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【社会】

山谷シスター 命の名簿 労働者の街 生きた証し刻む

「ほしのいえ」の中村訓子さん=東京都荒川区で(池田まみ撮影)

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 簡易宿泊所が並ぶ東京・山谷地区で亡くなった日雇い労働者や路上生活者らの名前を、一枚の紙に刻んでいる女性がいる。三十年間で、その数は七十九人。無縁仏となる人も多い中、誰から求められるのでもなく名簿を付け続ける。それぞれの生きた証しを残すために。(中村真暁)

 この女性は、炊き出しや生活相談などの活動をしている市民団体「ほしのいえ」(荒川区南千住)の代表、中村訓子(のりこ)さん(74)。カトリックのシスターだ。

 きっかけは、山谷地区で夜回りなどを始めたころ出会った労働者の男性の死だった。体を壊しても経済的理由で十分な治療が受けられずにいた。受診を勧め、入院したが、一九八七年三月九日に五十九歳でがんで亡くなった。

 駆けつけた病院で遺体と対面すると、口から血が流れたままで、ぬぐうこともなく放っておかれていた。「同じ命を持ち生まれてきたはずなのに、なぜ人によって対応が違うのか、許せなかった。このとき、私の『山谷』が始まった」

 名簿は、この男性が一人目。今月までに亡くなった山谷に暮らす人々や、中村さんと一緒に炊き出しなどをした仲間の名前が、命日、年齢と共に記されている。年齢は、二十四~七十七歳。二十、三十代の若者も少なくなく、餓死や病死、自殺の人もいる。

 ほしのいえのスタッフは、死去の報を受けて病院や火葬場へ駆けつける。「関わってきた命を放っておけない」と、誰もいない葬儀場で遺骨を拾ったり、家族から拒まれた遺骨を引き取ったりしたことも。周囲からは、死亡した際の状況もできる限り聞き取る。

 それでも名簿には、「イシさん」や「ネコの叔父さん」など通称名の人や、亡くなった日付がない人も。過去を語らない人が多く、詳細が分からないためだ。

 名簿は何度も更新し、普段は事務所に掲げ、スタッフが祈りをささげている。先月の地域の夏祭りでは、仏教とキリスト教の合同慰霊が初めて企画され、名簿を祭壇に掲げた。見た人から「このおじさん、死んだのか」「この人知っているよ」と声が上がった。

 「ちゃんと命を持って生きていたよ、と覚えていたい。名簿を見れば一人一人を思い出し、その人の話ができる。山谷の人たちが名簿の存在を知れば、(死後に)自分のことを祈ってもらえると安心できるのでは」

 世の中が弱い立場の人を追い込んでいく状態は変わっていないと、中村さんは感じている。「命の尊厳が認められる居場所があれば、もう少し生きやすくなるはず」と信じて活動を続けている。

 <山谷地区> 明治通りの泪(なみだ)橋交差点を中心に、台東、荒川区に広がる簡易宿泊所の密集地域。山谷は昔の地名。現地にある公益財団法人「城北労働・福祉センター」などによると、戦後、労働需要の増加で日雇い労働者の街となり、東京五輪前年の1963年には、簡易宿泊所222軒に約1万5000人が生活していた。現在は、宿泊所約150軒に約4200人が暮らす。宿泊者の平均年齢は66・1歳で、9割以上が生活保護を受給している。

 

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