人手不足が叫ばれて久しい。大卒の就職戦線はかつてない売り手市場だ。各社とも学生の獲得、内定者のつなぎとめに苦心している。少子高齢化はより深刻さを増しており、この売り手市場はしばらく続くという見方も多い。しかし、記者はそんな世間一般の話とは真逆の光景を目にする機会があった。
「質疑応答に入ります。質問がある人は手を挙げてください」
そう司会者が呼びかけると、約300人の参加者たちが一斉に手を挙げた。少しでも自分を指してもらえるように「はい、はい」と声を出す人もいれば、立ち上がってさらに手を伸ばす人もいる。そばで見ていた記者にも、その熱意や真剣さがひしひしと伝わってきた。
この熱気に包まれたやり取りは、8月5日、大手インターネット企業DMM.comの本社(東京都港区)で行われたキャリアイベントでの一幕だ。参加者たちの視線の先、会場前方のステージには、CAMPFIRE(東京都渋谷区)の家入一真代表や、FiNC(東京都千代田区)の溝口勇児社長ら、注目の若手起業家らが並ぶ。
「人生が変わる5日間」と題したこのイベントを開いたのは、インフルエンサー専門のプロダクション・VAZ(バズ、東京都渋谷区)と、中卒や高卒の若者の就職支援などを手がけるハッシャダイ(東京都渋谷区)。DMM.comに会場を借りて、8月4日~8日の全5日間で開催した。記者は、8月5日~7日にかけ、密着取材をした。冒頭の光景は、密着を始めてすぐの8月5日の昼過ぎの光景だ。
参加者たちは、1万4000人の応募の中から、7つの課題をクリアして選ばれた約300人。出身地は全国バラバラだが、一つ共通していたのは、彼らが「大学を卒業していない」ということだ。20歳前後の彼らは高卒が多く、中卒や大学中退者も含まれており、イベントでは彼らを「非大卒」と総称していた。約300人のうち、多くが仕事を持っている。製造業や飲食業、介護や看護関係の仕事が多いという。しかし、正社員は全体の15%ほどしかいない。
イベント期間中、著名起業家の講演会や、DMM.comなど有名ベンチャー企業のオフィスツアー、自己分析のためのワークショップが開かれ、リクルートライフスタイルやネオキャリアなど大手企業を含む17社による企業説明会も開かれた。
参加者がこれほど必死になるのは、このイベントを通じて、東京のIT企業などへの就職の糸口がつかめるかもしれないからだ。
京都から来たという20歳の男性は、「今は製造業で働いている。このイベントはツイッターで知った。課題をクリアするのは厳しかったが、めったに経験することのないイベントだとワクワクしている」と語った。