アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校の統合生物学の教授であるロイ・コールドウェル博士のタコが行方不明になったのは2014年のことだ。
研究室ではオーストラリア、リザードアイランドで捕獲したリーフオクトパス(Abdopus aculeatus:ウデナガカクレダコウデナガカクレダコ)のオスとメスを個別の密閉した水槽で飼育していた。
それはとても不思議だった。
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別の水槽にいたはずのオスがなぜかメスの水槽へとテレポート?
いなくなったのはオスだ。そこでメスのタコがいる別の水槽を覗き込んでみたら、そこには精子がつまった精包が浮かんでいた。よく観察すると砂の中にオスまでいた。
オスがメスの水槽に忍び込んだ方法として唯一考えられたのは、オスとメスの水槽のどちらにも繋がっている給水パイプの中からやってきた可能性だ。
これについて計算づくの逢引の証拠だと考える者もいた。
タコに5億という豊富なニューロンがあることを考えると、彼らは賢い生物なのだと想像したくなる。だがそれは私たちが知性とはこうあるべしと思っているからそう見えるのではないだろうか?果たして本当にタコは賢いのだろうか?
リーフオクトパス(Abdopus aculeatus)Credit: Roy Caldwell
タコにある大量のニューロン
コールドウェル博士は大量のニューロンだけでは知性の指標にはならないと考えている。博士が思う知性とは柔軟性、すなわち過去の経験から行動を変える能力だ。
彼はタコのニューロンの5分の3は脳ではなく、腕に伸びている神経索にあるのではないかと考えている。それは動作や皮膚の模様の制御に用いられる。
動きが関節によって制限される人間とは違い、タコにはクチバシを除き制限がない。ゆえに体と8本の腕を動かすためには人間以上のニューロンが必要になる。
またタコは皮膚を斑点模様の棘のあるようなパターンからから固く滑らかなパターンへ数秒で変化させることができる。これには色素胞が関連しているが、その制御にも大量のニューロンが必要だ。
一方、カナダ、レスブリッジ大学のジェニファー・マザー博士によれば、タコは計画にもニューロンの一部を使っているかもしれないという。
コールドウェル博士のように、マザー博士は知性を環境からの情報を用いて行動を変化させることと定義している。またこの情報は意思決定にも用いられる。
タコが前もって計画できるというマザー博士の仮説は、西太平洋でメジロダコ(Amphioctopus marginatus)を対象とした他の研究者の観察に基づくものだ。
image credit:メジロダコ - Wikipedia
このタコは半分に割れたヤシノミを2枚持ち運び、身を守ることで知られている。マザー博士は、殻を見つけた場所でただ身を隠すのではなく、それを持ち運ぶことが鍵だと話す。
関連記事:貝殻を集めて身を守る道具として使うタコの動画
つまり環境を利用しているのだ。しかしより重要なことは、将来何が必要となり、今どのような行動が必要であるか予測しているということだ。将来に備えて計画しているのである。
「遊ぶ」という知性。ボールをバウンドさせて遊ぶタコ
動物が遊ぶかどうかの別はその生物の知性を垣間見せてくれる。遊びの定義は少々やっかいだが、米テネシー大学のゴードン・バーグハルト博士によれば、それは健康な対象者が自然発生的・反復的・自主的に行うもので、生存率の改善には繋がらない行動と定義されるという。
遊びではない行為と似ていることもあるが、それはこのその遊びではない行動を修正あるいは誇張したものでなければならない。子供がジュースをずるずると音を立てて飲み込むような場合は遊びの定義に当てはまらない。しかしジュースをずるずると口に含み、それからプーっと床に吹きかける(それも何度も繰り返す)なら遊びの要件を満たす。
関連記事:巨大タコはダイバーの大切なものを盗んでいこうとしました
退屈を知ることが遊びを生み出す。
マザー博士らが実施した8匹のミズダコ(Enteroctopus dofleini)を薬瓶が浮いている個別の水槽に入れた実験では、最初タコはその瓶を口に持って行っては離していた。しかし、うち2匹は水が水槽に注いでいる場所の水流を狙って、瓶が戻ってくるように離しては、それを繰り返した。
ミズダコ
また別の研究では、マザー博士らは14匹のマダコ(Octopus vulgaris)のうちの1匹が、レゴで作ったブロックを腕の間に6度通す姿を観察した。
レゴで遊ぶタコ
博士らはこれを遊びに当てはまると考えた。他のタコもブロックを動かしたが、遊びに区分されるものはなかった。
こうした遊びが観察されることはそう多くはないが、子供のタコにも大人のタコにも同じ頻度で見られる行為であり、環境を探索し、周囲に起きている出来事を実験し、ものごとの仕組みを理解しようとする行為から溢れ出たものであることが窺える。
一種の認知スペースの余剰のようなものだとマザー博士は説明する。またタコの遊びらしきものが、他の仲間とではなく物を対象としたものだったことも指摘している(タコが共食いすることを考えれば不思議ではない)。
コールドウェル博士もタコが物を操る姿を観察しているが、この行為をどう呼べばいいかマザー博士ほど確信を持っていない。
彼が目撃したのは、マダコの仲間(Octopus cyanea)が浮きを掴んでは離して、水面付近で浮き沈みさせる姿だ。
コールドウェル博士は、こうした行為は確かに遊びと考えられるが、この場合タコはむしろ浮きが食べられるものであるかどうか確かめていたのではないかと考えている。
image credit:Octopus vulgaris - マダコ - Wikipedia
知能が高いほど個性に違いが出る
知能が高い動物は個体ごとの個性を示す傾向がある。その個体に特有の長期的な行動的特徴のことだ。
タコのような動物は同種であっても個体ごとに大胆さや攻撃性がまったく異なることがある。しかし、それでタコが知的かというとそれはまた別の話だ。
コールウェル博士が研究室で飼育しているウデブトタコの仲間(Larger Pacific striped octopus)の1匹は、彼が近づくと水を吹きかけてくるという。
研究室の別の人間にはこのようなことはあまりしないため、単純にこのタコの性格が悪いわけではない。また同じ種の別のタコに対してはしないため、コールドウェル博士を認識するやり方を示しているわけでもない。
水を吹きかける行為は防衛行為であるため、このタコはコールドウェル博士に近寄ってほしくないというサインなのだと彼は推測している。
しかし、これはそのタコの知性を示すものだろうか? そうではなく苛立ちのサインであるというのがコールドウェル博士の見解だ。
関連記事:なつかれた?それとも殺意?ダイバーのゴーグルに張り付いてフェイスハガー化するタコ
一方、マザー博士は個性について別の見解を持っている。同博士によれば、神経系が複雑であるほど、個体の差異が増える余地が大きくなる。そして無論、知的であるほどに、目の前の環境の利用の仕方も異なる余地がある。
結局、コールドウェル博士の逃げたタコは賢いのか?
コールドウェル博士の研究室で給水パイプを通って逢引したタコの話を聞けば、タコが恋を求めてパイプに忍び込んだとも想像するかもしれない。
コールドウェル博士自身はそうした計画を練られるほどにタコが知的であるのかどうか確信を持てていないが、オスの成功については別の見方をしている。
タコはパイプの中を探索するのが好きだ。つまりメスに会えたのは単なるラッキーだったということだ。
via:Are Octopuses Smart?/ translated by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
子孫を残すシステムが働いたんだよきっと
2. 匿名処理班
知能が高いというニュースを聞くたびに、
食うのが申し訳なくなるけど、
毎回美味しくいただいてます。
3. 匿名処理班
タコやイカは電光掲示板みたいに体に文章を浮かび上がらせる事を覚えれば
ヒトと意思疎通が可能になるかも
コールドウェル博士「おや、メッセージが浮かび上がったぞ」
タコ『食べないでくださーい!』
4. 匿名処理班
タコ「イルカは良いよな、賢いと解ったらすぐ保護してもらえるんだから。俺らなんて善くて研究道具、普通に食べ物扱いなんだからさ」
イカ「どうせワシらは寿命短いし、人間とは見た目がかけ離れ取るさかいしゃーない」
5. 匿名処理班
※3
「食べないよ!?」という返しが必要ですか?w
個人的にはそっちよりも「燃える昆虫軍団」という昔のB級映画の "WE LIVE" を思い出したけど、誰も知らないだろうな。
6. 匿名処理班
釣り針にキラキラのヒモつけて上下に
ゆすってるだけで食いついてくるから
カエルと同等の知能レベルだな。
7. 匿名処理班
そのうち「タコは賢いから食うな」って言い出すかもしれんな。
8. 匿名処理班
※3
タコ「バ カ」
博士「く、くそ~、久しぶりに食ってやるぞ。身をぶつ切りにしてタコ焼きにしてやる!」
タコ「ト モ ダ チ」
博士「今さら遅い! 覚悟しろよ!」
9. 匿名処理班
タコ物語って歌があるから聴くべし
10. 匿名処理班
マヌケな人に「このタコ!」って言うのは議論の余地があるということか。
11.
12. 匿名処理班
※8
勘吉さん、博士にまでなって…(落涙)
13. 匿名処理班
メスの匂いがパイプ伝ってたって事はないのかな
14. 匿名処理班
タコは哺乳類だモ~ン
15. 匿名処理班
※7
米欄内・・・。
16. 匿名処理班
食べるのは全然いいと思うけど、絞め方にはちょっと配慮してほしいかなぁ。獲れたタコを生きたまま洗濯機にぶち込んで洗ってるのをテレビで見たことあるけど、もうちょっと他にやり方あるんじゃない?…っていう
17. 匿名処理班
私は数年前からタコを食べなくなった
なんというか知れば知るほど尊敬に値するので…
18. 匿名処理班
締めてから洗うと身が固くなるからしかたない。
どうせ殺して食べるなら一番美味しく食べてやるのが供養になると思う。
19. 匿名処理班
タコの寿命が50年くらいあったら、ひょっとしたら海底に文明を築いていたかもしれないな
20. 匿名処理班
好物の貝を海苔の佃煮のビンに入れて水槽に沈めると簡単に開けるのが有名だよね。
3歳児より頭はいいはず、3歳児は初回だと蓋を取ることが出来ない。
蓋を回すということが思いつかないから。
21. 匿名処理班
柔軟な8本もの触手を自由に制御するために大量のニューロンが必要になり、
そのニューロンの副次的作用で知能も高くなったということか
火星人がタコの姿をしていたのもあながち間違ってなかったのだな
22. 匿名処理班
生け簀のカレイが食われないために水面を尾ひれで移動するという芸をして8年生き延びたって2016年10月17日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」で言っていたし
知性は脳の大きさに比例しないのかもよ
23. 匿名処理班
タコは宇宙人の探査装置
24. 匿名処理班
ペンギンズにも似たようなやつ出てたな
25. 匿名処理班
他の生物も尊敬してどうぞ
26. 匿名処理班
でも 美味しいんだよね
生物って人間が思うより感情豊かで賢いと思うよ。
27. 匿名処理班
※19
ほんとねえ。
実際のタコは卵産んだらそれが孵る頃には死んでしまうから、どんなに賢く学んでもその経験を子孫に伝えられない。
知識の伝達ができれば海底王国を築きそうなのに……
28. 匿名処理班
※10
将来、褒め言葉とかその人を称える意味になるかもしれん。
「彼はタコのような男です!(満面の笑み)」