AIとロボットの進化で2035年までには仕事の半分が消滅する可能性か高い。そのとき、日本の企業が維持してきた終身雇用という岩盤規制はどう崩壊するのか。また、それに備えて個人はどう生き方を変えるべきなのか。
経営コンサルタントで『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』の著者・鈴木貴博氏と人事コンサルタントの城繁之氏が9月1日東京・八重洲ブックセンターでのトークイベントで激論を戦わせた。
城 『仕事消滅』はすごく衝撃的な本ですね。帯には生存率51%、つまり49%の仕事がなくなるかもしれない、とあります。これ自体ショッキングですが、それ以上に意外だったのは、付加価値の低い仕事から順にAIに取って代わられると想像していたが、実はそうではないらしい。むしろAIやロボットが一番苦手なのが手や指を使う作業だという指摘でした。
たしかにパテシエのような繊細な仕事は今のロボットには難しいと思うし、もっと言えばマックでパテを焼きながら盛り付けも同時並行的に行うのはロボットやAIにとって簡単ではないだろうな、と。
鈴木 そうなんです、AIは過去の膨大な情報の中から必要なものを取り出して正解を導き出す作業ならなんなくこなせますからね。
城 そこで直感的に思ったのは、今企業の中で既得権益を握っている正社員が抵抗するだろう、ということ。例えば2000年前後、大手製造業では海外移転や自動化で余った製造ラインの職員をシステムエンジニアとして教育しようとした。しかしまったくの畑違いですから、成果が出ませんでした。
なぜそんなことをするのかというと、日本企業はまず人を採用し、それを前提に仕事を作ろうとするんです。企業の体質改善や組織の見直しがうまくいかないのもそのため。アメリカは仕事があって、そのために人を雇うのとでは対極です。
だとすれば、AIで作業が置き換えられたとしても、正社員という既得権益を持つ人たちは死に物狂いの抵抗する可能性が高いのではないでしょうか。
鈴木 経営のコンサルの立場で言えば、既得権を持っている人の立場を守ることはとても重要なんです。私に依頼してくるのは既得権を持っている人たちだから(笑)。その観点で言えば、城さんの指摘に異議はありません。
ただし、その状態は長くないと思っています。例えば、自動運転技術が確立しました→長距離ドライバーとタクシー運転手の仕事を守ろうとする→運転席には必ず人間が座る必要があるという法律ができる、ということですね。ただ、こんなことをしても、世界の他の国はそこをスルーして無人のクルマを走らせた場合、運輸にかかるコストで日本とそれらの国で大きな差が生じる。
こうした事態がさまざまな業界で起きれば、国と国との経済格差が劇的に広がってしまうでしょう。要するに日本の競争力は低下するわけです。
城 それを日本人がどう考えるのか、ということですね。
鈴木 ウーバーという便利なものがあってアメリカはもちろん中国でも急速に普及しています。一度使うとわかるのですが、きわめて便利ですが、日本ではウーバーがちゃんと仕事ができないような法律ができてしまった。
世界の人はAIの恩恵を受けて低コストで快適な暮らしをしているのに、日本だけはタクシー運転手を守るために多くの人はそれを享受できない。それってとても恐ろしい未来ではないでしょうか。
城 雇用を守る代わりに国民全体が不幸になる。ほとんどブラックジョークですね。