アメリカ合衆国保険福祉省(US Department of Health and Human Services, 略してHHS)の一部として、女性の健康問題を主として取り扱う部署Office on Women’s Health(OWH)があります。以下は、その部署のサイトにある『デート・レイプ・ドラッグ』の項目の翻訳です。
原文URL: https://www.womenshealth.gov/a-z-topics/date-rape-drugs
デート・レイプ・ドラッグ
デート・レイプ・ドラッグは違法であり、性的暴行の幇助に用いられることがあります。性的暴行(Sexual Assault)とは、当人の合意無しに行われるあらゆる種類の性行為を指します。デート・レイプ・ドラッグは往々にして無色無味無臭のため、投薬されたかどうかを自分で判断することができません。当該薬物が投与されると、具合が悪くなったり、混乱したり、時には意識を失うことがあり、性行為への同意が不可能になります。デート・レイプ・ドラッグは男女問わず使用され得るものです。
デイト・レイプ・ドラッグとは何ですか?
性的暴行の最中にこれら薬物が用いられる場合があります。ここでいう性的暴行(Sexual Assault)とは当人の合意無しに行われるあらゆる種類の性行為を指し、許容できない接触、膣内への物の挿入、レイプ、レイプ未遂等はすべてここに含まれます。
デート・レイプ・ドラッグは強力かつ危険な薬物で、被害者が目を離した隙に飲み物に混入される可能性があります。これら薬物は往々にして無色無味無臭のため、投薬されたかどうかを自分で判断することができません。当該薬物が投与されると、具合が悪くなったり、混乱したり、時には意識を失うこともあり、性行為への同意が不可能になります。薬物が効いている間に何が起こったのかを覚えていないこともあります。デート・レイプ・ドラッグは女男問わず使用され得るものです。
こうした薬物はダンスクラブ、コンサート、”レイヴ“などの場で用いられることが多いため「クラブ・ドラッグ」という名でも通っています。
「デート・レイプ(date rape)」という言葉は広く使われる言葉ですが、専門家の多くは「薬物を悪用した性的暴行(drug-fascilitated sexual assault)」という用語をたびたび使用します。また、強盗(robbery)や身体的暴行(physical assault)といった他の犯罪目的にこれらの薬物が使用されることもあります。さらに、加害者が被害者と必ずしも交際(デート)しているわけではないため、「デート・レイプ」という言葉には語弊があります。加害者は単なる知り合いだったり全くの他人であることもあるのです。
デート・レイプ・ドラッグとして用いられている一般的な薬剤には何がありますか?
デート・レイプ・ドラッグには次の3種類が最も一般的に用いられています。
- ロヒプノール(Rohypnol) ロヒプノールはフルニトラゼパム(flunitrazepam)の商品名です。米国の一部ではロヒプノール乱用に変わり類似した他の二種類の薬物が用いられてきているようです。これら二種の薬物とは、クロナゼパム(clonazepam)とアルプラゾラム(alprazolam)で、前者は米国ではクロノピン(Klonopin)、メキシコではリボトリール(Rivotril)という通称名が使われ、後者はザナックス(Xanax)で通っています。ロヒプノールは以下の俗称で呼ばれることがあります。
-
- Circles
- Forget Pill
- LA Rochas
- Lunch Money
- Mexican Valium
- Mind Erasers
- Poor Man’s Quaalude
- R-2
- Rib
- Roach
- Roach-2
- Roches
- Roofies
- Roopies
- Rope
- Rophies
- Ruffies
- Trip-and-Fall
- Whiteys
- GHB これはガンマ・ハイドロキシビュータリック(gamma hydroxybutyric)アシッドの短縮形で、以下の俗称で呼ばれることがあります。
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- Bedtime Scoop
- Cherry Meth
- Easy Lay
- Energy Drink
- G
- Gamma 10
- Georgia Home Boy
- G-Juice
- Gook
- Goop
- Great Hormones
- Grievous Bodily Harm (GBH)
- Liquid E
- Liquid Ecstasy
- Liquid X
- PM
- Salt Water
- Soap
- Somatomax
- Vita-G
- ケタミン(Ketamine) これは以下の俗称でも知られています。
-
- Black Hole
- Bump
- Cat Valium
- Green
- Jet
- K
- K-Hole
- Kit Kat
- Psychedelic Heroin
- Purple
- Special K
- Super Acid
それらのドラッグはどんな形状をしていますか?
- ロヒプノールは液体に入れると溶解する、丸い小さな白い錠剤です。近年出回っているものには楕円形で緑がかった灰色をしているものがあり、これが飲み物に投入されると透明な液体は真っ青に変わり、濃色の液体なら濁りが生じます。しかしこの色の変化はコカ・コーラや濃色のビールのような暗い濃い色の飲み物では見分けがつきにくく、暗い室内でもわかりづらいものです。また、無色のままの錠剤や、錠剤が粉末状にすりつぶされているものもあります。
- GHBにはいくつか形状があり、無色無臭の液体、白い粉末、あるいは錠剤の形を取ります。GHBが混入された飲み物はかすかに塩味がしますが、フルーツジュースのような甘い飲み物ならばその塩味を隠すことが可能です。
- ケタミンは液体あるいは白い粉末です。
これらの薬物は身体にどういう影響を与えますか?
これらの薬物は非常に強力で、即効性があり、投薬されたことに気付かれぬまま効果が生じます。薬物効果の持続時間には、使用された薬物の量などでばらつきがあり、その薬物が他の飲み物やアルコールに混入されたかによっても差が生じます。アルコールはこれら薬物の効果を促進するため、深刻な健康被害に及んだり、時には死に至ることもあります。
ロヒプノール(Rohypnol)
ロヒプノールは投薬後30分以内に効果が現れ、長時間に渡って効果が持続します。投薬されると、飲酒時のような行動を取ったり、立っているのが困難になり、言葉遣いが不明瞭になったりします。意識を失うこともあります。ロヒプノールは以下のような問題を引き起こします。
- 筋肉弛緩や筋肉コントロールの喪失
- 動作困難
- 飲酒後のような気分
- 会話が困難
- 吐き気
- 薬物が効いている最中の出来事の記憶がない
- 意識の喪失
- 混乱
- 視覚に問題
- めまい
- 眠気
- 低血圧
- 腹痛・下痢など
- 死亡
GHB
GHBは投与後15分程度で効果が現れ、効果が3~4時間持続します。非常に強力な薬物で、極めて少量で強い効果を生じさせるため、GHBはオーバードーズ(過剰摂取)を起こしやすい薬物でもあります。普及しているGHBのほとんどが一般人が自宅やストリートでの“ラボ “で作られているため、GHBにどういった成分が含まれているか、何で効果が引き起こされているのか把握できないことがあります。GHBでは以下のような問題が起こります。
- 弛緩
- 眠気
- めまい
- 吐き気
- 視覚に問題
- 意識喪失
- 発作
- 薬物が効いている最中の出来事の記憶がない
- 呼吸困難
- 震え
- 発汗
- 嘔吐
- 心拍数の低下
- 夢見心地の感覚
- 昏睡
- 死亡
ケタミン(Ketamine)
ケタミンは効果が現れるのが非常に早く、何が起きているか意識があっても、身体が動かなくなることがあります。また記憶に問題を生じさせ、薬剤が効いている間に起こった出来事を思い出そうとしても思い出せなくなります。ケタミンは以下の様な問題を引き起こします。
- 視覚や聴覚に歪みが生じる
- 時間の感覚のロス、自分が何者かわからなくなる
- 対外離脱体験
- 夢見心地の感覚
- 感情の制御不可
- 動作機能に障害
- 呼吸困難
- けいれん・ひきつけ
- 嘔吐
- 記憶障害
- 無感覚
- 調整失調(体を思うように動かせない)
- 攻撃的あるいは暴力的行動にでる
- 意気消沈・うつ
- 高血圧
- 不明瞭なスピーチ(ろれつが回らない)
これらの薬剤は米国で入手できますか?
これらの中には医療目的で合法的に用いられるものも含まれています。しかしだからといって安全とは限りません。これらは身体に害を与えるほど強力な薬剤で、医師による注意と指示のもとでのみ用いられるべきです。
- ロヒプノールは米国では違法です。欧州とメキシコでは合法で、睡眠障害治療や手術前の麻酔の補助に用いられています。米国には違法経路で持ち込まれています。
- ケタミンは人体および動物の麻酔薬として米国でも合法ですが、主として動物用に用いられています。そのため、ケタミン窃盗の目的で獣医クリニックが荒らされることがあります。
- GHBはナルコレプシー(発作性睡眠とよばれる一種の睡眠障害)の治療目的で最近米国で合法化されましたが、販売はきつく限定されています。
アルコールはデート・レイプ・ドラッグと言えますか?その他のドラッグはどうですか?
判断力や行動に影響を及ぼす薬物であればすべて、望まない、あるいはリスクの高い性行為に繋がる可能性があります。アルコールはそうした薬物の一種と言えるでしょう。実際、性的暴行の際に用いられる最も一般的な薬物がアルコールなのです。アルコールの過剰摂取時に起こることとして:
- 明確な思考が困難になる。
- 限度を設定したり、正しい選択を行えなくなる。
- 状況が危険かどうかの判断をつけられなくなる。
- 性的に迫られた際、「ノー」と言いづらくなる。
- 性的暴行が発生した際、強く太刀打ちすることが困難になる。
- 意識や記憶を失ったりする。
「エクスタシー」と呼ばれるクラブ・ドラッグの一種(MDMA)は、性的暴行の際に使用されてきている薬物です。被害者が気付かないうちに飲み物に混入されたりします。また、自分から進んでエクスタシーを摂取すれば、性的暴行を受けるリスクが高まります。エクスタシーには、他人に対して「Lovey-Dovey(恋して夢中になる)」のような気分になる効能があって、理性に従って相手と合意する能力が落ち込みます。エクスタシーが効いている間は、危険を察知する能力が下がり、性的暴行に抵抗する力も弱まるのです。
しかし、たとえ性的暴行の被害者が飲酒してたりドラッグを自分から進んで摂取していたとしても、被害者が暴行を受けて良い理由にはなりません。合意がない状態での性的接触は、絶対に認められるものではありません。性的暴行は常に暴行を働いた側の人間の責任です。いかなる状況下であろうと、性的暴行は決して被害者のせいではないのです。
被害者にならないためにどのように自分を守ったらよいですか?
- 他者からのお酒を受け入れないこと。
- 飲み物の容器は自分で開けること。
- 自分の飲み物は、たとえトイレに立つ時でも持ち歩き、常に目の届くところに置くこと。
- 飲み物を他人とシェアしないこと。
- パンチ・ボウルのように誰でもアクセスできる飲み物の容器からお酒を注いで飲まないようにすること。すでに薬物が混入されているおそれがあるため。
- もしもバーやパーティで他の誰かから飲み物をオファーされた場合には、その相手と一緒に注文しにゆくこと。お酒が注がれているところを自分の目で確かめ、自分でそれを運ぶように。
- 妙な味やにおいがする飲み物は飲まないこと。GHBは塩味がすることがある。
- 何事も起こらないことを確認するため、飲酒しない友人を同行させること。
- 飲み物を放置していた時間があったと気づいた際は、その飲み物を捨てること。
- お酒を飲んでいないのに酔っ払っているような気分になったり、いつもより強くお酒が効いていると感じられるときは、即座に助けを求めること。
薬物を投与されてレイプされたことをどうやって見分けたらよいですか?
自分が薬物を投与されてレイプされたとはっきり知るのは往々にして困難です。被害者は薬物を与えられたことも暴行を加えられたことも覚えていないことが多いのです。暴行発生後8時間から12時間も経ってから、ようやく自分に危害が加えられたことに気付いたりします。また、これらの薬物は体内から消滅するのも速いため、被害者が助けを求めたころには、暴行に薬物が使われた痕跡が残っていない可能性があるます。ただし、以下のように、薬物を投与された可能性が示唆される場合があります。
- 飲酒しなかったのに飲酒したような気分になっている、あるいは、通常よりもお酒が強く効いたような気がする。
- 目が覚めたときに強い二日酔いの感覚があり、方向感が狂っていたり、ある期間の記憶がすっかり途切れている。
- お酒を飲んだことまでは覚えているが、そのあとの記憶がない。
- 服が破れていたり、ちゃんと着付けていなかったりする。
- 性交したような気がするが、それを覚えていない。
もし自分が薬物を投与されてレイプされたと思った時にはどうしたらよいですか?
- 直ちに病院での手当を受けましょう。911(救急番号)に電話をし、信頼できる友人に病院の緊急医療窓口についていってもらいましょう。病院に行く前には、排尿、膣洗浄、入浴、歯磨き、手洗い、着衣の交換、飲食飲酒はしてはいけません。これらがレイプの証拠になり得るかもしれないためです。病院では証拠を収集するために「レイプ・キット」を用います。
- 病院から警察に電話しましょう。警察には覚えていることをありのまま述べましょう。自分がとった行動をすべて正直に伝えましょう。覚えておいてください、お酒を飲んだことやドラッグをやったことなど、被害者の側の行為は何一つレイプを正当化するものではないのです。それを忘れないようにしてください。
- 尿サンプルを取ってデート・レイプ・ドラッグの検出テストをしてくれるよう病院に頼みましょう。薬物はかなり短い時間のうちに体内から消滅しますが、ロヒプノールは投薬後しばらくは体内に残留するため、投薬から72時間以内であれば尿内から検出される可能性があります。GHBの体内残留時間は12時間です。病院に向かう前に排尿してはいけません。
- 暴行が加えられた場所を片付けたり掃除したりしてはいけません。飲み物のグラスやベッド・シーツなど、証拠が残されている可能性があるからです。
- カウンセリングや治療を受けるましょう。恥ずかしい気持ち、罪の意識、恐怖感、ショック、そうした感情が被害者に湧くのは正常なことです。カウンセラーはあなたのそうした感情に寄り添って手助けをし治癒のプロセスに導いてくれるでしょう。クライシス・センターやホットラインに電話をかけるのも良いでしょう。そのひとつ、National Sexual Assault Hotline(全米性的暴行ホットライン)の電話番号は800-656-HOPE です。
デート・レイプ・ドラッグに関する質問への回答は得られましたか?
デート・レイプ・ドラッグについてのより詳しい情報は、OWH ヘルプライン(電話 800-994-9662)、あるいは、下記団体へ。
- Drug Enforcement Administration, DOJ(司法省麻薬取締局)
- 電話202-307-1000
- Food and Drug Administration, HHS(保険福祉省食品医薬品局)
- ホットライン 800-332-4010 あるいは888-463-6332(一般消費者向け情報)
- National Institute on Drug Abuse, NIH, HHS(保険福祉省国立衛生研究所内国立薬物乱用研究所)
- ホットライン 800-662-4357 あるいは 800-662-9832 (スペイン語ホットライン)
- Office of National Drug Control Policy(全米麻薬撲滅対策室)
- 電話 800-666-3332 (情報センター)
- Men Can Stop Rape
- 電話 202-265-6530
- National Center for Victims of Crime(全米犯罪被害者センター)
- 電話 800-394-2255
- Rape, Abuse, and Incest National Network(レイプ・虐待・近親相関全米ネットワーク)
- 電話 800-656-4673