完勝だったはずの選挙結果が、予想外の波紋を広げている。
9月24日、ドイツで実施された連邦議会(下院)選挙。投票は午後6時に締め切られ、即日開票された。投票締め切り直後に公共放送ARDが発表した出口調査によると、アンゲラ・メルケル首相率いる中道右派CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)が得票率で33%を獲得して第1党の座を維持する見込みだ。
2位は現在CDU・CSUと連立政権を組むSPD(ドイツ社会民主党)で20%。第3党には、右派勢力AfD(ドイツのための選択肢)が14%を獲得して入ることが予想されている。
この結果は事前の予想通り。選挙期間中も安定した支持率を維持したCDU・CSUの完勝だった。しかし、その勝ち方には前回選挙ほどの強さはなかった。CDU・CSUの得票率は前回2013年選挙の42%から10ポイント近く下落しており、同党の勢いが衰退しているのは確かだ。「反難民」を掲げる右派勢力のAfDが躍進し、議会で第3党に食い込む結果となったことも、ドイツ全体に衝撃を与えている。
「AfDがなぜここまで支持を得たのかをよく分析したい」。投票締め切りから1時間後にCDU本部に登場したメルケル首相は、勝利を祝いつつも、AfDの予想以上の躍進に懸念を露わにした。
難民問題が唯一の争点に
今回のドイツ議会選の特徴は、当初から「争点が存在しないことが争点」と言われ、メディアも「驚きのない、退屈な選挙」と揶揄していた。
今年3月に実施されたオランダ下院選挙、4月のフランス大統領選の結果を受けて、それまで欧州全土に高まっていた「反EU(欧州連合)」機運が沈静化。欧州の危機は過ぎ去ったとのムードが欧州全土に広がっていた。
CDU・CSUも、あえて争点を作らない戦略に終始した。失業率3%台の好調な経済を背景に、「現在の状態の維持(status quo)」を訴え、このタイミングでリーダーを変えることのリスクを訴えた。
政権公約では、「150万超の住宅建設」「治安維持のための警察官増員」「子供手当ての充実」など、左派的な政策も盛り込み、対抗する中道左派SPDが政策面で違いを打ち出しにくくした(詳細は、日経ビジネス9月18日号のスペシャルリポート「“4選”後に潜む火種」を参照)。
これに対し、CDU・CSUの最大のライバル政党であるSPDは、EU欧州議会議長だったマルティン・シュルツ氏が2017年3月に党首に就任し、CDU・CSUに代わる第1党の座を目指したが、選挙戦を通じて、うねりを作り出すことができなかった。それどころか、出口調査の結果は過去最低水準で、惨敗を喫する見込みだ。
そもそも、SPDはCDU・CSUと連立政権を組んでいる立場にあり、政権を直接批判するのは難しい。一方、CDU・CSUとの政策の違いをアピールしなければ、SPDを選ぶ理由を有権者に訴えられない。「シュルツ党首は最後までそのジレンマに悩まされた」」(ドイツ政治に詳しいロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのジュリアン・ゴープフェルド氏)。
米国に対する外交姿勢、トルコとの外交問題、難民への対応、ディーゼル不正問題…。シュルツ党首は、毎週のように、様々な争点を掲げてCDU・CSUに挑んだが、形成を逆転する追い風にはならなかった。シュルツ党首の空回りばかりが目立ち、SPDの支持は選挙終盤にかけて下落。SPDの支持率は、8月の25%から、9月の投開票直前には21%となった。