
「あ、そうですね。えと……」
レッカがジッとフェニックスを見つめながら思案顔を浮かべる。
他の者も黙ってレッカが答えを出すまで待つ。
そして――。
「――――ルヴィ」
「キュイ?」
レッカの不意の呟きにフェニックスが真っ黒な瞳をレッカへと移して鳴いた。
「……ルヴィ――でどうですか?」
「キュイキュイ~!」
「ふふ、どうやら気に入ったようね。良かったわ、レッカがヒイロみたいに残念なネームセンスじゃなくて」
「おい、それはどういう意味だイヴェアム?」
「だってあなたってば、鳥だから鳥って名付けようとしたでしょ? ミカヅキなんてよだれ鳥って呼んでたくせに。全然可愛くないわ」
「う……」
「その点、ルヴィって響きも可愛らしいし、この子も気に入っているようだしね」
「ん……ヒイロ、ウイのこともアンテナ女って呼んでた」
「あ、わたしのことはずっとチビでした」
ウィンカァとミュアが追撃するかのごとく発言してきた。
確かに今まで日色は、あだ名を見た目重視でつけてきたが……。
しかしよく考えれば、確かに女の子によだれ鳥とつけたのは頂けないかもしれない。
「ち、父上、ルヴィでよろしいでしょうか?」
不安気にレッカが尋ねてくる。
「……お前が決めたのならそれにすればいい」
「――オッス!」
こうしてレッカにフェニックスのルビィという子供ができた。【太陽国・アウルム】に帰ってそのことを告げると、リリィンたちは驚きながらもレッカたちを祝福する。
しかし、勝手に国を離れた日色に対してはきつい説教が待っていたのは言うまでもないことだろう。
次回更新は10月1日にします。

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