9/23公開の映画「ユリゴコロ」を観てきました。
本作品は2011年に発売された沼田まほかるさんのミステリー小説「ユリゴコロ」の映画化作品です。
「ユリゴコロ」は第14回大藪春彦賞を受賞、第9回本屋大賞ノミネート、このミステリーがすごい!5位などで注目されたミステリー小説の話題作らしいです。
私は原作の小説を読んだことがありませんでしたが、予告とあらすじに惹かれて観に行くことにしました。
主演は吉高由里子、その他出演者には松坂桃李、松山ケンイチなどが出演しています。
本作品はPG-12指定になっているため、小学生は親の同伴がないと鑑賞できません。
また、作中には正直目を背けたくなるような残酷なシーンが含まれているので、大人が観てもキツイ人にはキツイんじゃないかなと思います。
全編残酷なシーンが続くわけではないのですが、血が苦手だと厳しいシーンがあるので鑑賞を検討されている方はご注意ください。
あらすじ
父が余命宣告され、さらに婚約者が突如失踪した亮介(松坂桃李)は、実家で「ユリゴコロ」と書かれた1冊のノートを見つける。そこには人間の死でしか心を満たすことができない、美紗子(吉高由里子)という女性の衝撃的な告白がつづられていた。亮介は、創作とは思えないノートの内容に強く引き寄せられ……。
シネマトゥデイ (外部リンク)
本作品、序盤から主人公?の亮介に降りかかる不幸が重いです。
父親の末期癌、婚約者の突然の失踪、婚約者の失踪を知る謎の女の登場などインパクトの大きすぎるイベントが相次いで発生します。
普通の人ならこの時点でだいぶ精神的におかしくなりそうなものですが、オーナーとしてカフェを切り盛りする亮介は気丈に振舞いながら、婚約者の行方の手がかりを必死に探します。
そんな中、実家に立ち寄った亮介は押し入れの中から「ユリゴコロ」と書かれた謎のノートを発見します。
「ユリゴコロ」には人の死に喜びを感じる美紗子の狂気の人生が綴られていました。
あまりにリアルで衝撃的な内容に引き込まれ、ノートを読み進めていくうちに亮介の行動にも次第に影響を与え始めます。
本作品は婚約者の行方を探る亮介パートと謎のノートに記述されている美紗子の人生パートの2部構成でストーリーは進行していきます。
評価と感想
見た後に爽快感があったり、純粋な感動がある映画ではありません。
むしろモヤモヤしたやり場のない感情が残る映画でしたが、観たことを後悔するような映画ではありません!
おそらくほとんどの人が登場人物に共感することはできないでしょう。
それくらい登場人物は異常な人間が多いです。
しかし、そんな異常な登場人物達の悲哀や感情表現には目を見張るものがあります。
共感はできないけど、どんな気持ちで発言されたセリフなのか?どんな気持ちで行動に至ったのかを深く考えさせられる映画でした。
また、異常な登場人物達を演じたキャスト陣の演技力も素晴らしいです。
特に吉高由里子の演技力がすごい!狂気の美紗子と終盤の美紗子では同じ女優が演じているとは思えないほどの雰囲気の違いを表現していました。
ただし、よくできたミステリー作品として期待してはいけません。
原作のことはわかりませんがミステリー作品として観るとストーリー構成に粗が目立ちますし、わりと容易に先が読めてしまいますので、結末に驚きはありませんでした。
また冒頭でも触れましたが、序盤に少々行き過ぎた残酷表現が含まれるため、血を見るのが苦手な方は序盤のシーンを乗り越えるのがキツイかもしれません。
以下、映画のストーリーについての考察に入るのでネタバレを含みます。
ストーリーの考察
ユリゴコロのポイントとしては美紗子の行動の変化が大きく変わっていくことだと思います。
タイトルであるユリゴコロの変化と人を殺す理由の変化に本作品中の美紗子の成長が感じられるのです。
美紗子のユリゴコロの変化(ネタバレ含む)
本作品のタイトルである「ユリゴコロ」とは存在しない言葉であり、「拠り所」の聞き間違いと作中で語っている。
もう一人の主人公である美紗子は幼少時代から感受性が欠落していて、いわゆるサイコパスの子供でした。
そんな幼少時代の美紗子が医者から言われた「ユリゴコロがない」という言葉がきっかけで、美紗子のユリゴコロ(拠り所)を探す旅は始まります。
ある日デパートで出会った人形に自分を投影させて初めてのユリゴコロを手に入れます。
幼少期の美紗子は他人とうまくコミュニケーションが取れず、一人で虫を井戸に落として殺す遊びに熱中していました。
身近な生が失われることで自分の生きている実感を得たかったのでしょう。
子供というものは純粋に残酷なことをする生き物なので、虫を殺して遊ぶという経験は男ならほとんどの人が経験したことがあるのではないでしょうか。
しかし、美紗子の異常性は虫を殺すだけに留まらず、事故によって目の前で友達が死んでいく姿を見たことがきっかけで人の死にユリゴコロを感じたのです。
そして中学生になったときについに事故とみせかけて自らの手で人を殺めてしまいました。
やがて成長して、専門学校に通う美紗子はみつ子というユリゴコロを手に入れます。
彼女は美紗子と同じように死を身近に感じることで生の実感を得ていたため、自分の同類だと思ったのでしょう。
心理的な苦痛から逃れるために自分の体を傷つけるリストカットの心理と、自分の生を確認するために他者を殺すという心理は全然違うような気がしますが、美紗子は初めて他人にユリゴコロを感じ、みつ子を大切にしようという人間らしい感情が芽生えます。
みつ子は結局リストカットをやめることができず、美紗子と生きることを諦めて死んでいきます。
ユリゴコロを失った美紗子は空っぽになり、娼婦として働き始めます。
そんな中で出会ったのが自分を異常な愛情で包み込んでくれる洋介というユリゴコロでした。
洋介との出会い以降、美紗子の精神は安定して、これまで経験したことのない家族愛が芽生えました。
美紗子が人を殺す理由の変化(ネタバレ含む)
ユリゴコロの手記の中で美紗子は基本的に自分のために人を殺し続けています。
洋介と出会うまでは他人を殺すこと自体がユリゴコロを感じられる唯一の方法であり、自分がユリゴコロを手に入れるために人を殺しています。
洋介との出会い以降は洋介というユリゴコロを失う恐怖から人を殺しています。
やはり自分のために他人を殺しているのです。
しかし、亮介の婚約者である千絵を救出する際に初めて美紗子が人を殺す理由が変わりました。
自分のためだけに人を殺してきた美紗子が初めて他人のために人を殺したのです。
息子の手を汚さないようにすることが美紗子にとってのせめてもの罪滅ぼしだったのかもしれません。
テーマについて(ネタバレ含む)
本作品のテーマは「消えることのない愛情」です。
ユリゴコロを読んだ洋介は自分を救ってくれたと思っていた美紗子が自分の人生を狂わせた張本人だったことを知ります。
しかし美紗子の主張は洋介の人生を壊さなければ出会うことすら叶わなかったので、まともな人生を歩むためには洋介の人生を壊すほかなかったというもの。
こんな美紗子の自分勝手な理由で不幸の渦に巻き込まれてしまったにもかかわらず、洋介の美紗子に対する愛情は消えることはありませんでした。
また、息子の亮介も婚約相手である千絵が実はヤクザの男と結婚していたことや娼婦として無理やり働かされていた事実を隠していたにも関わらず、過去の事実を受け入れ、それでもなお千絵を愛し救い出そうと決意します。
この家族にとって、大事なのは過去ではなく現在なのです。
過去がどうであれ現在の妻(婚約相手)に愛情があることが事実であり、その愛情が過去の過ちによって簡単に消え去ってしまうようなものではないのでしょう。
洋介と亮介は血がつながっていないはずなのに考え方が同じというところが面白いですね。
まとめ
映画の評価と感想を以下のように総括しました。
- 登場人物の悲哀や感情表現の繊細さに考えさせられる映画
- 異常な登場人物達を演じるキャスト陣の演技力がすごい!
- ミステリー映画として観るとご都合主義な展開などストーリーの粗が目立つ
- 行き過ぎたグロテスク表現があるため見る人を選ぶ
映画版と小説版ではだいぶストーリーの構成も変わってくるそうで、映画のご都合主義な演出も小説版ではだいぶ自然な流れになっているそうです。
結末も映画版と小説版では異なるようなので、小説版を読んだらまた違った感想になるかもしれませんね。