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特集「本を読む。」DC特集特集「財務諸表」の読み方
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Written by 高田泰 122記事

老朽橋は増加中

財政難で「橋」が維持できず撤去 全国73万の橋梁のうち2割が50年経過

高度経済成長期に建設された橋梁の老朽化が一斉に進み、危険と判定されて通行止めになる事例が全国で相次いでいる。国と地方自治体の財政難から、架け替えや補修工事をあきらめ、撤去されるケースも各地で出てきた。

全国に現存する橋梁は国と自治体の管理分を合わせてざっと73万本。うち20%が建設後50年を経過しているが、10年後には50年を超す老朽橋が倍増する見通しだ。人口減少と高齢化社会の進行で国や自治体の財政が好転するめどは立たない。もはやすべての橋梁を維持することはできず、残すべき橋梁の選択が地域の課題に浮上してきた。

住民から待ったがかかった田辺市の秋津橋撤去

地方経済,過疎化,財政難
3月から通行止めが続く和歌山県田辺市の秋津橋。市は撤去したい意向だが、住民が存続を希望し、今後の方向は決まっていない(写真=筆者)

和歌山県南部の中心都市田辺市。JR紀伊田辺駅から歩いて15分ほどの秋津町で1本の橋が3月から通行止めになっている。右会津川に架かる秋津橋だ。橋は延長60メートル、幅5.6メートル。1971年に建設された。

長く住民の生活道路になってきたが、市の安全点検で橋脚に亀裂や鉄筋の露出、コンクリートのはく離などが見つかった。市は落橋の恐れもあるとして橋の両側に通行を遮断する緑のネットを設置している。

市の安全点検では秋津橋のほか、龍神村小家の菅小橋(延長79.6メートル、幅2.2メートル)、中三栖の中村橋(延長58メートル、幅1.7メートル)も危険と判定され、通行止めになった。ともに1959年、1976年に架けられた老朽橋だ。

市は3橋とも維持が難しいと判断し、撤去の意向を打ち出した。菅小橋と中村橋は2017年度中に撤去することが決まったが、秋津橋は住民から待ったがかかり、方針が固まっていない。

秋津橋の100メートルほど下流には国道が通り、う回路として利用できる。田辺市土木課は「生活道を手放したくない住民の気持ちは分かるが、橋を全部維持することは今の財政でとてもできない」と対応に苦慮している。

財政難に人口減少が追い打ち、維持予算確保できず

国土交通省によると、全国の橋梁のうち建設から50年を経過したものは2016年で全体の20%に達した。しかし、橋梁の多くが高度成長期に架けられたため、2026年になると44%に倍増する見込み。しかも、市町村管理を中心に全体の3分の1近くは、建設時期の記録が残っていない。

一般に橋梁は建設から50年前後で深刻な損傷が生じやすくなるとされる。補修工事などで自治体が通行規制した例は2008年で977件しかなかったが、2015年には2357件に増えている。それだけ老朽化に伴い補修の必要な橋梁が急増しているわけだ。

ところが、自治体の財政が急速に悪化しているところへ人口減少に伴う税収の減少が追い打ちをかけた。高齢化の進行で自治体が負担する額は増えるばかり。大都市圏以外の地方都市や過疎地域は、予算難で増え続ける橋梁補修に手が回らない状況に陥っている。

自治体に不足しているのは財源だけでない。技術力不足も深刻だ。自治体のうち町の3割、村の6割は橋梁の保全を担当できる技術者を置いていない。国交省国道・防災課は「各都道府県に設けたメンテナンス会議で個別に指導している」というが、十分な安全点検ができていない自治体がいまだにあるのも現実だ。

これを補うため、複数の市町村の点検業務をコンサルタントなどへ外注する地域一括発注が各都道府県で行われているが、参加する市町村は2016年度で全体の35%にとどまっている。自治体が課題を克服できないうちに、橋梁の老朽化は刻一刻と進んでいる。

自治体が迫られる残すべき橋梁の取捨選択

橋梁の放棄を決めた自治体は田辺市に限らない。香川県さぬき市は2016年11月から通行止めにしていた津田町鶴羽地区の西代橋を撤去することにした。橋は延長16.4メートル、幅3メートル。1960年に開通させた老朽橋で、海の近くにあることも影響して鉄筋やコンクリートの傷みが激しくなっていた。

橋の近くに鶴羽地区の自治会館があるため、住民の利用が多かった。高齢者が多い地区でもあり、う回路の利用は負担が大きいとして架け替えを求める声もあったが、近くにある水門を安全に通行できるようにすることで決着した。

さぬき市建設課は「水門と接続する土地の用地交渉を済ましたあとで橋を撤去する。水門は西代橋のすぐ近くにあり、高齢者の負担も軽減できる」と語った。

北海道小平町は2015年から通行止めにしている豊浜橋を架け替えない方針。延長18.8メートル、幅1.7メートルの小さな橋だが、人口3000人の小規模自治体に建設費を捻出する余力はなかった。

橋梁の放棄や撤去は今のところ、地方都市や過疎地域で目につくが、やがて大都市圏でも現実になりそうだ。少ない予算を有効に活用し、交通網を維持するためには、残すべき橋梁の取捨選択が避けて通れない。

地域住民はすべての橋梁を維持してほしいと考えるだろうが、現在の財政状況ではどうしようもない。自治体に求められるのは、補修にかかる費用とリスクを住民に公開し、広く議論することだ。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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