2012年07月10日

アイヌとは誰か

アイヌについて、はっきりした定義がない、あたかも誰でもアイヌになれるかのように好き勝手書いている御仁がいるが、これは現状認識を間違っている。


簡単に言うならば、アイヌとは、北海道や樺太、千島に和人の到来以前から、もともと住んでいて、アイヌ語やアイヌ文化と言われるものを代々受け継ぎながら、「アイヌ」であるという自己認識や記憶を持ちながら暮らしていた人たち、およびその末裔ということになる。
(東北アイヌについては改めて述べる。)


いわゆる「純血」うんぬんについてはすでに述べた。であるから、血の「濃い」「薄い」は問わない。むしろ帰属意識が重要である。
また、伝統の文化や言語を受け継いでいるかどうかも必ずしも基準にならないだろう。「同化」うんぬんについては何度も論じたとおりである。


戸籍にこの人はアイヌであると書いてあるわけではないし、自分たちはアイヌなのであるという意識が代々受け継がれてきたことが大事なのである。
(ただし、かつては戸籍に「旧土人」などと明記されていたこともある。)


アイヌの定義があいまいであるという意見があるが、一部地域を除いて、誰がアイヌで誰がアイヌなのかは、北海道の各地域で長年の歴史経緯から、かなりの程度はっきりお互い認識されている。
大部分は、地域社会で、アイヌ同士だけでなく、和人からも、アイヌ(の末裔)であることは認識されていることが多い。
また、身体的な特徴で識別されることもあるし、本人や親の苗字などで、アイヌであると判別されることも多い。
逆に言うと出自を隠したくてもなかなか隠せない現実がある。


例えば私の住んでいる日高地方の田舎町でも、誰がアイヌで誰がそうでないかはほとんどお互い明確に認識されており、本人の名前や親の名前、苗字、居住地などを聞けば、どこの誰なのかすぐ分かることが多いのである。
必ずしも風貌だけで決まるわけではない。


今、北海道アイヌ協会の支部が結成されている地域の大部分は、アイヌ文化が何らかの形で伝承されていたり、少なくとも今いる人たちの2-3代前の人たちはアイヌ語を話したり、日常的にアイヌの儀式を行うなど、伝統的な風習がある程度伝承されていた地域で、自分たちは「アイヌ」であるという意識を持って生きてきた人たちである。
戸籍などで先祖をたどると3-4代前にはアイヌ語の名前を持っている人たちも多い。


逆に言うと、北海道の和人の人たちの多くは、先祖をたどるならば、数代前に本州や四国、九州から移住してきた人たちの末裔である。


アイヌ協会の会員資格については、アイヌの血を引く人および、婚姻関係もしくは養子関係でアイヌの家族になっている者という規定があって、一部の人がいうようにそれほど不明瞭なものではない。
アイヌと結婚した非アイヌの配偶者は、アイヌの家族の一員であるから、仲間として認めているのである。
必ずしも「アイヌ協会員=アイヌ」ではない。

何らかの事情で、アイヌと養子縁組した人も相当数いる。
なお和人の養子については10数年前の議論の結果、1代に限ると決めたので、無制限に誰でも入れるわけではない。
(要するにアイヌと養子縁組をしてアイヌの家族の一員になった和人が、成長後、アイヌと結婚した場合を除けば、その子孫は入会できない。)


アイヌ協会でも単に「アイヌの血を引く」だけでなく、アイヌの一員であるという「自発的意思」を持っている個人であることを会員になるための用件としている。
根拠がないのに「私はアイヌである」と自称してもこれは認められないのは当然のことである。
例えば四国出身の和人である私などがある日突然自分が「アイヌ」だと名乗りだし、入会を申し込んでも、仲間としては認められないのである。


札幌や苫小牧などの都市の場合、大部分もともともそこに暮らしていた人たちでなく、北海道の各地から仕事や生活の都合で移住してきた人たちおよびその子孫である。
もしA地方から札幌に引っ越してきた人が、例えばアイヌ協会に入会したいと申し込んできた場合、現在は戸籍謄本の提出も義務付けているが、過去においても無条件に認めていたわけではない。

風貌や苗字などですぐ分かる場合もあるが、そういう場合は、やはり出身地や親の名前を聞いたりするし、その出身地の支部に照会して、その人が本当に入会する資格があるかどうかを確認してきたのであり、誰でも入会を認めてきたわけではない。
(ただし、あとで述べるように羅臼などの一部支部で、入会する資格のないものの入会を認めてきた事例があるので、問題がなかったわけではない。)


また、一部地域(函館方面や日本海側など)では、アイヌと和人の混血が早い時期に進んだらしく、アイヌとしてのコミュニティが早い時期に壊滅もしくは消滅しているようである。
なので、アイヌの末裔がいるのかどうかはっきり分からなくなっている地域もあるようである。


東京をはじめとする、北海道外の場合も、今、アイヌとして名乗り出ている人たちは、本人もしくは親、もしくは祖父母などが北海道や樺太などから何らかの事情で移り住んだ人たちである。
関東には、アイヌ民族もしくはその家族で構成される団体(関東ウタリ会、レラの会、東京アイヌ協会など)がいくつか存在するが、彼らもやはり入会希望者がいれば、その人たちの出自について確認するのが原則である。
時々「多分先祖がアイヌです」とか「おそらくアイヌの血を引いていると思います」というような人が関わってくることもあるが、自分の出自についてはっきりした根拠を説明できない人の場合は原則認められない。


数年前に、道東の羅臼支部で会員資格を持たない人間の入会を認めているのではないかという指摘が道議会であり、道による調査が行われた。
その結果、アイヌではない人間の入会も認めていたことが明らかになった。
これはやはり問題であろう。


ただこの問題について、今まで何も議論にならなかったわけではない。
羅臼支部の会員が急増したことについては以前総会で大問題になったことがあり、議論されたことがある。
戸籍などで確認すべきだという意見も出たが、当時はプライバシーの問題から懸念が出て、そこまで調査するには至らなかった。
また、以前、ある支部で、会員資格を有しない者を入会させているのではという指摘が出て、本部役員がその支部に出向き調査したことがある。その支部については問題がなかったと聞いている。


時には「何代か前の先祖がアイヌらしい」「多分先祖がアイヌだと思う」とかそういうことで入会を申し込んでくる人もいるが、そういう人たちについてもきちんとした根拠の提示、家系についての説明を求めている。
ただし、一部の支部で基準を甘くしてきた部分もあり、これについては協会として今現在、会員資格の認定について議論を行っているところである。現在は、アイヌ語の名前を持つ先祖が確実にいることの証拠として、戸籍謄本の提出を基本的に求めている。
(ただしかつての戸籍は記載が不正確であったり、事実を反映していないこともあり、戸籍が万全ということではないし、はっきりアイヌの先祖がたどれるとも限らない。このやり方については、プライバシーの問題や手続きの煩雑さ、心理的抵抗感の問題などから、会員から批判的意見も出ており、今組織内で討議中である。)
少なくとも現状ではあいまいな記憶・認識に基づいた、安易な入会は不可能である。

posted by poronup at 08:18| 北海道 ☔| Comment(0) | 民族論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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