9月20日に配信が始まったAppleの「iOS 11」。この新しいモバイルOSでは数多くの新機能や細かい改良点に加え、国内でもサービスが提供されている「Apple Pay」の大幅な進化にも注目したい。
Apple Payはその名の通り、Appleが提供する電子ウォレット(財布)および非接触型の決済サービスだ。日本におけるモバイル決済の利用率はまだ低い水準だが、iPhoneをかざして駅の改札を通過したり、店頭での支払いに利用していたりする場面を見かけたことがある(あるいは使っている)人も少なくないだろう。
今回のアップデートでは、米国での提供が予告されている「個人間送金(P2P)」や「Apple Pay Cash」のようなサービスはまだ日本にやってこないものの、「非接触通信による店頭での決済」「アプリでの決済」「Webブラウザでの決済」の3つについて、日本国内のユーザーが大きな恩恵を受けることになりそうだ。
ソフトウェアのiOS 11だけでなく、9月22日に販売が開始されたハードウェアの「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」「Apple Watch Series 3」、そして11月に発売される「iPhone X」を加えた、今回のApple Payに関するアップデート内容を見ていこう。
Apple Payは指紋認証機能の「Touch ID」で認証を行い、支払いを済ませるが、iPhone Xでは操作方法が変わる。iPhone XではTouch IDがホームボタンとともに省かれ、新たに顔認証機能の「Face ID」が搭載されたためだ。Apple Payを利用する際は、画面を見つめるだけで認証が完了し、支払いを済ませられるようになる。
Apple Pay自体の主なアップデート内容は次の3点になる。
順に説明していこう。
Apple Payにおける個人間送金(P2P)とは、iMessageのインタフェースを介してiPhoneユーザー同士が個人間送金を行えるサービスで、Apple Pay Cashはそれを受け入れる側として対になる仕組みだ。
P2Pで相手のユーザーに送られたお金は、いったん受け取り側のApple Pay Cashというバーチャルカードにプールされる。この資金はApple Payアカウントにひも付いた銀行口座などに出金が可能な他、そのまま別のユーザーに再度送金したり、Apple Payでの支払いに流用したりできる。
ただし、この機能は9月20日に配信されたiOS 11の時点では有効化されておらず、10月以降に配信されるiOS 11.1のアップデートで正式に実装されるとみられる。米国のApple Pay公式ページには「Coming this fall」とあり、日本ではその告知もない状況だ。
そのため、まだ実際にテストできておらず推論の域を出ないが、Apple Pay Cashの仕組みそのものは日本のユーザーでも利用可能だと予測している。P2PとApple Pay Cashは当初機能がローンチされる米国ユーザーのみが対象だが、日本のユーザーであっても地域設定の変更でApple Pay Cashを有効化して「お金の受け取り」だけは可能になり、これを応用すれば再送金やApple Payでの再利用が行えるとみている。
iPhoneの海外販売モデルによる「FeliCa」の利用についてだが、「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」の世代では日本市場向けは別のモデルという扱いだった。例えば、米国で購入したiPhone 7では日本国内発行のクレジットカードを登録して「iD」や「QUICPay」のサービスを利用したり、あるいは「Suica」カードを登録して交通系サービスを「タッチ&ゴー」で利用したりすることはできなかった。
これに対して、iPhone 8/8 Plus、iPhone X、Apple Watch Series 3以降のデバイスではこの縛りがなくなり、国内外を問わず、FeliCa系サービスの利用が可能になった。具体的なメリットとしては、日本のユーザーが海外で販売されているiPhoneを購入して日本に持ち帰った場合などでも、日本国内発行のカードを登録して非接触通信による電子マネーサービスが問題なく利用できる。
また外国のiPhoneユーザーが日本を訪問した際に、SuicaのバーチャルカードをiPhoneに設定し、これで公共交通の利用や電子マネーによる支払いが容易になる。現在、海外発行のクレジットカードでSuicaのICカードにチャージを行うのは至難の業だが、Apple Payの仕組みを用いることでiPhone上でのオンラインチャージが容易になる。これはインバウンド需要を見込むうえで非常に大きなステップアップだ。
この「国内発行カードによるApple Payの海外利用」が、本稿のメイントピックだ。国内のFeliCaとは異なる、海外で一般的な「Type-A/B」系の決済サービスである「EMV Contactless」が、日本国内発行カードでも利用できるようになる。世界標準に対応するという言い方が分かりやすいだろうか。
具体的には、JCB、Mastercard、Visaなどの国際カードブランドが従来の決済ネットワークを介して、NFCの非接触通信による支払いを可能にするものだ。Mastercardでは「PayPass」などのブランドで提供されている。
正確には日本でも少数ながら利用可能な拠点が存在しており、今後の増加が見込まれているが、海外では既に広くインフラが展開されて多くの場所で使えるようになっている。特に出張や旅行で海外に行く機会の多い人には、大きなメリットとなる新機能だ。
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