『徹子の部屋』意外なお友だち編
明日もどうぞよろしくお願いします
(菊村栄)
加納英吉が危ういという知らせに私は場所もわからないまま彼の隠れ家に連れて行かれた
そこには彼の刎頸の友である元総理秘書川添純一郎がいた
川添は加納英吉がやすらぎの郷をつくった動機を初めて私に語ってくれた
驚いた事にその話は私やお嬢やマヤや凉子みんなの共通の友人だった大道洋子の話から始まった
(川添純一郎)あの事件が全てのきっかけでしたよ。
加納はすっかり狼狽しすっ飛んでいって遺体に対面した。
大学病院の解剖室でね。
遺体はすっかり腐乱してたそうです。
その彼女の死の原因が元々自分にあるのだと加納は非常なショックを受けた。
何しろ彼女の貯金通帳には200円しか残ってなかった。
それからですよ。
あいつが芸能人の末路に関して深刻に考え始めたのはね。
(川添)プロダクションをあいつは解散し全てから完全に身を引いてしまった。
洋子の事件は私にとっても強烈な衝撃をもたらしたものだ
多分一番親しかったお嬢やマヤにも同じだったろう
仕事を失った大道洋子は心の平衡を完全に失い親しい仲間に電話をかけまくった
だがその電話は支離滅裂でしかも常識を外れた時間に訳のわからぬ事を延々としゃべるから友人たちは皆辟易し彼女からの電話に出ないようになった
すると彼女は逆上して怒り次々に絶交の宣言をした
そして彼女は全く孤立した
テレビで華々しい一時代を築き大衆に夢を与えてきた者がいかなる理由があったにせよ世間から捨てられ友人たちからも忘れ去られる。
そういう事があっていいのかと加納は深刻に悩んだようです。
あいつは長い事彼女の事を娘のようにかわいがってましたからね。
あれは僕らにも責任があります。
もっとなんらかの手を打てなかったかと僕らも反省し傷つきました。
(寝息)もう一つの原因は九条摂子さんです。
摂子さんは加納にとっていわば永遠の恋人でしたよ。
もちろん手を握った事すらなかった。
一方的に惚れていただけです。
しかしその惚れようは半端じゃなかったですな。
一生を通して少年のように…あの加納がですよ心を捧げたんです。
だからあいつは結婚もしなかった。
神楽坂の芸者にみどりさんを産ませたけど正式の結婚は一度もしてません。
その摂子さんがある日加納に「私もそろそろ老人ホームにでもいいとこがあったら入居しようかな」とふっと漏らした事があったそうです。
大衆に夢を与えてきた者が何も報われずに世の中から捨てられる。
そうして老いて死を待つだけになる。
国も救わない。
誰も救わない。
そこであいつの考えた事がやすらぎの郷の構想でした。
(ドアの開閉音)
(名倉みどり)パパが目を覚ましました。
先生に会いたいって言ってます。
はい。
やあ先生。
(加納)そっちの椅子に座らせてくれ。
(名倉修平)はい。
(加納)三途の川の岸辺に来ちまった。
こっちの河原は石ころだらけでね。
靄が湧いていて向こう岸は見えねえや。
姫への追悼文読ませてもらいましたよ。
さすが先生。
素敵な文でした。
ありがとう。
失礼します。
先生とはねゆっくり話したかった。
あのテレビの箱は素晴らしかったねえ。
あんなちっぽけな四角い箱が惨めな敗戦から立ち直る日本人にどれだけの夢を残してくれたか。
(加納)古橋橋爪力道山白井長嶋王…。
若い青年たち美しい女優さんたち。
(加納)美空ひばり江利チエミ雪村いづみザ・ピーナッツ裕次郎秀さん勝新太郎…。
これらの人がテレビで夢を見せてくれたおかげで日本は耐えて立ち直せた…。
その彼らにこの国が何か報いたのかね?テレビがね初めて出た時わしはこの機械に自分の人生を懸けようかとそう思った。
あの頃テレビは輝いていたからね。
ねえ先生。
はい。
汚れのない真っ白な処女だったんだぜ。
それを金儲けばっかり考えて売女に落としてしまったんだ…!その責任は誰が取る?テレビは古典をいくつ残した?テレビの文化だ。
テレビの文化なんだよ…!
(名倉)ベッドに移りましょう。
(加納)はあ…先生に失敬してそうしてもらおう。
(名倉)はい。
(加納)もう…もう酸素はいらんぞ。
(加納)窓を少し開けてくれ。
(名倉)はい。
(加納)天然の酸素を吸いたい。
先生は山で死なれますか?海で死にたいですか?山です。
(加納)そうか。
わしは死ぬ時は海を望む。
(加納)わしが死んだら死体は焼かずそのまま海に沈めてもらう。
碇をつけてな。
その事は川添に頼んである。
法律的にはまずいんだろう。
わしは今まで何度も何度も法律を破ってきた。
ハハ…そんなもん知っちゃいねえや。
わしの体を魚がついばみ骨はプランクトンや微生物が食いつくす。
海底の砂に全てが返った時わしが本当に死んだ時だ。
名倉くん。
はい。
少し息苦しい…。
もういいから最後の麻薬を入れてくれ。
わかりました。
「大笑い三十年の馬鹿騒ぎ」。
石川力夫という若い極道の…辞世の句だ。
「大笑い三十…」「海行かば」「水漬く屍」
(心電図モニターのアラーム)
加納英吉のそれが最期だった
加納さんがお亡くなりになってやすらぎの郷はどうなるんでしょうか?2017/09/20(水) 12:30〜12:50
ABCテレビ1
やすらぎの郷 #122[解][字]
倉本聰が同世代の大人たちに贈る、全く新しい帯ドラマ。物語の舞台は、かつてテレビ界に功績のあった者だけが入れる老人ホーム。名優がスターを演じる虚実入り混じった物語
詳細情報
◇番組内容
『やすらぎの郷』の創設者・加納英吉(織本順吉)が目を覚ますまでの間、菊村栄(石坂浩二)は川添純一郎(品川徹)から、加納が『やすらぎの郷』を創設するに至った最初の動機を聞く。ほどなくして加納が目を覚まし、栄はようやくかつての“芸能界のドン”との面会を果たす。
◇出演者
石坂浩二
草刈民代、名高達男(※五十音順)
【ゲスト】品川徹、織本順吉
◇作
倉本聰
◇音楽
島健
◇演出
藤田明二(テレビ朝日)
◇主題歌
中島みゆき『慕情』(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
◇スタッフ
【チーフプロデューサー】五十嵐文郎(テレビ朝日)
【プロデューサー】中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、河角直樹(国際放映)
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.tv-asahi.co.jp/yasuraginosato/
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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