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「衆院解散表明 『解散の大義』とは?」(時論公論)

太田 真嗣  解説委員

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「国民の信任なくして、大改革や毅然とした外交を進めることはできない」。
安倍総理大臣は、記者会見し、今週28日に召集される臨時国会の冒頭で、衆議院を解散する考えを表明しました。なぜ『いま』、それも『臨時国会冒頭』の解散なのか。
そして、次の選挙は『何を問う選挙』なのか。
衆議院解散の背景と、『解散の大義』について考えます。

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きょう(25日)の記者会見で、安倍総理は、衆議院解散の理由について、「子育て世代への投資を拡充するため、消費税の使い道を見直すことを、きょう、決断した。国民との約束を変更する以上、速やかに国民の信を問わなければならない」と説明しました。その上で、安倍総理は、森友・加計学園問題を念頭に、「苦しい選挙戦になろうとも、国難を乗り切るため、どうしても、今、国民の声を聞かなければならない。この解散は、『国難突破解散』だ」と述べました。

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これに対し野党側は、「解散の大義がない」と批判しています。野党側は、森友・加計学園をめぐる問題で、臨時国会を早期に開くよう要請してきましたが、政府は応じませんでした。野党側は、「なぜ冒頭解散なのか説明できていない。疑惑隠し以外のなにものでもない」などと、強く反発しています。

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衆議院議員の任期が残り少なくなる中、いつ、解散・総選挙のカードを切るかは、安部政権とって頭の痛い問題でした。任期が切れる来年12月までには、選挙を実施しなければなりませんが、北朝鮮情勢をめぐって、万が一、不測の事態ともなれば、選挙に打って出るタイミングを逸する恐れもあります。また、安倍総理が言うように、憲法を改正し、2020年の施行を目指すなら、改正案作りや国民投票の準備などを急がなければなりません。来年9月には自民党総裁選も控えており、安倍総理にとって、解散・総選挙は、できれば早いうちにクリアーしたいハードルです。

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それにしても、なぜ『国会冒頭』なのか。そこには、「いまが、選挙に有利」という判断があったのは間違いありません。

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今月のNHKの世論調査で、安倍内閣の支持率は、3カ月ぶりに、『支持』が『不支持』を上回りました。ただ、過去の例を見ると、国会が始まると支持率は下がる傾向があります。特に次の国会は、森友・加計問題をめぐり、冒頭から野党の厳しい追及を受けるのは目に見えています。
一方、野党第1党の民進党は、離党者が相次ぎ、共産党などとの野党連携に向けた動きも進んでいません。さらに、東京都の小池知事に近い衆議院議員らが進める新党の準備作業などを見ながら、「できるだけ早く、いまのうちに…」という判断に傾いたと見られています。
そうした中、東京都の小池知事は、自らが新党の代表に就任することを表明。与野党ともに、離党者を出すなど、選挙戦に向けた議員の動きや、各党の駆け引きは激しさを増しています。

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しかし、解散・総選挙にはマイナスの側面もあります。北朝鮮の脅威が続く中、解散による、『政治空白』を作って大丈夫なのかという懸念があるほか、総理自らが、『仕事師内閣』と銘打った改造内閣は結果を出せず、『働き方改革』も先送りです。もちろん、選挙には、多くの予算、労力もかかります。
そうしたマイナス面、あるいは、リスクに目をつぶっても解散・総選挙が必要な理由。それが、『解散の大義』です。今回の解散をめぐっても、「大義がない」、「いやいや国民の信を問うこと自体が解散の大義だ」などと、様々な議論が交わされています。

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そもそも、「なぜ、解散の大義」が問題となるのか。それは、今回の解散が、内閣不信任決議案の可決に伴う、憲法69条による解散ではなく、天皇の国事行為を定めた、憲法7条による解散だからです。

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7条には、解散の条件などの定めはなく、政府は、「憲法上、解散権の行使について制約はない」という立場です。実際、これまでも、多くが7条による解散で、「解散は総理の専権事項」と言われる所以です。

では、総理は、いつでも解散権を行使して良いのか。かつて衆議院議長を務めた保利茂は、議長在職中、「7条解散の乱用は許されない」という見解をまとめていたことが知られています。

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この中で、保利氏は、解散は一種の非常手段であり、▼予算案や重要案件が否決された時や、▼選挙後に重大な問題が提起された場合などに限るべきだとしています。しかし、その後も、日本では、解散権の制限は設けられていません。

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一方、日本がお手本としたイギリス議会は、6年前、首相の解散権を制約する法律を成立させました。しかし、▼政治の緊張感が損なわれる。▼民意と議会との間にズレが生じた場合国民の意思が反映されなくなる、といった問題点も指摘されており、一律に規制するのが良いのかどうか、難しい問題です。

もちろん、選挙を通じ、「政治が国民の信を問う」ことが大事なのは言うまでもありません。しかし、衆議院の解散は、裏返してみれば、そうして示された国民の意志を、政治が「白紙に戻す」、あるいは有権者から託された責任を途中で放棄するものです。解散権が法的に縛られていないからこそ、「なぜ解散が必要なのか」、「選挙で何を問うのか」を説明するのは、それを、解散の大義と言うかは別としても、解散権を行使する側の当然の義務と言えるのではないでしょうか。

自民・公明の与党は、現在、衆議院の3分2を超える議席を占めています。次の選挙から議員定数が10削減されることもあり、関係者からは、「減り幅をどこで抑えられるかの勝負だ」という声も聞かれます。解散表明が、野党連携を後押しし、「新党立ち上げの動きに勢いをつけた」という指摘もあります。今後の論戦や選挙公約などを通じ、今回の選挙の意義について、有権者の納得が得られるのか。そうでなければ、安倍総理の言葉通り、「厳しい選挙」になることは避けられません。

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一方、選挙で国民の信が問われるのは、政権・与党だけではありません。民進・共産・自由・社民の野党4党は、与党に対抗するため、候補者の一本化を模索いくことで一致しています。しかし、安全保障や税制などの基本理念や政策に違いがある中、「安倍政権にストップをかける」というスローガン以外、何を旗にするか見えてきません。衆議院選挙が、政権選択の選挙である以上、各党とも、いまの政権に変わる枠組みをどう考えるか、そして、具体的な政策を示して、政権との対立軸を明確できなければ、幅広い支持を取り付けることは出来ないでしょう。

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最新の世論調査で、解散・総選挙の時期はいつが望ましいかを聞いたところ、「年内」と答えた人は、わずか14%でした。多くの国民が、「なぜ、今?」という気持ちを抱える中、衆議院選挙は、来月22日投票という短期決戦になる見通しです。同じく選挙の大義が問われた、前回の衆議院選挙は、投票率が過去最低に止まりました。「この選挙は、何を問う選挙か」。それを明確にし、国民の政治参加を促すのは、与野党を超えた政治全体の重い責任です。

(太田 真嗣 解説委員)

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