水銀の国際規制 水俣条約の初の締約国会議 スイスで始まる

水銀の国際規制 水俣条約の初の締約国会議 スイスで始まる
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水俣病の原因となった水銀の利用や取り引きなどを国際的に規制する水俣条約の発効を受けて、締約国による初めての会議が24日、スイスで始まり、条約の着実な履行に向けて実効性のある対策で一致できるかが焦点となります。
水俣条約は、水俣病の原因となった水銀による健康被害や環境汚染を防ぐため、日本が主導して4年前に熊本県で開かれた国連の会議で採択され、世界50か国以上の締結を受けて先月発効しました。

24日、スイスのジュネーブでは、150以上の国と地域の代表が出席して締約国による初めての会議が開かれました。
議長を務めるスイス環境局のシャルドノン局長は「世界的に水銀の利用を減らし人々の健康と環境を守る水俣条約を祝う歴史的な瞬間だ」と述べ、その意義を強調しました。
また、胎児性水俣病患者で水俣病の悲惨さを訴えてきた坂本しのぶさん(61)が「私は母の子宮で水俣病になりました。多くの人が今も水俣病で苦しんでいます。皆さんに水銀問題にちゃんと取り組んでほしい」と述べると、会場から大きな拍手がわき起こりました。

水俣条約では、新しい鉱山からの水銀の産出や、2020年までに水銀を使った電池や体温計の製造や輸出入を禁止することなどが定められています。

発展途上国を中心に水銀による汚染が今も続く中、会議では、条約の着実な履行に向けて水銀の適切な管理や処理をはじめ、実効性のある対策で一致できるかが焦点となります。

水俣条約 79の国と地域が締結

水俣条約は、水俣病の原因となった水銀による健康被害や環境汚染を地球規模で防ぐため、日本が主導して4年前におよそ140の国と地域の政府の代表が参加して熊本県で開かれた国連の会議で採択されました。
日本は、去年2月、世界で23番目に締結し、条約は50か国以上の締結を受けて先月16日に発効しました。

環境省によりますと、今月22日現在、79の国と地域が締結していて、水銀の排出量が世界で最も多い中国や、上位に入るアメリカ、それに水銀を使って金の採掘が行われているブラジルやフィリピンが含まれているということです。

条文には、新しい鉱山からの水銀の産出を禁止し、既存の鉱山についても条約の発効から15年以内に禁止することが盛り込まれています。また、水銀を使用した電池や温度計、血圧計のほか、一定量以上の水銀を使った蛍光灯などの製品の製造と輸出入を、2020年までに原則として禁止するとしています。

前文には、水俣病の重要な教訓として、水銀を適正に管理し、同じような公害を防止することが記されました。

水俣条約という名称に賛否も

水俣条約という名称は、日本政府が水俣病の教訓を忘れないために提案しました。
水俣病と同じような健康被害や環境破壊を世界のいずれの国でも繰り返さないという決意を各国で共有するという意味が込められました。

しかし、この名称をめぐっては、水俣病の患者や被害者の間で意見が分かれ、水銀の恐ろしさを世界に発信でき、水俣病の風化を防ぐことができると賛成の声が上がった一方で、被害者の救済が終わっていないのに条約名にするのはおかしいなどとして反対の声も上がりました。

結局、平成25年1月にスイスのジュネーブで開かれた国際会議で、参加したおよそ140の国と地域が水俣条約という名称を全会一致で了承し、正式に決まりました。

日本の水銀対策

水俣条約の採択を受けて、日本国内では、水銀対策を強化するため、法律の制定などが進められてきました。

水銀を使用した電池や基準を上回る量の水銀を使った蛍光灯などの製品の製造と輸出入は、条約よりも前倒しし、来年1月以降、原則として禁止されます。水銀を使った体温計や血圧計なども、2020年末以降、製造と輸出入が原則として禁止されます。

これについて、環境省や経済産業省は、国内で現在製造されている乾電池に水銀は使用されておらず、蛍光灯に含まれる水銀の量はすでに基準をおおむね下回っているとしています。
また、水銀を使った体温計や血圧計を製造している業者は少なく、水銀を使わない代替品の普及も進んでいることから、国内では水銀を含んだ製品の製造禁止に伴う影響は限定的だとしています。
さらに、医療機関やメーカーなどが水銀を使った体温計や血圧計などを廃棄する場合、来月から許可を受けた業者に委託して処理することが義務づけられます。

水銀の大気への排出も規制され、石炭火力発電所や廃棄物の焼却施設、セメント製造施設など大気に排出される水銀の量が多い施設では、来年4月から新たに設けられた排出基準を順守しなければなりません。
また、水銀の濃度を測定し、記録し、保存することが義務づけられます。

水銀の輸出国 日本の課題

水俣病を経験した日本は、国内での水銀の使用を大幅に減らしてきましたが、一方で、南米やアジアなどに年間100トン前後の水銀を輸出しています。

北海道北見市で水銀のリサイクルを行っている国内最大の企業は、主に使用済みの蛍光灯や電池、金属の精錬の工程で出る汚泥などから年間およそ80トンの水銀を取り出し、このうち10トンは国内の試薬メーカーや計測機器メーカーに販売しています。残りの70トンは、主にインドやブラジル、コロンビアなどのランプメーカーや計測機器メーカーに輸出しています。

水銀は、用途が認められ、適正に保管し、輸入国側の書面による同意があれば、水俣条約の発効後も引き続き輸出できますが、この企業は、水俣条約によって各国で水銀の規制が進むことで将来的には輸出量が減っていくと見込んでいます。

このため、今後は、これまで輸出していた水銀を廃棄物として国内で最終処分し、長期的に監視する体制が必要となり、処分や管理を安全に行うことができるかが大きな課題となります。

環境省は、リサイクル会社に委託して水銀を安全に処理するための実証事業を進め、液体状の水銀に硫黄を加えて固体の硫化水銀に変え、樹脂などで固めて安定化させたうえで処分場で埋め立てるという処分の基準を作りました。この基準は来月から適用されます。

しかし、環境省によりますと、処分場の確保を誰が主体となって行うのかまだ決まっていないということで、最終処分の見通しは立っていません。

リサイクル会社は、埋め立てることになっても周辺の住民の理解を得るのは簡単ではないと考えていて、長期的に監視し費用を負担する役割を誰が担うのかなど、不透明な部分が多いと指摘しています。

水銀のリサイクルを行う野村興産の藤原悌社長は「今後、海外で水銀の需要が減り、国内で処分しなければならない水銀が出てくる。そのときに備えて技術的な対応を進めているが検討課題は多い。処分の技術を発展途上国などに伝え、適正な処理を広めていきたい」と話しています。

発展途上国 健康被害や環境汚染を懸念

水銀は、先進国では使用量が減っていますが、発展途上国では適切な管理がされないまま、さまざまな用途に利用されています。

その1つで、課題となっているのが、小規模な金の採掘です。
鉱山で取れた砂や鉱石に水銀を加えて火であぶり、水銀を蒸発させると金を取り出すことができ、東南アジアや南米、アフリカなどで盛んに行われています。

UNEP=国連環境計画の報告書によりますと、2010年に人間の活動に由来して大気中に排出された水銀の量の37%が小規模な金の採掘現場からで、最も多くなっています。

UNEPによりますと、小規模な金の採掘現場やその周辺では、作業員や住民が、水銀を含んだ蒸気を吸い込んだり水銀が大気中や周辺の川や海に排出されたりしていて、健康被害や環境汚染が懸念されています。
国際NGOがインドネシアで行った調査では、金の採掘を行う複数の作業員の毛髪から健康被害のおそれがあるとされる濃度の水銀が検出されたと報告されています。

水俣条約では、小規模な金の採掘による水銀の使用や環境中への排出を削減し、可能であれば廃絶するための措置を取るとしています。また、途上国に対し資金面で支援する制度を作ることが盛り込まれています。

水銀の国際規制 水俣条約の初の締約国会議 スイスで始まる

水俣病の原因となった水銀の利用や取り引きなどを国際的に規制する水俣条約の発効を受けて、締約国による初めての会議が24日、スイスで始まり、条約の着実な履行に向けて実効性のある対策で一致できるかが焦点となります。

水俣条約は、水俣病の原因となった水銀による健康被害や環境汚染を防ぐため、日本が主導して4年前に熊本県で開かれた国連の会議で採択され、世界50か国以上の締結を受けて先月発効しました。

24日、スイスのジュネーブでは、150以上の国と地域の代表が出席して締約国による初めての会議が開かれました。
議長を務めるスイス環境局のシャルドノン局長は「世界的に水銀の利用を減らし人々の健康と環境を守る水俣条約を祝う歴史的な瞬間だ」と述べ、その意義を強調しました。
また、胎児性水俣病患者で水俣病の悲惨さを訴えてきた坂本しのぶさん(61)が「私は母の子宮で水俣病になりました。多くの人が今も水俣病で苦しんでいます。皆さんに水銀問題にちゃんと取り組んでほしい」と述べると、会場から大きな拍手がわき起こりました。

水俣条約では、新しい鉱山からの水銀の産出や、2020年までに水銀を使った電池や体温計の製造や輸出入を禁止することなどが定められています。

発展途上国を中心に水銀による汚染が今も続く中、会議では、条約の着実な履行に向けて水銀の適切な管理や処理をはじめ、実効性のある対策で一致できるかが焦点となります。

水俣条約 79の国と地域が締結

水俣条約は、水俣病の原因となった水銀による健康被害や環境汚染を地球規模で防ぐため、日本が主導して4年前におよそ140の国と地域の政府の代表が参加して熊本県で開かれた国連の会議で採択されました。
日本は、去年2月、世界で23番目に締結し、条約は50か国以上の締結を受けて先月16日に発効しました。

環境省によりますと、今月22日現在、79の国と地域が締結していて、水銀の排出量が世界で最も多い中国や、上位に入るアメリカ、それに水銀を使って金の採掘が行われているブラジルやフィリピンが含まれているということです。

条文には、新しい鉱山からの水銀の産出を禁止し、既存の鉱山についても条約の発効から15年以内に禁止することが盛り込まれています。また、水銀を使用した電池や温度計、血圧計のほか、一定量以上の水銀を使った蛍光灯などの製品の製造と輸出入を、2020年までに原則として禁止するとしています。

前文には、水俣病の重要な教訓として、水銀を適正に管理し、同じような公害を防止することが記されました。

水俣条約という名称に賛否も

水俣条約という名称は、日本政府が水俣病の教訓を忘れないために提案しました。
水俣病と同じような健康被害や環境破壊を世界のいずれの国でも繰り返さないという決意を各国で共有するという意味が込められました。

しかし、この名称をめぐっては、水俣病の患者や被害者の間で意見が分かれ、水銀の恐ろしさを世界に発信でき、水俣病の風化を防ぐことができると賛成の声が上がった一方で、被害者の救済が終わっていないのに条約名にするのはおかしいなどとして反対の声も上がりました。

結局、平成25年1月にスイスのジュネーブで開かれた国際会議で、参加したおよそ140の国と地域が水俣条約という名称を全会一致で了承し、正式に決まりました。

日本の水銀対策

水俣条約の採択を受けて、日本国内では、水銀対策を強化するため、法律の制定などが進められてきました。

水銀を使用した電池や基準を上回る量の水銀を使った蛍光灯などの製品の製造と輸出入は、条約よりも前倒しし、来年1月以降、原則として禁止されます。水銀を使った体温計や血圧計なども、2020年末以降、製造と輸出入が原則として禁止されます。

これについて、環境省や経済産業省は、国内で現在製造されている乾電池に水銀は使用されておらず、蛍光灯に含まれる水銀の量はすでに基準をおおむね下回っているとしています。
また、水銀を使った体温計や血圧計を製造している業者は少なく、水銀を使わない代替品の普及も進んでいることから、国内では水銀を含んだ製品の製造禁止に伴う影響は限定的だとしています。
さらに、医療機関やメーカーなどが水銀を使った体温計や血圧計などを廃棄する場合、来月から許可を受けた業者に委託して処理することが義務づけられます。

水銀の大気への排出も規制され、石炭火力発電所や廃棄物の焼却施設、セメント製造施設など大気に排出される水銀の量が多い施設では、来年4月から新たに設けられた排出基準を順守しなければなりません。
また、水銀の濃度を測定し、記録し、保存することが義務づけられます。

水銀の輸出国 日本の課題

水俣病を経験した日本は、国内での水銀の使用を大幅に減らしてきましたが、一方で、南米やアジアなどに年間100トン前後の水銀を輸出しています。

北海道北見市で水銀のリサイクルを行っている国内最大の企業は、主に使用済みの蛍光灯や電池、金属の精錬の工程で出る汚泥などから年間およそ80トンの水銀を取り出し、このうち10トンは国内の試薬メーカーや計測機器メーカーに販売しています。残りの70トンは、主にインドやブラジル、コロンビアなどのランプメーカーや計測機器メーカーに輸出しています。

水銀は、用途が認められ、適正に保管し、輸入国側の書面による同意があれば、水俣条約の発効後も引き続き輸出できますが、この企業は、水俣条約によって各国で水銀の規制が進むことで将来的には輸出量が減っていくと見込んでいます。

このため、今後は、これまで輸出していた水銀を廃棄物として国内で最終処分し、長期的に監視する体制が必要となり、処分や管理を安全に行うことができるかが大きな課題となります。

環境省は、リサイクル会社に委託して水銀を安全に処理するための実証事業を進め、液体状の水銀に硫黄を加えて固体の硫化水銀に変え、樹脂などで固めて安定化させたうえで処分場で埋め立てるという処分の基準を作りました。この基準は来月から適用されます。

しかし、環境省によりますと、処分場の確保を誰が主体となって行うのかまだ決まっていないということで、最終処分の見通しは立っていません。

リサイクル会社は、埋め立てることになっても周辺の住民の理解を得るのは簡単ではないと考えていて、長期的に監視し費用を負担する役割を誰が担うのかなど、不透明な部分が多いと指摘しています。

水銀のリサイクルを行う野村興産の藤原悌社長は「今後、海外で水銀の需要が減り、国内で処分しなければならない水銀が出てくる。そのときに備えて技術的な対応を進めているが検討課題は多い。処分の技術を発展途上国などに伝え、適正な処理を広めていきたい」と話しています。

発展途上国 健康被害や環境汚染を懸念

水銀は、先進国では使用量が減っていますが、発展途上国では適切な管理がされないまま、さまざまな用途に利用されています。

その1つで、課題となっているのが、小規模な金の採掘です。
鉱山で取れた砂や鉱石に水銀を加えて火であぶり、水銀を蒸発させると金を取り出すことができ、東南アジアや南米、アフリカなどで盛んに行われています。

UNEP=国連環境計画の報告書によりますと、2010年に人間の活動に由来して大気中に排出された水銀の量の37%が小規模な金の採掘現場からで、最も多くなっています。

UNEPによりますと、小規模な金の採掘現場やその周辺では、作業員や住民が、水銀を含んだ蒸気を吸い込んだり水銀が大気中や周辺の川や海に排出されたりしていて、健康被害や環境汚染が懸念されています。
国際NGOがインドネシアで行った調査では、金の採掘を行う複数の作業員の毛髪から健康被害のおそれがあるとされる濃度の水銀が検出されたと報告されています。

水俣条約では、小規模な金の採掘による水銀の使用や環境中への排出を削減し、可能であれば廃絶するための措置を取るとしています。また、途上国に対し資金面で支援する制度を作ることが盛り込まれています。