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BGM:アンドレ・ザ・ジャイアントテーマ曲『ジャイアントプレス』

 

25日、小池百合子都知事が都庁で会見し、6月に上野動物園で生まれたジャイアントパンダの赤ちゃん(♀)の名前を、32万2581通の公募の中から「香香(シャンシャン)」に決定したと発表。存在自体が無条件で人間をしあわせにさせるパンダ案件らしく一日がその話題でいっぱいとなった中、そんな世間の向こうをムダに張るかのごとく同日夜、大日本プロレスが10月4日の北海道・釧路青雲台体育館大会においてスタン・小林vsアンドレザ・ジャイアントパンダの一騎打ちをおこなうと正式にリリースした。

 

▲大日本がリリースしたアンドレザ・ジャイアントパンダのファイティングポーズ写真。これだけではどれほどの大きさかは伝わらないが

 

この日の新木場1stRING大会で第1試合タッグマッチにスタン・小林名義で出場したアブドーラ・小林は、伝家の宝刀ウェスタン・ラリアットで菊田一美をしとめるとマイクを持ち、テキサスではなく日本訛りの英語でカード決定をアナウンス。直後に団体からプレスリリースが流されるという、必要以上の手際のよさだった。

 

アンドレザ・ジャイアントパンダ(アンドレ・ザ・ジャイアントパンダではない)とは、北海道のアマチュアプロレス団体・新根室プロレスが中国から発掘した身長3メートルのパンダ。ニューカマーのため『ローカルプロレスラー図鑑2017』にも載っていない。

 

さる7月30日に別海町ぷらと前多目的広場にて開催された「商工青年夏まつり2017~ビアガーデンマッチ~」に初来日し“超暇人”ハルク豊満を2階からのヘッドバットで失神へと追い込み、レフェリーストップによる秒殺TKO勝ちという圧倒的な強さとデカさで鮮烈日本マットデビューを飾った。その試合の世にも貴重な映像はコチラ。

 

▲アンドレザの試合は12分あたりから。見ただけで博多スターレーンに登場させたくなる

 

一般的に成獣となったジャイアントパンダの体長は120~150センチ。直立しても170センチほどとされるので、やはり動物業界的にもアンドレザは長身の部類に入る。サイズがデカすぎるがゆえ、雑なリングインをしてしまい入場時からダウンをとられるピンチとなったが、スタンドになるや野性味あふれる俊敏な動きで場内をどよめかせた。

 

この大きさながら吉野正人やヨシヒコばりのスピードを誇るのは驚異的で、パワーだけでなくかわいい顔してテクニシャンであるところもうかがえる。あの“人間山脈”アンドレ・ザ・ジャイアントも一人民族大移動などと言われながら、じつは相当の技巧派であったのは識者の間で知られているところ。そのアンドレより77センチもデカいのだ。

 

▲別海町大会ポスターにもデカデカと載せられ、大々的に宣伝された。にしても、それ以外の出場選手のキャラクターも総じてたまらない

 

現存するプロレスラーとしては、同じ中国の団体・新北京プロレスに所属するロングリバー黄河が計測不能ながら人を踏み潰すほどの大きさのため世界最大とされている。だが、黄河はあまりのデカさのためじっさいに全長を見た者はおらず(それは死を意味する)、ライヴで見られるプレイヤーとしてはあらゆるスポーツの中でもこのジャイアントパンダがホフ専用ズゴック(浪速区民センターVer.)らと並び最大級と言っていい。

 

SNS上では光の速さで話題となったアンドレザを「ネットプロレス大賞」主宰者のブラックアイさんがとりあげたのは9月24日のエントリー。遅れ馳せながら私もその記事で知ったのだが、とにかく今一番生で見たいプロレスラーの座を瞬時に獲得。これは飯伏プロレス研究所の研究対象としても申し分ないなどと思っていたところ、なんでもくいしんぼう仮面がオファーをかけてみたそうなのだが、ケガで入院中との回答が新根室サイドからあったらしい。

 

くいしんぼうさんが招へいは諦めないとツィートする一方で「俺は7月の時点で目をつけていた!」と豪語する男が水面下で動いていた。プロレス界の全部乗せこと、アブドーラ・小林プロである。

 

▲レフトハンドで出す場合は本家よろしくウェスタン・ラリアットであるのに対し、右腕の場合はイースタン・ラリアットになるという。テンガロンハットを被りビッグテキサンを気取りながら、凶器シューズのままというツメの甘さまでも含めてのスタン・小林

 

ただでさえアブドーラ・ザ・ブッチャーなのに棚橋弘至や中邑真輔、オカダ・カズチカらを一方的に乗せまくることでノシ上がってきたアブ小プロが、この夏はスタン・ハンセンをオマージュしスタン・小林を名乗るようになった。それと時を前後してアンドレザの存在がアンテナに引っかかるというのだから、これはもう田園コロシアムの神様が微笑んだとしか思えない。

 

「もともと新根室プロレスさんは日本に数ある団体の中で私がもっとも上がりたいところだったでした。キャラクターがみんな面白いから。それで3年ぐらい前からずっと新根室に上がりたいってツィートしていたんですけど、そんな中であのジャイアントパンダが現れた。そのタイミングで自分がスタン・小林をやっているということは、これは今やるしかないなと。スタン・ハンセンvsアンドレ・ザ・ジャイアントの田園コロシアム決戦もこれぐらいの時期だったじゃないですか(1981年9月23日)。

 

新根室さんのリングではないけど、ウチが北海道巡業にいくんで根室から一番近い釧路なら…ということでオファーしたら通ったんです。ファンの皆さんの共感が後押ししてくれたようなものですよ。聞くところによるとプロとの交流はしないようにしていたらしいんですけど、みんなの声が動かしてくれました」

アマチュアプロレス団体であるゆえ、プロへのリスペクトから交流はしないようにしてきたと思われる新根室。だが、ジャイアントパンダが業界に与えたインパクトはあまりに大きすぎた。プロの方から食いついてくるというのは(外野からワッショイしている鈴木秀樹を含め)、さすがに想定外だったはずだ。

 

アブ小のなんでも面白がる熱意に応えるかのごとく、アンドレザも“ジュッテンヨン”に向けての復帰を決意。おそらくその風体からして、白黒をハッキリつけないと気が済まない性格なのだろう。かくして田園コロシアムがあった田園調布からは遥か離れた北の大地で、勝手に伝説の一戦がオマージュされることとなった。

 

とはいうものの相手は野性のパンダであり、なんといっても3メートルの長身を誇る。「すでにハンセンvsアンドレ戦を見て研究している」というアブ小プロは、ジャイアントパンダをボディースラムで投げ、ウェスタン・ラリアットで場外まで吹っ飛ばすと豪語するが、果たしてその首まで左腕が到達するのか。

 

「カギとなるのはパンダが18文キックを出せるかどうか。ハンセンもアンドレのビッグブーツをかわしてラリアットを放ったから、そこが決められるチャンスだと思うんで。なんとか対策を練って伝説のシーンを再現させます。ただ、あの試合は両者リングアウトからの延長戦でアンドレの反則負けになったじゃないですか。今回の一戦はその決着戦だから、結末に関しては私が勝利をあげて田コロ決戦を超えます。そして釧路の中心…ではなく、丘の上で“ユース!”と叫びますよ」

 

当時、ハンセンが大巨人をボディースラムで投げたシーンで古舘伊知郎アナウンサーが「世界で5人目!」と絶叫したが、おそらくアンドレザを投げ切った人間はまだいないだろうから実現させれば「世界で1人目!」になる。その上でラリアットをブチかまし、バトル・オブ・スーパーヘビーウェートを制すというのだ。

 

これまで、闘うスーパー銭湯・お風呂の国で吸いつきタコ、マグロ、うなぎ、猛毒カニなどさまざまな相手と異生物格闘技戦をおこなってきたアブ小プロ。その中でもっとも大きかったマグロでさえ1メートル数十センチというから、間違いなく過去最大の相手となる。

 

プロのレスラーがアマチュアプロレス団体のリングへ上がるだけでも大きなリスクをともなうのに加え、アブ小プロは日本におけるデスマッチファイターの第一人者であり、現BJW認定タッグ王者。もし敗れるようなことがあればその歴史とタイトルの価値と、ついでにベルトを創ったグレート小鹿の顔に泥を塗りたくるのは必至で、勝負は時の運という言葉では済まないことになる。

 

「出る前に負けること考えるバカいるかよっ! これは大日本の人間として避けられない運命ですから。ウチは以前にレスリングベアーを上げようとしたり、テリブルテッド・ブラックベアーという熊レスラーを招へいしてきた。つまり、大日本はいつか熊との決着をつけなければならないプロレス団体なんです! パンダも熊じゃないですか。この試合に勝ってこの私が“熊殺し”の称号を襲名しますよ(まだ乗せるつもり満々)」

 

試合は通常ルールでおこなわれるため、凶器使用は認められない。3メートルのパンダを蛍光灯でぶん殴り、コンクリートブロックへ叩きつけ、竹串を全身に突き刺した揚げ句画鋲の海へ沈めたらどうなるかという竹田誠志的発想にも駆り立てられるが、あくまでもアブ小プロはそういったものは導入せず、正々堂々と“田園コロシ合い”を挑むのだという。

 

思えば日本のプロレスはパンダとともに歩んできたといっても過言ではない。1990年2月に大仁田FMWがメキシコからパンディータなるマスクマンを招へいしたのがはじまりで、その路線を受け継いだレイ・パンディータも登場。最近ではWRESTLE-1にパンニャン老師という中国拳法の達人が上がり、昨年7月8日はケンドー・カシンとパンディータ(何代目になるのかは不明)が新木場1stRINGでワンマッチ興行を強行。リングの中で観戦するリングインサイド席(10万円)が話題となっただけでなく、パンディータの正体が大仁田厚という禅問答的な結末に、週刊プロレスのカシン番・松川浩喜記者が歓喜した。

 

一時期はDDTに大中華統一中原タッグ王座があり、ベルトの中心へパンダの顔があしらわれていた。数え切れぬほどのメジャータイトルを獲得してきたザ・グレート・サスケでさえ、リッキー・フジとのコンビで巻いたさいは「いいねえ、最高だ! さっそく明日、盛岡へ帰る前に上野動物園に寄って、ベルト奪取をパンダに報告しますよ!」とドヤ顔で宣言したものの、0.5秒後には「上野動物園、明日は月曜なので休みなんですが」と記者団の突っ込みが入ったため「おおーっとぉ!? そう来たかい」と、その場を取り繕うかのようなバンプしかとれないという一幕もあった。

 

▲ムーの太陽のマスターを自称する前の時期にサスケが獲得した大中華統一中原タッグのベルト(2011年7月3日)

 

このように、屈強なプロレスラーたちでさえ無条件で気持ちが高揚してしまう存在がパンダであるのは、歴史も証明している。アブ小プロは、それとの闘いでもあるのだ。

 

▲パンダというだけではしゃぐプロレスラーの皆さん(写真はイメージ)

 

「東京に呼ぶのではなく、こっちから北海道へ乗り込むから意味があるんです。だから東京のファンにも見に来てほしいんで、東京組には特典をあげます…うーん、じゃあスタン・小林が試合中でも取らない魂のウェスタンハットを被ってもらってのツーショット撮影をやりましょう。会場で『東京から見に来ました』って言ってください」

 

熊猫山脈が新根室プロレスの看板を守るか、それとも不沈艦ならぬバカチン艦が大人げない勝利をあげてひとりほくそ笑むのか。アンドレザとすれば、単なる客寄せパンダとして片づけられるのはプロレスラーとしてのプライドが許さぬだけに、もはやシャンシャンで終わるような一戦を望むのは無理なところまで来てしまっている。これも何かの縁…せっかくだから小池都知事にも釧路まで見にいってもらい、アブ小プロとのツーショット撮影を実現させていただきたい。

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